第41話 0K

 マグマガントレットとの再戦は、俺が有利にことを進めている。


 奴と拮抗するように攻撃を同時に繰り出せば、――ッ、俺の拳が轟き。


 奴との読み合いにおいても、数多のモンスターの能力を吸収して来た俺が勝る。


 しかし、それでも奴を倒せない。


 マグマガントレットは能力で勝っている俺と延々に剣戟を交わしていた。


 復活の魔法でこの世に甦ったばかりだからか、運動神経が徐々に鈍くなって来た。

 奴のステータスを上乗せしても、奴の息の根を止めるに至らないのは苦痛だ。


「……どうした、その程度だったのか?」


 一度間合いを取るとマグマガントレットは見損じたような台詞をほざき始める。


「シレト、同じ角持ちであるお前だからこそ、獲らせたいものがある」

「獲らせたいもの?」

「マリア――この戦争の結果のいかんにしろ、彼女の命だけは取らないでおこう」

「……ここで彼女の名前を引き合いに出すなよ」


 彼女は、次の瞬間には処刑されている可能性だってある。

 そんなタイミングで、先ほどのシナリオを翻意するようなこと言いやがって。


 マグマガントレットの駆け引きだったりするのだろうか?


 奴の言葉を怪訝けげんに思っていると、再び奴は剣を構える。


「しかし、やり辛い」

「……――」


 奴の構えに呼応するように、俺も構えると、次の一手が繰り出される。

 俺達の戦いはまるでかかり稽古のようだった。


 打てば鳴り、受ければ響き、奴との一手一手に神経が削られる。


 マグマガントレットはその戦闘を、やり辛いと評した。


 俺は致命傷こそ与えられないものの、奴の外皮である黒い甲冑を確実に削いで行っている。胴部は最初に穴を空けた胸部を中心に亀裂が走り、右肩と左脇原部分は欠損して奴の赤い肌が見えていた。


 最も損傷が激しいのが右腕部分で、奴は俺の攻撃を右腕で庇う悪癖があるからか、赤い肌が剥き出しだった。


「絶命秘技・大火千鳥」


 マグマガントレットはその傷を押してなお、奴のユニークスキルである『熱誘導』を使って一面の空に紅蓮の鳥を召喚していたが、奴の力を吸収した俺には通用しないとハッタリを掛けるよう周囲にいた紅蓮の鳥を一つにまとめ、火炎球に仕立て上げて見せた。


「お前のユニークスキルは俺の手中にあるんだよ」


 そう言うと、口癖のようにマグマガントレットは嗤い声をあげる。


「面白い力だ」


 刹那――奴は火炎剣を持って俺に肉薄した。

 それは奴の渾身の踏み込み、今までとは違った奴の想いが乗った間合い取りで。


 今にして思えば、古来から伝わる七大角獣の一角を担う黒曜の剣士に、奥の手が存在しないのか? 脳裏を駆け巡った俺の嫌な予感を気取ったのか、奴はこれまで消していた殺気を再び放ち、今まで左手に構えていた一刀流の剣技を捨て去るように右手を振りかざし、白く輝く火炎剣とは違った真っ黒な剣を握っていた。


「絶命秘技・絶対零度」


 奴の右手に握られていた剣が振り下ろされると、後方に下がり様の俺の足元が凍りつき、地面から氷柱が迸るほど一帯から温度が消え去った。


 意識が、保てない……!

 全身に危機感が駆け巡り、逸物は縮こまった。


「……シレト、この勝負、私が獲らせて頂く」


 マグマガントレットは凍り付いた俺に再度歩み寄ると、左手に構えていた火炎剣をよりいっそう燃焼させる。白く輝く火炎剣の周囲は熱量で歪み切っていた。蜃気楼を起こし、ありもしない場所に奴の虚像が浮かびあがる。


 そして奴は両手で火炎剣を天上に向けて伸ばすよう構え。


「愉しかったぞ……――――ッ!」


 凍り付いている俺に向けて、剣を振り下ろした。


 これで終わり、と思うとそれまで張り詰めていた緊張が急になくなり。

 俺自身、復讐という名の汚れた感情から解放される気がして。


 安堵から、眠たくなった。


 別にいいじゃないか、例え復讐の使命を持っていても、途中で投げ出したって。

 胸中では後悔よりも、自分の最期を讃えるある種の赦しを唱えていた。


「シレト、私を抱くまで死ぬことは許さんからなァ!」


 しかし、マグマガントレットの一太刀は目前で止められていた。

 よくよく見ると左目にマリアの姉のライオネルが映った。


 窮地を救ってくれたのか? 男漁りにしか興味のないようなビッチが? 信じられないが、現実を見れば、ライオネルの魔法剣はマグマガントレットの火炎剣を受け止めていた。


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魂だけになった俺のチートスキル『吸収』がモンスターの力を取り込み、俺を追い出したSランククラスに裁きの鉄槌をくだします。 サカイヌツク @minimum

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