第42話 じきに車は辿りつくだろう

『対象A、X1とX1自宅を出発したようです――』

『対象B、Y1およびY2と会場へ到着。展示順の最終チェックを開始しました。』


 高級車の中で、インナーイヤホン越しのノイズ交じりの音声を聞きながら笑う男が一人いた。

 その瞳は枯れ井戸の底のように褪せた色で、怪しげな光を宿している。

 彼はここ一か月ばかり、半ば習慣にもなっていたノートパソコンを弄り、映像を切り替えていく。


 見慣れた玄関先――


(違う。)


 見知った浴室――


(ここでもない。)


 愛する妹のいた寝室――


(もうすぐ。)


 愛する妹の背を追う視点――


(もうすぐだ――)


 やがて、ここ一か月ずっと“彼”が視ていた男の背中に視点が切り替わる。

 隈に縁どられた目を弓なりに歪ませて、志々雄は呟くのだった。


「ああ、やっと今日だ。

 今日こそ、公子。お前の帰る場所がどこか、分からせるよ。

 そのためにはまず、この男を始末しないとね――」


 狂気に染められた彼の瞳に運転手は眉を顰めるが、当の本人は気づかない。

 じきに車は辿りつくだろう。物語の結末へと至る場所へ――

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