睡眠でギャンブルの金を…

 Aさんは最初は様子を見てノンレム100分のうちのその半分、4%ソムヌスのリザーブド取引を行った。これを担保にしたソムヌス・リザーブド・デッド(SRD)という取引で前払いで1200万を手に入れられたという。

(※SRDはリザーブドの契約を担保とした金融商品。リザーブド睡眠取引では通常の睡眠取引より高収入ではあるものの、マイニングしてからしか金を受け取れない。SRDではそれを前金として受け取れるが、属性と年齢などにより変動する金利、手数料の分かなり目減りする。)


しかし日常生活には支障を及さなかったので、大抵の取引者のベースラインである7%ソムヌスまで拡大した。SRD分を計算すると収入は2100万なので、差額の900万を追加で手に入れることができたわけだ。しかし、ここからは悲劇になる。


 Aさんは得た金の全てをギャンブルにつぎ込んでしまった。それどころか、将来のための貯蓄はもちろん、消費者金融で睡眠取引条項のある総額3000万の貸借契約を結んだ。つまり、ギャンブルの金を借りるために、睡眠を削る選択をしてしまったのである。


 その消費者金融の利息は15%、10年の元利均等返済で、総額なんと5800万。毎月50万近くを返すことになる。その頃にはギャンブルにのめり込み、アルコール依存症も併発しており職を失い、支払えないため、強制的に睡眠取引条項が発動。20%近いソムヌスとなってしまった。医師によりノンレム睡眠の取引はドクターストップがかかったので、彼の全体的な睡眠時間を拡大することになった。20%のソムヌスでは4.8時間のレム睡眠が必要だが、彼のアルコール中毒もあり、ノンレム睡眠とバランスを取るために睡眠全体の時間は20時間を要すると診断された。


 医師は筆者にこう話す。

「こんな人権を無視した契約に従う必要があるとは思えません。ただ、生理学上、生命の危険がなく、睡眠時間を減らすこと自体に憲法上の問題がないとも出ているので、何の法律でも規制されていないのが現状です。自己責任社会の究極の形ですよ」


 世間の反応は冷ややかだ。

「契約でそうなっているならそうするしかないでしょう。ギャンブルをするより寝ていた方がマシでしょう。ブロックチェーンのネットワークも活発になりますよ」

 とはとある米EBBメーカーの日本代理店の社長だ。ツイッターを見てもほぼ同じような意見しか見られない。


 彼には10年間の間、4時間の間を起きて、20時間寝なければならない。

 起きて前日あったことを日記で読み、食事をして、ニュースを読んだ後は日記をつけて寝るという。もちろん生活資金はEBBで稼げるから、他の取引者同様に働く必要はないが、お金の対価として人生の可処分時間が減ることはなかなかに辛いものがあろう。


 次はショッキングな事例を紹介する。

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睡眠が1時間長くなるが1200万受け取れるボタンがあったら押すだろうか? 西雪星雲 @NishiyukiSeiun

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