コインランドリーあるある
「そんな物捨てたに決まってるでしょ! それに履いてないわよ!(怒)履こうとしたら、ここにシミがあったの。もう、お気に入りなのにどうしてくれるのよ。キレイにしてちょうだい!」
クレームおばさまは一気に捲し立てたあと、ため息をつきました。
(怒りのエネルギーって体力を使いますものね。お察し致します。お疲れ出ませんように!)クレーム対応はお客様の怒りが鎮まったあと、ここからが勝負です。私も深呼吸をして次の言葉を続けます。名付けて『気持ちに寄り添う戦略』です。
「お客様、お気に入りのスカートですものね、シミを見つけた時は驚いた事でしょうね」
「これね、娘夫婦からのプレゼントなのよ。去年の母の日に貰ったの」
「そうでしたか。大切なスカートなんですね。……一度お預かりして、もう一度シミ抜きさせて頂きます。取りきれるだけ頑張りますがお時間はどれくらい頂いて宜しいでしょうか?」
「そうね、なるだけ早くお願い。次の日曜日に友達とコンサートに行くの」
「かしこまりました。仕上がり次第、すぐご連絡致します」
クレーム対応時、受付スタッフが使ってはいけない言葉がある。必ずと弁償。新人アイドルのように「頑張ります!」って明るくハキハキとクレーム品を預かり、いつもより深くお辞儀をして受付は完了します。
元々クリーニングのお客様は綺麗好きで、物を大切にする人が多いのです。その事を念頭において、要望にお応えするように努力します。
受付スタッフはすぐ、要望書付きでクレーム品を工場に送ります。染み抜きのプロは自分のプライドにかけて、最善の方法で処理してくれるんです。
三日後、シミがちゃんと取れたスカートがお客様の手に戻りました。お客様はスソをお店で確認し、感嘆の声をあげ、笑顔でこう言ってくれました。
「キレイになって良かったわ。ありがとう。また出すからお願いね」
クレーム対応したお客様のほとんどがリピーターになってくれます。そして受付時の相互確認の話をしっかりと聞いてくれるようになります。
さっきのスカートですが、実は普通洗いでは落ちない事の了解を貰っていたことが分かりました。特殊シミ抜きを勧めたのですが、やらなくていいと断られたそうです。クレームおばさま、すっかり忘れていたんでしょうね。残念。
何はともあれ、円満解決でした。ホッ。
◉ ◉ ◉
コインランドリーあるある。ツッコミ多めです。
「お姉さん、ちょっと来てくれるかな。おーい、お姉さん」
受付カウンターで作業をしていると、私を呼ぶ声がする。どこ? 私をお姉さんって呼ぶ殿方はどこ? すぐに伺います! 喜んで!
コインランドリーの方からだった。私が勤めるクリーニング店は路面店舗で、コインランドリーが併設されています。
雨の日は、クリーニング店は暇でも、コインランドリーは忙しいのです。
「悪いけど、すぐ止めてくれないか、上と下と間違えた」
焦る殿方の視線の先は乾燥機。空っぽのまま虚しく回っています。
店舗には全部で四台のドラム式洗濯乾燥機と七台の乾燥機があります。この殿方、上の乾燥機に洗濯物を入れたのに、お金は下の乾燥機用に入れてしまったのでしょう。
「少々お待ち下さい。お客様、幾ら入れたでしょうか? ただ今、返金しますのでお待ちください」
(チッ。全くもう! 番号を確かめなさいよ!)私は軽く舌打ちして本部に電話します。本部が遠隔操作で一台一台を管理しているからです。
お客様の間違いなのに、返金システムっておかしいわよね、って思いながら百円玉を三つ渡す。大体のお客様は申し訳なさそうに受け取るから許すけどね。
「すまないね。今度はちゃんと入れたから。……んーと、いつ取りに来ればいいかな?」
(知らんがな! オッさん、そこは自己管理で宜しくお願いします)
「三十分後には仕上がってますね。ですから三時頃にはご来店お待ちしております」ひきつった笑顔で答える私。するとまた、私を呼ぶ声が後ろから聞こえます。
「ねえ、お金が入らないわ。どうしてかしら」
精算機の札入れ口に千円札を突っ込むおばさん。かなり奮闘したのであろう。お札の先がしわくちゃです。
「お客様、先に洗濯物を洗濯機に入れて、番号を確認し、コースを選んでからお金を入れて下さい」
ジュースの自動販売機じゃないんですよ。全くもう。私はタッチパネルの画面の案内を聞いてもらい、分かりやすく説明します。
「どっちのコースがいいかしら? あなた、どっちがいいと思う?」
(知らんがな。プレミアムの方が高いけどね、消臭します。お好きな方でどうぞ)
「プリペイドカード入れたのに、動かないし、カードも出てこないわ!」
「お客様、これは、メンバーズカードです。薄さも色も似ていますが、全く別のものですので、これからお気をつけください!」
(本部に怒られるの私なんですけど。取り出すまで使用出来ないんですから)
「すいません! 使いたいので中身出して下さい!」
「お待ち下さい。今出しますね」
先客の洗濯物を取り出す。パンツ、靴下、パンツ、パンツ、靴下。タオル、パンツ、パンツ、パンツ、パンツ。おーい、何枚入ってるねん。触りたくない。泣。
パンツばかりのお客様はその後三日間、取りに来ませんでした。そういうとこだぞ!
次回、繁忙期あるあるです。乞うご期待!
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