クレームあるある
「シミがちゃんと落ちてないんだけど、なんなのよこれ」
受付カウンターが壊れるかと思うほど、スカートをドンと置くお客様。先日引き取りに来られた七十代くらいの女性だ。かなりご立腹である。
「……失礼致します」私は恐る恐る、お客様の人差し指の先のシミをチェックする。ベージュのスカートのスソに直径一センチ大の茶色いシミが二つある。
(あら大変。かなり目立つシミだわ。怒るの無理ないね)そう思いながらも顔は平静を装う私。クレーム対応は感情を表してはいけないのです。冷静に事務的に迅速に、そして丁寧に対応しないと余計に怒りだすから。
まずやる事は、受付時に付けたクリーニングタグの有無を調べます。
───ない。タグが付いていない。やばい。少しめんどくさい。
タグが付いていないクレーム品に対しては慎重になります。一つずつ丁寧に質問していかなくてはいけません。
「お客様、こちらのスカートですが、タグはどうされたでしょうか? 引き取り後着用されたでしょうか?」
「そんな物捨てたに決まってるでしょ! それに履いてないわよ!(怒)履こうとしたら、ここにシミがあったの。もう、お気に入りなのにどうしてくれるのよ。キレイにしてちょうだい!」
お気に入りに力を込めたお怒りモードのお客様。
はい。クリーニング店のクレームあるあるです。第一位はシミ、次いでシワや二重線。そして縮み。こんな感じで持ち込まれるクレーム品。
「クリーニングに出したらセーターが縮んだ。伸ばして!」
「クリーニングに出したのにカビだらけ。お金を返して」
「出す前にはあったボタンがないんだけど、新しいの付けてよ」
「ワイシャツの襟が破れてる。シワもある。それでもプロか!」
「じゅうたんの端から糸が出てボロボロになっている。弁償しろ!」
こんな感じです。お客様が怒るのも理解出来ます。目に見えない洗濯というサービスにお金を払うんですもの。キレイになって返ってくると思うのが当然です。
しかし、勘違いされているお客様が多いのです。クリーニングはあくまで汚れを落とす仕事、お店で買った時と全く同じ状態になって戻るわけがありません。
洋服だって傷みます。何度も洗えば破れます。経年劣化は当たり前です。そこでクレームにならないために、受付スタッフがやらねばならない作業があります。
受付時にしっかりと洗濯表示タグを読む事です。見るだけではダメです。読み取るのです。例えば、水洗いは出来るのか。ドライ洗いだけなのか。生地は何なのか? 洋服に革は使われていないか? 毛皮の部分はないかなどなど。
生地の種類だって色々です。綿、シルク、アンゴラ、麻、ポリエステル、ウール、アクリル、レーヨン、カシミヤ、モヘア。またそれらの混合。
麻100%はどんなに頑張ってアイロンかけても細かいシワが残るんですよ。だから受付時に「こちらのシャツは麻100%ですのでシワが完全になくなりません」と言ってお客様に説明します。
カシミヤやシルク100%は普通の洗い方では縮みます。必ずトリートメント加工をおすすめし、それでも普通洗いでいいと言われたら「縮みます」の了解を頂きます。ほとんどのお客様はトリートメント加工してくれますが。
合成皮革があれば、「ひび割れ」の確認、Tシャツなどプリント部分が有れば「剥がれるかも」の了解をしっかり頂き、洋服を預かります。
衿元に付いている毛皮は専門店に出すので、フェイクファーか本物かを表示タグで確認します。毛皮だけ持ち込みの場合は触って、ラビットかラクーンかフォックスかを見極めます。金額が違うのでここ重要です。笑
そして、シミに関するクレームを防ぐために、全神経集中。シミがあれば、シミタグに書き込みます。何のシミか、いつ頃なのかを聞き、生地の種類を見て、普通洗いで落ちるか落ちないかを判断します。
小学生の体操服に付いた墨汁や絵の具は普通洗いの染み抜きでは落ちません。シルクのネクタイの食べこぼしシミも残ります。染毛剤、インク、黄変シミも料金をプラスで頂き、特殊シミ抜きに回します。この見極めが大変。
ボタンや飾りが無くなったというクレームを出さないために、前ボタンや袖ボタン全てをチェック。欠けているのも了解を頂きます。スパンコールなど一つでも取れかかっていたら、全部取れてしまうので、受付ない事もあります。
ワイシャツのスレ、セーターの虫穴、じゅうたんのホツレ。見逃したらクレームになる事間違いなし。
とにかくクレームを防ぐために、お客様との預かる時の確認作業は重要。
───お客様にお願いです。穴やスレ、ホツレを指摘されて不快な思いをされるかもしれません。受付時の確認時間が長いかもしれませんがご協力お願いいたします。さらに、お盆の時期に多い、着ようとしたら礼服がカビだらけクレームは、申し訳ございません。お客様宅のクローゼットなどカビが発生しやすい場所か確認してくださいませ。管理状態が関係しています。
クリーニング後、着用前にチェックし、何かご不満な点があれば、必ずタグをつけた状態でご来店下さい。
さて先ほどのお客様のクレーム対応はどうなったでしょうか?
次回に続きます。おまけとして、コインランドリーあるある教えちゃいますね。乞うご期待!
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