第19話 出かける準備に取り掛かるのだった

 ピピッ!―― ピピピッ!――


 霞んだ視界の中、羽月は目をこすった。

 指先に硬い感触が伝わり、彼が何かと見ると寝ている間にこびり付いた目ヤニが取れていた。

 

(ずいぶんと懐かしい夢だな……)


 自然に羽月はため息をついていた。

 習慣づいた動作でスマホへ手を伸ばし電源を入れると、日付は土曜日の七時を示している。

 あの日、羽里から来たメッセージに結局羽月は返事をしていた。

 返信を書くまでに彼の内心では様々な動きがあったが、どこか母への執念じみた彼女の瞳を忘れられない羽月の答えは選べるようでなかった。

 結果、普段の休日は十時過ぎまで寝ている彼が健康的な時刻に起きている。


(約束の時刻は10時か)


 色褪せ始めたカーテンを開けて部屋に日光を入れながら、彼はTVを点ける。

 政治家の汚職、放火事件犯人の逮捕、地方の特産物特集――

 リモコンでチャンネルを回していくと、あるバラエティー番組で指が止まる。

 その時だった。

 ここ最近は着信を告げることが多くなったスマホが軽く震える。

 開くと、メッセージ着信をしていた。

 送り主は、先日交換してから頻繁にやりとりをしている鶴舞からだ。

 もっとも、羽月から送ることは少なく、どちらかと鶴舞から話題を振って羽月が反応するようなルーチンになっているが。

 文面を確認すると、「助六屋の食器買い出しをいつにしようか。」という相談だった。

 鶴舞は今日でも良いとのことだったが、羽月としては羽里との約束があるため、そのことは伏せつつも明日にできないか返信する。

 即座に既読がつき、「OK」とのこと。

 軽く息を吐き、羽月は出かける準備に取り掛かるのだった。

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