最終話「別れ、そして……」
「おはよう、
「おはよう、
あれから数日。
俺とチカちゃんは、ただの幼馴染に戻った。
あの日。
『魔王』を封印すると、チカちゃんも一緒に消えてしまった。
彼女はどうなってしまったのか。
気にはなったけれどそれどころじゃなかった。
『
ラフィーを手伝って全ての人を元通りに【
そこからは大騒ぎだったみたいだけど、俺たちはトンズラさせてもらった。
事情を聞かれても答えようがないからだ。
あの茶碗と刀は、ラフィーが持っている。
「普通の人間が持つべきものじゃないのよ。井野口さんみたいに、その『魔力』に
そう言って。
それから、俺たち三人はアパートに帰った。
そして、眠った。
学校をサボって、三人で川の字になって。泥のように眠った。
疲れ切っていたんだ。
数時間後。
不思議なことに、三人とも同時に目が覚めて。
笑いがこぼれた。
俺たち三人の最後の時間は、今日までの日々を思えば信じられないくらい穏やかなものだった。
ちなみに、俺の『幸運』は『777』まで戻った。
平均よりも多いらしい。
「これまで苦労した分、これからは幸せに生きろってことよ!」
ラフィーが笑っていた。
その、数十分後。
「それじゃあ、私たちは帰るわね」
遅めの昼食を食べて食器を洗い終わったところで、ラフィーが唐突に言った。
「そんな急に……」
「茶碗を神殿に持って帰って、完全に『魔王』を消す方法がないか調べてもらおうと思うの」
「なるほど」
「ここにあると、いつまた人間の欲を嗅ぎつけるか分からないから。急ぐべきだわ」
「そっか」
俺が気のない返事をしていると思ったのだろう。
ラフィーの眉間に
「『魔王』は封印したけど、消えたわけじゃないのよ! わかってるの?」
「わかってるよ」
「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」
「そんな顔って……」
今度はリアンが俺の顔を
「寂しいのか?」
「……」
なんとも答えようがなかった。
寂しくないのかと言われれば、答えは『いいえ』だ。
二人と別れるのは寂しい。
だけど、それを口に出してしまえるほど、俺は素直じゃない。
「……私は、寂しいわよ」
ラフィーが言った。
少し、声が震えている。
<
(……なんだよ)
<ヘタレのまんまで終わるつもりか? ラフィー
(……だからって、俺たちは一緒にはいられない。そうだろ?)
<それでも、や>
(それでも?)
<ちゃあんと、伝えた方がええ。そういうもんや>
(……うん)
「ラフィー」
名前を呼ぶと、青い瞳が俺を見上げた。
寂しい。恋しい。愛しい。
そう訴えかけてくるようだった。
「俺も寂しい。本当は、ずっと一緒にいたい」
「うん」
リアンが、静かに玄関の外に出ていく姿が見えた。
気を遣わせちゃったな。
(ありがとう)
心の中でリアンに礼を言いながら、俺はラフィーを抱きしめた。
「また会えるのか?」
「わかんない」
「……俺は会いたい」
「私もよ」
「会いにきてくれ。俺は【
「ユーキがどうしてもって言うなら、来てあげないこともないわよ!」
「じゃあ、どうしても」
──ぎゅ。
ラフィーを抱きしめる腕に、力を込めた。
「会いにきてくれ、必ず……!」
「わかった、約束する」
それ以上は、何も言えなかった。
ただ、お互いの温もりを分け合って。
ただ、お互いが『ここにいる』ってことを確かめ合った。
「それじゃあ、またね!」
俺の腕を振り切るようにして、ラフィーは駆け出した。
といっても、せまいアパートの中のことだ。
数歩で玄関まで辿り着いた。
「大好きよ、ユーキ」
その言葉だけを残して、ラフィーは行ってしまった。
──ドタッ。
そのまま、リビングに大の字になった。
この部屋で一人っきりになるのは、久しぶりだ。
(ちゃんと、言えなかった)
好きだ、って。
情けない。
(……『
『このヘタレ!』って飛んでくるはずの関西弁が聞こえない。
(そっか。ラフィーがこの世界からいなくなったから)
『
(ちゃんと、さよなら言えばよかった)
俺は、そのまま再び眠った。
寂しさを紛らわせるために、ひたすら眠ったんだ。
とはいえ。
俺は真面目な勤労苦学生だ。
次の日には、ちゃんと登校した。
そしたら、チカちゃんがいた。
「おはよう!」
何も覚えていなかった。
『魔王』を復活させたことも。
俺に好きだと言ってくれたことも。
ほんの少しだけ、胸がチクリと痛んだけど。
これでよかったと思う。
俺たちは幼馴染で。
俺はチカちゃんのことが好き
それでいいんだ。
──2年後。
「今日は転校生を紹介するぞ!」
朝のホームルームで、担任の
懐かしいな。
あの二人が転校してきた日のことを思い出す。
「ロシアから来たラフィーさんと、フランスから来たリアンさんだ」
そうそう。
こんな感じで、それから教室が騒がしくなってさ。
(って!!!! なんでだよ!!!!)
叫び出さなかった俺を褒めて欲しい。
<
(これが、落ち着いていられるかよ!)
<なんで?>
(なんでって! なんで急に転校してくるんだよ! 絶対に何か企んでるだろ!)
<ははは!>
(笑い事じゃねえ! って、『
<久しぶりやなぁ。こうして話すんは>
(話すのは、って)
<ワシは、ずぅっと一緒におったよ。主さんと>
(そっか……)
「席は、明智の隣が空いてるな」
なんで、俺の両隣に空いてる席があるんだよ。
不自然だろうが。
「よろしくね」
ニヤリと笑うロシア風美女。
「よろしくな」
ニヤリと笑うイケメン・パリジェンヌ。
「……よろしく」
俺が返事をすると、二人の表情が一変した。
可愛らしい、
だから、最初っからその顔してくれよ……!
魔王退治に巻き込まれた不幸体質の俺と、性悪聖女と悪魔の子。
俺たち三人の、新たな冒険が始まる。
そんな予感がした──。
完
==========
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
初めての現代ファンタジー、しかも異能バトル(?)ものでした。
楽しんでいただけたでしょうか?
私は楽しかったです!
ちょっとでも面白いなあと思っていただけましたら!
感想を頂けますと嬉しいです!
また、★評価をいただけますと幸いです!
↓↓↓↓↓
不幸体質の俺、魔王退治に巻き込まれる〜おのれ性悪聖女と悪魔の子(♀)、可愛いからって なんでも許されると思うなよ!〜 鈴木 桜 @Sakurahogehoge
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