月刊カストリ編集長の証言

大塚

第1話

守屋亮もりや・とおるっていたじゃん」

 校閲の代々木よよぎが言った。彼の発言はいつも出し抜けだ。小学生の頃から20年近い付き合いの中でずっとそうなのだからいまさら驚きもしないし、変わることもないと思う。

 それより。

「守屋亮……?」

 覚えのある名前だった。ずいぶん前に俺の視界から消えた存在でもあった。そう、あれはたしか、3年近く前。

「『カストリ』創刊メンバーか。ライターの」

「そうそう。いや〜、編集長なら覚えてると思ってたよ。さすがさすが」

「アホ。両手の指で足りるぐらいの人数で始めたのに、忘れるのはさすがに薄情だろう」

 編集長俺、校閲代々木、それに営業やライター、編集補佐が数人で創刊した雑誌『カストリ』。その名の通り戦後雨後の筍のように創刊から廃刊を繰り返した無数の大衆向け娯楽雑誌、カストリ誌をイメージした代物だ。創刊当初は刊行ペースも不安定で、たまにSNSでエゴサをすると必ずいちばん上に『カストリ 廃刊』とサジェストされてクソったれなどと思ったものであったが、1年半ほど前、比較的大きめの出版社から雑誌の刊行を補佐したいという申し出があり、業務提携を結ぶことになった。カストリは無事月刊誌となり、社員も増え(月刊誌になったところで世間的に紙の本の売上はあまり良い傾向ではないので、非正規社員を雇う余裕がない。よって我らがカストリに関わる人間は全員正社員だ)、俺たちは日々悪趣味でひと目を惹くネタを探して彷徨っている。

「社長がさぁ、見かけたんだって最近」

 手の中で買ったばかりと思しき缶コーヒーを転がしながら代々木が言う。社長、とはカストリの代表責任者を担う人物の通称だ。1年半前の提携起結から巨大出版社内カストリ部代表というよく分からない役職に名称変更となったが、俺たちは未だに彼のことを社長と呼んでいる。ちなみに本名は千羽せんば。千羽もまた、俺と代々木とは20年来の付き合いで、3年前にカストリを創刊する際、必要な費用を一旦すべて担ったのが彼だった。千羽の親父さんは名前を出せば誰もが「ああ」と言うような有名印刷機メーカーの重役で、つまるところ彼は実家が太い。そしてその太い実家に頼ることに一切の躊躇いがない。それはそれで彼の才能だし、お陰でカストリはここまで成長することができた。

「社長が? 守屋を? どこで?」

「麹町ぃ」

「麹町ぃ?」

 なんじゃそりゃ。カストリ編集部が現在間借りしている巨大出版社の持ちビルは大手町にあり、距離としてはそう遠くもないが、

「守屋、麹町に住んでたっけ?」

「知らね。辞めた時はなんか下北とか辺りじゃなかったっけ」

 持ちビルの各フロアには社員のリラックス用スペースや、外の空気を吸うことができるバルコニーなどが完備されており、元喫煙者の俺や現ヘビースモーカーの代々木は雑談場所にバルコニーを選ぶことが多かった。もちろんバルコニーも室内もすべて全面禁煙である。大晦日も近い今の時期などは立っているだけで寒くて仕方がないが、少しでいいから冷たい風を浴びたくなる、これはもう本能のようなものだろう。

「創刊号に載せるネタがボツになって……そんでもう記事書けないって言うから事務方に回して」

「ちゃんと覚えてんのね。えらいえらい」

「まあ俺が異動させたわけだし……けどほんとにすぐ消えちゃったんだよな。完成した創刊号も見ないで」

「そ。あん時は社長が珍しく拗ねてたよ。守屋のこと結構気に入ってたのに〜って」

 そうだった。社長は先述した通りの人格の持ち主だから、カストリ創刊時も本当に気に入った人間しか起用しなかった。

「だいたい、社長はなんで麹町に? 忘年会?」

「うん。でつまんなかったから一次会で帰ろーって言ってタクシー待ってたら、同じ列に並んでたんだって、守屋亮が」

 代々木によればこうだ。出版業界のそこそこの役職の人間ばかりが集まる忘年会にお呼ばれした社長こと千羽は見知った人間がほとんどいない上に上っ面だけのおべっかが飛び交いその下では腹の探り合いが行われる空間に30分で飽き、ちょっと風邪気味という嘘を吐いて店を出た。電車で帰宅しても良かったが少し飲んだ酒のせいで既に疲れていたので、駅前のタクシー乗り場の列に並んだ。10人ほどが寒風の中クルマを待っていて、社長から数えて5人ほど先に守屋亮がいた。守屋亮は最後に会った時とはまるで違う、見るからに金の掛かった装いをしており、しかし切りっぱなしの黒髪とどこか生気のない目がミスマッチであった。声をかけようかどうしようか迷っているあいだに乗車の順番が回ってきた守屋はクルマに乗り込み、あっという間にいなくなってしまった……。

「どう思う?」

 麹町、金の掛かった装い、切りっぱなしの黒髪、生気のない目。

 ──ボツになった原稿。

 あの原稿のネタは……今でも覚えてる。まだ本決まりじゃないんですけど編集長にだけは念のため、と目を輝かせながら教えてくれた守屋。

「連絡してみるか、一応」

「さっすが! 頼りになるねえけいちゃんは!」

「うるせ。絡みがなかった校閲のおまえとか、社長から電話が来るよりは俺が連絡する方が不自然じゃなくていいだろ」

 12月29日、仕事納め。30日、大掃除(俺と代々木と社長だけ)。31日、俺は自宅から守屋の携帯番号に電話をかけた。留守番電話に繋がったからメッセージを残した。カストリの真城景一郎しんじょう・けいいちろうだけど覚えてる? 元気にしてるか?

 翌年2日、守屋からの折り返しがあった。


「久しぶりだな、守屋」

 仕事始めの1月4日、終業後午後8時。俺と守屋亮は都内のサイゼリヤで3年ぶりに顔を合わせていた。電話で話した守屋は下北沢からは引っ越していて、しかし以前カストリの編集部があった街からはそう遠くない場所で暮らしていた。俺は俺で職場が大手町になっても引っ越しという選択はせず、長く住んだ街で今も暮らしているため、待ち合わせは互いが良く知る場所、旧社屋最寄りのサイゼリヤということになった。

 細身のデニムに黒のコーデュロイのジャケット、それに大きなバックパックを背負って現れた守屋はなるほど社長の証言通りどこか不自然、或いは不安定で、俺たちの前を去ってから3年、彼がいったいどのように生きてきたのかが心配になる。例のウイルスの影響で注文形態が変わったサイゼリヤではあったが、メニューは増えど減りはせず、とりあえず何か食うかと提案する俺に守屋はマスクの下で薄く微笑んで見せた。

「編集長、変わりませんね」

「そうか?」

「なんで急に連絡くれたんですか?」

 年明け一発目の大仕事、つまり昨年の残り物の仕事という意味でもあるのだが、労働したせいで腹が減っていた。パスタを2種類頼み、ラムの串焼きも食おう、それからサラダとドリンクバー。自分の注文を用紙に書いて守屋に差し出すと、彼はサラダとドリンクバーの数だけ増やしてテーブルの端にある呼び出しボタンを押した。

「食わないのか」

「今は、ちょっと」

「そうか」

 俺の知っている守屋は肉を良く食う若者だった。社長が思いつきで行う宴会にはすべて参加していたし、高級焼肉店で値段を見ないでどんどん注文をする図々しさを持っていた。代々木はハラハラしていたけれど、社長は全社員のことを弟分、もしくは妹分のように思っていたから、いつも楽しげに彼、彼女らに飯を食わせていた。

 ドリンクバーで各々飲み物を取り、店内のいちばん端、昔良く打ち合わせで使っていたボックス席で向かい合う。マスクを先に外したのは俺だった。喉が渇いていた。その俺を見て、守屋もゆっくりと黒いマスクを外す。少し、窶れたように見えた。

「いや、社長がな」

「千羽さん?」

 社長は、俺たちには『社長』という呼称を許していたが、社員たちには名前で呼んでほしいと望んでいた。今もそうだ。人懐っこい男なのだ。

「そう、千羽。千羽が、年末忘年会の帰りに、久しぶりにおまえを見かけたって言ってて」

「麹町ですか?」

 守屋はすぐに言った。少し驚いてしまうほど、すぐに。大きく目を瞬かせる俺を見て守屋は小さく笑い、手元のコーヒーをひと口飲むと、

「千羽さんの忘年会会場と俺の行動範囲でかぶりそうな場所って、麹町しかないですもん」

「そ、そうか」

 そんなに頻繁に麹町に行っているのか? 現在の勤め先が麹町ということなのだろうか。よく分からない。それ以前に、俺と麹町という場所のあいだに縁がない。

 サラダとパスタと串焼きが同時に運ばれてくる。店員がテーブルの前に立つ一瞬だけお互いマスクを装着して口を閉じ、「とりあえず食うか」とフォークを手に取ったのもやはり俺が先だった。守屋はいかにも不本意そうな動きでもそもそと野菜を咀嚼し始め、それならば肉を注文すれば良かったのではないかと思うのだが、今の彼がいったいどういう状況にあるのかが分からない以上軽率に言葉を吐くわけにはいかない。

「最近、どうしてるんだ」

「最近?」

「ああつまり……カストリを辞めてから。最近という話でもないな、はは」

「……色々です。色々」

 聞いてくれるなという顔と声音に、俺はまたしても会話の尻尾を見失う。参ったな。だが店に到着してから今までのごく僅かなやり取りの中ではっきりしたことがひとつだけある。いま目の前にいる守屋は、俺が知る守屋亮とはまるで違う人間だ。それこそエイリアンに体を乗っ取られでもしたかのように、顔や声は守屋、だが雰囲気がまるで違う。

「今、大事な人がいるんですよ」

「ん?」

 唐突だった。サラダを食い終えドリンクバーから野菜ジュースを持ってきた守屋が、本当に唐突に言った。光のない目が俺の両目をどろりと覗き込んでいた。

「だから、その人の影響かも」

「……なにが?」

「服装とか。前と違うって千羽さんも言ってたんでしょう?」

「あ、……ああ……」

 バンドTシャツにデニムで自転車を駆って出勤してくるような男だった。自分の手が滑ってひっくり返ったコーヒー(以前の編集部には代々木が自腹で置いたコーヒーメーカーがあった。今の編集部にはもうない)で白いTシャツがとんでもない色になっても、「味があっていいっすね!」と笑うタイプだった。

 どうやら今は、もう違う。

「大事な人……。交際しているということか?」

「編集長、俺にそんなに興味があるんですか? 照れちゃうな」

 ちょっとよく分からない。どこに照れる要素があるというのだろう。そもそも大事な人云々と話を始めたのは守屋の側だというのに。

「写真見ます?」

「写真?」

「見てください、ほら」

 空になった皿を店員が回収していく一瞬のあいだに、守屋はポケットから画面の割れたスマートフォンを取り出していた。テーブルの上に差し出されたそれを、見ないわけにはいかなかった。

 ひとりの男性の姿が写し出されていた。画質の悪い写真でもよく分かる色の薄い肌、ウェーブの掛かった長い髪、マフラーとマスクによって口元は覆われているが品の良い深いブルーのコートに覆われた体は守屋よりもよほど華奢で、一見して男性であることは分かるのだが、それ以上にどこかアンドロギュノス的な気配を感じる。黒縁の眼鏡をかけたその男は別の誰かと腕を組んで歩いていて──つまりこれは、盗撮写真だ。

 我知らず眉間に皺を寄せていたらしい。綺麗な人でしょう? っていうんです、と守屋は明らかに浮かれた口調で言った。むつみさん。俺はその名を脳の片隅にしっかりと留め置く。それから守屋に気付かれぬようこっそりと、。人より手が大きくて良かった。

「その、むつみさん? と、お付き合いをしているのか?」

「やだな、編集長。そんなにガツガツしないでくださいよ。俺には俺の都合があるんですから」

 何を言っているのか分からない。会話になってない。

「付き合ってるのか?」

「まだですよ。でも、ほとんど付き合ってるみたいなものですね」

 それは付き合ってるとは言わない。というか写真を見せるといって差し出されたものが盗撮写真である時点で、だめだ。

 指摘すべきかと思ったが、守屋の目が明らかに恍惚としているので口をしっかりと閉じる。あまり良くない兆候だ。俺にとっても、彼にとっても。

「そうなのか。……むつみさんとは、いつ出会ったんだ? 優しそうな人だな」

 優しそう。いちばん当たり障りのない褒め言葉を選んだつもりだった。ところが守屋は途端にくちびるを尖らせて、

「優しくなんてないですよ! むつみさんは……すごく難しい人で……」

「あ、ああ」

「俺がいるのに他の相手と平気でデートしたりするんです。自分がすごく……綺麗だって分かってるから」

「そうか……」

 繰り返しになるが何も分からない。何を言っているんだ守屋は。ただ、この写真が守屋の言う「他の相手とのデート」を撮ったものだということは分かった。……つまり守屋は、むつみさんをストーキングしているということか?

「出会ったのは、3年前です」

「む」

 急に話が元に戻る。守屋に少し待ってくれと断って、ドリンクバーで緑茶を淹れて戻る。その際、

「例の……記事にできなかったネタ、覚えてますか?」

「ああ」

「その時に知り合ったんです。ていうか、あの時は記事を書くことができなくて本当にすみませんでした」

 突然の謝罪。守屋の中では俺との対話はいったいどういう形で進んでいるのだろう。いいんだ、気にするな、と半ば機械的に応じながら、守屋の姿を今一度頭のてっぺんから確認する。切りっぱなしの黒髪。ストライプのバンドカラーシャツ。だがこのシャツは量販品だ、ひと目で分かる。脱いで手元に置いてあるコーデュロイのジャケットは正反対に値の張りそうな品で、思うにこれはむつみさんの趣味なのではないだろうか。

「それで──編集長」

「うん」

「ごめんなさい、俺、編集長の気持ちに応えることはできません」

「……うん?」

 守屋の目は真剣だった。俺はそれなりに混乱していたが、次第に状況がクリアになりつつもあった。おそらく、守屋は、

「俺にはむつみさんがいるから、編集長とはお付き合いできません。セックスだけならできるけど……とにかく3年ぶりにご連絡くださったのに、本当にすみません」

 自分とむつみさんを、混同しているのではないか?

「ああ……それはいいよ、別に」

「許してくれるんですか!? 編集長を誘惑した俺を!?」

 すごい大声だな、ふつうに恥ずかしい。あと別に入店からこれまでのやり取りの中で一瞬たりとも誘惑はされていない。

 代々木と社長に報告すべき内容はだいたい組み上がった。そろそろ解散すべきかと思ったところで、ひとつだけ確認したいことが浮かんだ。

「守屋、社長の忘年会の日の話だが」

「ああ、はい」

「なんで麹町にいたんだ? むつみさんとデートだったのか?」

 瞬間。

 地雷を踏み抜いたと気付いた。気付いたけれど、もう遅かった。

 ギリギリと奥歯を噛み締めた守屋が、こめかみに血管を浮かせてこちらを睨んでくる。まずい。これはやばい。

「編集長……あんたもむつみさんを狙ってるのか!?」

「は?」

「そうなんだろ!? あの日……クリスマス……俺はわざわざむつみさんに会いに麹町に行ったのに!!」

 職場じゃないのか。むつみさんの住居が麹町なのか。

「あのビッチ、またあいつと腕組んで歩いてやがった! ちくしょう! 俺の顔見て、守屋くんも誰かとデート? なんて言いやがって……!!」

 店中に響き渡る大声を、俺は止めることができなかった。店内にいるすべての人間からの刺すような視線を感じる。居た堪れない。守屋は未だ喚き続けている。


 週末、1月7日金曜日。俺と代々木と社長の3人は、パーテーションで区切られただけの社長室の中にいた。我々カストリ部には巨大出版社からだだっ広いワンフロアが与えられていたが個室はなく、外部からの客との打ち合わせ用に仕方なくこしらえたのがこの簡易社長室というわけだ。

 各フロアに併設されている台所で作った七草粥を社長、いや千羽が来客用テーブルの上に置き、来客用ソファに腰を下ろした俺と代々木はそれを遠慮なくいただく。これは俺たち3人の年明けの儀式のようなものだ。

「やべーね守屋亮」

 口火を切るのは常に代々木の役目である。俺が録音した守屋との会話の一部始終を聞いた上での、素直かつ新鮮な感想だった。

「こんなヤバ子じゃなかったイメージなんだけどなぁ……恋でおかしくなっちゃった感じなのかね?」

「恋、恋っていうのかなぁ……」

 音声だけ聴くとそういう感想になるのかもしれない。だが、数日前に守屋亮と対面でやり取りをした俺としては、『恋』の一言で片付けるにはあまりにも物騒な感情が渦巻いているように思えてならなかった。

「むつみさんってこのひとかな」

「お!」

 千羽が差し出すタブレットに代々木が飛び付く。そこには『新進気鋭の靴職人、伊勢睦いせ・むつみのすべて』という記事が表示されていた。大手新聞社のデジタルコラムだったため念の為記者の名を確認したが、守屋とは違う名前の人間が書いた記事であった。

「写真」

 千羽の人差し指がタブレットの画面を軽く叩く。そこにはあの日見せられた守屋のスマホに写っていたのと、おそらく同じ男がカメラに向かって柔らかく微笑んでいた。

「盗撮の盗撮をするなんて、やるねー景ちゃん。編集長とはいえさすが現役!」

「うるせえ、俺だってやりたくなかったっつの。でもこれ……同一人物だな」

 むつみさん。伊勢睦さん。守屋があそこまで執着する美貌のアンドロギュノス。

 いったい何者なんだ?

「ボツった記事……、だっけ」

 自分の分の七草粥をほとんど飲むように食べ切った千羽がぼそりと言った。俺と代々木は弾かれたように顔を上げ、視線を交わし、それから立ったまままで七草粥を食べ終えた千羽を見上げる。

「関係者ってこと、かな」

「……可能性は」

 代々木が応じ、今度はちらりと俺を見る。分かってる。追うか? の顔だ。

 俺の心はもう決まっていた。

「追わない。記事として採用できる内容だったら、3年前に守屋が持ち帰ってきてたはずだ。だからもう、この人には関わらない」

「よい判断」

 千羽がつぶやく。

「守屋くんのことは残念だけど……どうしようもないし、ね。たぶん。おれらじゃ」

 あのあと。大騒ぎする守屋をどうにかサイゼリヤから連れ出したものの(会計は俺持ち、経費で落ちた)、彼は店の前の路上でも執拗に俺に絡み続けた。あろうことかこちらの胸ぐらを掴んで「あんたもむつみさんとセックスしたんだろう!?」などと喚いた上に軽く殴られるまでしたので、仕方なく警察を呼んだのだ。その後については良く知らない。連絡先も消してしまった。

「ま、景ちゃんほんとお疲れ。これで厄落とし完了ってことで、俺らは俺らでやっていきましょ!」

「景、おつかれ。おれも気になるネタ、幾つか仕入れてきたよ」

 髭面の代々木に頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、日本人形みたいな顔の千羽に『気になるネタ』がプリントされた紙の束を差し出されて俺の2022年は本格的に始まった。我ら令和のカストリ誌、今年も元気に悪趣味なネタを追い続けるだけである。

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