66 その23 ~ドライールドで彷徨う その2~

砂漠の国…サンセスタのいち領土…ドライールド。水不足に喘いでいる…と思いきや、訪れてみた所…それ程切羽詰まった様子は見られなかった。だが、上層部が領兵を派兵して宣戦布告する程度には…危機的状況なのだろう。領民には表立って知られてないだけで…

取り敢えず、サンフィールド領のミランダ婦人にドライールド領に行けといわれるが儘に訪れたザックたち。流石に単身敵中に突っ込む程愚かではない…警護ゴーレム4体とシャーリー、レムを連れてドライールドに来たザックだった

※尚、連れて来た警護ゴーレムたちは目立つ為にストレージに機能停止した状態で収納済みだ

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- 砂漠の地下道 -


〈では、先導致します〉


「…いや、こんな一本道で先導も何もなぁ…あ、いえ、お願いします」


ギロリ、と睨まれたのでボヤキを引っ込ませてお願いするザック。ユグの腰に収まった状態でじっとしてるのも嫌だったのだろうか?


(…まぁ、町中じゃこの恰好で歩き回るのは無理だろうし)


ルドラン(人型)は刀身の色そのままに光り輝く黄金色がやや薄まったようだ。金塊や金貨は派手に光を反射して目立つが、彼女は薄目で抑え気味の色合いに見える。まだ話し始めて間もないが…控え目な性格らしい彼女を反映してか、その輝きも控えめに見えていた。


じゃりじゃり…


静かに歩いてはいるが地面の砂地に足が擦れて足音が聞こえる。ユグは体重が軽い分、それ程聞こえないが…人型に変形したルドランは重量軽減が余り働いてないのか、そこそこ足跡が…否、足が砂地にめり込んでいるので相応の音が聞こえる。


「兄さまは足音…あんまし聞こえないね?」


ユグが不思議そうな顔をして訊いて来る。


「あ~…一応な」


何が一応なのか…単に足を追従して移動する遮音結界を張ってるだけだ…というのは嘘で、履いている靴にそういう機能を付与してるだけだ。普段は機能オフとしているが、このような特殊な位置では機能オンとしている…少なくとも、この基本性能がチートな存在に比べて脆弱な僕としては、なるべく敵と遭遇しないように対処しておくべきことなのだから…



「此処もか…」


地下道に砂が流れ込んで埋まっている地下道を前に溜息を吐くザック。取り敢えず壁や天井のヒビや穴を見て補修し、一応ヒビや穴を塞いだ後に流れ込んだ砂をストレージに収納…砂を加工して補修材に変換してから痛んだ箇所を…まぁ、通って来た壁・天井・床の殆どがその対象だったが…補強しながら進んで来た。最終的に海水を通す地下水道として利用する為、腐食に強い材質で覆いながら…という訳だ。


「敵、出ないね?兄さま」


「あ~、そうだな」


この好戦的な戦闘種族め…と思わないでもないが、見た目は可愛いユグだ。気付かれないように溜息を吐き、なでなでと頭を撫でる。そして短時間だけ撫でて先へと進む。怖いルドラン先生が睨んでいたからだ(苦笑)


「あ、もっと~…」


という欲求を振り切って歩くザックと遅れて付いて来るユグ。その遥か後方では…こちらを見詰める影があった…(謎)



- 地下水道・行き止まり -


「はぁ…疲れたな」


1昼夜が経過し、相当な距離…ドライールドから離れたと思われる。途中…何か所かの天井に、明らかに破損や経年劣化ではなく人の手で造られた穴が空いていたが…砂で埋まっており、「通気口」としての機能はしていなかった。恐らく、砂丘などで埋まってしまったのだろう。


休憩は取らなかったのかだって?…まぁ、夜間は宿に戻って(転移で近くまで移動してからだが)寝ていたけどな。起床したら部屋の中で食事を取った後、1日だけ宿泊を延長してから地下道へと転移したって訳だ(勿論昨夜転移前にマーキングした場所へとだ)



「ん~…この地下道が途中で終わった原因てこれだろうな…」


今、目の前に転がっている人骨を見て思う。原因は…通気口が塞がり、呼吸困難に陥り…要は窒息死だ。恐らく、途中で息苦しくなって来て…慌てて入り口へ戻ろうとして…此処で力尽き倒れてしまったのだろう。現地点は入り口から1日半は進んだ場所で、吸っても問題無い空気がある入り口付近までは少なくとも1日と少しは掛かる…


〈人種族に限らず、空気を必要とする種族は新鮮な空気を必要とします。この地下道には古びた空気が蔓延しています…。途中途中の通気口が埋まっていたのでは…〉


ルドランが沈痛そうな声色で白骨死体を見下ろしている。彼らは運が悪く、こうして死体を晒してしまう運命となってしまったが…


「そういえば兄さまは何故死んでないの?」


いやお前…死んで欲しいのかっ!?…という思考が脳裏を掠めたが、そういうことではないと思い、一瞬動揺したが…心を落ち着かせながら咳払いをしてから説明する。


「いやな?…こういうこともあろうかと!」


じゃじゃーんっ!…という効果音は奏でられないが…首にあるチョーカーを親指で差し示しながら、


「チョーカー型の新鮮な空気生成魔導具を用意してあったのさ!」


…と、通気口が埋まってたのに気付いた時に慌てて創造したことを隠してドヤ顔で説明するザック。


「おおう!…流石兄さま!!…抜かりないですね?」


と、お互いにバカ兄妹の如く笑い合ってたのだが…ルドランに生暖かい目で見守られていることに気付き、内心冷や汗を垂らしたのも内緒だ。尚、お揃いのチョーカーが欲しいとユグに強請られて…仕方なく、単なるチョーカーだと芸が無いので、各種耐性付きの見た目お揃いのチョーカーを創って渡すのだった…いや、


「付けられないので、付・け・て・♡…兄さま?」


と甘えられたので装着してやったんだけどね…(ルドランの視線が更に痛くなったのはいうまでも無かった!)



「はぁ…ここが終着点か」


あれから更に2時間程が経過し、地下道のどん詰まりに至った。


「これ、シャベル?」


〈こちらはスコップですね…〉


ルドランが人型になっていると自然な会話ができるんだなぁ…と思ってると、シャベルとスコップを拾った2人。だが、経年劣化…というよりは金属部分もボロボロなその2つの道具は、柄の部分が木製だったんだろう…持ち上げた途端に細かい塵となって取り落とし、辛うじて原型を留めていた金属部分も四散した…


「あちゃ…これじゃ耐久値再生デュラビリティ・リペアーでも無理だな…」


劣化し過ぎて最大耐久値そのものも減りまくっているに違いない。失敗した途端、存在そのものが消え失せてしまうだろう…というか、そんな未来しか見えない。


道具としては耐久値が高そうな道具類がそんな状況だ。持ち込んでいたであろう各種道具類などは…とうの昔に耐久値を失い、消え去っていてもおかしくなく…事実、この場には痕跡は残されてなかった。


「…ここからは任せてくれ…。先人たちよ」


死体…いや、骨だけしか残っていなかったが…は後方にあったのだが(放置しておくのも何なので殆どを横穴を開けて埋め、小さいながらお墓を創っておいた。勿論、海水を通す地下水道として利用するので、高い所にだけど…)黙祷して祈りを捧げ…そして魔法設定を構築する。


(穴の大きさ…この断面積と同等)


(穴の強度…今まで補強して来た物と同等)


(距離…海まで)


〈凡そ30kmとなります〉


(…さ、30kmと少しで)


何故脳裏でやってる設定項目がルドランに?…と思わなくないが設定を続けるザック。


ストレージから大容量魔石ラージマギバッテリーを取り出し、満タンまで魔力を吸収する。


「…善し。土操作アースクラフト!…からの、ディガホール穴掘り!、そして…アースウォール・デフアップ土壁硬化!!」


土操作アースクラフトで土属性魔法(生活魔法の土属性魔法)の効果を上げ、

ディガホール穴掘りで設定された穴を掘る。そして、

アースウォール・デフアップ土壁硬化で土の壁となっているこの地下水道の壁の強化を図る。


一応、「設定」で強化を図っているが、長年保たせるには必要だろう。そして最後に…


定着コーティング!!」


今まで通過していた土壁の表面を、道すがら採取した砂を物質変換・加工した耐腐食性物質ステンレスで薄く覆っていたのだが、同様の生活魔法で仕上げとして残りの土壁全てを覆ってしまう。


「うわぁ~…足付けたママなのに凄いね、この魔法!」


片足づつ上げては地面にまで覆われた金属質の床を見て不思議そうにするユグに、微笑ましいと笑みを浮かべたザックは、うんと頷くと…


「まぁ、そういうもんだからね。深く考えてもわからないことはわからないさ!」


「そうなんだ!…へぇ~…」


と、余り深く考えないで笑い合う。ルドランは何故か疲れた顔をしながらヤレヤレと溜息を吐いていたが…


━━━━━━━━━━━━━━━

果たして、入り口から余り深くない場所で見ていた視線の持ち主は?…そして人型になったルドランの突っ込みがさく裂するのはいつになるのだろうか?(ちょっ!)←既に嫌味っぽい視線は頂いておりますがっ!w


備考:地下道は半ばで最後まで生活魔法でごり押しで開通させてしまった!…後は向こうの様子を見てから…となるでSHOW!

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