68 その25 ~ドライールドで彷徨う その4~

砂漠の地下道を強引にごり押しで開通させ…穴が開通したら向こう側の海水が流れて来ることを考えてなかったザックは慌てて対応に追われることに…

取り敢えず溜め池ならず溜めプールを創り、海水を真水へと浄水する施設を創り、分離してできる塩は我がザックの懐へと…いや、それくらいの役得が無ければやってけないということだろう!

そんなことをやってる間に偶々使用した魔眼が進化?してとある能力に目覚める…「鑑定」の上位版である「解析」の能力に目覚めたのだ!…その能力は鑑定+αの情報を得られることにあったが…追加された情報に戦慄するザックであった!

━━━━━━━━━━━━━━━


- サンフィールド領サイド -


こんこん


「失礼します、ミランダ婦人」


「何かしら、トウカ?」


ものごっす、統括体はトウカで通されていた…ではなく、ザックから連絡のあった内容を書面に起こし、トウカ統括体はミランダ婦人の働いていた執務室へと訪れた。2人の仲は、ノックの後に許可を得なくても入室を許される程に良くなっているらしい…(別に百合百合しいという訳ではなく、信頼関係という意味で)


「少し待ってて頂戴ね?」


頷くトウカにミランダ婦人も頷くと立った席に再び着席する。


「…」


一通り目を通すと暫く頭の中で整理し、トウカに目を向けて話し出すミランダ婦人。


「これは…事実?」


「あ、はい…嘘は無かったと思いますが」


真っ直ぐ目を見据えて訊いて来るミランダ婦人に、右手の人差し指を頬に付けて軽く首を傾げながら、思い出しながら問いに答えるトウカ。


「そう…」


そして再び執務机に向き直り、何か書類を書き出すミランダ婦人。そして考えつつペンを走らせ…数分後には1枚の紙にとある文書を書き終えてトウカに差し出す。その文書は所々斜線で間違いを消していたが、内容はどうやらドライールド領へ届ける内容のようだ。


「これは…?」


「清書をお願い。後、ザックくんにも伝えておいてね?」


「…あ、はい」


この所、重要書類はトウカの書く字が丁寧な為…原文を婦人が書いてトウカが清書するというルーティンが成立していた。ミランダ婦人の書く字は下t…割と独特な為に、使用人たちにも解読(失礼w)…が難しかった為か、何度か訂正しただけでほぼ100%解析して清書できるトウカはミランダ婦人付きの清書係として超優秀だったのだ。さながら人型OCRという所か?w


(あ~…これまた大雑把にしか書いてないなぁ…)


渡された書類の原文を読んでみて、本当に要点しか書かれてない様を見て溜息を吐くトウカ。


「あの、ミランダ婦人…」


「また何か手落ちでもあった?」


といういつものやり取りの後、逐一指摘をしてはその部分の考えや何を意図として書いたかをミランダ婦人から引き出してはメモ書きを追加していく。そして草稿を同じ室内の最早トウカ専用と化した机で書き出し、通常の人間なら半日作業となりそうな文量の書類…ドライールドへの親書を作りだすのだった…。勿論、最終的には校正した文書を婦人の目を通してから仕上げるのだ。


最近は対外的な書類の字が丁寧になったという声が聞こえて来ているようでミランダ婦人もご機嫌だとか何とか…トウカがミランダ婦人の秘書染みた使われ方をしている為、トウカ自身がマスターであるザックの元に返して貰えるかどうか…不安気にしているという…(苦笑)



- ザックサイドへ再び舞台は戻る -


『マスター、今、宜しいですか?』


サンフィールドの統括体トウカから連絡が入る。ミランダ婦人に依頼した件だろう。


『あぁ…あれから1日経ったがどうなった?』


『取り急ぎ、これを…』


念話を通して視覚情報を…最終清書の前の段階と思われる、無地の紙に書き出された親書が数枚届けられる。そのまま脳内に維持は難しい為、ストレージに転送しておき、後で「紙面複写ペーパートランスファー」の応用で紙に移せばいいだろう。取り敢えず、イメージの状態で読み込み、


『…大体は理解した。この線でミランダ婦人からドライールドのお偉方に手配を願うんだな?』


『はい』


了承したと統括体に答えたザックは、少々遅い朝食を取り…部屋を出…ようとして腰に引っ付き虫のように抱き着いている物体を見て溜息を吐く。


「おーい…いつまで寝てんだ?」


「「うーん…、後50分…」」


桁が違う答えにチョップを両手でそのどたまに落とす。


ぺしぺしぃ~ん!


「「ちょっ!…、痛いっ!!」」


引っ付き虫1号と2号シャーリーとユグの泣き言を無視スルーし、抱き手が離れたことを幸いとしてすぐに立つザック。尚、床じゃなくてベッドの上での出来事であるw(食事は移動中に食べる簡素な携帯食をもそもそと…いや、引っ付き虫が邪魔をして室内のテーブルに移動できなかったし…)


「マスター、お腹減った!」


「はいはい…」


と、シャーリーに魔力カプセルを投げる。ユグはまだ眠たい顔をぐしぐしと目蓋を擦っていたが…出立の準備ができる頃にはシャンとしていたので大丈夫だろう。尚、ルドランは面倒を掛けるが念の為に昨日の地下道出口に陣取って貰っている。何か問題が発生すれば連絡があるのだが…


(今の所は大丈夫そうだな…)


特に連絡は無かったのでそう判断した。



「じゃ、行くぞ?」


「「は~い!」」


尚、此処にはレムは居ない。ドライールドの前線基t…否、作戦基t…でもないな。まぁ…長期滞在では宿を使うと唯でさえ減っている路銀が磨り潰されてしまう為に…安い土地を探して貰っているのだ。


宿の受付に念の為にもう1日延長を申請して鍵を返却する。


「お姉さんは朝早く出てったけど、何してるんだい?」


「え…と」


ザックはユグを見る。シャーリーはユグの頭の上に居るが姿は見えていない。


ねえさまは仕事があって出ていった」


ユグが代わりに答える。


「そ、そう…よく出来た妹さんだね?」


はっきり答えられなかったザックは…余り出来の良くない兄に見られたようだが…


「あ、はぁ…そう、ですね?」


と疑問形で答えるザックに対して注がれる視線には、やや呆れの色が見え、決定的となっていた(苦笑)



「あ~…そう怒るな。ユグ」


「そんなこといっても…」


「あはははw…まーユグちゃんブラコンにとってはマスターが下に見られるのが許せないんだよねぇ~?」


名前に含むものがあるが、まぁ正しい評価だろう。シャーリーは姿を消したままなので、2人に聞こえる程度の声量で喋くり散らかしていた。


「…」


黙り込むユグ。ザックは横に並んで歩き…頭をぽんぽんと撫でる。シャーリーは気を利かせてユグの頭から退いて…ザックの後頭部へ張り付いて、頭頂部に胸をのさっと乗せて肩車の体勢へ!(ユグの頭上に居る時は妖精サイズに小さくなっていたのに、わざわざザックの所に移動した時は元のサイズ身長50cmへと戻っていたのだった!w)


(お、重い…柔らかい…)


膝に掛かる重量と、頭頂部と後頭部と背中にある感触に思う所があるものの、努力してスルーし…落ち込むユグの頭を撫でたり背中を撫でたりしていたが、両方見えた場合…第3者から見たら唯のシスコンと変態というダブルパンチで沈む自信があるザックがそこに居た…(苦笑)



『ルドラン』


『マスター。今の所、異常はありません』


『あ、あぁ…ご苦労様』


『いえ…。監視を続行すれば宜しいですか?』


『あ、あぁ…悪いが頼む。こちらはレムの押さえてる土地を見て来る』


『了承致しました。お気をつけて…』


念話でのやり取りを終え、ザックはくだんの地下道から然程遠くない土地へと向かう。



「ここか?」


「みたいだねぇ~」


「…」


指定された土地…何も無い開けた空き地へと到着してザックが呟き、シャーリーは肯定して…ユグは敵が居ないかと周囲を見回していた。いや確かに敵地だけどこんな場所に待ち伏せは無いと思うよ?


「マスター!」


レムが現れる。土地の権利者と一緒に来ると思っていたが…


「ご苦労様、レム。ここ土地の所有者さんは?」


所有者の名前を聞いてなかったのでそんな聞き方になったが本人が居ないのでセーフだろう。


「あ、思ったより安かったので…その」


「買っちゃった?」


「あ…はい。ダメでしたでしょうか?」


「いや…渡したお金だけで足りたんなら」


問題無いと続けようとしたが…。見回した感じ、ドライールドの端のこの土地は少し離れた場所に他の建物があるが、外の砂漠と同様に不毛の大地に感じられる。早い話…


「あの砂漠との高低差が無かったら、まんま砂漠だな…この辺」


一応、防砂堤となるのであろう…崩れかけてはいるが堤防と見える壁が無ければ直接砂塵が吹き込んでもっと酷いこととなっていると思われる。だが、買い付けたこの土地は砂漠の砂でやや埋もれており、畑を作るにしても開墾は大変だろうし、家屋を建てるにしても地盤が砂では不安定な物となってしまうだろう。どちらにせよ、ある程度砂を排除してからとなる訳だが…


「まぁいいか。そんなことは関係無いしね」


という訳で、何故か横に長い土地の有効活用法を考える。最初は家が建つだけの狭い土地を確保できればいいだろうと考えていたのだが…


(風向きを考えると、成程…吹き込む砂をこの空き地で防いでいたという訳か…)


北東から南西に向けて斜めに数kmに渡って横たわるこの土地は、ドライールドの防砂堤となっていた。長径が数km…正確には測ってみないと不明だが、ざっと見た所では20kmはありそうだ。逆に短径は500m程で最初は砂を防ぐ為に木などを植えてたのだろうが…今は見る影もない。枯れた物が所々に砂に埋まっているのみだ。


(ふむ…町側に砂を防ぐ為の壁を建てて所々に給水所を創るといいかな?)


地下道改め、地下水道の出口にも創る予定ではあるが…この南北に長いドライールドに給水所を創る場合、1箇所だけでは遠方からでは大変だろう。だが、この土地を利用すれば…先に壁を創ってからならば怪しまれずに給水所を創ることが可能だ。


(これも、努力の結果…人より優れた生活魔法を使えるようになったお陰だな。有難う…生活魔法の神さま!)


すると、妙に圧を感じた。これは…


「あ、有難う御座います…生活魔法の神、「ドゥグオ=アム=タキゥス」さま!」


再び圧が…


「あ、あ、アムさま!」


すると、柔らかい光がザックへと注がれる。それは人の身でも視覚できる光であり、ドライールドでは遠くから見えたことに少しばかり、騒ぎになっていたそうだ…


━━━━━━━━━━━━━━━

シャーリー「いやそれ、どんだけ贔屓されてんの!?」

レム   「マスターだからこそ!」

ユグ   「母さま?」

※ユグにも光が注がれたとか何とか…(苦笑)


備考:土地の購買でレムに持たせた金貨とレムのへそくりが消失しました!w(そら面積に比べたら安いし使い道の無い土地なんでしょうけど…)

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