水波返照

Lemon

プロローグ

『いやぁ、私の前世はつまらないものだった』


それ以外の言葉で私の前世を表すには、どう表したらいいのか、私にはわかりません。


唯一、皆さんが私のことを羨ましいと思うのであれば、私の家が海のすぐ近くの崖の上に立っており、いつだって水平線を見つめることができる所だったことくらいでしょう。

ま。津波が来たら即死ですけど。


確か、最後の日、空には無数のカモメが飛び交い、隣接した公園では小さな子供たちが楽しそうな顔で、きゃっきゃとはしゃいでいました。

こういう風景を、世の人は最高のシチュエーションと呼ぶのでしょう?

だけど、私はこの風景を最悪とも最高とも思いませんでした。


何故かって?

先ほど申したではありませんか。

私の住処はこの海のすぐ近くの崖の上ですよ。


だから、海に飛び込みたいなと思えばすぐに飛び込みに行ける距離です。


窓を飛び込み台にすれば、ちょいと時間はかかりますが、飛び込むことはできます。

だから窓から海に飛び込んだだけのこと。

そりゃあ崖の上から飛び込んだら死にますよね。


わかってますよ。


でも私は、あまりにも日常がつまらなくて、というか、辛くて、気づいたら窓を飛び込み台にしていたのです。

気づいたら、海が私の体を包んでいました。


私は、正直言って清々していました。


海の中には……子供を放置して我関せずの非道な母親も、アル中なうえパチンカスの身勝手極まりない父親も……誰もいない。


そして群青色の海に包まれている間に、私は思ったのです。



自分は、死ぬために生まれてきたのだ、と。



だって、そう思っても仕方がないとは思いませんか?


両親はご飯を与えてくれないと思えば、学校の書類だって見ちゃあくれない。

金だって全部趣味につぎ込んでしまう。


どうせ、二人はどっかの卑猥なお店で出会って、欲のまま、なるようになって生まれたのが私なんでしょ?

あいつらが楽しみたいのは、私がどう生きていくかじゃなくて、そっちなんでしょ?

だったら勝手に二人でやっててくれよって話ですよ。

そこに私を巻き込まないでいただきたい。


いや、私以外の方が巻き込まれる方がダメです。

私に弟や妹ができたら、物心つく前に、この世間が言ってることは綺麗事だけで、本当に救ってはくれないということを知る前に、私のように不幸になる前に、首を捻って殺してあげるでしょう。


私だって、どうせこうやって一人で生ゴミや苔を貪って行き伸びるんなら、そうして欲しかったなと後悔しているからです。



そう考えていくと、私は生きるために生まれたんじゃない。

じゃあ何のために生まれたの?



死ぬためですよ。



「へぇ……嬢ちゃんも面白いこと言うじゃねェか!」

「酒の勢いとはいえ、そこまで言うには一端の度胸が必要だぜ?」

「ありがとうございます」


私、涼風すずかぜ紗夜香さやかは、今、2度目の人生を謳歌しています。


なぜか、最後の日、群青の海に包まれて、意識がなくなった後……


「おい女ァ、お前どこから流れてきたんだァ? ん?」


私は、気づいたら海賊船に仰向けの状態で乗っていたのです。


聞きたいですか?

今に至るまでの話。


じゃあ語ってあげましょう。

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水波返照 Lemon @remno414

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