Song.77 この先も
『それでは参りましょう! 今年のバンドフェスティバル、グランプリアーティストは――』
鼓動に合うドラムロールが、バックから生で鳴らされる。鼓膜を揺さぶる音によって、この場にいる全員が手に汗握りながら唾を飲み込む。
『グランプリは――……羽宮高校、Walker! 二連覇です! おめだとうっ!』
「しゃあっ!」
「やったぁぁ!」
大輝、瑞樹と声をあげる。
二年連続グランプリ。うるさかった心臓の音をかき消すほどの歓声に熱くなる。
やってきたことは何一つ無駄じゃなかった。将来に悩んだことも、音楽性に行き詰ったことも、何もかも。積み重なって今があるんだ。
「ほら、前でろって。リーダー」
鋼太郎に押されて、ステージ中央にみんなが並ぶ。
会場を一望できるここに立つと、全身に拍手の波が当たって気持ちがいい。
それに酔っていたら。
「せんぱーい! おめでとうございますっ!」
声がする後ろを振り返ったら、手をぶんぶん振って、藤堂たちも喜んでいるのが見えた。
『いやぁ、お見事でした。一年ぶりになりますが、また一言いただいてもよろしいですか?』
隣にやってきたハヤシダに応じて、スタッフがマイクを持ってくる。それを持たされたのは俺。さすが二度目なだけあって、顔を覚えられた気がする。
素直にマイクを受け取って、みんなの顔を見るとニヤニヤしていた。
ライブ前の掛け声に加えて、ここも俺の仕事か。
「今年でバンフェスに出られるのはラストだったんですけど、優勝できてよかったです。ありがとうございました」
みんなで頭を下げる。すると拍手が一層大きくなった。
『はい、ありがとうございました。こだわりぬいた清々しいロックは、会場の熱気をさらに熱くさせ、大盛り上がりでしたね。ライブらしく、楽しい演奏でした。いただいたコメントにもそのことが多く書かれていました』
弾いてる側だけが楽しいんじゃ、一方通行のライブになってしまう。だから動いて盛り上げて。それが必要だとずっと思っていた。
親父たちのライブもそうだったし、続けてきて認められて本当によかった。
感傷に浸っていたら、スタッフに声をかけられる。
「トリのライブの準備をお願いしてもよろしいですか? 機材等あちらにご準備がありますので」
そうだった、優勝バンドは最後に一仕事するんだった。
「どの曲やる? キョウちゃんのおすすめにしよーよ。どう?」
「ふーん、いいんじゃない? どれでも僕はできるよ」
こそこそと他の人達の後ろへと移動し、楽器のスタンバイに入る。
打ち合わせ時間はほんのわずか。順位の発表を行っている間だけだ。
『続きまして、準ブランプリの発表です――』
そこに藤堂達の名前はなかった。
後ろからでもわかる、あいつらが肩を落としている姿が。
声をかけたい気持ちはあるが、スタッフがあれこれ言ってくるからそれもできない。
『最後は、審査員特別賞です。今年の審査員、Laylaの独断で決まる賞です。受賞者は……羽宮高校、√2!』
「や、ったー! シンヤ、やった!」
「うぐぐ、首絞めないで……」
小早川が藤堂の首をしめながら、喜んでいる。その二人の後ろでは双子が、普段見せないような笑顔で手を合わせ喜んでいる。
そこからまた、ハヤシダによるインタビューが始まって、盛り上がってきたところで、注目が俺たちへと向けられる。
各々楽器を手に、準備を終えたところだ。
他の出演者がステージ袖によけていくと、広い世界が広がる。
『二連覇を果たしたWalkerには、最後にもう一度、披露してもらいましょう! どうぞ!』
疲れ切っているだろうに、客席からは拍手と一緒に歓声があがる。
俺たちは顔を見合わせて、楽器を構えた。
事前にやる曲は決めていない。けれど、アイコンタクトで決められる。
誰がどの音を出すのか、それがわかればこっちのものだ。
野音を〆るステージ。
俺たちの音は広がっていき、疲れをもフッ飛ばすようなライブをやってみせた。
☆
バンフェスが終わればすぐ、卒業式がやってきた。
まだ肌寒い中で式を終えて、ホームルームも終わった。あとは自由にいつでも帰っていいという状況。俺はそのまま部室の物理室に来た。
今日で羽宮も最後だ。
ゼロから作った軽音楽部も終わり。藤堂たちが引き継いで、盛り上げてはくれるだろう。
寂しい気はするが、俺たちは終わらない。
「キョウちゃん!」
「お、瑞樹」
瑞樹が物理室の扉を勢いよく開けた。
瑞樹だけ学年が一つ下で、もう一年羽宮に残ることになる。
「キョウちゃん、卒業おめでとう」
純粋に祝ってくれる瑞樹がいなかったら、俺はきっとここまでバンドをやれていなかったと思う。
「おう、ありがとな」
「! キョウちゃんが素直にお礼を言うなんて、珍しいね」
「お前は俺を何だと思ってんだ、おい」
ふざけながら話していれば、廊下から足音が近づいてくるのが聞こえた。
「二人とも見っけー!」
「なんだ、やっぱりいるじゃん」
「ここしか来ねぇだろ」
大輝、悠真、鋼太郎と続いて物理室に入ってきた。みんな胸に卒業の印でもある花ブローチが目立つ。
卒業後、悠真と鋼太郎は進学する。東京の大学だそうだ。俺と大輝は、そんな学才はない。けれど、東京に行くことになっている。
というのも、バンフェス二連覇したこともあって、いくつかの事務所から声がかかったのだ。そうなれば東京で暮らした方が便利だ。
親父たちが世話になっていた事務所からも話があったので、みんなと相談してそこに所属することにした。
保護者代わりに神谷が名乗り出てくれたし、俺ら全員で暮らせる寮もあるらしいから、当分はそこを拠点にする予定だ。
着実に親父が立っていたステージに近づいている。
そう実感できた。
「僕も早く皆さんと一緒に東京に行きたいです」
「みっちゃんはあと一年だもんなー。あっという間な気がするけど、長いよなー」
瑞樹が残念そうに言う。
生まれが一年違うからこればかしは仕方ない。
「なあ、ここで最後にやらねぇか?」
あまりしゃべってこなかった鋼太郎がふと、思いついたように言った。
「いいねぇ! やろやろ! ギターとベース、持ってき……てるね! 準備する!」
途端に大輝がやる気を出して、機材の準備に取り掛かり始める。
「ったく……ちょっと、もっと丁寧に扱ってよ」
暴走する大輝に指示をする悠真も、口ではああだが顔はほころんでいる。
「ちょ、それはそっちじゃねぇって」
自ら担当するドラムセットの位置にこだわりがあるようで、鋼太郎も加わった。
「ほら、やろ?」
「ああ」
瑞樹と俺も機材を準備して、アンプにそれぞれ接続する。
二年も続ければ準備も早い。あっという間にスタンバイし終えたところで、みんなと目が合った。
「んじゃまあ、ここでの練習ラストだし、今までの曲を全部やってくか」
「「「「おう」」」」
反対されるかと思ったけど、全曲ぶっ通しで弾き始める。
音は物理室の扉を震わせ、校内に響き渡る。それを聞いた人が、どんどん物理室に引き寄せられていつしか人だかりが生まれる。
生徒だけじゃない。先生たちまでもが集まって、もはやライブ会場だ。
埋もれていたけど、藤堂や小早川、久瀬の双子もその中にいて手を叩いたり、頭を振ったりして大盛り上がりだった。
楽しんでもらえる音楽を。
ひとりじゃなくて、みんながいたからできたこのバンドを。
これからも俺は突き詰めていきたいと思う。
真っ白のバンドスコア―Next―
Fin
真っ白のバンドスコア-Next- 夏木 @0_AR
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