生まれし魔物
次の瞬間、鋭い衝撃が全身を貫き、リビラはかっと目を見開いた。次いで刺すような痛みが全身に走り、
やがてレイクの手がリビラの中から引き抜かれた。雪の結晶のような形をした、青い水晶がその手の中に浮かんでいる。それはリビラの魔力の源であり、魔術師にとっては生命線とも言えるものだった。
だがリビラの目を奪ったのは、それを包むレイクの右手だった。鋭く長い爪に、血管の浮いた
「レイク……あんた、何を……」
リビラに言えたのはそこまでだった。魔力を失った彼女の身体はもはや抜け殻も同然で、リビラはその場に膝を突くと、力なく木の床に倒れ込んだ。レイクは感情のこもらない目でその姿を見下ろした。
「お姉ちゃん……!」
不意に玄関の方から声がして、次いで何か硬いものが落ちる音がした。レイクが振り返ると、ロッドを取り落としたシリカが、
「おや、もう帰ってきたのか」レイクが眉を上げた。
「邪魔者がいない間に事を済ませてしまいたかったんだが……まぁいい。君がいようがいまいが、僕にとっては大した問題ではないからな」
シリカはレイクの方に視線を移した。そこでようやく、彼の白衣の下から見える黒い手と、そこに浮かぶ水晶の存在に気づいた。
「どういうこと……? 何が起こってるの?」シリカが
「簡単なことだ。僕はリビラの魔力を頂いた。彼女の
レイクが病名でも告げるように淡々と言った。だが、それを聞いてもシリカにはまるで理解できなかった。
「先生が、水晶魔術師……? どういうことですか!? レイク先生はお医者さんでしょう? どうして魔力なんて欲しがるんですか!?」
レイクはすぐには答えなかった。水晶を手に浮かべたままシリカを見つめた後、
「……君もおめでたい子だな、シリカ。僕が本気で医師などという地位に甘んじているとでも思ったのか?
僕は本来、水晶魔術師になるために生まれてきた身。だが、何らかの手違いにより魔力は授けられず、やむなく別の道を選択した。
しかし、僕は今こうして魔力を手に入れた。わかるか? 僕は自分のあるべき姿を取り戻したんだよ」
「そんな……!」
シリカは絶句した。あの優しいレイク先生が、恋人を無残にも足元に転がして、
だが、シリカのそんな儚い希望は、次のレイクの一言で打ち砕かれることになった。
「せっかくの機会だ。君には、僕の力を試す実験台となってもらおう」
レイクはそう言って水晶を自分の胸に当てると、それを体内に吸い込ませた。次いで台所で煮え立っているポットの方に手をやり、静かに目を閉じる。この光景は、まさか――。
「……
レイクが
湯は矢のように床に降り注ぎ、床に落ちたと思いきや急速に冷気を発する
「氷結召喚!? どうして……!?」シリカが悲鳴混じりに叫んだ。
「言っただろう? 僕はリビラに代わって水晶魔術師となった。氷結召喚が使えるのは当然だ」
レイクが平然と言った。シリカは床に手を突き、絶望的な思いで氷の蛇を見つめた。
こんなことがあっていいのか。姉の恋人であった男が、姉から奪った魔力を
シリカは指先に力を込めると、表情を引き締めて立ち上がった。ロッドを構え、蛇をまっすぐに睨みつける。蛇は挑発するかのように舌をちらつかせながら、じりじりとシリカの方ににじり寄ってくる。
シリカは間合いを取りながら、必死に一角獣の姿をイメージした。お願い、力を貸して。今ここでレイクを倒さなければ、お姉ちゃんの力が奪われちゃう――。
「……
シリカがかっと目を見開いて叫んだ瞬間、ぱあんと音を立てて水道管が破裂し、中から勢いよく水が噴出した。水はランプの灯りを受けながら、床に落ちる間もなく空中で何かの形を生成していく。一角獣よりも随分と小さい。氷の翼に
「ぴいっ!」
「え?」
シリカは呆気に取られてその生き物を見つめた。シリカの目の前に現れたのは、シリカの手のひらほどしかない羽を懸命にばたつかせ、つぶらな瞳で自分を見つめる、何とも可愛らしい小鳥だった。
「こ、これ……私が呼んだの……?」
「ぴいっ!」
小鳥が
「……君には似合いの魔物だな。さて、他に出せるものがないなら、僕はそろそろ失礼させてもらおう」
レイクは小鳥を
「あ……待って!」
「ぴいっ!」
シリカが声を上げたと同時に小鳥がレイクのところに飛んでいった。だが、レイクは小鳥をあっさりと手で払い除け、勢い余って小鳥は床に
「もう……何やってるの!」
シリカは苛立ったように叫ぶと、急いでレイクの後を追おうとした。だが、いつの間にか前に回り込んでいた蛇がシリカの前に立ち塞がった。
あっと声を上げたのも束の間、蛇はシリカに向かって奇声を上げると、首筋に思いきり噛みついた。ひやりとした牙から鋭い痛みが走る。
シリカは苦痛に顔を歪め、ロッドを取り落として床に
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