67 その24 ~ドライールドで彷徨う その3~

ドライールドに隠された地下道があった。それは…死体が白骨化する程の昔に人の手で造られた代物だった!

地下道はほぼ真っ直ぐに海に向けて構築されており、恐らくは海の水を引こうと考えられていたものなのだろう…

途中、白骨化した死体を発見したザックは丁重に弔い…そして開けられた地下道のどん詰まりに辿り着く。

そして…結局は生活魔法のごり押しで海まで地下道を開通させてしまうのだった…

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- 開通したら流れてくるよね… -


「…ん?」


何か音が聞こえてくる…と、耳を澄ませば。


「何か流れるような音が聞こえるような…」


そんなことをしていると、ユグが指差し叫ぶ。


「兄さま!あれ!!」


見てみるが…戦闘特化型ゴーレムのユグの視力は人間を凌駕する。ましてや、まだ外の光も見えない程には遠いのだ。周辺数mしか照らさない「ライト明かり」では見える筈も無く…


〈…水量は大したことはありませんが。このまま放置しておくと地下道の入り口…ドライールド側で問題が発生するのでは?〉


というルドランの突っ込みに


「あ…そういえば」


と、事態に気付いたザックは…一旦入り口まで戻ることにしたのだった。



- ドライールド・地下道入り口付近(地下道内) -


「…さて」


全員が転移で移動していることを確認した後、どうするか考える。


「取り敢えず…海水のままじゃ塩辛くて飲めないどころか」


〈健康被害が考えられますね?〉


そう…海水はそのままでは塩辛くて飲めないどころか…腹を壊してしまう可能性がある。まずは真水にする必要があるが…


「塩って暑い国じゃ必需品だよな…」


〈ええ…人間は暑いと汗をかき、塩分を失います。補充は必須でしょう〉


何でゴーレムがそんなことに詳しいんだろう?…と思わないでもないが、今はそんなことを悠長に議論してる暇は無い。


「取り敢えず、塞き止める必要があるな…」


地下道の内側に、海水を塞き止める施設を…小型のダムを創るザック。大体100m×100mの広さ、深さ10m程のプールを掘る。いきなり10mのプールではなく、逆四角すいの坂状のプールだ。それから出口とは反対側に浄化装置を創造して設置する(一応、プールの周囲に人が通れる通路も設置しておいたので、そこを渡って通った)


「これは?」


「海水の浄水設備だ」


単純に浄水するだけなら時間は掛かるが沸騰させて水蒸気と化した水を冷やして結露させればいいのだが…それでは時間が掛かり過ぎる。依って、魔法的な設備で海水を水と塩とその他に分離する。プールに溜まるのは真水になった海水のみで…塩はザックのストレージに転送する設定にしてある。


(その他の成分は…まぁ海に還元すりゃいいかな?)


そのまま分解してもいいのだが。自然に還るというよりは消えてしまうに等しいので余り環境に宜しくないだろう…ということで圧縮したブロックにした後、海の取水路から離れた位置に転送するように調整した。


これらの動作に必要な魔力は海水に含まれたマナや周辺の砂…地上部分の砂に含まれたマナを利用するようにする。日中であれば陽の光から降り注ぐマナが取り放題であるし、余剰分は蓄積しておけばいい。この程度の魔導具なら極めて狭い部分のマナで十分稼働可能だからだ。


「塩を兄さまのストレージに転送?…してどうするんですか?」


「ん?…料理に使ったりかな…売ってもいいしね!」


「ふ~ん?」


矢張り、戦い以外には興味が無さそうだ…尤も、ゴーレムには人間の食事は不要だ。ユグの場合、魔力カプセルは一般のゴーレムより上等品が必要になる。普通の魔力カプセルではカロリー不足という訳だな…その代わり、1日に1つではなく、戦闘無しの日が続くなら…週に1つで十分だ。だが、一旦戦闘が始まったなら、1日に1つでも不安ではあったが…


〈レギュラーとハイオクの違いみたいなものでしょうか?〉


「ん?…何それ?」


〈あ、いえ…〉


偶にルドランは意味不明なことを口にするようで、こうして知らない言葉を漏らしている。


(一体何なのだろう?…レギュラーとかハイオクって…)


考えても不毛なので頭から追い出し、塞き止めていた海水を流すようにする。いや、先程からちょろちょろ海水が流れてきて…そろそろ流さないと塞き止めていた板から溢れるまで秒読みといった感じだからだ。


(中に居た時はわからなかったけど、海面の方がやや高いのだろうか?)


水量はそれ程無いように見えたが歩いて2日程掛かる距離なのにもう海水がこちらに届く所を見ると…海面が上、ドライールド側が下になるような坂道になっていたようだ。


(まぁ…水が砂面に吸われて損失が出ないように金属板ステンレスで覆ったのも大きいかな?)


そんなことを考えながら、ザックは浄水の魔導具を起動するのだった…



- 地下道の外・真水の供給口と溜め池と排水溝を設置する -


「さて…井戸の代替設備を創らないとな…」


まずは隠蔽の範囲を広げる。勝手に作って文句をいわれたり連行されては作業が中断してしまう。依って、誰にも見られないように作業をする必要がある。その他、勝手に作ったとして町の上の人間に見つかった場合…最悪、折角作ったこの場所が破壊されてしまう場合がある。


「ふぅ…こっちは僕だけじゃ何ともならないよな…」


仕方なく、先手を打てるようにとある策を考え…残してきた護衛ゴーレムたちの統括体トウカに伝える。取り敢えず、これで何とかなる筈…だと思いたいが。まぁ、ミランダ婦人の腕次第だろう。丸投げするようで心苦しいが…とザックは考え、流れてきた海水が浄水の魔導具を通って澄んだ真水になってプールに流れ込んで行く様子を見て満足そうに微笑み…


「じゃ、隠蔽の魔導具に手を加えて隠蔽範囲を拡大するか…」


と、出口へと向かうのだった。ユグ?…小鴨のように後ろをついて回ってるけど何か?(ルドランには出口の監視を任せたので出口で仁王立ちしてる筈…(苦笑))



「どう?」


〈今の所は侵入者は認められません〉


「そっか…」


〈何かありましたか?〉


「いや、今の所は順調だよ。これから、ここの隠蔽範囲を拡大して外に取水場と排水溝を創るから」


〈了承しました。では、隠蔽範囲を拡大の後…地下道の外で監視するように致します〉


「宜しく。隠蔽工作が終わったら知らせるね」


ルドランが頷き、ザックは出口の内側に設置した隠蔽の魔導具を前にしゃがみ込む。内部構造…魔方陣を魔眼で視て内部構造を把握する。そして気付く…隠蔽の魔導具の詳細情報が見えていることに。



【隠蔽の魔導具の解析結果】

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◎名 称:隠蔽の魔導棒インジビブルスティック

◎使用法:2本1対で使用する

◎備 考:1本でも使えるが2本使用することにより、より安定、且つ、広範囲を隠すことができる

◎詳 細:1本の場合は突き刺した部分の物体を隠蔽するが、2本を使用する場合は隠蔽対象を記憶させ、2本目は隠蔽する際の景色を記憶させて隠蔽範囲をその景色で埋めるようにする

◎その他:耐久値(019/100)、魔力(009/150)

---------------



簡易鑑定に比べて情報が多かった。ストレージの簡易鑑定では名前のみ判明から備考までわかる場合もあるが、この「解析」では詳細事項、その他(現在の耐久値/最大耐久値、現在の保有魔力/最大魔力)までが見通せていた。


(まさか…)


ふと、背中からザックが調べている魔導具を見詰めていたユグを見詰めると…



【ザックの妹「ユグ」の解析結果】

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◎名 称:ユグ(ザックの妹こと、攻撃特化型・護衛ゴーレム)

◎使用法:撫でて愛でて抱っこすると、より愛情度が高まる

◎備 考:機嫌を損ねても愛らしいが、いざという時に困ることも

◎詳 細:その他に表示されている各数値は見たままの物とそうでない物がある(詳細は別途)

◎その他:戦闘力(099/999)、魔力(781/999)、耐久値(998/999)、感情値(132/999)

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ちなみにレドランは一部文字化けしていて読めなかった(疑似オリハルコンの影響だろうか?)


隠蔽の魔導具に向き直し、ユグのその他に注目し…各数値を調べる。


・戦闘力…現在の戦闘力/最大戦闘力。現在値はその時に発揮している値。戦闘時には最大値まで発揮できるが、通常行動中は低くても問題無い(寧ろ、日常生活で物を破損させない為に低くなっている)

・魔 力…ゴーレムの保有魔力を示す。人間同様(人間は水と食料を摂取して腹を満たしているが)常時少しづつ魔力を消費して行動している。残存魔力が1割を割り込む前に魔力補充を推奨する

・耐久値…ゴーレムの耐久値を示す。耐久値再生デュラビリティ・リペアーでの耐久値回復は緊急時限定を推奨する。専用の修復用アイテム(通称、ゴーレム飯)を使用するとゆっくりだが最大値まで回復させることができる

・感情値…創造直後は100となる。最大値で999だが、50を下回ると関心が低くなり、30を下回ると嫌悪され、0で無関心となる。マイナスとなると姿を消すのでそこまで下がる前に感情値の上昇に心を砕く必要があるだろう。尚、100を超えている場合は愛情値と読み変えてもいいくらいに好かれている状況となるが…最大値となると別の意味で怖い状況となるので調整が必須…(誰しも「食べたいくらいに愛され」たくはないだろう?)


(何これコワイ!?)


ザックは、最後の感情値の詳細を読んで、ガクブルするのだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

ザック「ぼ、僕は何てモノをツクリダシテしまったんだ…!?」

※…と、独り戦慄していたとか何とか?w


備考:心の安定を得る為に、シャーリーを抱き枕にしてその胸に顔をうずめてたとかなんとかwww(シャーリー「マスターが毎晩求めて来て、毎日大変ナノー」レム「むむむ…!」)

※女難の相がパワーアップ?(だがそれはゴーレムだ!w)

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