第5話「浅はかな絆」


 千葉櫻鎖夜、自分は今まで何の不満もない人生を歩んでいた。望んだものは手に入り、困ったときには助けてくれる誰かがいた。

 傍から見れば何が嫌だったのだろうかと思われるに違いない。何の問題もない、平凡だった人生。

 このつまらない世界は死後も続くのか、彼女は辟易した。不満も文句も生まれない平穏、自分の人生を体現したような世界。自分はこんな世界から脱却したくて死を選んだのに、ここに来ても開放されないなんて、酷い呪いだ。

 宇宙の果てを見るように、自分の命が果てるまで、自分が朽ちるまで、歩いてやろうと思った。何かが起こるまで、何か変化が現れるまで、自分は倒れない。そう決めていた。ただ、その先にある何かを見たかった。何かは分からない。自分で選んだ結果、誰かが作った道じゃない、自分で進んだ道の果て。自分でそこに辿り着きたい、そう強く願っていた。

「ほんと、蒼夜には悪いことしたな……」

 自分のエゴに付き合わせてしまった。自分の変わりたいと言う願望に問答無用でついて来てもらったのだ。愛想をつかされてもおかしくない。この平坦道を当てもなく歩くことに普通の人は飽きてしまうだろう。そんなこと分かっていた。

 暗闇の中で彼女は彼に対して詫びていた。自分のわがままに付き合わせてしまったことを、ひどく悔やんでいた。

「やっぱり、あの手、離すべきじゃなかったのかな……」

 彼女もまた、彼のことを思っていた。二人はただのその場しのぎの関係だったにすぎない。運命的な出会いなどと言うロマンティックなものなどでは決してなかった。

 絆なんて言う浅はかなものではない、これは連帯責任だ。呉越同舟、乗り掛かった舟には二人で乗り合わせないといけない。そんな鎖だった、そんな繋がりだった。



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