143 その28 ~遠い地からの侵略 その16~
丸い黒曜石「ラウンド・オブシディアン」こと「シディ」は、敵国からは「黒い饅頭」或いは「腐った饅頭」と揶揄されており、突如として現れた敵国「ミラシア大陸」から送り込まれた死臭を撒き散らす悪魔と呼ばれているらしい(そんな事実は無い)
それは兎も角、砂漠に隣接するとある町に向かって侵攻しているとの報を受け急遽集められた各地の軍が再編されている最中、移動要塞は急遽進行方向を変えた…町へと直行する進路へと。
慌てた集結中の即席迎撃軍の上層部が声が届かないとわかっていても最大音量でがなり立てる…何度かの警告の後、気付いた移動要塞があろうことか速度を上げるという事態に、最早何をいっても無駄だと打ちのめされる我々を更に絶望のどん底へと叩き落す…最早どんなに急いでも間に合わない。
救う神はこの地上に居ないのだろうか?…
━━━━━━━━━━━━━━
- 舞い降りる堕天使?…いえ、
「残り10km程です。ジャンプの助走で速度を上げますか?」
だいぶ板について来たゴーレム娘のオペレーターが訊いて来る。10km程100ノット(=185.2km/h)でかっ飛ばせば助走にはいいか?
「じゃあ、推進ジェット全開でよ…」
とそこまで喋った途端、
ずどぉぉんんんっっっ・・・!
と、轟音と振動が響く。
びーっ!びーっ!びーっ!
〈
そして続け様に
ずがーんっ!
ごがーんっ!
どごぉーんっ!
と、連続で移動要塞「シディ」に重攻撃が届き、轟音と振動が響く…
「くっ…一体何がっ!?」
「攻撃は上空から打ち下ろされている模様!」
「遠くの敵国?の軍からっ!?」
「違っ…あっちはまだ20kmの彼方で攻撃の
「じゃあ誰が…」
ごぎゃああんんっっ!!
きゃあああ!…と悲鳴が艦橋内を…まぁ叫んでるのはゴーレム娘だけだが(例の新人ぽい)
「沈まれ…じゃない、静まれ」
レムが脳内誤変換をしたのか、少々頬を赤らめていい直す。ちょっとだけ可愛いかも…と思ってみてたら睨まれた…解せぬ。
『シャーリー、敵の正体は?』
『ちょっと待って…あ、やべ…シスターズ退避して!!』
念話に悲鳴が混ざる。シスターズの1体に攻撃が掠ったのだろうか…落とされてはないようだが腕の1本くらいは持ってかれたかのような悲鳴を上げている。
『大丈夫か?』
『うん、ちょっと片足持ってかれたみたいだけど…まぁ大丈夫だと思う』
片足て…まぁ、それだと飛ぶには支障が出るから引っ込ませた方がいいだろう…と思っていたらマスターの手元に片足が欠損しているシスターズが居た。どうやら召喚して呼び寄せたらしい…傍には心配そうなシスターズが浮いていた。
「これで善し…ご苦労様」
「いいえ!…その、直して頂いて有難う御座います!」
「いやこれくらいはね…」
「シャーリー」
「あ、うん…」
メインスクリーンに記憶の映像が表示される。
「…竜騎兵?」
「みたいだね…」
「今どうなってる?」
「砲撃隊で下から迎撃してるけど…」
「…素早過ぎて当たらないって所か」
「あ、うん…」
映像が消え、砲撃隊からの念話映像に切り替わる…が、余りに素早い動きで追い切れてないようだ。
「仕方ない」
ザックは念じる。
「効果範囲は外に出ている味方全員」
かちん
「引き上げるは…動体視力と器用、そして敏捷」
かち…ん
「与えよ!…
ぢぢ…ぽう…
『『『え?…なに…』』』
『『『急に…これ!?』』』
『『『イケる…マスターありがとう!』』』
通常の身体強化は僅かづつ全体的な身体能力の強化を数分だけ増強するだけだ。だが、今回は砲撃に必要そうな要素…敵を追いかけられる動体視力、射撃を器用に行える器用さ、そして敵から攻撃を回避できるよう敏捷…その3つのみを強化した。他のパラメータは据え置きにして上昇率を上げた訳だ。
持続時間は…
(5分ももてばいいだろう…それ以上続くとなれば…)
町に突っ込み兼ねない。
「はぁ…敵は何考えてんだろうね?…一発で沈めなければそもそも町の防衛はできないだろうし、モタモタしてたら突っ込むだけなのに…」
もし、爆弾を積んでいるのかも知れないという想像が働かないんだろうか?…積んじゃいないけど、もし満載してた場合、目視で見える範囲まで町に接近させた時点で終わりだ。それだけの規模の衝撃や爆炎を防ぐ障壁を張ることができる魔法使いとかいれば別なんだろうけど…
そういえば…
「なぁ…こっちの大陸の人間って、魔導具は使ってるみたいだけど…魔法とか魔術を使ってる奴って…居たか?」
艦橋内を見回すが…誰1人として首肯していない。
「…剣1本で突っ込んで来たバカと、拡声器で怒鳴ってたおっさん、それと竜に乗って暴れてる竜騎士しか見てないけど、魔法を使ってる感じは無かったと思う」
レムが思い出しながらそう証言する。つまり…
「まだ見てないだけかも知れないけど…ひょっとして、魔法を扱える人間が…居ない?」
現に今…外で暴れている竜騎士も魔法を扱っている感じは…しない。
そして…どんどん接近している町からも…殆ど魔力の波動は感じない。つまり?
「この新大陸って…魔法を直に扱える人間が居ないか…殆ど居ないってことか…?」
だが魔導具らしいモノは利用している…
「どうにも中途半端な文明の形をしているようですわね?」
ナルがそう締め括った時には、既に町の外壁が見え始めて来たのだった…
- 新大陸サイド -
「ええーっ!?…今から止めろって?…無理無理…あんだけでっかい饅頭をかよっ!?」
「ふんっ!…そんなことをいっていいのかね…借金があるのだろう?…それに」
「知っているのだよ?…君の家族があの町に住んでいるのはね?」
「ちっ…」
騎乗したドラゴン…色はシディと同じ黒…に乗った彼女は通信の魔導具を介して直属ではないが上の人間から脅されていた。
「ずっと待機しろっていわれた上で今更それって…命令するなら間に合う時にしてくれよ…他の連中は定期巡回の仕事だって殆ど帰還しちまった後なんだぞ?」
彼女は王都…ではなく、この大陸の別の敵国との国境近くの砦に配備されている
「ふんっ!…ならばさっさと足止めに出れば良かったのではないか?」
「あのなぁっ!」
命令が無ければ勝手に出られない。無暗に突っ込んで国から貸与されている貴重な騎竜を失ってしまっては一家揃って罰せられることは火を見るより明らかだ…だからこそ、焦れる気を何とか抑えつけていたというのに…
「いいからさっさと行け!…いいか?あの腐れ饅頭を止めるまで戻ってはならんぞ?」
プルプルと震える腕を何とか抑えつけ…彼女は騎竜に命じる。
〈きゅる?〉
「…大丈夫よ?シャッセ…それよりも…急ぎましょ」
〈きゅる!〉
ずぱあっ!
…と地上から唯の羽ばたき1つで上空へと…瞬間移動したかと思う程の速度で急上昇を果たす騎竜「シャッセ」…黒い鱗を持つ小型のドラゴン種はワイバーン種に比べると最大速度は劣るものの、瞬発力と上昇能力、長距離を渡る体力、そして攻撃力は比較するのもバカバカしい程に高い。まだ子供といえるシャッセは後10年もすれば雄々しい成竜として華々しい活躍が期待されている…
「ごめんね…今回はちょっと無理させちゃうかも知れない…」
〈きゅ…きゅるる?〉
問題無いよ…僕が頑張ればいいだけだし?
そう答えてくれたような気がして、彼女はシャッセの首を撫でて応える。そして…あっというまに黒い饅頭と揶揄されている巨大な黒が迫っていた。
「シャッセ!…
〈きゅるる!!〉
黒いドラゴンの口から
パリパリ…
と電撃が弾け、幾つかの短めの電撃でできた槍を生成する。そして少しだけ溜めてから放たれる!
そして…
ずがーんっ!
ごがーんっ!
どごぉーんっ!
そのような轟音を立てて着弾するのだが…全く応えた感じがしないのだった…
「何、これ…全然効いて、ないっ!?」
シャッセはすぐに急降下爆撃…ではなく、急降下爪撃を加えるが…
ごぎゃああんんっっ!!
と派手な轟音を立てるが…過ぎ去った黒の表面は爪撃の跡なぞ付いておらず…
「何なのっ…この黒饅頭はぁ~っ!?」
と怒鳴り散らすが、答える者は居なかった…(轟音がうるさ過ぎて近くに居ても聞こえないともいうw)
━━━━━━━━━━━━━━━
ザック「予想の範囲内!(キラーン☆)」
レム 「でも一方的に攻撃を受け続けるのは…」
マロン「空を飛んでなければ出るのに…」
モンブ「マロン…無理して怪我すると」
マロン「う…」
モンブ「怒りますよ?」
マロン「わかった…わかったから!?」
ザック「あ~…痴話喧嘩なら他でやってくれ」
マ&モ「痴話喧嘩じゃない(です)!」
レ&ナ「息ぴったりねぇ~…(呆れ)」
備考:最早夫婦といっていいかもw
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