80 その37 ~ドライールドで彷徨う その16~

偶然にも製造番号が続いている三姉妹の警備ゴーレム(ザック側ではそうと認識してはいない)が、所属小隊がバラバラにも関わらず拉致監禁されていた。彼女たちは創造されてから僅かの期間しか経過してないが、隣り合った製造番号から姉妹と互いに認め合い、バラバラの小隊に配属されるまで仲睦まじく励まし合っていたのだろう。だが、ドライールド領へと捕らわれたのは何の因果だろうか…そして、命じた大商人の不運の始まり、崩壊への序曲が奏でられようとしていた…

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- ハリー=ドライールド -


「あん?…何か騒がしいな…」


自室でぼんやりと今後の方針を考えていたら、廊下の方が何やら騒がしい…呼び鈴を鳴らしても誰も来ないので仕方なく廊下へと出ると走っている下男が居たので呼び止める。


「おいそこの!」


呼び止められた下男が「何だこの忙しいのに…」というような顔を向けたが、すぐさま顔色を変えてへりくだって…いやこの場合は何と表現したらいいのだろうな?…まぁ、腰を90度以上折って頭を下げつつ、


「ハリー様!?…な、何で御座いましょう?」


と苦し気に返事をした。別にそこまでせんのでいいんだがな…


「騒がしいようだが、何かあったのか?」


廊下に出ればわかるが…いつもより騒がしい…というか物々しい雰囲気を感じる。俺の自室前の廊下にはこいつしか居ないが、遠くの方からは数人が走りながら何やら怒鳴っている声が響いて来る。ひょっとして他の商人たちからの嫌がらせの襲撃でもあったんだろうか?…うちは儲かってるからな。時々そんな騒ぎがあるのも仕方なかろう…


「いえ、その…少々面倒事が起こったようでして…」


「またカチコミでもあったのか?」


予想が当たったようだ。一応確認すると、


「似たようなもの…だと思います」


と返って来た。「はぁ…」と溜息を吐き、


「じゃ、いつものように始末しておけ。後で請求も忘れるなよ?」


請求とは…まぁ迷惑料の徴収だ。但し、相手を潰すまで奪ってはいけない。生かさず殺さず、吸い続けるのが一番美味しいのだからな…


「こ、心得ております。では…」


再び一礼して走り去る下男。下男といったが…奴はこの宮殿に配備している元親父付きの暗殺者だ…まぁ、今は俺の部下でもあるがな。普段は下男と同様の仕事をしているが、有事には暗殺者として活躍という訳だ。


「アホな奴らだ…まさか、対人のプロフェッショナルが蠢くこの宮殿に侵入するなんてな…」


俺は笑い声を上げるのを我慢しつつ、仕事の続きに戻る…捕らえたあのゴーレム少女たちの解体と研究プランを練り上げ、今後の新しい商売のネタとする為に…



- ユグ -


「何だっ!?」


「あれは…」


「幼女型ゴーレムっ!?」


「バカな…しかも、完全戦闘用途、だと!?」


男たちは、宮殿の倉庫を突き破ってきた小さな少女を見て驚愕する。生身の少女では有り得ない膂力。手にした巨大な剣?…を振り回す力を人間が有してる筈はない。


「ユグちゃん!待って~!!」


次いで現れる…例えるなら枕程の大きさの…妖精?…こちらも有り得ない。妖精は手の平程の大きさで大きい妖精は伝説に伝えられている話では人間大の筈だ。尤も、見たことのある人間は居ないという話らしいので定かではないのだが…


などと混乱している間に普通の少女が現れる。


「お2人共早いです!」


「この人間たち、斃しちゃっていいの?」


「えっと…流石に殺すのは不味いかと…」


「じゃあ、シビシビするね?」


呆気に取られていると、剣から突き出ている棒から雷光が放たれ…我々の意識は無と………



「お~…そのルドランって雷撃も撃てるんだ!」


「何か撃てる」


〈グランマスターが昨夜付与して下さいました〉


「凄いですね…」


シャーリーが褒めると、ドヤ顔でユグがルドランを立てて踏ん反り返り、ルドランが誇らしげに説明してサリーが褒めるという…。撃たれた男たちは足元で数名が痺れて気絶中だったりする。


「じゃあ急ぎましょう!…急がないと手遅れになりかねませんし」


「「「りょ」」」


サリーが先を急かすと3人が短縮形で返事をする。


(りょ?…う~ん…了解…の略かな?…多分?)


サリーは首を傾げながら、先程反応のあったと思しき方へと廊下を走るのだった…



- 3姉妹、脱出…だが -


「急いで逃げる」


「こいつら止血とかは…」


「そんな暇は無い」


ヒロが急かし、イコが流石に放置するのはヤバくないか?(殺さずの命令的に)と3人の男たちを見てるが再びピシッ!と脱出を強めに促されるので仕方なく立ち上がって歩き出す。


「姉さんたち、大丈夫?」


「「いや、お前が大丈夫か?ってんだ」」


ヒナがやや凹んだ腕と傷口を見せないようにして立ち上がり、2人の姉を気遣うが逆に突っ込まれる。


「あはははは…ごめんね、心配掛けちゃって…」


取り敢えず窮地を脱した…ということで、例の緊急プログラムとやらは解除されて消費魔力は通常に戻っている…が、残存魔力は残り少ない。この通常消費ペースでも後1時間ともたないだろう…


「お、そうだ。ヒナ、これを…」


ピン…と、今思い出しかのようにイコがポケットから小さなカプセルを取りだし、ヒナに投げて寄越す。


ぱしっ


「え…と、これは…魔力カプセル?」


「支給品だがな。食っとけ」


「え…でも」


「大丈夫。一般の魔力カプセルと変わらないから」


「そうじゃなくて…」


イコ姉さんの物では?…と思ったが、今のヒナの残存魔力が残り少ないのに気付いて…と、姉の心遣いに感動したヒナは、


「ありがと…姉さん。有難くいただくね?」


と、こくりとカプセルを飲み込む。


「ん…じゃあエスケープと行きますか?」


2人の姉妹の暖かそうなやり取りに気を取られていたせいで、廊下に漂う異様な気配に気付けなかった。元々ゴーレムには殺気や気配には鈍感な所もあるが…この失態は致命的かも知れなかった…



「…!?」


きん…


ヒロが両手の爪ブレードで防御して辛うじて致命の一打を防御する…が、その一撃で爪ブレードにヒビが入る。元々斬撃に特化した武器であり、防御には向かない繊細さを持ったそれは…次に攻撃を受けるか攻撃をした時点で折れ飛ぶだろう…


「おや?…よく持ち堪えましたね?…今ので倒れると思いましたが?」


ゴーレム姉妹は機能停止していたので誰だかわからないが(というか、この宮殿の男たち全員未知ではあるがw)…この男の名は、ハリー=ドライールドの補佐、スクィードだ。


尚、ハリーはドライールドの家名を持っているが領主ではない。ドライールドの貴族たちはミドルネームを持たないが全員ドライールドの家名を持つのだ…勿論、血族でもなんでもないが…否、元は1つの家系の血を受け継いだ血族だったのだが…外部からの血で薄められ、殆ど血の繋がりは無いらしい。その家名だけが元血族の名残りとして残っている…が。純粋な血族は領主の一族だけらしい…


「さて…トドメです。何、機能停止はしませんよ…四肢を寸断して動けないようにはしますがね?」


暗にコアは破壊しないが動けなくするといっているのだが…これが人間なら死刑宣告と変わらない。ゴーレムには血が流れてないが、魔力とコアが残っていれば死にはしないが…


「…よくいう」


ヒロがそう呟き、


ひゅっ…


と、爪ブレードを振るうが…


「残念」


目にも止まらぬ早業で…ヒロの両腕が


ぴき


と音を立てて…


どささ…


と落ちる。続いて、


ぴし…パキャ…


がらんがらん…


と男の…スクィードの剣にヒビが入ったかと思った直後に砕けて落ちた。


「痛み分けか…男、そこを退けば命までは取らないぞ?」


イコが宣言するが、スクィードはニヤリと笑みを浮かべると、


「残念。道具には予備というものがあるのですよ?」


と、背中からもう1つの剣を取り出し、握るのだった!」


「ず…っこい」


ヒナが狡いと睨みながらいうが…


「これは狡いのではありません…戦略というのですよ?…お嬢さん」


と、踏み込んで剣を振るい…イコの片腕が飛ばされる!


「うぐっ!」


すぱぁん!…どさっ


急ぎ後退ったが間に合わず、イコの左腕が飛ばされ落ちる。


ヒロ…両腕喪失。

イコ…左腕喪失。

ヒナ…左腕小破。


そして、男には武器が健在であり…ゴーレムの腕すらも斬り飛ばす技量とそんな威力の剣…恐らくはオリハルコン…それも疑似ではなく本物のオリハルコンの剣だろう…を装備している!


「さてさて…宴もたけなわ…ではないですが。そろそろ観念しては如何ですか?…それとも…矢張り、四肢と…ついでに首も飛ばしましょうか?…ゴーレムはその胸にコアがあるのですよね?」


その方が口煩くないですし?…と呟く男。絶体絶命の危機である。


(マスターが来てくれれば…)


(マスターならこんな奴…)


(いやマスターも人間。普通に死ぬって)


ヒナ、イコがそう考えてる中、ヒロは余りにも現実的じゃない考えをしてる姉妹に突っ込んでいると


※頭の中で考えてるだけで念話は働いてません。何でそんなことわかるんだか…


どがああああんんんっっっ・・・!!!


と、突然の爆発したかのように廊下の壁が吹き飛び、スクィードの背中を瓦礫が直撃し…3姉妹の横をかっ飛んでって3姉妹の捕らわれていた部屋の中へと飛び込み…


「ぐはぁっ!?」


と絶叫が…あれで助かっていたら、最早超人といってもいいでSHOW!


「大丈夫ですかっ!?」とサリー。3人の怪我破損状況を目にしてアワアワしています。


「大丈夫?」とユグ。取り敢えず腕が欠落してるけど、まぁマスターに診せれば大丈夫かな?…と考えてる模様。


「ありゃー…結構壊れちゃってますねぇ。取り敢えず落ちたパーツはこちらで…」


といいつつ、アイテムボックスに落ちてる腕を回収し、剥き出し部分を専用の保護材で覆ってと、甲斐甲斐しく修繕作業に入るシャーリー。レムが殆ど怪我らしい怪我をしないし、欠損とかとも縁の無い生活をしていたので喜び勇んで…いや、別に仲間が怪我をするのが嬉しいという訳ではないですよ?(苦笑)


「えと…救出に来て下さったんです、よね?」とヒナ。


「ええ、勿論です。応急処置が終わったらすぐにでも脱出しましょう!」とサリー。


「外でケリー、待ってる」とユグ。カタコトキャラだったか?w(緊張の為、そんな感じらしい)


※尚、ケリーリーダーサリーサブリーダーもコードネームはあるけど、今回は敢えてニックネームで呼称しております


そして素早く手当てしてその場を放置して脱出し…倉庫内の廊下の警備は殆ど蹴散らして呻くのみで行動不能に陥っていた為、倉庫の外には妨害も無く辿り着いた。だが…



「随分と遅かったじゃないか?…お嬢さん方?」


先程吹っ飛ばしたスクィードが現れた。


「ずげっ!…こいつ死んだんじゃないか?」とイコ。


「…あれで死なないなんて…こいつもゴーレムか?」とヒロ。


「本当に人間?」とヒナ。ユグは無言だ…その視線の先には…


「ケリーっ!?」とサリー。両手で口を抑えて…泣きそうになっている。


「ケリー…」


シャーリーの視線の先には…四肢が寸断され、首も跳ね飛ばされたケリーの亡骸が…否、ゴーレムパーツが散乱していた。但し、頭部はぐちゃぐちゃに踏み潰されていて…最早原形を留めてなかったが。


「はぁ…勿体ないがうっぷん晴らしに使用させて貰ったよ?」


スクィードはそううそぶくと髪の毛をぱさあっと掻き上げる。キザったらしい所作に全員が…いや、既にキレていた。


『マスター…申し訳ないけど殺さずの命令、破ってしまうかも…』


シャーリーが念話でザックにそう伝える。


『え、シャーリー?…何があった?』


慌てた様子のザックの念話が返って来たが、


「ひっ捕らえろ!…多少破損しても構わん!!」


と、スクィードが号令をかける。


『ごめんマスター。これから忙しくなる』


ユグの言葉足らずな内容に、ザックが慌てて叫ぶ。


『わかった!…唯、これだけはいっておく…ヤルナラ徹底的に、な!』


暗に目撃者を残すな!…という命令だったが、


『いえす、ますたー!』


〈イエス、グランマスター!〉


どう解釈したか…ユグとルドランの唱和がとても危険な感じとなっていた…ドライールドに対して…合掌!www


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破滅のプレリュード開始!(まてぇっ!w)


備考:いやぁ…前書きが実行されつつあります(何も考えないで書いてたら結局…(苦笑))

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