シーン3-3:合同支部のミーティング
所変わって東京都某別支部。都内では大きな力を持つ部署にあたる。
N氏を支部長とするこの支部や、残存する各支部との合同作戦が始まろうとしていた。
「凄い、人がいっぱい」
「ゆるり、ぴしっとしとけ」
キョロキョロと見回すゆるりの姿勢を、焔が正した。
なんと形容したものか、顔にNと書かれている様にしか見えない中年の男性が、どうやらN支部長とのことらしい。
「何はともあれ、無事で何よりだ。門守支部長、そして君達もね」
表情はともかく、声から察するに朗らかな人物のようだ。
「はい、彼等のお陰です」
門守の頭を下げる様子に、「このおじさん誰だろう」と思いつつ、ゆるりは真似して頭を下げる。
続いて「どうも」と焔も首だけ軽くお辞儀し、叢太も「こんちは」と挨拶する。
さて、と門守は情報を報告する。
「件のUGN支部を壊滅させたであろう男の姿を視認しました。それらを元にもう一度、情報を集めてみようと思っています。許可をいただけますか? N支部長」
「勿論だ。我々も目的は同じ。喜んで力を貸そう」
引き締めつつ優しい声。相変わらずその顔は
情報を集めんと、全員がパソコンと向き合う。
と言っても、わかるのは外見的特徴とウロボロスシンドロームを持つこと、あとはUGNやFHへの破壊行為という事実のみ。
──これだけで何がわかるんだ……?
焔が手当り次第調べ回っていると、
「見つけた」
と後ろからゆるりの声がした。
「ほんとか? 鷹峰」
叢太も一緒に身を乗り出して画面を見ると、あの男の写真とともに、データが貼られていた。
名前:ヒュース・ドレイク
コードネーム:インペリアル
ワークス:UGNエージェント
年齢:29歳
ヨーロッパ支部を中心に活動していた正規エージェントである。
優秀な活動記録を残しており、これまでにも数々の困難な任務を遂行し成功に導いている。
任務遂行中は時に冷酷ともいえる決断や戦闘を行う事もあったが、普段の人柄は誠実かつ実直であり、人とオーヴァードの共存を目指すというUGN本来の理念に強い共感を示していた。
それらの事柄も相まってUGN本部から[インペリアル]のコードネームを与えられ、若手の中でも次期本部エージェントの最有力候補の一人として期待されていた。
「……凄いなゆるり。どうやって調べたんだ?」
「UGNのデータベースに赤緑の目 サングラス 金髪 相手の攻撃吸い取る UGN FH 破壊、で検索した」
「……」
なんというか、本当にどストレートに検索して出るもんだなと、ゆるりの柔軟さとUGNの検索エンジンに舌を巻いた。
「それにしても、なぜ、次期本部エージェントの候補である彼が……?」
「とりあえず、リヴァイアサンに報告してみよう。この状況で猫がUGNエージェントの名を運んでくるのは、きっと偶然ではない」
腕を組み考える門守の横でN支部長が日本支部の回線と繋げる。すぐにリヴァイアサン──霧谷雄吾がプロジェクターに現れた。
「なるほど、インペリアル……そちらがその情報に辿り着いたならば、此方で得た情報も真実の様ですね」
「どういうことです?」
焔が口を開く。
「インペリアルは、とある任務の後、彼はUGNから[ジャーム化]の可能性を示唆され、事実、検査の後、凍結処理の決定が下ったのです。しかし、彼はその直前にUGNから逃亡しました。何者なの手引きがあった、ともされております」
「な……」
「……」
焔は驚きのあまり口を開き、叢太は静かに話を聞いていた。
「……それは。本部の話で間違いないのですよね?」
門守も多少なりとも動揺しているらしい。
「ええ。UGN本部はこの情報をできる限り隠ぺいし、インペリアルの逃亡を赦した事による本部の威光、権限への影響を 重く見て、内々で処理を行おうしていたようです。そして既にインペリアルが東京都内に潜伏しているという情報を入手し、確保という名目の上で本部直轄のエージェントを派遣しようという動きも見られています」
「……」
きな臭くなってきた。率直な気持ちはそうだったが、焔にとって、強い意志とジャームを持った者のジャーム化は衝撃的だった。
「……実力もあって誠実なすごいやつがジャーム化ってだけで一気に人生変わっちまってわけか……なんか複雑だな……」
ボソと小声で口にしたのを、叢太は聞き逃さなかった。
「……オレ達にとっても他人事じゃ済まされない話だな……」
便乗してきたのには少し意外だったが、……例えどんな事情、経緯があったとしても我々は彼を放置するわけにはいかない。チルドレンとしての気持ちは、そうあるべきだと分かってはいた、が。
「大丈夫か? 輝橙」
どうやらモヤモヤした気持ちは顔に出ていたらしい。それでも、焔は答える。
「お、おう。どんな事情があるにせよ、向こうがその気な以上、もっと犠牲を出す前に止めないといけないしな」
「……あぁ、その意気だぜ」
サムズアップをくれたので、なんとなくサムズアップで返した。なぜかゆるりも真似してきた。
「でも、ヨーロッパのひとなんだよね? なんで東京に?」
ゆるりの問いに、霧谷が返す。
「これに対しては、この機に日本支部への干渉をより強化する狙いもあるのではとの意見も上がっていますが…いずれにせよ、私の意向としては、東京で暮らす人々、そしてオーヴァード達が危険に晒されている以上、早急にインペリアルの凶行を止めなければなら ないと考えています」
「とにかく、居場所がわかっている以上、インペリアルによる被害の拡大と彼の逃亡を防ぐ必要がありますね」
門守の言葉に、霧谷も頷く。
「各支部に連絡し、都内全域に監視網を敷きます。皆さんも引き続きインペリアルを行方を追って下さい」
そうして、霧谷との通信は終わった。日本支部支部長との連絡に、息をつく者もいる。一方で叢太は飄々としていた。
「なんか、余裕そうだな」
「そうか? まあ、オレはイリーガルだからな。身構える必要はないってことだ」
余裕そうな態度に、少し羨ましいと焔は思った。
──が。
「支部長、出雲支部長から通信が届いています」
「む、繋いでくれたまえ」
叢太の余裕な表情は一変、だんだんと青白くなっていった。
「色々、難儀な事になっている様だな」
銀の髪に厳しそうな片目の傷が目立つ、白衣を着た威厳ある老人が画面に映し出された。
叢太は完全に顔面蒼白だった。
「どうした」
さっきまでの余裕な表情とのギャップに、焔は横目で見ながらこそこそと聞いた。
「……今回の依頼主でオレにとっちゃ戦い方を叩き込まれた教官なんだわ……」
横腹を抑えながら、叢太は小声で答えた。
「あぁ……それでそんな嫌そうな表情になるわけか……」
意外な反応に苦笑いした。そしてなんとなく、チルドレン教育施設の教官を思い出した。
「……お前もあの人にだけは関わらねぇ方がいいぜ……」
辟易としながら画面からできるだけ目を逸らしていた。
まさか、後日焔もこの人物にしごかれることになることになるとは夢にも思わなかったが……それは別の話である。
「出雲師範」
子どもたちのやり取りをよそに、門守は気をつけで画面ごしに対面する。どうやら彼女も彼の教え子らしい。
「今は俺も支部長だ。内側の厄介事は霧谷が何とかするとして、インペリアルの件やれそうか?」
「同胞達に多数の犠牲が出ている以上、このまま捨て置く事等出来ませんよ。それに、UGNにどのような事情や思惑があろうと、日常と非日常の境界、そして、そこに生きる者達を護る事こそが[私自身の使命]だと思っていますから」
そして、ひと息。
「解決してみせます、必ず」
門守羊子は断言した。
「……」
その強い言葉に、憧れのような眼差しを、ゆるりは向けた。
「その両親譲りの生真面目さはチルドレンの頃から変わらんな。まぁ、それだけの気概があるならいいだろう。そこにいる、阿呆も引き続きこき使ってやるといい。癖はあるが腕はそれなりに立っただろう」
阿呆と呼ばれた叢太は、青ざめて引きつっている。
「……ふふ、えぇ彼にも、そして彼等にも助けられましたよ。お心遣いありがとうございます。出雲支部長」
「礼はいらんさ……それじゃあな、吉報を待ってるぞ」
悪態をつきつつ、出雲支部長は回線を切った。
先のリヴァイアサンとの通信以上に溜息をつく叢太に、 (よっぽどトラウマなんだなぁ)と同情の気持ちになる焔だった。
◆
今後は指揮系統の一本化の為、門守は一時的に支部等補佐というポジションとなった。
また残存した二つの担当支部のうち一つをFHの動向の監視に、もう一つを門守支部と一時的に併合しインペリアル対策に当たる。
「インペリアルとの交戦によって、その力の性質はある程度判明しました。その名の通りオーヴァードとしての力は非常に強力で危険です。生半可な実力のエージェントでは先の支部の二の舞になるだけでしょう」
門守の言葉に、その場にいる者が静かに頷く。
「彼の力に立ち向かえるのは、私のウロボロスの性質そして、インペリアルの猛攻にも屈さなかった、この三人の力だと考えます」
嫌味なく称えるでもなく、事実として焔、叢太、ゆるりが推薦される。
「今後、インペリアルを発見した場合は、私も前線に赴くつもりです。よろしいでしょうか、支部長」
一支部長としてではなく、戦力として赴かんとする決意に、
「わかった、現場の指揮は頼む、ゲートガード」
N支部長は頷いた。
「ありがとうございます。では一度、休息をとりましょう。 支部員が貴方達に部屋を用意してくれたわ。今後に備えて、少しでも休んでちょうだい」
「ひとりべや?」
「鷹峰さんは私と相部屋になるわね」
「ヨーコといっしょ! やった!」
無邪気にはしゃぐゆるり。一方で、
「輝橙君と狩谷君が相部屋になるけれど、それでいいかしら?」
門守は疲弊した焔と叢太に問う。
「了解です……。あー…一気にいろいろあったから疲れたな…。休んでる場合じゃねぇけど…」
「……何でもいいわ。一度思考整理したいしな…」
特に叢太の疲弊は輪をかけていた。
「さっきので疲れすぎだろ…」
「いや、マジでつれぇわ…」
溜息をつく叢太をみて、何かを思ったのだろう。焔はポケットを探って大きな飴玉を取り出す。
「食う?」
レモン味らしい。糖分摂取は疲れにきく、ということだろうか。
「……お前、いい奴だな」
疲弊しつつも笑って、叢太は受け取った。
「ホムラ、わたしも!」
「ん」
ゆるりにはイチゴ味の飴玉が渡された。
そんな子どもたちの様子に支部長たちも、
「こんな状況だが、彼等を観ていると却って頼もしさを感じるな」
「ふふ。えぇ、そうかもしれませんね」
と微笑ましく見守っていた。
「あ…すみません」
謝りつつ飴を舐める焔。
「サーセンっした」
飴を噛み砕いている叢太。
「おいひい」
飴をコロコロ舐めているゆるり。
三者三様だが、このチームなら
ダブルクロス3rd Edition「IMPERIAL」小説風リプレイ〜輝橙焔の場合〜 影西トワ @y0enishi0gogo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダブルクロス3rd Edition「IMPERIAL」小説風リプレイ〜輝橙焔の場合〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます