Song.76 Name is Walker
「羽宮高校から来ました、Walkerでっす! よろしくお願いしまっす!」
大声で大輝が言う。これが俺たちの開始の合図だ。
俺たちらしくあるために。
突き抜ける疾走感とハイテンポ、それに響く低音。俺が好きなものを押し込んでいるけれど、それが俺たちが生き生きできる曲。そう考えて今回の曲を作った。
闘争をテーマにした曲だ。
熱い照明が俺たちを照らす。歓声をかき切るように、鋼太郎の強く安定したドラムと、鋭い瑞樹のギターで曲を始める。
その音が会場を一気に支配し、注目を集める。
そこに加わる俺のベースと悠真のキーボード。曲全体を突き動かせる。
そして前奏が終わると、大輝がマイクを手に唄う。
問いかけながらも強く伝えるような声で。横からで表情はよく見えないが、きっと獲物を狙うような目で見ていると思う。
続くAメロは勢いよく。大輝を前面に押し出して、リズムを刻む。
棒立ちなんてしない。足を開いて姿勢を低くしながら弾く。瑞樹も細かい音を正確にそしてキレのいい旋律を奏でる。
Bメロで少し落ち着いたかのように見せる。その合間に、鋼太郎はスティックをくるくる回して魅せる。同時に悠真もキーボードを流れるように弾きながら、周りを見渡していた。
盛り上がりを見せるサビでは、大輝の声がもっと強くなる。
ボイストレーニングをプロにやってもらっただけある。高い音も外さず、音量を上げられた。そのコーラスに俺と瑞樹が入ると、絶妙なハーモニーになる。
間奏中、弾きながらステージを移動してみた。
下手から上手へ。瑞樹と入れ替わりになるように。
いつもと違う場所から見える景色。踏み込んで煽るように弾き続ける。
再び大輝が唄い始めるが、ベースが目立つ場所では、一歩踏み込んで見せつけるように弾く。それを見ろと言わんばかりに大輝が近寄ってくると、ベースを指さして注目を集めさせる。
ギターソロの時には、瑞樹の方へ。大輝はあっちこっちに動き回って唄う。
最後のCメロ。そこに入るときには悠真がショルダーキーボードを背負って出てきた。
あまり前には出ないタイプだけど、ここぞといわんばかりに鍵盤を叩く。
俺、瑞樹、悠真。三人がステージ中央に集まり、互いに見せつけ合いながら弾いてるのを、大輝が後方で覗き込むようにしていた。
こんなライブは今までの出演者ではみなれなかったからだろう。会場の目は好奇に満ちていた。
意表を突くやり方に見とれていては歌詞は刺さらないかとも思ったが、どうやら俺の思い過ごしだったかもしれない。
中には汗か涙かわからないが、目元をぬぐう人が見えた。
ラストはスパッと終わらせ、余韻を残す。
音が消えた会場。照明が落ちてから、拍手が鳴り響いた。
「ありがとうございましたっ!」
大輝のお辞儀と共に、メンバー全員で頭を下げた。
そして顔を上げると、目を輝かせた人達の顔がハッキリと見えた。
腕で汗をぬぐい、肩で息をしつつ、撤収に取り掛かる間、進行のアナウンスが聞こえてきた。
『いやあ、ありがとうございました。さらに熱くするようなロックでしたね。Walkerの皆さんにもう一度拍手を』
一層大きくなる拍手。片づけながら頭を下げる。
せっせと荷物を持って、ステージからはける。客席から見えなくなったステージ袖で、やっと大きく息をつく。
「おっつ! 最高じゃん! たのしー!」
そう言って大輝が手のひらをこっちに向ける。それにハイタッチすると、白い歯を出して笑った。
「楽しかったです! 大輝先輩、流石でした! かっこよかったです」
「えへへ、みっちゃんもかっこよかったぜ」
「ありがとうございます」
くせ毛が汗で張り付いた瑞樹は、まだまだ体力があるようで軽い足取りで歩いていた。
「お疲れ様。楽器置いたらすぐ戻るよ」
「あいよ」
ショルダーキーボードを持って続く悠真には、汗が見える。俺と大差ない体力で、結構きついだろうに。俺、歩くのもしんどい。
「足元フラフラだな、おい」
「そりゃ、全力出し切ったし……ほい」
「俺は荷物持ちか」
あれこれ機材が多い俺。鋼太郎はそれに対してあまり荷物がない。俺の機材を一部、鋼太郎に差し出したら何やかんや持ってくれた。
途中、スタッフに急ぐよう言われたりもしたが、そこまでの気力がない。焦っているふりをしながら、荷物を置いている場所まで戻って機材をしまって、小休憩をして。そうこうしている間にも、バンフェスは進行していく。
本来なら、ゲストのライブがあるはずだったラスト。それが無い分、進みが早い。
最後の結果発表があるからステージに戻るよと言われても、足が重い。
随分長く時間をかけて、再びステージに戻ったときには、他の出演者はみんなステージの上に並んでいた。
演奏した順に並んでいるようで、一番下手に藤堂達が見える。遅れてやってきた俺たちを見つけた小早川が、ブンブン大きく手を振っていたがすぐに藤堂に注意されて縮こまっていた。
「イリヤ元気だな~」
そうぼやく大輝も人のことを言えないだろうに。顔色ひとつ変えずにそんなこと言えるんだから。俺だけか、こんなに疲れているのは。
「安心してよ、体力お化けだから彼は」
そう言う悠真にも疲れが見える。俺だけじゃなかったことに安心するのもつかの間、会場のざわつきが大きくなっていくと、ステージにハヤシダが昇ってきた。
『えー、それでは。集計が終了しましたので、これから結果発表にうつります』
わああ、と声があがる。
途端に心臓がバクバクいい始めた。
これが最後の最後。俺たちに来年のバンフェスはない。
手で会場を煽っていくハヤシダの言葉をひたすら待った。
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