クリーニング店あるある
星都ハナス
検品あるある
今年で十五年目に入った。
近いから、時給がよかったからという理由だけで選んだパートタイムの仕事。
こんなに大変だとは思わなかった。いやこんなに喜怒哀楽を揺さぶられる職種とは思わなかった。なぜって? 聞きたいですか?
特別に教えちゃいましょう。そう、そこの貴方、今日もクリーニング屋さん利用しますか? 年に数回だけですか? 一生に一度でもいいんです。
お客様。大変失礼ですが、まずはお願いから申し上げます。
───ポケットの中身はちゃんと確認してから、預けてください。
「キャ、何これ? やばい。ぬちゃってしてる!」
「え? どうした?」
スタッフ仲間の一人が声をあげる。そうなんです。お客様から預かった全ての洋服のポケットに必ず手を突っ込まなくてはいけないんです。
ワイシャツ、ジャケット、ズボン、スカートもうありとあらゆるポケットです。
「アメだと思う。溶けてるよ。もう、手を洗ってくるね」プンスカしながら手洗いに行く時間がもったいない。こちとら忙しい。
「やばい、捨てちゃう所だった。もう、良かったよ、気づいて」
私は手を突っ込んだ瞬間、ティッシュだと判断してゴミ箱に放り投げようとした。しかし違和感を感じた。なんとなく厚い。ティッシュだけの柔らかさではない。何か必ず包まれている。
「ほらね、背広のポケットからこんなの出て来ました」ティッシュを少し広げて千円札を見せる。同じセットが二つある。
「きっと、さっきのお客様、突然おばあちゃんの家に訪問でもしたのね。七五三の着物出してたよね。ひ孫の晴れ姿を見せたくて。おばあちゃん、お祝いを用意してなくて……子どもたち一人千円ずつあげようとしたのね」
勝手に想像してほっこりしながら、お客様に電話する。千円以上は必ず電話しなくてはいけない。家で思い出す事もあるし、探し回る事もあるからだ。
私は現金発見率が高く、ワイシャツから一枚、背広から一枚、ズボンから一枚と一人のお客様から三万円ゲットした。いや、確認した。会員登録の携帯電話の番号が奥様だった。奥様はすぐ来店し、私のヘソクリにしちゃうわと喜んでいた。
お金だったからまだいい。キャバクラのお姉ちゃんの連絡先が書いてある名刺もあった。基本ゴミ以外は全て返却する。夫婦ケンカになろうとも知らんがな。
学生服からも色々出てくる。受験シーズンはお守りが多い。卒業シーズンはラブレター。見てないのよ、私。もう十五年の勘よ、勘。青春ねってニヤけるけど。
ここで、お客様に声を大にしてお願いしたい。それはね、貴方、マスクは必ず出して下さい。捨ててきてください。
不織布マスクは速攻ゴミ箱ですが、ウレタンマスクは返却しなくちゃいけないの。マスクは触りたくないのです。もう私の白魚の指が、アルコール消毒でふやけてきてるの。
クリーニング店では塗る手袋、クリームタイプで業務してるけど、もう私の白魚の指が毎日、毎日除菌剤で白子になってるの。心臓に毛、面の皮は厚いけど。
他にもね、いいかしら、言うわよ。家のカギ、イヤホン、健康保険証、クレジットカード。
蛇やゴキブリのおもちゃが出てきた時は私の叫び声で、クリーニング店がおばけ屋敷になったわ。入れ歯の時はもう地獄。ギョエーって変な声が出てしまった。
さあ、クリーニング店あるある。
検品あるあるでは、いきなりお願いからでごめんなさい。
次回はクレームあるある。乞うご期待!
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