第28話【閑話休題】今日の私は少し、変だ
最近、私は外に出ることが多くなった。
昔は部屋から出るだけで怖かったのに。
光が、音が、私が不良品なんだと言い聞かせてきていたのに。
あの日、あの場所、あの時に、小さな偶然の重なりであの人と会い、私の世界は拡張された。
人見知りなんて言葉では言い表せない私が、初めて”家族”以外なのに怖がらず話せた。
その感謝を伝えたくて、唯一できることで残したくて、あの人を何度も絵で描き、直した。
思い出を紡ぐように、気持ちを織り込むように。
やっと満足できる出来になったから、初めて勇気をだして会いに行った。
それでやっと渡せて、お礼もしっかり言えて。もう満足したはずなのに。
何でなんだろう。
「公子、待たせたな。」
「……」
「公子?」
“家族”と来た初めてのお店で、私はあの人が女性といる光景に目を吸い寄せられた。
きっと、それは当たり前の風景で、普通の人なら気にすることじゃないはず。
なのに、それだけで私の心は錆付いてギシギシと軋みだした。
(どういう関係なんだろ――)
「おい、公子?聞こえてるか?」
“家族”の手が目の前を数回行き来して、私は思考の海から浮上する。
いけない、”家族”を心配させるべきじゃない。
「うん。聞こえてるよ、お兄ちゃん――」
兄という名の”家族”にいつものように抱き着きながら、私はざわつく心であの人乗った車が遠ざかるのを目で追う。
その間も心の錆は軋んで、言葉にできない痛みが奥底で疼いた。
(どういう関係なんだろ、あの二人――)
初めての”私”が、首をもたげる。
今日の私は少し、変だ――
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