142 その27 ~遠い地からの侵略 その15~

【レムの報告書】

新大陸側から急襲を受け、撃退した

脳筋の蛮族男が居たので斃そうとしたらドサマギで逃げた

戦闘後、敵の死体を回収した。面倒だけど素材やマスターの食材だから仕方が無い

全部終わった後、お風呂に入り、食事(魔力カプセルの配給)を受け取った

今日も添い寝はシャーリーなのかなぁ…ずるい。偶には私とも寝て欲しい…

※ザック(報告書に思ったことを全部書くな!)

━━━━━━━━━━━━━━


- 移動要塞「シディ」初戦闘後… -


「朝日が眩しいです…」


「黄…黄色い太陽がっ!?」


「徹夜明けにはキクよねぇ…交代まだかなぁ…」


管制室兼、指令室兼、艦橋兼、シディの操舵室では初っ端から夜勤を割り当てられた徹夜組がぶーすか文句をいいながら駄弁っていた。無論、周辺監視の目レーダーは魔導具であり、眠いと文句をいわずに働いているが…


※ゴーレム娘たちも本来は1回や2回の徹夜くらいで疲弊する筈もない。念の為、昨日の騒ぎで余り疲労してない者に夜勤を頼んでいるだけだ…単に暇なのでそういう体で文句をいってるというだけだ(苦笑)


びーっ!びーっ!びーっ!


「ん?警告!?…スクリーンに投影…これは」


「識別…飛竜種と確定。中型飛竜種…小型ワイバーンと思われます」


「数は…3体。偵察?…でも、こちらの実力は昨日の戦闘で思い知った筈よねぇ…」


「日が昇ってすぐだし、こちらの動向を探ってるだけじゃない?」


「そうね…距離が距離だけに、余程目がいいか遠見の魔法か道具を使わないと確認できるとは思えないし…」


彼我の距離は凡そ30kmはある。先程までフラフラとうろついてるかのように定まらない飛び方をしていたが、こちらを確認できたのか遠回しにこちらに向かってくるのがわかる…


「まぁ…あちらさんからは日が昇ってからだと目立つだろうからちょっと目が良ければ視えるだろうねぇ…黒くてでっかいし。逆に…」


「向こうは中型といってもこの距離だとちっさいしね。見つかってないって思ってる感じだよね…」


まさか、とっくに見つかっていて種別まで鑑定されて特定されてるとは夢にも思うまい…。拡大映像には首に人間が乗っている所までバレバレである…


「所属は…やっぱしこの新大陸の国家だね」


「えーっと…」



【偵察兵の鑑定結果】

---------------

◎国 籍:神聖ドラゴニア帝国

◎名 前:ホッサー=マグナム

◎所 属:偵察飛行分隊・第3部隊隊員

◎飛行章:赤ワイバーン・Ⅱ種

※Ⅱ種…同行者1名まで騎乗可 Ⅰ種…単独騎乗のみ許可

※赤ワイバーン…偵察用隠密種(鱗色は派手だがその類のスキルを所持)

---------------


他2名は部下っぽい感じで赤ワイバーン・Ⅰ種免許なだけで所属分隊も同じだし騎乗してる赤ワイバーンも中型というよりは小型に近かった。



「…この鑑定装置もそうだけど、望遠装置も凄いわね…」


「あの赤ワイバーンって隠密スキルを所持してるみたいだけど普通に見えてるし?」


ゴーレム娘たちが駄弁っていると、ドアがスライドしてナル統括体が入ってきた。


「今、警報が鳴ったみたいだけど何かあったっ!?」


と、やや息が切れてるような感じだが…基本、ゴーレムは呼吸しないので人間のように見せている反応なだけだ。


「あ~…偵察のワイバーンが30km程先に見えたんですよ…今すぐどーこーって訳でもなさそうなのですが一応、鑑定してました」


「それ、見せて?」


「あ、はい…」


移動要塞「シディ」ができてからまだ間も無いし、ザック自身も行軍の経験なぞ無いので全てが模索中なのだ。素人感バリバリなのは大目に見て貰えれば幸いだ…


「これは…多分こちらの行方を見張ってると考えた方がいいわね…」


「そうですね」


「こっちの隠蔽は掛けてるのかしら?」


「「「あ…」」」


(はぁやっぱり…夜の間はいいとして、陽が昇ったら目立つのだから掛けておいて欲しかったけど…)


「今更感はあるのだけど、隠蔽と障壁は掛けておいて?…索敵に出てる部隊があったら、出入り時だけ一時的に解除。いいわね?」


「「「了解でーす」」」


「後、交代の人員を寄越すからしっかりね?…じゃ」


「「「はーい!!」」」


交代と聞いて元気になった3人を見て


(現金な物ね…)


と思いつつ、ナルは艦橋から立ち去る。



姿を隠蔽し、物理・魔法防御の障壁を展開しながら移動する「シディ」…今の所、遠巻きに見張っていた赤いワイバーン3体も数時間の後には消えていた。…が、すぐに別個体らしい赤いワイバーンが3体現れていた(鑑定装置で見た目がわからなくともバレバレであるw)


「どうやって隠蔽してるのに追いかけられるんだろう?」


「多分、魔力の痕跡とかこの砂煙を追ってるんじゃない?」


「あ~…これだけド派手に砂煙を立ててたら本体見えなくてもねぇ…」


「「「意味無いわぁ~!ww」」」


キャラキャラ笑っている交代要員を見て、


「はぁ…」


と溜息を吐くレムとナル。ゴーレム娘は多数生産していた為、こうしたハズレも出る訳だが…汎用生産型のゴーレム娘の思考コアも下限にブレた者が偶々割り当てられていた…といった所だろうか?


「戦闘向けの要員を今、マスターがストレージに収容して調整中だからな。我慢するしかない」


「シディの工場区画の整備が整ってないから…マスターには苦労を掛けるわね」


レムとナルがそんな会話をしてる中、今朝響いた警報が鳴り響く。無論、現在の交代要員たちは初めての経験だが…


びーっ!びーっ!びーっ!


「げっ…何これ!?」


「えっと…遠くから敵?」


「パイセン!…これ、放送した方がいいですかぁ?」


命令系統上…マスターを除いては最上位体ナルをパイセン呼びする、見た目ギャルっぽいゴーレム娘が訊いて来る。レムが


「ぷっ」


と軽く吹いてる所を


キッ!


…と睨みつけてから、


「まず、望遠で敵かどうか確認。鑑定装置も併用してね?…それから敵と確認したら規模と危険度を見てから放送をしてちょうだい。あ、要塞内向けでお願いね?…それと」


…と、出来の悪い妹に優しく諭すように説明するナル。そんな様子を生暖かく見守っていたレムだが、念話で


『シャーリー?…いつまでも惰眠を貪ってないでシスターズに命令を』


と索敵と周辺警戒をお願いする。


『あ、もうやってる。それととっくに起きてマスターのお世話してるっての!』


そんな意外な返答があり、


『お世話って…一体何をっ!?』


と、ひょっとして…と、返答次第ではザックの…マスターの自室へ突撃する勢いで訊き返すと、


『何考えてるか予想は付くけど違うよ?…単に起こしてから朝ご飯のお世話しただけ』


本人より先に起きているご子息にお世話したかと勘違いしたレムは…火が付くんじゃないか?…と思うくらいに赤熱していた。いや、単に顔を真っ赤にしてただけだがw(ゴーレムに血が流れる血管は無い。依って、人間と似たような反応を出すだけの仕組みだ)


『そ、そう…ならいいわ。じゃあ、艦橋に索敵の結果の連絡とか諸々、宜しく』


了解と返事があり、念話を切る。スクリーンを見ると、「ゴーレム砲撃隊」が出ていた。敵軍が迫っていると聞いて出撃したのかも知れないが…


(…この巨大な移動要塞の周囲に展開っても…6体だけだと少ないわね…)


せめて、6体の1小隊だけではなく、もう3小隊程は無いと防衛は難しいだろう。


「ふっふっふっ…レムはもっとロゼたちみたいなのが居ないと…って思ってるでしょ?」


いきなり、唐突にザックが艦橋に入り込んでいて、レムの背後から声を出していた。危うくレムは剣を抜いて振り抜く所だったが…(危ねぇw)


「はぁ…マスター。危険ですから背後を取らないで欲しいのですが?」


殺気を放出させながらザックにわざわざ大剣を抜いて剣の腹でとんとんとザックの頬を叩くw


「あ、はい…」


ごめんなさいと謝るザックに多少の留飲を下げ、


「宜しい…で?」


と続きを促すレム。



- ゴーレム砲撃隊・発足! -


現在、主砲である魔力砲と補助砲塔である高射砲を装備した海上を高速移動できるゴーレム娘たちを「ゴーレム砲撃隊」と呼んでいるが、正式な部隊ではない。また、高速移動できるのは「海上」限定ではなく、砂漠などの砂上でも可能だ。この辺りには存在しないようだが…沼や湖などの広大な水上…そして湿地帯でも可能だろう。


※スクリューを回して移動する方式ではなく、反魔力場発生装置で僅かに水上を浮いて同じ装置で推進力を得ている為、カッチカチの固い地面や柔らかくとも普通の土の地面では難しいが。だが、そんな地形でも大量の水を召喚して一時的にでも水場にできればそこが戦場として活躍できるだろう!


「え?」


「あれ?」


「何か増えてない?」


スクリーンを見ていたギャル3人が口々にそういうと、ザックがニヤソと笑う。


「2番隊、3番隊、左右へ展開。4番隊は殿しんがりを」


「「「いえっさー!」」」


「あら、1番隊はどうするんですか?」とロゼNo.060


「無論、前へ」


「「「いえっさー!」」」


ロゼ以下、元祖ゴーレム砲撃隊の6人はシディ移動要塞の全面へと展開する。ザックの顔を見ると、僅かに目に隈ができていた。要は、寝た振りをして徹夜で改修と整備をしていたのだろう…2~4番隊の彼女ゴーレム娘たちをだ…


レムは無造作にザックの頭を掴むと…いや、アイアンクロウでガシィッ!…とではなく、右腕で後頭部に手を回し、左腕で背中に手を回すと…


「無理をしないの…♥」


と、語尾にハートマークを付けて、ザックの顔を胸に埋めて…窒息死寸前まで追い込むのであった!

w(まてぇっ!w)



- 時は過ぎて…夕方になりつつある午後のひととき -


「暇ねぇ…」


「ってか、敵の数増えてない?」


超望遠の距離では赤いワイバーンの他に地上に魔物がいつからか展開されて…最初でこそ100に満たなかったのだが、今改めて計測すると1000を超えていた。


「パイセン!…何か敵の数が増えてるんですけど?」


相変わらずナルをパイセン扱いするゴーレム娘。突っ込まれて他の作業をしていたナルがスクリーンを見上げている。


「…何でもっと増える前に報せなかったの!?」


…とお怒りだ(苦笑)


「え…だって…」


「むっちゃ遠いし、大丈夫かなぁ~?…って思って」


「うん…」


スクリーンの超望遠画像を見ると、その右隅に表示されている拡大率と距離が示されている。


「…30km前後ね」


アフタヌーンティーの時間帯なのでまだまだ明るいが、後2~3時間もすれば暗くなってきて拡大画像が粗く見難くなる。光学補正されていてこそ、この画質だが…暗くなると粒子が粗くなって補正では追いつかなくなるのだ。


「ん?…前進している?」


先程より、僅かだが大きくなっているように見える。手前の魔物の大きさが若干だが大きく見えたのだ。


「スクリーン、1時間前と同じ大きさになるまで補正して」


グィ~ン…と補正されて止まる。右隅の距離計を見ると…


「29.9kmね」


要は、1時間前に比べて100m前進している…との証左だ。前進を始めたのが10分前かも知れないが…確実に迫って来ている。


「行軍を始めたわね」


「どうする?」


うーん…と唸りながらレムとナルが相談している。現在、シディは見張っている敵軍から逃げるように90度進路を変えている訳だが…距離を詰められているということは、こちらより速い速度で行軍していることになる。全速力ではないが…巡航速度15ノット(=27.78km/h)で進んでいるシディに比べると僅かに速い速度で追いかけられている訳だ…こちらは巨体なので余り移動速度を上げた場合、緊急停止する必要に迫られても、


くるまはきゅうにとまれない


…という訳で、自重している所だ(今のは一体何なんだ?…あ、消えた)


「あ…」


艦橋に朝から勤務?していてそろそろ慣れただろうゴーレム娘たちだが、急に素っ頓狂な声を上げる。


「どした?」


「あ、マスター…その」


と、オロオロとしているのが気になり、頭上のメインスクリーン…ではなく、座っている席のサブスクリーンを見る。


「あ~…これ、メインに回せる?」


「あ、はい…えっと…こうやって…こう…できました!」


メインスクリーンに映っていた画像が右上に縮小して追いやられ、見えているが小さくなった後にサブスクリーンの画像がメインスクリーンに展開する。


「これ、進路上の先の映像かな?」


「あ、はい…街?…ですかね?」


見ればわかるが…人工の壁や建物が見えている。これはシスターズが視た映像だろう…かなり高空から映しているものと思える。


「距離とこのまま進んだ場合、どの程度で到着する?」


「まだ50km程ですが…1時間47分くらいでぶつかります」


「いや、到着の時間なんだけど…まぁ同じか」


(ひょっとして、こちらの接近を軍部が気付いて動かそうとしている?…う~ん…確認したいけど接触と同時に攻撃してくるような国だしなぁ…)


人間、見た目が大事とはいわないが…初めて会う場合は印象も大事だということだ。ましてや…いきなり攻撃して見下すような言動な蛮族男が国の代表として見られていては…国そのものがああいう連中ばかりだと思われても仕方が無いだろう…うむw(国民全てがああいう連中ではないが、軍部や国の上層部は似たり寄ったりなのが始末に負えなかった…orz)


「…あ、なんか喋ってます。聞きますか?」


何故か別大陸同士だが言語そのものは少々訛りがある程度で聞き取れるし理解はできる模様。ゴーレム娘は頷くザックにスイッチを入れて超望遠距離で拾った音声を流す。


『よ!………あ…この…った…んじゅう…ぐ!…んこう…にはわ…ちがあ…そぎう…せよ!』


「…わけわからん」


恐らく途切れ途切れの無音部分にも何か喋ってるのだろうが…流石にそこまでおつむの出来が良くないザックには読解技術は無いのだろう…言語理解とか暗号解析は魔法任せでもない限りわからないと匙を投げた。


「えっと…僭越ですが解析しましょうか?」


任せたと丸投げすると…未だに声が聞こえてくるが…矢張り何をいってるのかさっぱりだ。


「あぁ…こういってるみたいです」


解析を請け負ったゴーレム娘がサラサラと紙に書き出し、ザックの下へ来て読む。


「あ~、そこの腐った饅頭に告ぐ!…進行方向には我が町が在る!…急ぎ迂回せよ!」


以上です…と、ぺこりとお辞儀をして、自分の席に戻るゴーレム娘。


「成程ね…君…の名前は?」


はへ?…と慌てると、再びザックの前に照れつつ歩み寄り、


「えと…エミルNo.0836です」


あれ?…とザックは首を傾げ、


「ゼロスリーじゃなくて、ゼロフォー?」


と聞くと、


「あ、はい!そうです…ゼロフォーナンバー…サンフィールド産の者です…その、助けて頂き、大変感謝してます…」


と、ギャル然とした褐色の肌色の容貌とは打って変わって、慎ましい態度で再びぺこりと頭を下げるエミル。


「エミル、何畏まってんのぉ~?」


「全然らしくないしぃ~?」


と、仲間?に揶揄われているが…(苦笑)


「放っとくしぃ~っ!」


と、パタパタと走って戻っていった…


(成程。ナル直属じゃないから教育が行き届いてなかったのかな?)


…と思うザック。確かにトウカは統括体としては経験がナルよりは短いし、数が多かったのでナルに比べると教育が行き届かなかった可能性はある…ましてや、途中で引き抜いた個体でもあったし、休眠の時間も長かったからな…


何故ギャルっぽい見た目で通常任務もやや不真面目なのに引き抜いたか?


(まぁ…他に無い特技というか…尖った能力を…って基準で引き抜いたらこーなっただけなんだけどね…)


他に、余り協調性が無いとか色々マイナス面はあるけど…基本的にマスターである僕には一部を除いて従順だから…まぁ問題は無いかな?(その一部だって、別に反逆的という訳でもないし、独自の判断で動いてるだけだしね…モンブランとかはその類に属するよ)


「…そっか。まぁ一般市民に迷惑を掛けるつもりは無いんだけど…」


顎に手を付けて考える。


「問答無用で排除しようってのはどうなんだろうねぇ…」


ザックは手で隠した口を歪ませる。


「じゃ、危害は加えないとしても…少しくらいはゾッとさせるくらいは…いいよね?」


ザックは操作卓に歩み寄り、コンソールを借りて再設定する。


「えと…移動速度最大の80ノット(148.16km/h)に上昇…目標の町直前で浮遊5mから20mまで上昇し、町上空から離れた時点で5mまで徐々に降下…ですか?」


「うん…それくらいやれば彼らも肝を冷やすんじゃないかな?」


「ま、まぁ…そうかも知れませんね?…アハハ…」


ゴーレム娘の彼女は思った…


この人マスターを怒らせたらダメな奴だ…)


…とw


━━━━━━━━━━━━━━━

少なくとも大型の町サイズの黒い饅頭が迫って来たら…ビビると思うw


備考:そしてそれが町にぶつかるコースで迫るとすれば…大パニックに!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る