79 その36 ~ドライールドで彷徨う その15~

某所・某部屋の中で警備ゴーレムたちは捕らえられていた。そして変態男の変態思考により奇跡的に覚醒したコードネーム「ヒナ」の個体。そして攻防の末、再び機能停止の憂き目に遭うその瞬間。2度目の奇跡が起こるのでした…仲間の手に依って!

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- コードネーム創造番号イコ15」覚醒す -


ようやく機能が回復して全システムが再起動したイコは視界に入った…2人の大の大人野郎どもヒナを押し込んで虐めてる現場を直視し…キレた。


「やらせるかよ?」


そういいつつもヒナの首に刺さっている折れた矢を引き抜く。自分の首に刺さっていた物からして、機能停止命令システムダウンコマンドを打ち込んでいる物と断定した訳だが…どうやらビンゴの模様。力を失いかけていたヒナが辛うじてその力を取り戻そうとしている。


「くっ…まだ力が戻ってないのか…」


立ち上がろうとするが駆動系には十分に魔力が行き渡ってないのか立ち上がるのも難しい。さっきの矢を引き抜くので精一杯ということか?


「…っ」


コードネーム創造番号ヒロ16」…再起動を確認〉


システムがヒナとは反対側に寝転んでいる妹の覚醒を感知した。どうやら製造番号が並んでいる姉妹が揃って拉致されたようだ。配置された小隊は全員バラバラだったんだが…


(こんな偶然もあるんだねぇ…)


苦笑いを浮かべていると、背後から別の男が


「クソがっ!」


と怒鳴りながら私の頭を蹴り飛ばす…


「がっ…」


首が捥げるかと思うような衝撃が走り…バウンドしながらヒナから離れる方向へと転がされる…


「くっ…受け身も取れないか弱い乙女に何たる仕打ち…」


「誰がか弱いだ!…ゴーレムの癖しやがって!!」


妹たちに危害が行かないよう大口を叩く。案の定、上を向いた胸や腹を蹴られるが…ゴーレムのこの身は人間が蹴るくらいなら問題は無い。彼らの帯びている鋼鉄の剣でも貫くことは無理なのは知っている…まぁ、頭部の目や口の中に差し込まれたら唯では済まないが…視覚センサーと発声器官が破損するだけだ…問題は…無い。


「ぐっ…うっ…」


蹴られる度に痛そうに呻き声を上げる演技をする。人間ならこう呻くだろうと思いつつだが…さて。


『そろそろ目覚めただろう?…いい加減演技をするのも疲れたんだが?』


念話で話し掛ける。誰に?…もう1人の妹にだよ…まぁ、無指向で放ったのでヒナも聞いてるとは思うけどね…


『…面倒臭い』


一言。面倒臭がり屋が放つ。そして…



- コードネーム創造番号ヒロ16」覚醒す -


「ヒロって何か男みたいな名前だよねぇ」


ヒナが笑いながら突っ込む。


「どーせならヒイロ(116)のが良かった」


あたしも苦笑いしつつ返事をする。


「それじゃ100番も製造番号増えてるじゃん!w」


イコが突っ込みながら笑う…


そんな昔…という程過去じゃないけど…他愛も無い会話を思い出す。ま、そんなこと過去の話より、今をどーにかしないと、な…


「はぁ…面倒臭い」


両手の指を伸ばし、その伸ばした指の全ての爪が伸長して鋭いブレード状になる。全ての警備ゴーレムに仕込まれた隠し武器の1つ。あたしにはこの爪ブレードがそれに当たるらしい。ヒナは緊急時に誰よりも早く覚醒する機能が。イコは…聞いてないので知らないけど…まぁ何かあるんじゃないかな?


ぶんっ…


両腕を振り払うと…2人の男が聞くもうざい絶叫を上げる…


「「うぎゃあああああっっ!?」」


すっぱりと切断された2人の男と、持っていた鋼鉄製の剣がぽろぽろと切り刻まれ、落ちる。


がららぁ~~んっ…


勿論、ヒナの腕は無事だよ?…妹の腕を切り落とすなんてやる訳ないし。


「さ、ヒナ。汚れるからこっちへ」


片手の爪ブレードを収納してからそちらの腕でヒナを抱えて絶叫しまくる男たちから距離を取る。もう1人の男はイコを蹴ることに夢中でこちらを…あ、流石に絶叫を聞いてこっちに気付いたか…ちぃっ…もうちょっとイコに食い付いていればいいのに…(姉と妹の扱いの差が激し過ぎw)


「貴様ぁっ!?」


「はん…イコ姉さんにもう少し食い付いてればいいのに!」


「ちょっ!…ヒロ、酷いっ!…お姉ちゃんはね、あんたたちのことを想って…」


「はいはい、それについては後でじっくりとね?」


「お前らに後がある訳なかろう!」


面倒臭くなったので…男の足をすぱんと切り飛ばす。


「ぎゃああああああっっっ!!!」


これで2人の男たちは両腕を失い、1人の男の両足を失った。追手はこれでマイナス3人…と。後は…外で暴れてる兵士?…たちだけど。


「救出しに来てくれたのかな?…まさか、だよね。こんな下っ端3人に出す人的余裕なんて…」


「…はぁ疲れた。マスターなら出してくれると思うけどなぁ?」


「あ、ヒナ。無事?…でもないか」


左腕を見れば表皮が削れて素体が見えてしまっている。人間でいえば表皮が削れて筋肉組織が見えてるような深い傷だけど…ね。ゴーレムなので後で修復すれば問題は無い筈。


「ううん、大丈夫。マスターに処置して貰えれば傷なんて綺麗に消える筈だし!」


おつむがやや能天気な妹がそんな歯が浮くような台詞を吐いて…まぁ外の状況は見えてる筈なんで安心してるんだろうな。


「…で、イコ姉さんは無事?」


「ヒナとの差が…酷くないっ!?」


「無事のようね。じゃあさっさと此処を出ましょう?」


「ヒロぉ~っ!?」


泣いているイコスルー無視して、あたしヒロはドアをスパンスパンと爪ブレードで切り刻み…外へ出た。勿論3人でだ。



- 大商人の倉庫へ潜入したユグたち -


「!…捕らわれた味方の再起動信号を受信しました!!」


サリーが足を止めてこちらを見る。指を指し示した場所は…名前は知らないけど大きい宮殿のような建物が少し離れた場所に見える。入り口からは離れてるので門番も居ないのが幸いした。指を指し示された方を見ると…


「倉庫?」


ずっと続いている壁からやや頭を出した建物は倉庫らしい景観を見せている。飾り気が無い少し大きめの…丁度拉致してきた人間やゴーレムを連れ込んでも外にはその存在を漏らしそうもない…


「怪しいわね…」


思わず呟いたその台詞に、


「本当ね…ちょっと見て来るから待ってて!」


と、シャーリーが壁を乗り越えて様子を探りに飛んでった。


(本当、便利よね…シャーリーの存在は)


索敵、探索、失せモノ探しには便利な存在だ。その上、ある程度の戦闘力もあるという。


…そんなことを考えていたら、シャーリーが戻って来た。


「どうだった?」


「怪しいなんて物じゃなかったよ?…行方不明ロストしてたナンバーの警備ゴーレムが3体。全員奥の部屋に監禁されてた。今、1体が再起動して交戦中みたい。急がないと…」


そこまで聞いた途端、ユグちゃんが壁を破壊して突入してった…ってマジィッ!?


「ちょちょちょっ!!」


とどもってる合間に壁に突入したユグちゃんは、今度は倉庫の建物の壁を破壊して突撃してったようで…


「ケリー!急いで追いかけるよ!?」


と、サリーが怒鳴って後を追いかける。


「ちょっ!ユグ!待って!!」


と、シャーリーがサリーの後を追いかける。


「あわわわわ…ど、どうすれば…」


危険地帯に突入する場合は退路の確保も大事な仕事だ。仕方なく倉庫まで移動して中の状況を確認した後、外の壁まで戻って退路の確保を…


『こちらケリー、本部、どうぞ!』


いや、いつ本部ができたって話だけど…


『はいこちら本部。どしたぁ?』


マスターがノッてくれた。


『現在、とある大商人の…名前は知らないんですが…倉庫前です』


『…んで?』


『サリーがゴーレムの再起動信号を受信したんですが、それをユグちゃんが聞いて突入しちゃいまして…』


『…は?』


『取り敢えず、私は退路を確保して外の壁で待機中です。残り3名は中に突入して…恐らくですが交戦中かと』


暫く無言でしたが、苦り切った声色で、


『…わかった。全員無事に戻って来い。必ずな?』


と、マスターは私たちの無事だけを言い渡すのだった。すいません、思ったように行動できなくて…ハァ。


━━━━━━━━━━━━━━━

一番年若い(といっても年齢差が1年も無いのだが…)ユグが余り考え無く突っ込んでったのは…仲間がされると思ってしまったが故の暴走でしょう…


備考:いつものペースで簡単に書いてると、多分10数行くらいの文量だと思うけども(苦笑)

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