睡眠が1時間長くなるが1200万受け取れるボタンがあったら押すだろうか?

西雪星雲

あなたの睡眠が危ない:睡眠取引

 睡眠が取引できる時代になって数年。睡眠取引は今では3割の人が行っているとされるが、この記事ではいくつかの例を取り上げて本当に価値があるのか検証してみたい。その前に、睡眠取引やEBBをまだ接続したことのない方にもわかるように、そこから説明したい。


 30年前に脳を外部の演算装置として使うことのできるエクスターナル・ブレイン・バス(以下EBB)が発明されたことで、この30年で人類は飛躍的な進化を遂げたといってもいいだろう。スマートフォンを含めたあらゆるコンピュータが脳の処理能力を間借りできるようになったことで、100年ほど前に発明されたブロックチェーンをさらに高度で安全なものに進化させることができた。世界はブロックチェーンで動き、全ての経済活動はもちろん、政府の決定、裁判所や官僚の公文書から個人の契約書、最近ではラブレターまで全ての人々の意思決定が暗号とハッシュ関数でサインされる。

 当然ながら従来のブロックチェーンは電力使用量の問題があり、EBBが普及する直前には、ブロックチェーンは世界の80%の電力使用量を浪費していた。これを脳で置き換えられるようになったのは大きい。


 現状、EBBの動作中は人々はレム睡眠の状態であることが求められる。逆にいうと、EBBは脳の休息時間を間借りして処理を行っているのだ。これは当初問題にならなかったが、ブロックチェーンのマイニング難易度が上がることで人類はさらなる処理能力を必要とした。しかし、人々の睡眠時間には限度があるし、従前のコンピュータでマイニングをして電力をこれ以上使用することは難しい。そこで人類は、睡眠時間を伸ばしてEBBを使わせてくれる人にインセンティブを与えることにした。(エクステンデッド・ソムヌス・インセンティブ、俗にいう睡眠取引)


 すなわちである。


 当初は従量課金をベースとして、1時間あたり0.1BC (ブレイン・コイン、現在のレートで1000円)の報酬であった。しかし、リザーブド睡眠取引を行う業者も現れてきた。つまり、将来にわたって、高価な報酬と対価にあなたの睡眠時間を「まとめ買い」することだ。大抵、相場としては従量課金の8倍だ(つまり仮にも1日24時間を60年間全て捧げれば、42億円程度が手に入る保証があるということだ;ただしこれは生きているのかどうかという倫理的議論が反対派から巻き起こっているのは言うまでもない)

 まとめ買いとはいっても、マイニングを行った時の評価額が上がるわけで、前払いということではない。つまり、将来にわたって脳の演算能力をネットワークに貸し出すことを約束する代わりに高い報酬を得るというわけだ。途中で放り出せば、ブレイン・コインのトレーサビリティによってコインが無効化される。


 全てをノンレム睡眠にすることは全身麻酔でもしない限りかなり難しいので、大抵の人間は100分程度が限度だ。とすると、7%ソムヌスくらいが一般人の限度といえる。ハッシュレートは落ちるが、レム睡眠の時間を取引する人間もいる。ただ、疲れなどが残ることが多いため、レム睡眠を取引する人間は半数以下だ。レム睡眠まで取引すると、8時間睡眠の人で33%ソムヌスとなる。

 33%ソムヌスは14億円ほど(60年換算)になるが、レム睡眠ではハッシュレートが落ちるため5億円に満たない人もいる。


 普通の人間は33%が事実上の上限となっているが、アグレッシブな取引者は50%つまり12時間以上を差し出す人間すらいる(ノンレム換算で12時間なので、実際の睡眠はさらに長くなる可能性もある)。筆者としては21億円もらったとしても、他人に脳を12時間、60年間貸すというのは、何があったとしてもなかなか許容できない。


 さて睡眠取引について復習ができたところで、実例を紹介しよう。

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