第27話【閑話休題】自分への励ましを込めて

 ああ、なんで私はいつもあと一歩ができないのだろう。

 自分への呆れと苛立ちが心を苛む中、私は自室のベッドへダイブする。

 ふかふかのベッドが柔らかに身体を抱きとめてくれて、少しだけ心が落ち着いて思考が落ち着気を取り戻す。

 踏み出せなかった理由は、私自身分かっていた――


「私、怖いんだ。」


 自然と、口から言葉が漏れ出ていた。

 そう、怖いのだ。彼に拒絶されるのが。

 本物の私はとても臆病者なのだ。

 本当は彼のことをもっと知りたい。

 どんなことを考えているのか、一緒にいて楽しかったのか、もっと一緒にいたいのは私だけなのか――

 そんな当たり前のことですら、素直に聞くことができないのが私という女なのだから。

 だから、本当は午前中だけじゃなくて午後も一緒にいたかったのに――

 もっと言えば、純粋にデートがしたかったのに――

 それすら言えない。

 その結果、空回って、食べきれもしない料理を流し込んで自分を騙して、最後は彼に呆れられてしまった。

 そんな調子だから、言いたいことも言えないまま、今日が過ぎた。


「でも、これは渡せたから……」


 私はベッド横の机にある、マグカップへと手をのばす。

 真新しい薄ピンクのマグカップには、彼に渡したものと逆の羽が描かれている。

 二つのマグカップを合わせれば一つの絵になるのは、誰にも言えない私だけの秘密だ。

 きっと、言えば気持ち悪がられるに決まっているから。

 それでも、私が初めて彼とデートらしいことをできた証だ。

 きっと、これは私の宝物になると思う。

 私は、小さな宝物に手に収め、呟く。自分への励ましを込めて。


「次は、ちゃんとデートとして誘おう!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る