帝国の花

海月夜(うみづきよ)

第1話 婚約破棄 (1)

「お前との婚約を破棄する!」

王宮の大広間に我が婚約者、レイス・アーケドゥの声が響いた。

ちらとレイスの後ろを見ると、桃色の髪をした男爵令嬢、ルディ・マイリーがいた。

やはり、私もか…。

ルディ嬢は、アーケドゥ王国で〔二番目〕と言われるほどの美貌の持ち主であり、ここ数ヶ月、王国の王子達を次々と虜にしている。

レイスは第三王子であり、兄弟のなかでも特出した剣の才能をもつ、《剣神の愛し子》だ。

「いいですよ?レイス様。私からも言わせていただきますが、貴方とはもう金輪際、会いたくありません。なので面会を拒絶し、国外に一族もろとも出ていきたいです」

「は?」

ザワザワと周囲がよどめく。

まあ、そうだろう。〈四大公爵家〉最後の一家、ルイス家が三家と『同様に』国外に出ていくのだから。

〈四大公爵家〉とは、最後まで王家を守るものであり、ルイス、カーミラ、アヒュード、カシュがあるが、他三家は全てこの、ボンクラ王子共に婚約破棄をされ、国外に一族もろとも出ていってるのだ。



今年の春の集会で集まった四家は、今の王家について話し合った。

「今の王家はクズだ。民も、その重税に苦しんでいる」

「もう、今の王家にこの国は任せられない」

「しかし、反乱は起こせないな」

「国王派には、私達よりも強大な貴族が溢れかえっているからなぁ」

四家が難しい顔をしていると、アヒュード家次期当主のエイザー・アヒュードがポツリと呟いた。

「男爵令嬢なんかにお熱なら、さっさと婚約破棄してほしいのに…」

「エイザー、それはどういうことだ?」

アヒュード家当主が問うと、エイザーはあきれ返った様子で妹の婚約者である、第一王子についての愚痴を言い始めた。

「ルディ嬢っていう男爵令嬢ごときにのぼせ上がっておりましてね。登下校も一緒に帰らず、ダンスパーティでは誘いもせず、贈り物のひとつも送りやしない。これのどこが婚約なんですかねっ!政略であっても、これぐらいはしないと失礼なのに…!」

「なのに、何故か婚約を破棄してくれない。理由は言うまでもないがな…」

「権力を保つためか。…では、一つ仕掛けてみては?」

カシュの声に全員が身を乗り出すと、カシュはイヤらしい顔で、とある計画について話した。

「いいな、その計画は!」

「それなら、私達が損することなく、この国を出られる!」



こうして、春の集会の後、少しずつではあったが、三家が婚約破棄をし、それぞれ別の国へと旅たった。

私は少し感動しながら、呆けているレイスと未だにどよめいている大広間をあとにした。
















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