第34話「最終決戦!全てをかけて、魔王を封印せよ!」


「ラフィーさん!」


 【MODモッド】を使って脚力を上げて、一気に学校まで駆ける。

 ちょうど校門を出てきたラフィーさんと行き合った。


「リアン!」


 元通りだ。

 青い瞳が、ちゃんと僕を見ている。


 ──ぎゅ。


 思わず、その体を抱きしめた。


「ごめんね。もう大丈夫よ」


 温かい。

 生きてる……!


「行こう。ユーキが待ってるんでしょ?」


「……はい!」


 ラフィーさんを抱え上げて、すぐさま駆け出した。


「状況を教えて」


「はい」


 数キロ向こう、岐阜駅の上空には黒いかたまりが浮かんでいて。

 そこから溢れたよどんだ空気が、岐阜の街を包んでいる。


 人の気配は、ない。


 この空気の中では、普通の人は意識を保つことすら難しいだろう。

 それほど、重いプレッシャーだ。


「走りながら説明します」


「うん。急ごう」


 少しでも気を抜けば、『魔王』のプレッシャーで足がにぶる。 

 それでも、急がなければ。

 仲間明智が、待っている。






 * * *






 ──ガキンッ!


 何度目かは、もう分からない。

 それほど多くの斬撃を打ち込んだが、その全てが防がれている。

 黒いかたまりから現れる爪やら鎌やらに弾き返されてしまうのだ。


<きっついな。けど、これを繰り返すしかあらへん>


 『聖剣ハルバッハ』の言う通りだ。

 俺が攻撃を続ける限り、『魔王』もそれに対応せざるを得ない。


(俺が攻撃の手を止めれば、『魔王』はすぐにでも周辺の人に襲いかかるだろう)


 そして、『幸運』を吸い尽くす。


<けど、おかしいなぁ>


「何が?」


 ──ガキンッ!


 『聖剣ハルバッハ』と話す間も、攻撃の手を止めない。

 だけど、確かにおかしい。


<あっちから攻撃してこぉへんな>


 さっきから『魔王』は俺の攻撃を防ぐだけで、反撃してくる素振りすらないのだ。


 その理由が、俺にはわかる。


「……チカちゃんだ」


<え?>


「『魔王』の中に、まだチカちゃんがいるんだ」


<せやけど、チカちゃんは『魔王』が支配する世界を望んでるんやろ? それでああなったんと違うんか?>


「そうだけど、そうじゃない」


 かつて織田信長がそうだったように。


「女心は、複雑なんだよ」


<はっはぁ! 童貞のくせに、よう言うなぁ!>


「童貞言うな!」


<けどまあ、言いたいことはわかるで。うん。せやんな。人間って、そういう単純なもんやないよな>


 ──ガキンッ! バキンッ!


 何十発目かの斬撃。

 それも跳ね返された。

 だけど……!


「折れた!」


 跳ね返してきた鎌の刃が、真っ二つに折れた。


<ええ感じや! 物力はどんどん削れとるで!>



 ──ピコン!


----------


魔王


 魔力:999

 物力:638


 幸運:0


----------



<ここで一発、スキルをお見舞いしたれ!>


「でも、ラフィーの『幸運』けっこう少ないぞ!?」


 俺がセーブしたのは、俺に【付与能力グランティド・スキル】を使った後のことだ。

 だから、ラフィーの幸運はかなり消費されていた。

 今は『307』だ。

 スキルを使って、大丈夫なのか?


<大丈夫や! ワシのステータス見てみぃ!>



 ──ピコン!


----------


聖剣ハルバッハ


 対魔攻撃:□□□□□

 対物攻撃:■■■■■


 幸運:999


----------



「『幸運』が、999!?」


<ラフィー姐さんは、大聖女。『神』に代わって、その意志を代行する者や>


「それが?」


<これが、『神』の意思っちゅうことや!>


「……やっぱり気に食わない。だったら、ずっと『999』を維持できるようにしとけばいいじゃん!」


<そこは、ほれ! バランスや!>


「そういうとこが気に食わないって言ってんだよ!」


<古今東西、『神』っちゅうんは、気まぐれなもんなんや!>


「なんだよ、もう!」


 やっぱり嫌いだ、『神』なんか!

 だけど、細かいことなんか気にしている場合じゃない。


 ──ザッ。


 一度、『魔王』から距離をとった。


「いくぞ、『聖剣ハルバッハ』!」


<いつでもええで!>



「【烈洸昇華ガーデール・レクタリス】!」



 叫ぶと同時に、『聖剣ハルバッハ』で宙を斬った。

 すると、切っ先が触れたところから白い光が迸る。


 白い光は渦になって、『魔王』の黒いモヤを巻き上げた。



<ギャー!!!!!!>



「魔王が!」


 初めて、苦しそうな叫び声を上げた。


「効いてるんだ!」


<せや! 魔力が『759』まで減ったで!>


「次!」


<今度は物力を削り倒せ!!>



「【天槌剣レクトラス】!」


 俺の叫びに応えて、脚に力がみなぎる。


 ──トントントン、タン!!


 助走は三歩。揃えた両足で思いっきり地面を蹴った。

 俺の体ははるか上空へ。

 魔王を見下ろす位置まで飛び上がる。


<くらえ! これが神の鉄槌てっついやぁ!>


 ──ザシュゥッ!!!!!!


 天から振り下ろされた『聖剣ハルバッハ』の白い刃が、『魔王』の身体を深く斬り裂いた。


<ギャー!!!!!!!!!!>



 ──ピコン!


----------


魔王


 魔力:684

 物力:437


 幸運:0


----------



<ええ感じや! やれるで!>



 ──ヴォン!


「え」


 ──ガキィィィン!!!


 『魔王』から、黒い斬撃が飛び出した。

 文字通り斬撃が黒い光になって、俺の方に飛んできたんだ。


「くぅ!!」


 すんでのところで剣の腹で受け止めたが、俺の体が吹っ飛ぶ。

 全身が痛い。


(ああ、これは折れたな。腕も脚も肋骨も)


 ──ヴォンッ! ヴォンッ! ヴォンッ!!


 再び黒い斬撃が放たれる

 今度は三発だ。


(だめだ、避けられない!)




「【聖なる鎖ホーリー・チェーン】!」




 白く輝く鎖が、斬撃を貫いた。

 斬撃はその場で止まって動かなくなる。




「ユーキ!!」


 ラフィーだ。

 生きてる。


(よかった……!)


「リアン! 魔王を!」


「はい!」


 リアンは素早くラフィーを下すと、すぐさま『魔王』に向かって行った。


「ひどい怪我ね」


「まあな」


「……まだまだ、訓練が足りなかったんじゃない?」


(こんな時にも憎まれ口か)


 でも、その方がラフィーらしい。


「ほら!」


 憎まれ口を叩きながらも、俺の腕を優しく引いてくれる。

 本当は俺のこと心配してるってこと、ちゃんとわかる。


「【回復ヒール】」


 優しい口づけと共に、優しい光が俺を包み込む。

 いつだってそうだ。


「大丈夫?」


 サファイヤみたいな青い瞳が、俺を見つめる。

 そこには、優しさが詰まってる。


 性悪だけど、そうじゃない。




 ──だから、愛おしい。




「……大丈夫だ」


「それじゃあ、さっさと行って!」


 ──バチン!


 思いっきり背中を叩かれた。


「いってえな!」


「なによ!」


「……なんでもないよ」


「もう! ずべこべ言ってないで、さっさとっちゃって!」


 だから、聖女が『る』とか言うなっての。


「わかってるよ!」


 いつも通りのラフィーに背中をられるようにして、俺は駆け出した。

 これでいい。


 俺たちは、これでいいんだ……!




「リアン!」


「畳み掛けるぞ! 『炎帝の剣エウリリス』!」


 ──ボウッ!


 リアンの右手の剣が、蒼い炎を燃え上がらせて応える。


「これで、最後だ!」


「おう!」


 俺も、もう一度『聖剣ハルバッハ』を強く握りしめる。


(頼むぞ)


<任せとけ!>





「【蒼炎煌々ミゼリット・ウォレイヴ】!」


「【烈洸昇華ガーデール・レクタリス】!」





 白い光と、蒼い炎。

 二つの光が一つになると、『魔王』よりも大きな光の玉になった。

 光の玉は魔王を包み込んで。




 そして、消えた。





「【封印シール】」




 静寂の中、ラフィーの声が響いた。




 ──ガランッ。




 後に残ったのは黒い茶碗。

 黒く、そして青く輝く宇宙。



 その宇宙の中に、『魔王』は再び封印された──。

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