第6話 【閑話休題】眠り烏は北風になる

 凍った空に月がぽっかりと浮かぶ。

 それはまるで黒いヴェールに穴を空けたようで、太陽ほどではない光が大地をぼんやりと照らす。

 その中を烏は飛ぶ。

 止まり木はとうに失い、飛びつかれた時は荒れ果てた大地に体温を奪われる。

 赤い実を摘まもう。黄色い実を摘まもう。

 烏は大地に転がる誰の物とも知れない実を端から口に入れていく。

 腹は満たされるが、その度に大地の冷たさが身体に沁みる。

 まるで早く諦めて大地に横たわれと言い聞かせるように、体温を奪う。

 それでも何処かへ飛びたい烏は翼を動かす。

 冷たい風が身を割こうとも、それ以上に大地に横たわることが怖くて。

 身を割かれすぎた烏は、いつしか自分を北風と思い込んだ。

 大地を割き、実を振り落とし、木をなぎ倒す北風であると。

 望んだ止まり木すら、もはや北風には見えてはいない。


 動物たちは言った。

「あの北風はきっと、最初からそういうものなのだ」と。


 北風は答える。

「お前たちが動物だから、私は北風なのだ。」


 眠り烏はそこで目を覚ます。

 カーテンを開ければ空は青く、雲は遠い。

 しかし、その目に映るのは分厚い雲から降り続ける大雨だ。


「ああ、本当に嫌な天気――」


 今日も羽里硝子(16)はそう口にする。

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