9
無事にユミコの寝顔鑑賞会を開催して、後ろ髪を引かれながらも交代の時間だ。
深夜にリビング雑貨系の精鋭を連れて配置に付く。
「では、オレ達二人で潜入します。狩り損ねてしまったり不意に現れた奴らはお願いしますね」
「了解!」
背中を任せるのは時計やガラステーブル、ネックレスやピアスを引き連れた陶器のアクセサリーボックスだ。
大切にされている度合いは高い。剣術も魔術も軽く使いこなす、頼れる仲間達だ。
そしてオレのパートナーはユミコが高校の美術の時間に作った粘土の置物。粘土は作られた時にユミコが夢中だったアニメの、白い九尾の狐の人間体の顔に寄せている。
顔を見る度に懐かしい、九尾の狐が物語上で斬られた時はユミコまで死んでしまいそうなぐらい泣いていた。
「ペンペン、なんか久しぶりじゃん」
「そうなりますかね?」
話しながらバスルームの天井から屋根裏へ。
害虫駆除業者が入ったからか、いきなりご対面とはならなかった。
細かく仕切られた板の陰、そこかしこから不穏な気配はビリビリ感じる。
「最近いっつもリモコンとツルんでるから入り辛いよ」
「そんなの気にするアナタでは無いでしょう、逆ではないですか? 最近いつも花瓶とツルんで……」
「ちょっと待って! なんで知ってるの?!」
「なんでと言われましても、視界に入りますからね」
左右に分かれ、タイミングを合わせて挟み撃ち。小さいのが数匹、茶バネか。
粘土が砂の風を巻いて硬い羽根を粉々に砕いている。ならオレも片手を向ける、氷を混ぜた竜巻で茶バネを粉砕。
近くの通気孔から外へ、待ち構えている仲間達が近くの下水に流してくれる手筈だ。
「いや、あの、成り行きで触ったら良かったみたいな」
「……別に何も言ってませんが? 何を触ったら良かったんですか?」
「あら、こんばんは! もうこんな所までいらして? 流石ですわ」
斜め後ろか、振り向く。
そこには黒髪を後ろで束ねた赤い
「こんばんは、圧力鍋さんでしたか。ここで出会うという事は、そちら側は
「覚えていて下さったの、嬉しいわ。こちらは昼間の組が良い働きをしたようで、
ところで、と息もつかせずオレと粘土の間に入ってくる圧力鍋、やはり圧力が違う、圧力とは。
「ナニをお触りになったら宜しかったのかしら?」
「いや、それは」
「さて? オレも今それを聞こうとしていた所です」
グイグイ押してくる圧力鍋、ユミコの実家の匂いがする、いや、お母さんの手料理の匂いだ。
圧力鍋のパートナー、オタマも合流した。
二人と話しながら退治を進める。
なんとなく女性的な圧力鍋とオタマを後ろに、細かい奴らを消していく。リモコンがあの姿で帰って来ていた、大物はあらかた狩られた後だろう。
料理教室の講師をやっている40代半ばの持ち主は、若い頃からBLマンガにハマり、持ち物達も自然と傾倒していったと。
そうなんですか、とニッコリ頷きながら、BLとは何ぞやと粘土にコッソリ尋ねる。
「ボーイズラブ、BL、え、マジで?」
「ああなるほど、男同士で愛し合うという?」
「なんで知らないの?」
「なんでと言われても、縁がありませんからね」
「え、マジで?」
「え?」
圧力鍋とオタマとの会話を粘土に任せ、聞き耳を立てる。なるほど、粘土が慌てているように見えたのは花瓶とそうなっていたからか。
そしてオレとリモコンもBLの世界の住人かと思われていたのか。
それは無いだろう。リモコンは相棒だ。
「とっても綺麗なお顔立ちよね、お宅の皆様」
「ありがとうございます。家主がヴィジュアル系とアニメが好きなもので」
「羨ましいわ、ウチは未だに紙の薄い本が主流よ。ホント、羨ましいわ?」
「宜しければ、この騒ぎがおさま……」
「そうね! この騒ぎが収まる頃に交流会の様な集まりでも如何かしら?」
「そうで……」
「決まり! 楽しみね、せっかくお知り合いになれたのですから、ね?!」
「ええ、はい」
オレが押し切られてしまった。粘土とオタマがクスクスしている。
なるほど、こういう類いの人に巻かれるのも面白くなるかも知れない。それに交流会というのも悪くは無いだろう。いざという時に役に立ちそうだ。
外が白んで来る頃には更に距離も縮まり、圧力鍋のシンプルで強力な圧縮する術に圧倒され、オタマの残骸処理能力も目の当たりにした。
この二人は敵にしたくない、これは強い。
良い土産話が出来たなと朝日に目を細める。
オレ以外の雑貨達の交代の時間だ。連絡を粘土に任せ、圧力鍋とオタマとも
今日はもう見回りぐらいで済みそうだな、ほぼ全滅しただろう。明日からは通常営業だ。
……土産話? リモコンへの土産になるのか。
特別と言えば特別だ、でもBLではない。ないと思う。そんなに気持ち良いのか?
いや、ナシだな。
つづく、かも知れない。
アナタがいない、その部屋で もと @motoguru_maya
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