第4話「罰」
「本当に僕たちやり直せるんでしょうか……」
この平和な空間で何日経過しただろうか、適当に食べ物が手に入り、頭を使うことなく前に進むことだけができてしまう世界。次第に頭を使うことはおろか、会話をすることすら億劫に感じられた。
「…………」
汗ばんだ手で鎖夜は黙々と前に進む。確固たる意志、鴻鵠の志を感じる。だが、僕はとっくに心が折れてしまっていた。
困難も試練も壁も山も、道を阻むものが何もなければ、人は腐ってしまう。ただ平らな道を歩くだけの人生に、人は飽きてしまうのだ。
「ここで死んだら……どうなるんだろう……」
ボヤいてみたが、彼女から答えが返ってくることはない。
死後の世界で死ぬと言うことは、いよいよ本当に自分と言う存在が抹消されてしまう。そう考えると弱虫な自分を捨てることができて良いな、なんて思ってしまった。
「手を……離してもらえませんか」
無視されたことも相俟って、口走ってしまった。
しまった、と思った時にはもう遅かった。
彼女の口から残酷な言葉が飛び出す。
「無理に付き合わせて、悪かったね……」
自分が招いた結果だったが、無性に悲しくなった。
彼女との冒険は、唐突に終わりを告げた。
そうだ、それで構わない。
彼女とは一時的な関係だった。いつかは別れなければならない。所詮はこの程度なんだ、親友でも相棒でもない、ただの見知らぬ少女だ。その少女に過度な期待をしていたにすぎない。付き合わせて悪かったのはこちらも同じだ。そもそも彼女は自分が生み出した幻だ。そんなの時が経てば消え失せてしまうものだ。シンデレラの魔法が解けてしまうように、朧げに雲散霧消してしまう儚いものなのだ。
必死に自分を納得させようとするのが分かった。僕はここで終わりたくなかったのだろうか。いや、こんな無味無臭の起伏のない牢獄から解放されたがっていたのは事実だ。
だから、これでいい。
「バイバイ」
彼女の目から涙が零れるようなことはなかった。それを冷酷だとは思わない。
無慈悲にも、僕と彼女は別れた。
再び世界が暗黒に支配され、彼女の気配が一瞬にして消失する。
きっと彼女は闇雲に前に進み続けるのだろう。
前も後ろも、右も左も全く分からない閉ざされた無の世界に僕はただ一人、取り残された。
「…………」
これは罰なんだ。最後の最後まで、人を信じることができなかった自分への罰。一回でも人を頼ることができていたなら、自分から声を掛けることができていたならば、二人組なんて作ることができていただろう。意固地になって、卑屈になって、悲しい人間を演じる必要だってなかった。これは神様から自分への仕打ちだ。最後のチャンスだって自ら投げ捨てたんだ。救いがあるはずがない。自分で断ち切った関係を修復することはできない。自分で捨てた希望を取り戻すことは不可能だ。
後悔が波のように押し寄せてくる。自己嫌悪で潰れてしまいそうになる。いつだってこうやって悩み苦しんでいた。久々に味わった苦い思いだ。
こんな思いから抜け出すために自分ができること。
自分がしなければならないことは……
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