二巡目
さるかに合戦
「さるどん、さるどん、自分ばかり食べてないでわしにも柿をとってくれ」
蟹の抗議に対して、猿は自分が責められていると感じ、瞬時に腹を立てました。柿を取ってやると言っているのに、まるで自分がそれを忘れて、食欲の赴くままに柿を貪る不誠実なけだものであるように誘導する悪意ある物言いに我慢がなりませんでした。命のリスクを負い、高い樹上に上がった自分が、柿を少しくらい食べてから仕事をしたって罰は当たらないはずだ、と猿は思いました。
「よし、そんならこれをやる」
猿は一番硬くて青い柿を思いっきり、蟹に投げつけました。
柿は蟹の脳天に直撃し、甲羅を割り、蟹は即座に絶命しました。
しかし、蟹は既に産卵を終えていました。腹にくっついていた卵は、母親の絶命の瞬間、一斉に孵りました。
蟹の子らは瞬時に自分たちのやるべきことを悟りました。蟹の子らは母体を足場として兄弟が直列に並び一本の搭の様な形に集合すると、塔の先端で母を殺した柿を空中でとらえ、しなりをつけて放り投げました。
猿は蟹に自分の投げた柿が直撃した瞬間、歓喜と興奮により失禁していましたが、次の瞬間自分めがけて飛んでくる青柿に混乱し、恐怖により再度失禁しました。しかし、柿のスピードは猿の動体視力にとってはスローモーションのようなものでしたので、猿は楽々と避けることができました。
猿は避けながら、状況を理解して落ち着きを取り戻し、蟹の子供たちの必死の反撃が水泡に帰す(蟹だけに)ことの憐憫と興奮によりさらに失禁しました。
ですが、塔と共に崩れ行く蟹の子らは、笑っていました。無茶をしたことで柔らかい甲羅が捻じ曲がり、中には砕けたものもいましたが、全員が笑っていました。
「予定通り」
猿の側を通りぬけた青柿はその先にあった蜂の巣を打ち抜きました。とたんに大量の兵隊蜂が周囲に猿の側に出現します。
「うッ!」
当然のように猿を蜂に取り込まれ、猿は痛みと恐怖のために枝から落下しました。
落下した先には、周囲の栗の木から落ちた栗のいがが散らばっており、猿は全身を強打するとともにいがの針に全身を貫かれました。
悶える猿がようやく目を開けた時、信じられないものを見ました。
いつの間にか柿の木にとりついた蟹の子らが、太い柿の木の幹をハサミで切り落とそうとしていました。まだ柔らかいハサミがつぶれても次の子が木を削ります。斜めに切り取られた木がずるりとすべり、そのまま猿の上にまっすぐ落ち、猿の腹を押しつぶしました。
蟹の子らは猿の上の木をハサミで臼に加工し、それに馬のフンを入れ、同じく柿の木から削りだした杵を用いて、餅のようにつきました。あたりに飛び散った馬のフンの匂いの中、猿は絶命し、蟹の子らはそれを確認したのちに、死んでしまった兄弟たちを母と共に葬り、その場を去りました。
やがて、猿と馬のフンを肥料として、そこにはまた柿の木が生えてきました。
それからまた、長い時が過ぎたころ、森の向こうから蟹と猿が話をしながらやってきました。
昔話ステアウェイ・トゥ・ヘブン 朝飯抜太郎 @sabimura
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