年明けこそ鬼笑う
雨宮r
年明けこそ鬼笑う
来年の話をすると鬼が笑うなんてことはよく言ったものだ。うちの鬼たちも例外ではないみたいだ。来年の話をすると、
「そんなことを話している暇があるのなら、目の前のことを考えろ~」
と笑われる。それもかなり苦笑い気味にだ。
確かに僕らの組織では目の前のことに必死になっていないとやっていけない。一寸先は闇。その言葉はこの仕事のためにあるんじゃないかとすら思えてくる。そんな僕が来年のことを話しているのは彼の目にもおかしく映ったんだろう。
僕らの仕事は十二月に多く依頼が来る。年の瀬だから整理をしておきたい人も多いのだろう。大掃除、ではないが。逆に一月にはぱったりと依頼者が減る。やり損ねた人たちがポツポツと現れる程度だ。
今年も例年に漏れず依頼者が多い。僕は事務仕事が基本のため現場に出ることは少ない。だがやはりこの時期は気が滅入る。普段から滅入るような仕事がこの時期にはたくさん押し寄せてくるからだ。
この仕事における備品の発注は細心の注意を払わないといけない。ルートの確立をきちんとしておかないと予算だけではない困った問題が生じることになる。先ほども言ったように12月には依頼が増えるため備品の不足に陥りやすい。そろそろ12月だけでも別ルートでの備品の補充法を確立しておく必要がある気がする。不測の事態はミスのもとになりかねない。
12月31日本日最後の仕事を終え鬼の彼が事務所へと帰ってきた。すでにカウントダウンが始まろうとしていた。…ブラックだって????そうはいってもねぇ。業務内容からして……。まあいいや。
「年越しそば作ってますけどニシンにします?天ぷらにします?」
「おお~。いい匂いがすると思ったらそれか。ニシンでお願いできるか?」
「わかりました」
すでに下味をつけて煮ておいたニシンを盛り付けて完成だ。自分は余った天ぷらを盛り付けておく。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
ゴーン
除夜の鐘が鳴る中僕らはそばをすする。鬼の彼も温かいお蕎麦を食べることで顔が綻ぶ。いい笑顔だ。おそばを作って待っていた甲斐があるというものだ。
年が明けた。
「ふう。それじゃあ帰るか。1月いっぱいは休めるな。」
うちの会社は殺人請負会社。2月から12月の末日まで年中無休で殺人の依頼を受けている会社。″殺人鬼″と呼ばれる先輩は年明けこそ笑うのだ。
年明けこそ鬼笑う 雨宮r @amemiyar
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