120 その5 ~おふねをつくろう!~

某皇女騒動(但し一部しか知る者は居ない)の後…ザックたちは「イスタムン」から出発していた。余り滞在していてもチューザー共和国の追手に追いつかれる可能性があるからだ。

更に2週間程経過した後…ザックたちはチューザー共和国の東の果て…海岸線が見える辺境へと辿り着いていた。一応、港町が見える場所には来たのだが…検問らしい者たちがその手前に居た為、急遽90度進行方向を変えて…という訳だ。

尚、遠見の筒を所持していた者は居なかった為か気付かれず、追いかけて来る者は居なかったとだけ…

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- 初めての海 -


「おお…これがでっかい水溜まり…じゃなくて海って奴か…」


検問を発見する前から漂っていた独特の香り…潮の香りという奴が最も臭う場所。慣れないと生臭いと感じるが…ゴミ捨て場とは違うが慣れないと気持ち悪く感じるかも知れない。


「私たちには余りそういうのはわかりませんが…」


ナルやレムたちには「少し臭いがキツイ」程度にしか感じられないらしい。この臭いは海で生まれ、育った生き物たちの死骸が海に還って行く…その蓄積で発生する匂い、らしい…。普段から慣れ親しんだ人たちは普段普通に嗅いでいる匂いだから特に感じる所も無いんだろうけど…


「う~ん…僕はちょっと慣れないかな。まぁその内に気にならなくなる、か…」


という訳で、港町から離れる方向…更に南へと移動中だ。この大陸から離れるかどうかは考えてないが…何しろ海の向こうに大陸があるかどうかもわかってないのだから。少なくとも海図があれば欲しい…と考えていると、


「海図の写しを調達して参りましょうか?」


…と、意見具申した者が佇んでいた。が、どう見ても暗殺とかやってそうな佇まいだが…特に服装とか腰に佩いている武器とか…


「えっと…誰?」


「失礼しました…索敵特化型のゼロフォーナンバーズのレキュイNo.0091と申します」


一瞬、「ゼロゼ●クノ●チ」という言葉が脳裏に浮かんだが…何のことかわからず、すぐに記憶の彼方へと消えていった…何だったのだろう?


「ああ…ドライールドの」


「あ、はい。その際は救い出して頂け、仲間と共に大変感謝しております…」


そういえば魔境と化した時、慌てて念話で「逃げろ!」と命令して急いで撤退命令を出したんだっけ…流石に北の…距離がある場所で仕事してた何人かは間に合わなかったと聞いていたが…


「あ~…それは救い出したとはいわんな。ヤバそうだったから撤退命令を出しただけだし」


「いえ、それでも…普通はゴーレムなぞ使い捨ての下僕。身を案じて貰える筈もありません」


レキュイは恐らく…広範囲に散り散りに配置していたゴーレム娘たちを代表して…今更ではあるが感謝の意を表しているのだろう。胸に手を当て身体を斜めに頭を下げ、片足を地面に付け…片足を立てた、こちらに敬意を示した格好でしゃがんでいる。まるでこちらが偉そうな貴族や王族になった気分だが…


「…まぁ。僕は生み出した君たちを…使い捨てる気はない。管理が行き届かなくて申し訳ないとは思うけどね…」


「…身に余る光栄です…マスター」


今の台詞の何処に光栄と思える部分があるのだろう?…とは思ったが、海図の写しを撮って来るのは確かに今後の行動には必要不可欠だ。ザックは渡りに船…とばかりに頼むことにした。


「ぷぷぷ…確かに、海を渡るには船は必要だよね?」


シャーリーが背後で…勿論ザックの後頭部でだが…笑いを堪えている。いや、そんな所に居られると威厳も何もあったもんじゃないんだが?


「…だから、胸を押し付けるんじゃない!」


「またまたぁ~…嬉しい癖に!」


と、レキュイが気にせずに下がった後にじゃれるザックとシャーリー。レムたちは溜息を1つ零した後で仮拠点の設置の命令を部下たちに指示していた。設置予定のこの場所は人目に付き辛い周囲を森に囲まれた海岸線からも少し奥まった崖の上だ。街道からも数km離れているし、海岸線からも同程度離れているが…


「ここ、海からでは明かりとか丸見えじゃないですか?」


「そこは大丈夫。土壁で囲みますから」


と、闇に乗じたプランは既に練ってあるらしい。もし、そこに気付かずに明かりを灯した場合、海からは数10km離れていても闇夜に浮かんだ光点が此処に人が居ると報せ…数日の間に調査の者が訪れていたに違いない…(炊き出しに上がる煙も昼間は見えてしまう為、煙突には気を付けたらしい)



数日の後…海図の情報を調べに港町へと派遣したレキュイたちが戻ってきた。人数は3。全員隠密特化型で仮に侵入がバレてしまった場合でも逃げに徹すれば2桁までの人間相手なら傷付けずに脱出可能なくらいのスペックを誇るらしい。


「レキュイです。只今戻りました」


後ろの2人もサッ!…と頭を下げ、右腕を胸前に、左腕を背後に回して敬礼している。


「無事に戻って良かった…で、ブツは?」


「ブツ?」


「あ~…海図の写しのことだ」


「はっ…おい、あれを」


「はっ…」


後ろに控えていた1人が幾つかの巻物を抱えて…いや、それを納めたアイテムボックス(袋型)を取り出して渡してくる。


「どうぞ、これを…」


「あぁ…ありがとう」


「あ、いえ…」


何故か頬を僅かに赤く染めて下がるゴーレム娘。初心うぶよのう…と下種な考えは起こさず(をひっ!w)に内容の一覧を見る。


「…確かに」


代わりに中身が空っぽの予備のアイテムボックスをストレージから取り出し、個人の持ち物らしいアイテムを移し替える。他、幾つか履歴情報があったのでそちらも移し替えて元のアイテムボックスには残さないようにした。


「こちらを…勿論、海図の写し以外は移し替えておいたから」


と、おいでおいでして呼び寄せ、新型の方を手渡した。旧式はせいぜい水100kg程しか入らないのだが、新型は倍の200kgまで。重量軽減も同様に倍になっているので重さも変わらず、収容能力が単純に倍になっている。尚、収容可能な数も100から200へと増えている。例えば小石をバラバラに収納すると100個まで。総重量が100kgに至らなくても100個で頭打ちになる。袋や箱に纏めていればその単位で100まで収容できるのだ。


※小石×99などのように1枠にスタックは不可。量産品であっても僅かな差異は発生するので別物と判断される為。精密機械で生産された工業製品なら或いは…といった所だろうか(魔法で創られた同条件の生産物ならほぼ差異は発生しないのでスタックは可能…かも?)←そんなの試したこともないし考えたこともないので仕様としてスタックができるとかは考えて創ってない。故にいわれるまでできるかどうかも想像の埒外ってことで(袋や箱に入れて1枠ってこと自体がスタックみたいなもんだし?w)



「宜しかったので?」


「え?…まぁいいんじゃない? 褒美みたいなもんだし、また潜入作戦があったら何か持ってこさせる時に活用できそうだし」


「…確かにそうですね」


レキュイたちが下がった後、レムから問われ…ザックは思ったことをそのまま話す。レムは確かにそうだなと頷きながら首肯して引き下がる。


「…やっぱし人数が多いと拠点作りも楽だね」


「確かに。作業を分担して貰えますので…こちらは指示を出すだけでいいので楽ですね?」


いやそうじゃなくて…と思ったが、作業をやって貰えて楽ができるのは確かなので噤むザック。


「で…船はどれくらいでできそうだ?」


「そうですね…沖合に出る用のは今ある情報だけでは難しいですね…」


現在は設計図を描いているのだが、できてせいぜい湾岸を周遊する程度の大型船が関の山らしい。沖に出れば波は出るし下手をすれば嵐に出会って難破するしかないだろう…


「う~ん…僕もそれ程知識がある訳じゃないしね…」


餅は餅屋。幸い、港町が近くにあるのだ。船の設計図を所有している船大工の工場など、探せばあるだろう…問題はその船の運用方法だが。


「それでしたら適任が居ります。任せて下さい!」


というレムの胸ドン!…で任せてみたのだが。



「…同じメンツにしか見えないけど?」


1週間後、戻って来たのは前回潜入ミッションをこなしたゴーレム娘たちだった。


「え、あ、はい!…レキュイと他2名、任務を完了して来ました!」


ザザッ!…と背後の2人も1週間前と同じ格好で畏まっている。


「えっと…?」


説明を求む!…とレムを見ると…


「現在、急ピッチで外洋船を建造中です」


と、想定外の内容を耳にするザック。


「…は?」


「とはいいましても、建造を始めたのは今朝からですが…」


要は、念話ネットワークを介して情報を順次受信してから建造に関わる、外洋船の建造に向いたスタッフを集めて(恐らく手先の器用な者とか力のある者とか限定で)から設計図を創り出し、全員に共有してから建造に入った…ということらしい。


素材の木は周辺に嫌って程に生えている林の木を使用し、天然の木は何れも真っ直ぐに伸びている訳ではないので調整しつつ木材として加工し、必要であれば1つに纏めて(粉にしてから圧縮して固めたとか何とか…そんなんで船の建材に使えるかどうかは知らないが…)いるという話しだ。


「そ、そうか…。で、どれくらいでできそうだ?」


「そうですね…」


と、考え込むレム。ちなみにナルは現場監督をしてるらしく、此処には居ない。考え込んだレムを見ると、


(まぁ…大型船って建造するにしても時間掛かるっていうし…。確か半年とか、下手すると数年掛かりって聞くし…)


…と、考えながら待っていると、


「短くて後1週間。長くても1箇月は掛かると思います。申し訳ありません…」


と、頭を下げてくるレム。え?…1週間から1箇月?


「それ、短過みじかすぎない?…聞いたことのある大型船の建造期間って…」


と、いい淀むと。


「お忘れですか?…私たちが「ゴーレム」ということに…」


と突っ込まれるザック。


「あ~…そういえばそうだよね…。ごめん、レムたちを侮辱するような言動だった」


と、素直に頭を下げるマスターザック。


「あ、いえ…私もいい過ぎました。ですから、その…軽々しく頭を下げないで下さい…マスター」


侮辱するなといってみたり、慌ててこちらを立てて見たり忙しいなと、苦笑いでレムを見るザックであった…


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初めての外洋船設計・建造で1週間~1箇月。大丈夫なのか?…と思った人も居ると思いますが、建造に関しては記されている情報以外に頭の中身を読み取るスキルを所持しているメンバーも連れて行き、その設計士や建造に関わった人物の寝所に侵入して取り放題という…(ぉぃぉぃw)

船の運用に関しても、同様に優秀な船乗りの(以下略)…某ル●ン?w


備考:お前は大事な物を盗み出したんだ…心をな(とっつぁんかYO!w)※正確には船の建造で設計図に書かれてない重要部分とか船の運用方法とかだがw

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