【】幸運の姫@廃棄場

 なかなか、なかなか高価そうなものは見つからない。武器に代替できそうなものも今の所鉄パイプか、あるいは見るからに脆い細い金属製のとがったなにか程度。まったくもって無能であることを俺は自身を持って自らに評価しよう。

 昔から、ゴミ漁りに関しては全くの無能と評されていたが、近くで漁っているミクにさえ凄まじい勢いでおいて枯れるのはなかなか心に来るものがある。……いや、本来ミミックは宝箱に擬態する生き物で、宝箱とは金銀財宝の類を淹れるものであったから、ミクが主に銀を発掘するのもミミックの本能が関係しているのかもしれない。

 ヨコハマのミミックにミミックの本能が残っているのかは些かの疑問点が残っているが、そうに違いない。これでも男としてのプライドがあるのだ、激トロのミクに地の能力で負けたとは認めない。認めたくない。


「おまえ、ほんとにすごいなぁ」

 隣でまたミクが銀らしき煌めく金属を掘り起こす。

 しかも特筆すべきことは、基盤やら何かの道具の付属品から銀を取り出しているのでなく、そこいらに銀単体で落ちているものを目聡く拾って行く。

 目を煌めかせて、ソレと同じくらい輝く銀を眺めているミクは単に銀の輝きに魅入られただけなのかもしれない。……これを売るということを果たして理解できているのだろうか。


「はぁ、自信なくすなぁ」

 もとから俺には誇るべき点がない。今まで忘れていたけれど、久方ぶりにここへ来て実際にゴミ山の中を漁ってみるとその事実を思い知らされる。妹にはよくよく集中力がないと説教をされていたが、どうにもそれが事実であることは実感していた。

 何分ちょうど銀を掘り当てたミクがいる場所は、俺が少し前に漁っていた場所。ミミックに銀を生み出す能力がなければ、俺は集中力がない。そしてミミックは銀など生み出さない。もうわかるだろう、Q.E.D.というヤツだ。


「そろそろ、位置を変えようか」

 そうしておまけにもう一つ、そんな風なことを言うかのごとくもう一つ小さな銀製らしきブレスレットを拾い上げたミクに声を掛ける。腰から掛けた魔力計測器がジ、ジジッ、という少し耳障りな音を発し始めた。

 いつの間にか例の魔力に汚染されつくしたゴミ山の方に近付いていたらしい。とはいえまだ微量の魔力しか空気中にはなく、挙句ミクに関してはダンジョンという魔力の多い場所で生きていた魔物だ。あまり問題とも思えないが、しかし別にこの場所にずっといなくても問題はない。……主にミクのお陰で。


「なんでにんげん、むこういかないの?」

「人間は魔力を一杯浴びられないんだよ」

 このまま漁っていたいけれど、仕方がない。そんな顔をして差し出した手を握るミクはしかし、それでもいまだにチラチラと後ろを振り返る。それから、妹が忠告した例のゴミ山の方へと指さしながらそんなことを言う。


「もったいない」

 やはり少しミク、というかミミックと言う魔物たちに一度魔物と人間の一般的な関係性について懇切丁寧に教えなければならない気がする。それと、人間がどれほど魔力に弱いということを。

 むっすりと不機嫌そうに頬を膨らませ始めたミクの、能天気さに危機感が湧く。


「――魔物だってバレたら、多分殺されるからな」

 あまりに危うい。この尋常でなくトロい、平和ボケしているのか良く分からないミミックを放っておけば、ご飯が欲しいからと言ってそこらへんで他の擬態をしかねない。というかおそらくする、見ている限りのこの天然っぷりならば。

 だから一つ軽く脅した。認識が人間への認識があまりにミミック的であったから。

 

 「なんでもな――ぴっ」

 ミクはいつも通り不愛想に、それでも普通の時よりも大分早口に言葉を継げようとした。見るからに怯え切っている様子でいつもはとぼとぼ歩いているのに、酷く足早に遠くに行こうとする。しかし、トロいところが更なる災難を呼んだ。

 ただでさえ凸凹とした道を、ただでさえ鈍さの権化たるミミックが、無理をして早足で逃げようとしていたのだ。そんなもの、簡単に転んでしまう。


「あっ、おい! 危ないから!」

 そして倒れ込んだ場所はなんなれば見る限り最もとがったくず鉄が集まっている場所。ただでさえ、ここで転ぶのは危ないというのに、だ。銀に特化して、ゴミ山からあさりだすことに関しては、相当の運があるのかもしれない。

 しかしこういう点は、やはりミミックだとしか言いようのないほど不運らしい。


「おどっ、おどすからっ!」

「わ、悪かったから――お゛ぅ、お前力つよ!?」

 涙目になり、顔を真っ赤に憤怒に染めて狂乱しきったミクが腕を振る。

 一瞬、意識が吹き飛んだ。暗い暗いこの世界のなかに、ほんのわずかに暖かな太陽に照らされた花園を見た。そしてしばらくして、ミクに殴打されたことを知る。


「ばっ、ばかやめ――ストップ、ストップ!!」

 そしてそんな悠長なことをしていたから、怒れるミミックというあまりにも珍しい状態のミクは、自らが転んだ原因であるソレを拾い上げ、こちらに全力投球しようとしてくる。ポーズが明らかに、野球経験者。

 しかし、手に持たれたソレがなんであるかに気付くと、俺は思わず叫んだ。


「それ、ソレ滅茶苦茶価値あるから! 落ち着け!」

「ふー、ふー」

 ミミックに殺されるかもしれない。そんな予想が現実のものとして近付いて来る。いにしえに聞く、闘牛士という職業の人間はこういう心持ちであったのか。


「そんなもん投げたら、まず真っ先に妹に八つ裂きにされるから!」

「――ゆるす」

 八つ裂きという言葉に反応し、ミクは瞬時に反対側を向いた。

 どうやらチキンであるらしい。それも罪悪感を覚えるほどの。


 □


「すごいじゃないミク! こんなにも集めてくれるだなんて!」

 かつてと同じく大量のくず鉄を背負う俺を見た時とは対照的に、鞄に多くの銀や銀製のものらしきものを詰め込んできたミクに妹は大喜びする。普段は鉄仮面もかくやで少しの表情も見せないのに。


「……ん」

 目一杯妹に撫でられるミク。しかしその顔はどこか青く、引きつりながら、それでも懸命に偶然拾い上げたそれを妹様へと貢ぐ。

 ミクが妹と遭遇した初っ端にぶっ叩かれてしまったから、ミクの中でこの場におけるカースト最上位が妹であると思っているのかもしれない。

 まぁ、それは全くの事実であるから、聡明な事だとしか思えない。


「じゅ、銃」

 おそらく上層で作られたであろう高品質な疑いのある銃器。ごくごくまれに上層から降って来る、高性能な武器。

 こっち側で作られた、時折爆発してしまう低性能なものとは段違いのシロモノ。


「――兄貴とは段違いだ」

 最後のは余計だ。

 でも事実だから反論しない。

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