128 その13 ~遠い地からの侵略 その1~

制御管理体を設置したからもう安心…と思い、短期間だけの様子見の後…ザックたちは元ドライールドの地から退去して来た。

だが…それは浅慮というしかないだろう…ザックたちが退去した後、僅かな時間で制御管理体は侵食されて龍脈や特異点の力を散らして不安定化させる為の楔は…魔界ゲートを安定化させる楔へと変えられてしまったのだ!

そして…サンセスタのサンフィールドが陥落されたとの報がチューザー共和国に届くのはそれから2箇月以上後だった…(但し、ザックたちは既にミラシア大陸から出発していたので知る由も無い)

━━━━━━━━━━━━━━━


- チューザー共和国 -


「何?…もう1度申せ…」


「はっ…サンセスタが魔族の侵攻により、全滅しました」


「全滅…何割かは逃げ出したということか?」


「いえ…戦略上の全滅ではなく、文字通り…全ての人間が滅ぼされました」


「…事実なのか?」


「あ、いえ…詳細は不明ですが…あれ程の広大な土地が全て焦土と化していれば…恐らくは…ということであります」


報告にやって来ていた兵は長い道程を…無理を押して戻って来たのだろう。疲労の色が濃い…


「あいわかった。詳細は休んでからで良い。後程他の者に説明を」


「…はっ、有難き幸せ」


「下がれ」


そこまでいうと、立ち上がろうとしたが再び膝を付いてしまい…他の兵の助けを貰い退室していった…



「陛下…」


あれ・・は事実だと思うか?」


「はっ…僭越ながら…自分めには信じ難いと考えておりますが…」


「まぁ…普通はそう考えるだろう」


「では、陛下はそうではないと?」


「…通信の魔導具に返答が一切無かった…」


「今なんと?」


「返事が無いのだ…幾ら話し掛けても、日を置いても、朝晩問わずな…」


「…」


「今日、遂にあちらの魔導具の反応も消えた…恐らくは破壊されたのだろう」


「…」


「その時、一瞬だけ繋がったのだ…」


「…!」


「何と伝わって来たと思う?」


「…」


「聞いたことのない言葉…恐らくは魔族だろう。最後に一言…「ばあか」…と共通語で聞こえたと思ったら…破壊されたようだ」


チューザー共和国の陛下と呼ばれた男は…青褪めていた。怒るでもなく、嘆くでもなく、唯々…青褪めていた。


「それは…」


「向こうからしたら…唯…バカにしたのだろうと思うが…余は恐ろしい…「次はお前の国だ」…と宣戦布告された気がして…な…」


部下が陛下と呼んだ男を見た時、彼は…全身をぶるぶると震わせ…とても、普段は初老の威厳に満ちた男とは思えない…寧ろ…力の無い、年齢に応じた弱者にしか見えなかった…



「逃げろ!」


「魔族が攻めてくるぞ!!」


チューザー共和国の頂点たる指導者があの状況だ。部下の男たちは短い会議を行い、総員一致でチューザー共和国…否、ミラシア大陸からの脱出を決め、布告した…


「慌てるなまだまだ乗れる余地はある!…ほらそこ!横入りするな!…渡り板から蹴落とすぞ!!」


船員の列整理でケツを蹴り飛ばされたりしつつも、みやこの民たちは川下り用の中型船に順次乗り込み…満員になった船から川を下って行く…


「…今までだったら少なくとも1箇月くらいはグダグダと会議やって前準備して…って時間ばかり過ぎてったのになぁ…」


「いや、等しく人間が全て殺されるってんだ。誰しも我が身は可愛いからな…」


「そうそう…だが、我らは民たちの身を優先的に考えねばならない。まぁ…それ以上に上の御身が守られるべき体ではあるが…」


「上があれじゃな…少なくとも国としての体裁を整えるなら民も大事だからな…」


「仕方があるまい…今日の便はこれで最期か?」


「川下から上がってくるなら満ち潮にならないと難しいからな…風の向きも朝にならないと…な」


一応、その日その日の作業を箇条書きにして上に報告を上げているが…特にどうのとは返事が無い。恐らくは上の者たちは自分の身と財産が可愛いのだろう…一生懸命に直属の部下や家令の者たちを使って財産をかき集めている…という話しはそれとなく伝わっている。


「…ははっ…どうせ金銭など、この大陸でしか通用しないというのに…」


貨幣として、貴金属を含有している為に地金としての価値はあるだろうが…向こう・・・で通用しない場合、恐らくは貨幣交換してくれないだろうから…金貨なら金として、銀貨なら銀としての価値しかない。足元を見られて何分の1の価値しか無いだろうと見られ、金銭としての使い道は絶望的だろう…


「まぁ…魔族が侵略して来たという情報はなしが伝わってないことを祈るばかりだが…」


無理だろうと考える下士官たち。彼らは金銭としての貨幣はそうそうに手放し…食料品や水、宝石などに置き換えていた。宝石ならばそれ程重くはないし、海の向こうでもそれ程価値を落とすことはないだろうと考え…



- 何処ぞの海原の地点 -


「…という話しがあるそうです」


「それって今の話?」


「みたいですよ?」


統括体ナルとザックの会話である。ソースはシャーリー。ある意味、偵察や索敵、情報伝達に関してはチート娘ではある…流石に距離が離れ過ぎていて、ザックにはうんともすんとも聞こえて来ないのだが…ナルには何とか伝わる模様…ナルも大概といえば大概だろう!


現在位置はチューザー共和国の港町から東に100km程進んだ洋上。シャーリー本体は気になる…ということでミラシア大陸に残り、チューザー共和国の首都に潜伏中だ。外洋船の護りにシャーリーのコピー体…という名の姉妹たちを残し、周辺警戒を任せている…といった具合だ。


「あっさり姉妹作成に賛成したよな…」


「まぁ、それだけマスターが大事なんじゃない?」


ナルに何とはなしに話し掛けると、そんな返事が返って来て…


「な…そんなこといわれたって…照れたりしないんだからねっ!?」


と、誰得なツンデレを発揮するザック。


「あははw…まぁ、いいじゃない。これで船の護りに隙が無くなるんだし?」


と軽く返される。


「ぐぬぬ…」


と、お約束な呻き声を出している中…姉妹たちはこんなことを思ってたという…



『お姉さまの思い人がアレだなんて…』


『変なニンゲン…』


『というか、ナルお姉さまにも気安い…』


『レムお姉さまにも気安いって聞いたけど?』


『…ニンゲン、油断ならないって聞いた…』


『ゴーレム種を使い捨てにするとも…』


『でも、僕たちの創造主とも聞くけど?』


『…それでも!…油断はしないに限る』


『同意』


…何とも不穏なやり取りだが…どれもシャーリーの初期思考が反映されてると思えば可愛いものだろうか?


━━━━━━━━━━━━━━━

索敵や偵察が主任務なので、「疑わしきは罰せよ…もとい、疑わしいと思い行動せよ」を主眼に行動指針となっていた為。主に敵に対する思考パターンの筈だが…間接的なマスターであるザックにも適用されてるという…(苦笑)


備考:謎過ぎるけど急いで創造した影響だろうか?w

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