繁忙期あるある
クリーニング店の繁忙期は三月下旬から六月上旬。ゴールデンウィークは一番の稼ぎ時です。普段は一時から出勤ですが、その時期だけ十時から十九時。
花粉症と闘いながら繁忙期を乗り越えてきたが、今年は身体が持つか不安なお年頃である。繁忙期の大変さを語っていいですか? いいですよね。
まずはお客様の一人当たりの点数が多いんです。衣替えの時期ですもの当然です。ここで四十代の女性が来店しました。どんな接客かご覧ください。
「いらっしゃいませ、こちらどうぞ。先に割引券もあればお出しください」
受付カウンターに大きな紙袋が三つ置かれます。コート、ダウンコートが出てきます。セーターやカーディガンが十着、スキーウェアーが二組。学生服、男性スーツ三着、ワンピース二着。ワイシャツ、ネクタイなどなど。
「お客様、ただいまダウンはセールでお安くなっています。スキーウェアーもそうですが、ガード加工しておかれますか? セーターも仕舞われるようでしたら、虫よけ加工がおすすめです」
普段の確認作業にプラスして、加工もバンバンおすすめします。半年以上着ないと分かっていれば『無料保管』のサービスもお伝えします。
無料保管として受け付けた洋服は、急いでクリーニングしないため、工場の混雑を防ぐ事が出来るからです。
「じゃあ、虫よけお願いね。ダウン類とセーターは無料保管でお願いします。学生服もガード加工しておいてくれるかしら」
「かしこまりました。ガード加工すると当日仕上げは出来ませんがいいですか?」
当日仕上げと三日後仕上げの確認もちゃんと取らないとあとで大変な事になります。お客様のご要望通り、洋服のレジ打ちが終わる頃、ご主人登場。
毛布三枚、ホットカーペット一枚を運んできます。まだあるんかい。後ろに並んでいるお客様の視線の冷たいこと。横入りではないんですけどね。
「お客様、全部で二万二千円です。現金で宜しいですか?」
「そんなにかかるの! じゃ、虫よけ加工やめるわ」
お願いですから空気読んで下さい。レジ打ちやり直しですけど。セーターの虫よけ加工キャンセルし、お金を頂きます。少し安くなったね、良かったね。棒読み。
「あっ、割引券こんな所にあったわ」
もう遅いです。次回お使い下さい。
「現金って言ったけど、PayPayに変更してくれるかしら」
勘弁して下さい。
こんな感じが一日中続きます。十時から二時間話し続けてやっと休憩。その間トイレにも行けず、水分も取れず……。花粉症の時期でも仕事の日は薬は飲まずに頑張ります。
一時間休憩後、今度は六時間ぶっ続けで働きます。もうトイレ行けない事分かっているから、食事や水分は控えめにしてきてます。お金貰ってダイエット。
午後はクリーニングした洋服が店に入ります。伝票と洋服の点数をチェック。工場は足の踏み場がないくらいになるので、紛失も避けられません。
セーラー服の上下はあるのにセーラータイが行方不明になる事がしばしば。洗ってる最中にタグが取れたらもうアウト。どれがどのお客様のものか分からなくなって、結局購入してお返しということもありました。
受付、タグ付け、コインランドリーの掃除、入荷チェック。受付、タグ付け。
もうヘロヘロになる繁忙期。みっ、水が飲みたい。脱水症状が出てきました。
口も回らなくなってきます。
「明日の六時に仕上がります」が「明日の六時に幸せになります」って夢のある予言語っています、私。
タグ付けに追われて気がつけば六時です。そう、疲れ切った身体で今度はお引き取りのお客様がご来店。
お預かり票には伝票番号しか書いてありません。ここでやってしまうのが、渡し間違い。繁忙期あるあるです。確認不足。気がついて持って来てくれるお客様はマジ神です。
やっと七時。閉店した。やっと終わった。しかし、裏にはクリーニングされた布団や毛布、絨毯、カーペットの山が。泣きたい。
全部チェックして、伝票を貼り、仕上がりの電話をしなくてはいけません。次の日にはまた入荷するんですもの。毎日が残業です。
疲れ切った身体でやり切った頃、電話が鳴りました。昼間来店したお客様からです。そう、あの虫よけ加工キャンセル、そしてPayPay変更の夫婦で来店したお客様です。
「ごめんなさい、さっき息子が帰って来て知ったんだけど、明後日、学校みたいなの。だから明日仕上げに変えて下さい。あと、無料保管で頼んだピンク色のセーターも明日に変更してくれるかしら。まだ着ようかなって思って。お願いね」
意識が飛んだ。白目をむく私。草木と○意が芽生える繁忙期です。
次回、お客様、常連さんあるあるです。乞うご期待!
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