お前なんか転生する価値ない!

ちびまるフォイ

誰よりも生前をかみされるべき

転生ターミナルに2人の男が送られてきた。


1人はこれまで貧しい暮らしをしてきた80歳過ぎの老人。

もうひとりは、裕福な暮らしをして自殺した20歳の若者だった。


転生には1人が送られてくるものとばかり思っていた新人女神は戸惑ってしまった。


「えっと……どうしましょう。転生できるのは1人なんですが……」


「そりゃもちろんワシじゃろ」

「え? 俺に決まってるだろ」


二人はさも当然のように言うので女神は頭をかかえた。

けれどこの場にいる限りには選択をしなければならない。


「じゃ、じゃあ……おじいさんを転生します。

 生前でも貧しい暮らしをして苦労されていたことでしょう。

 転生して豊かな第二の人生を送る権利はあります」


「ちょっとまってくださいよ女神さま! それはおかしいんじゃないですか!」


「えっ」

「なにが問題なんじゃ、この若造がっ」


「このジジイがどうして貧しい暮らしをしているのか見てくださいよ!

 ギャンブルに明け暮れ、自堕落な生活を続けた結果にまずしくなったんです!」


「た、たしかに……転生カルテにもそう書かれていますね」


「貧しい暮らしをしていたからって優遇されるのはおかしいでしょう!?」


「なんじゃと! 金持ちのガキにワシの辛さがわかってたまるか!」


「俺は金持ちになるために必死に勉強してきたんだ!

 何度失敗しても事業に取り組んで、やっと成功できて金持ちになったんだぞ!

 なのにジジイみたいなやつより低く見られるなんて心外だ!!」


「待ってくださいふたりとも! おちついて!」


一触触発の空気になったのを女神はあわてて止めに入った。


「私の知っている人で、生前は貧しかった人がいます。

 それでも毎日他人のために身を尽くして働いて、

 周りの人から感謝される人がいました。それで幸福だったと」


「それが……なんじゃというんだ」


「生前が裕福か貧しいかで転生すべきかどうかを判断するのは良くないです。考えなおしましょう」


「ああ、そうすべきだと思うね。

 ところで女神さま。仮に俺達のどちらかが転生するとして

 その転生先の世界はどんなものなんだ?」


「ああそうですね。お見せしましょう」


女神は足元に転生先の世界を映した。


「転生先の世界では暴れまわる魔物に支配されている世界です。

 転生した方はこの世界に転生して、その力で人間を守ることになります」


「それじゃ若い俺のほうがいいんじゃないのか? この身のまま転生するんだろ?」


「それは……そうですね」


「おいそれは納得いくかぃ! ワシは80年も現世の地獄を味わってきたんじゃぞ!」


「80過ぎのジジイが転生して魔物と戦えるかよ」


「魔法使えば年齢もなにも関係ないじゃろうが!!

 20年程度しか生きてないお前に、80年生きた苦労がわかるか!」


「苦労の密度はこっちのほうが上だよバーカ!!」


「落ち着いてください! ふたりとも落ち着いて!」


ふたたび喧嘩になりそうだったので女神は止めた。


「あのですね、ふたりとも聞いてください。

 これは私がよく知っている人の話なんですが……」


「またですか」


「その人は100歳までなんの見返りも求めずに献身し続けていました。

 生前でどれだけ苦労してきたから来世では楽をしようなんて思ったこともない。

 そんな彼女がどうなったかわかりますか」


「わかるかいそんなこと」


「やがてその生前の努力が認められて神様のもとで働けるほど出世できたんです」


「それが今の俺達なんの関係があるんだよ」


「生前の努力や年齢などは転生者としての判断には使うべきではないのです。私が間違いでした」


女神がそう言うと、若者と高齢者はお互いに顔を見合わせた。


「それじゃどうやって転生候補者を決めるんじゃ」


「そうだそうだ。生前のおこないが影響しないなら、どちらが転生すべきかなんて判断できないだろう」


「生前がどうとか、苦労がなんだとか、年齢がどうだとか。

 そういうものを一切切り捨てて平等に考えるべきだったのです」


女神はおもむろにコインを取り出した。

二人は「まさか」と、死んでいるのに冷や汗が流れた。



「コインで決めましょう」




「待て待て待て! そっちのほうがおかしいだろ!」


「そうじゃ! なんで大事な決断をコインで決めるんじゃ!」


「どちらも同じ人間じゃないですか。あらゆる要素を切り捨てたとき

 なによりも平等に判断すべき方法でしょう?」


「コインで転生の運命を握られてたまるか!」

「当然じゃ! 最も転生にふさわしい人間を選ぶべきじゃろう!!」


「それじゃ転生にふさわしい人間ってなんですか!?

 さっきから二人ともあーだこーだいって譲らないじゃないですかぁ!」


「転生にふさわしい人間っていうのは、

 生前にいい行いをしてきて、それでも不憫な人生を送ってきて

 来世で報われる生活を送るべき人間ってことだよ!」


「もちろんワシじゃがな」

「いいや俺だ」


「なんじゃと!?」

「なんだよジジイ!」


「もうこの喧嘩の流れやめましょうよぉ!」


女神はもう半泣きになり始めた。


「私の知っている100歳まで尽くしきった人間の生前に、

 これだけ尽くしきっても人々の争いと誤解によって

 無残にも殺されてしまったのです。争いは何も生まないんですよぉ!」


「あんたもさっきからその話ばかりじゃないか!

 いちいち知り合いの良い人エピソード話すんじゃねぇ!」


「そうじゃ! ここにいない人間の良い話をしたところで

 転生を決める判断にもならないじゃろうが!!」


「そんなことないですよ! その人は私のことなんですから!」


「え?」

「え?」


「あっ」



まもなく、生前に100歳まで人のために尽くし続けて

それでも人の誤解により命を落とした不憫な人生を終えていた女神は

ぽかんとする二人を置き去りにして異世界に自動転生した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お前なんか転生する価値ない! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ