Song.75 ステージ袖
多種多様な音楽を見た。
ポップで軽く明るいものから、ヘビーなロックまで。どのバンドも被ることはなかった。
さすが、バンフェス最終選考に残ったバンドなだけある。一曲だけの短い時間で見せつけられるライブで、会場は熱くなっている。
冬だというのに半袖になっている人までいる。かなりの熱気に包まれ、疲労の色が見えてきた頃に、俺たちの番が回って来る。
直前のバンドが終わりに向かって演奏している舞台袖に集まって、俺たちは出番を待つ。
頭の中で譜面を思い起こしながら、手を温めるよう開いては結んでを繰り返す。
「ひゅー、きんちょーするな。この空気」
首肩をまわして、充分に体をほぐしながら言う大輝の顔はにやついていた。
場慣れしたのだろう。もともと根性も度胸もある。自信があって何よりだ。
「僕もドキドキです。頑張りましょう!」
「頼むぜ、みっちゃん」
「はいっ」
大輝は瑞樹と二人、ニコニコと満足気に肩を組んだ。
そしてふと顔を上げた二人と目が合うと、大輝が空いた手で俺を含めた残りのメンバーを手招きした。
「円陣くんでエンジンかけてこーぜ!」
「なにそれ、すごくダサいんだけど」
「イマドキのダジャレでしょ? 俺的には」
「意味わかんない」
文句を言いながらも悠真は大輝の隣へ。
俺も鋼太郎と一緒に肩を組んで円陣に加わった……が、誰もその後何も言わない。静かな円陣になっている。すると、全員の目が一気に俺に向けられた。
「おい野崎」
「あ? 俺か? 俺なのか?」
鋼太郎が嘘だろうと言わんばかりの顔をする。
いや、ここは率先していた大輝だと思うだろ。
「ユーマが部長だけど、リーダーはキョウちゃんでしょ」
「そうだよ。僕は名を貸しただけだし」
大輝と悠真も続く。
「ほら、時間ないよ。キョウちゃん」
瑞樹までもが言う。俺に逃げ道はないようだ。
「あー、えっーと……んじゃ、ライブで一発かますぞ」
「「「「応っ!」」」」
あくまでも舞台袖でひそかに。全員が同じ気持ちを持って、気合を入れた。
直後、ステージの方からは拍手が巻き起こっている。どうやら前のバンドが演奏を終了したようだ。
「Walkerのみなさん、準備をお願いします」
スタッフに言われ、前の演者と入れ替わりに、俺たちは眩しいステージに上がった。
今年のバンフェスに向けて、俺たちはライブの形をもう一度考えた。
全身で楽しめるライブをするためにどうしたらいいか。
一体感を出すためにはどうするか。
俺たちらしさをさらに貫くためには。
一体感は何で生まれるか。
簡単にできそうなのは服装ではないかという案が出た。
俺たちらしさ表現する服。制服で統一させるのありだが、いまいちつまらない。
そこで今回は全身真っ黒にしてみた。
曲がロックだから、この方がしっくりくるからだ。
パーカーとかTシャツとか、その辺のセンスは俺にはよくわからないから、瑞樹に頼んだ。カジュアルな恰好になったのは大輝と鋼太郎、それに瑞樹。逆にフォーマルに黒シャツにしたのが悠真と俺。
そして曲はもちろんのこと、ライブの魅せ方は重要だ。
今までステージに上がっていた他の出演者たちは、自分の定位置からあまり動きはしない。見る場所が一か所になって楽かもしれないが、あっちもこっちもきょろきょろしてワクワクするほうが楽しいと思った。せっかくの広いステージ。前々からそういうやり方をしていたけれど、今回も動く気満々だ。だから、俺と瑞樹は楽器をワイヤレスでアンプに接続する。
流石にドラムは動けない。だけど、キーボードなら動くことができる。ショルダーキーボードを使うことによって。
今までは据え置き型のキーボード。それに加えて、ショルダーキーボードも用意した。一曲の中で両方使えるような曲に構成を考えたし、練習もした。
各々が準備をしている間、ハヤシダがバンド紹介をしていく。
『今年のラストを飾るのは、二年連続バンフェス出場、かつ、二連覇を狙うあのバンド――羽宮高校、Walker!』
子恥ずかしい紹介を聞き流しながら、準備していく。
使うベースはいつもの真っ黒のフレべ。足元にはエフェクターを準備。すっかり体に馴染んでいる重さがしっくりくる。
外気温は低い。けれど、興奮で体はすでに熱い。準備運動はバッチリだ。
みんなも準備ができているようで、顔を上げてハヤシダを見る。すると、ハヤシダはスタッフと共に頷いて再び口を開く。
『準備ができたようです。これが本日最後のライブとなります。盛り上がって行きましょう。それではwalkerの皆さん、よろしくお願いします』
わあっと歓声が上がる中、ライブの幕が切って落とされた。
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