ボッチは出された料理を必ず完食させる
河南の依頼と向き合った翌日の放課後。
「……本当にあのままで良かったのかしら?河南さんの依頼」
読書を中断して藤村が先日の課題について掘り返した来たので返事していく。
「まあまだ課題を達成したことにはならないだろうけど、良いんじゃないか?本人が納得してるなら」
料理を一丁一憂にパンとこなせたらその人は天才の何者以外でも無いからな。
それにいつだって決定権を持ってるのは自分自身であって他人ではない。
自分1人で挑戦したがってるのなら、指導者として見守るに徹するのが吉だろう。
「私はスキルを磨ける余地があるのなら、とことんまで鍛え抜くのが1番だと思うの。最終的にも自分で撒いた種は必ず未来の自分に利益を
俺もそれには納得だな。何事においてもそうだが、この能力至上主義な社会において有能である人間の方が何かと有利になるのが今の人間社会の普遍のルールだ。
仕事が出来れば位の高い役職に就けるし、売る能力がずば抜けていたらどこでどんな仕事をしていても貧困な未来に苛まれる可能性は限りなく低いだろう。
特に生活スキルをカンスト近い状態まで備わっていればいつ、自分のことをお世話している保護者が突然居なくなっても自分が困る要素を少しでも減らせるものだ。
──俺のお母さんのようにな。
「確かに努力は自分を裏切らないからな。正しい方法で取り組んでいれば勝手に結果がついて来るものだ……それでも外側からの要因で夢が潰させる場合もあるんだよ」
「えっ?」
無意識に感情が乗せられた声で言ったせいで藤村が少し驚いて振り返ったようだ。
はあ、いかんいかん。全く、落ち着けよ俺。
それはもう過去の出来事だ。今の俺にはもう、関係がない。
「ぁ〜努力して夢が叶わなくとも、自分が頑張った事実は残るから本人がそれに満足さえしていれば、慰めにもなるからそれで良いんじゃないか?」
そんなんじゃいつまで経っても前に進めないから、あまり自分の人生に組み込みたくは無い思想だけどな。過去の栄光に縋ったところでそれは死を意味するだけだ。
「心にも無いことを言うのね。それにただの自己満足でしょ、それは。甘えにすがろうなんて考えも気持ち悪い。流石ボウフラと言ったところかしら」
ほら妙に聡いんすよこの人、すぐに俺の嘘が見抜かれてしまう。まあ俺自身も嘘は嫌いだからもうこんな事を言うのは辞めとくか。
それ抜きにしても俺の虫呼ばわりは余計だろ、どんだけそれ好きなんだよお前は。
「自分の人生を生きてることに自己満足以外の意味なんてあるのか?」
「大有りでしょ。そんな思想に染まってるから世の中には他人を蹴落とそうとしたり、人の利益を横から掻っ攫ってしまうような輩が
「それは流石に自己満足とエゴイズムの意味を履き違えてるんじゃないか?」
「そんなことないでしょ。だってそれじゃあ──」
彼女を遮る形で扉が叩かれてしまう。
『タンタンタンっ、ガラガラ』
「ハーァイ!」
そう甲高い声を発して入室して来たのは河南だった。
「……何か用かしら?」
藤村が若干引いてるのも無理もないな、こんな放課後にその挨拶はちょとキツい。
「えっ、なに、私、あまり歓迎されてないの……?もしかしてアヤミン……私のこと……ウザいって思ってたりするの……?」
不安そうに縮こまってる姿も一々可愛いんだなコイツ。
「好きでも無いけれど……強いて言えば肌が合わないかしら」
「オブラートに包んでても気持ちモロに伝わって来るからねッ!?」
はい出ました〜河南のフグ顔だ。
まあその気持ちもわからなくもないぞ藤村よ。
このテンションで機能してるような人間とはなかなか苦手意識が拭えないものだ。
「それで今日はどうして来たのかしら?」
「うん実は、」
そう言いながら藤村の前まで歩いて机の上にプラスチック容器を置く河南だった。
「この間のお礼って感じかな?パスタを作って来たんだ、えへへっ」
「2日連続で過多な間食を取るのはちょっと──」
「私知らなかったよ!料理ってやってみたら案外楽しいものだよねっ。今度はお母さんの代わりに夕飯を作れるようになれたら良いなっ。あ、それでアヤミン、良かったらたまにで良いから一緒に昼ご飯食べないっ?」
まるでパズルゲームみたいで料理って奥深いから、俺も初日はあんな感じだっけ。
俺は忙しいお父さんに代わって料理をやらざるを得なかったから始めたのであってそこんところのモチベは大分違ったけど、次第にやりがいを感じてしまったのだ。
「いえ結構よ、私は1人で過ごすのが好きだからこうしてるんだし、あなたは友達が沢山居るでしょうから、彼女たちと時間を割いた方が有意義よ。それとアヤミンって呼び方が馴れ馴れし過ぎ──」
「それでさーアヤミンっ!私放課後とかも暇だから手伝いでも遊びに来るからねっ」
何というかとても微笑ましい絵面が出来上がってるな。
よく考えもせず河波に『周りに遠慮するな』って言ったツケが回って来たようだ。
「いや、その、河南さん──」
「あはは。もう素直じゃないんだから、気負う必要ないよ私がそうしたいだけだし」
一方的だろうけど積もる話もあるだろうし俺は例の絶景スポットにでも行こうか。
「ラップ待って〜!」
廊下に出たところでそう呼ばれたので振り返ると、俺の目前まで走ってきた。
ていうかその前にこいつは走ったらその大きな2つの球が揺れるんだと言う事を自覚した方が良いと思うんだが。
「はい、これっ!」
「ぁっ。なんだ、俺の分もあったんだな」
「当たり前じゃん!美味しいパスタを食べさせて貰えたし、私が作ったパスタも……最後まで食べてくれたんだし……」
顔を少し赤らめながら髪をくるくると巻きながら照れ臭そうに言う河南だった。
なんだこの可愛い生き物は。この光景を独占してもバチが当たらないだろうな?
「だから私はラップに凄く感謝してるんだよっ?だからほんのお礼の気持ちだけど受け取ってよね、容器はまた今度返してくれれば良いんだから……イヒヒっ」
「そっか、ありがとう」
「どういたしまして。それと私、ボランティア部に入ることにしたからラップもこれからよろしくねっ!」
照れ臭そうだが全力でにかーっと笑う河南はやはり可愛かった、流石高嶺の花だ。
それだけ言うとピューっと部室に戻って言ってしまったから、俺も行くことに。
そうか……俺が誘う形にならなかったが、これはこれでめでたしめでたしだな。
今日からボランティア部は普段よりも騒がしくなって行きそうだ。とはいえ。
「さて、有難く頂きますか」
例の絶景スポットへ到着したので早速河南の贈り物を開けることにした。
「……今度こそ俺死なないだろうな?」
そこにはなんと蕎麦屋で良く見かけるようなぶっとい麺と、所々に焦げた部分が出ているトマトソースのスパゲッティだった。
あいつまたちゃんと沸かしてない状態でパスタを入れただろ、そのせいでなかなか茹で上がらずにパスタの麺が無駄に水分を取り込んでしまってるな絶対そうだなッ!
それに早速新たな挑戦をしたのは結構なことだが、このトマトソースも絶対に煮詰め過ぎたせいで焦げたんだろうな。これは絶対に苦いやつだろうな……クーっ!
──だが確かに愛情が注ぎ込まれているだろうことは伝わった。
そうじゃなきゃわざわざ下手クソだがハート型に切り取られたチーズを入れたりはしないもんな。
ほんっと……不器用というか何というか。
けど感謝を込めたお礼に作ったのなら、それを頂かないのは無作法というものだ。
ああもう、良いから口の中に放り込むぞッ!
フォークで麺を巻くと、覚悟を決めて食べた。
パクっ。
「んぐぅぅッ……っ!?『ムシャムシャ、ゴクリっ』……っはぁ……」
やっぱり不味いなこれ。
そう文句を垂れながらも頑張って今回も完食した。
【──あとがき──】
ここまで読んで下さり誠に有難うございました!
自分自身で書いていても某作品の丸パクリでオリジナリティのクソもなかったので、
もうお遊びはここまでにしようと決めました。
ここでこの作品は完結とさせて頂きます。
新作品を連載し始めたのでその宣伝をさせて頂きます!
https://kakuyomu.jp/works/16816927859703181429
読者の皆様へ、ここでこの作品を完結とさせて頂きます。
純愛をベースとした学園ラブコメ✖️ブレイクダンスものを執筆し始めたので是非後一読なされて下さい!
やっぱり現実なんてロクなもんじゃない。 知足湧生 @tomotari0919
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