52 その9 ~サンフィールドに往こう その9~

レムへの必死の説明で…何故かミランダ婦人に見られながら青春を謳歌する2人ザックとレム…何とか、レムの闇堕ちは回避されたようだ(いみふめ)

そして新たに浮上する町「ドライールド領」…砂漠の国「サンセスタ」の水不足に喘ぐ町の1つだ。それは「サンフィールド」と…恐らくは同規模の砂漠の町であり、別の領主が支配する町。「ハイマウンテン王国」の領地の1つである「マウンテリバー」とは余り交流は無い…が、時間を掛ければ行けないという訳ではない。

そのドライールドに所属する諜報部隊にサンフィールドの治水工事と貯水池の修繕・改良の方法が洩れてしまう…総勢6名の諜報部隊員…だが隊長はその中に居なかった…恐らくは得た情報を持って既にドライールドへと逃亡したのだろう。余り考えたくはないが…事態は思ったより遥かに重く圧し掛かって来るのだった…

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- 取り敢えず -


「取り敢えず、ザックくん」


「あ、はい。何でしょう?」


目と目が合うザックとミランダ婦人。数秒、何故かぢぃ…と見つめ合い、ふいっと目を逸らすザック。何か疾しいことしたんか?お?w


「マスター…」


レムの目がきつくなっている。そしてその頭上で「うぷぷ」と笑いを漏らすシャーリー。「面白くなって来たー!」…とでも思ってるんだろう。


「あ…ごめんね。これから…ひょっとしてドライールドに行って貯水池の工事とかするんじゃないか?…って思って、ね」


これからの動向次第だが、そうなる可能性は高いだろう…だからザックは、


「多分…そうなるかと思います。尤も、あちらに拉致されたら抵抗しますが…」


無理やり働かされるのは誰だって嫌なことだし、最悪…死ぬまで働かされるか、搾り切ったらポイっと捨てられるのがオチだ。そんな予想が立つのは…現在の身分が上げられる。後ろ盾も無い成人年齢には達しているが見た目子供のザックは平民だ。元辺境伯相当の身分ではあったが、探索者の資格すら剥奪されているのだ。盗賊に攫われたとしても、従者ゴーレム以外は殆どの人が知らんぷり…だろう…(考えていて悲しくなってきたザック)


「そう…なら、」


そこで一区切りを付けたミランダ婦人。すっくと立ちあがり…スタスタとザックの傍に歩み寄り、目線を合わせる為にしゃがむ。そして…再び(ザックにとっては再三)の「抱擁」を…その母性溢れる豊かな胸へと抱かれる。


「へ?え?」


目を白黒させたザックは抵抗できず、上擦った声を上げることしかできなかった!


「うちの子にならない?」


まさかのサンフィールド領主家への養子縁組のお誘いだった!


「え…」


そして小さく、


「まだ離縁された訳じゃないですし…」


と口籠るザック。確かに、村を自ら黙って出ただけで離縁された訳ではない。若しかすれば村長には死んだと報告が行ってるかも知れないが…確認しに行くのは怖かった。もし、本当にそんな報告が行っていた場合…この身は本当に誰からも必要とされてなかったと…確定してしまい、絶望が心を殺しかねないのだ…


「なら…今は仮の親子…ということにしましょう?…今は時間が無いですからね」


体を離した婦人はザックを暖かな目で見、そう言葉にした。ザックは


(何でこの人はこんなにも僕を暖かく包んでくれるんだろう…?)


と、疑問が沸く。確かに、後ろ盾になってくれれば…何かあった時に助かるのは確かだ。だが…人の言葉を鵜呑みにすれば待っているのは…地獄、かも知れない。2度も3度もあんな辛い目には遭いたくない…だが、かといってさっさと婦人を酷い人と切って捨てるのも…違う気がする。


「マスター…」


レムが辛そうにしているザックの表情を見、つい口から主人の呼び名を漏らす。そんなレムを優しい目で見た婦人が


「ザックくんの創ったゴーレム、かしら?」


「え、あ、はい…マスターに創造して頂きました…レム、と申します」


今更であるが、カーテシーの礼を取り、レムが自己紹介する。本当に今更ながら…ミランダ婦人とレムの初挨拶の一瞬であった!w(通常、お互いの部下は催促されなければ挨拶も名乗りもしないので当然ではあるが…)


「レムさんね?…お仕事は…護衛ガードメイドといった所かしら?」


実に惜しい…近接戦闘要撃職全般と使用人メイド職の兼任だ。平たくいえば従者なのだが…赤くなって照れてて舞い上がってるレムに水を注すのも何だ…と思って口を噤むザック。シャーリーが何かいいそうだったので念話テレパシーで釘を刺しておく。


「…はっ!?…あ、はい!…マスターの身の回りのお世話と御身を護ることこそ至上の命であります!」


(…おいおい、何処でそんな軍人口調を覚えた?)


舞い上がり過ぎてどこぞの軍人くんみたいな口調になってるが気が付いてないレム。そして苦笑いするザック。そんな2人を見てくすくすと微笑むミランダ婦人…ちなみに私兵たちは室内に1人を残して廊下では何やら忙しく走り回っている音が響いていた。廊下から私兵が入って来ては中の私兵に何かを話して伝え、必要があれば婦人にも伝えている。


(…何か外であったか?)


ザックは雰囲気の変わった領主の館の空気に表情を引き締める…が、ミランダ婦人が再び


「養子にならないか?」


…と訊いてきた。そういえばまだ返事をしていなかった、か…


「その…その申し出は有難いのですが…」


「ですが?」


語尾を濁している為に、オウム返しに訊き返す婦人。スパッと決められない為にイラついている…という訳ではないが、余り時間が無いのだろう。回答を急かすように訊いてきた。


「僕なんかを養子にしてくれるのは…その…望外の喜びとでもいいますか…でも、唯の平民の…いえ、以前は親からも嫌われていた村の子供、です」


そんな身分の子を…恐らく貴族であるサンフィールド領主の家族になんて…分不相応なんじゃないかと言外にいおうとするザック。だが、


「何だ…そんなことで悩んでいたのね?…バカね。あなたのような才能の塊の子を…役立たずといって放逐するような親の方が馬鹿なのよ?」


ミランダ婦人はそういって、再三ザックを母性の塊へと引き込み、抱擁する。ついにザックはボンッ!と小爆発を…要は気絶してしまった訳だが…鼻血を噴出させてw


「まっ…ますたぁ~っ!?」


レムも上擦った表情で駆け寄り、一緒に抱擁されて鼻から何かしらの体液を噴出させて一緒に仲良く気絶するのだった…なんだこいつらw


(まぁ…あんなでっかいパイオツに抱かれたのって初体験だろーしねーw)


と、姿を隠したまんまのシャーリーが、部屋の天井付近で眺めながら声を殺しつつ笑い転げていた。



- 急展開をするサンフィールド -


「何ぃっ!?…ドライールドの奴ら、諜報部隊員たちを返せだとぉっ!?」


「はっ…折角捕らえて尋問中だというのに…」


ミランダ婦人と養子になる予定のザックたち(何故かレムもその範疇に入れられていたw)をそっと置いて廊下に出た私兵のリーダーが小さく怒鳴る。


「くそっ…それはいつまでだ?」


「2~3日中…と来ています」


誰ともなく怒鳴り、壁を叩くリーダー。


「早い!…相手は補足できてない隊長か?」


「いえ…ドライールドの伝令兵…と名乗っていました」


「伝令兵、だと!?」


「…はい」


なるべく冷静に話す私兵だが、その額には冷や汗とわかるモノが流れている…恐らくはその背後にはドライールドの兵たちが待ち構えているのだと予想しているのだろう。その規模は不明だが…若しかすると今夜にでもサンフィールドを襲う…可能性はある。そう考えれば冷や汗を掻いても何ら不思議ではない。


「わかった…まだ伝令兵は居るのか?」


「はっ…返事を持って帰るとのことでしたので…外で待機しています」


「…」


リーダーは応接室のドアを見る。若しかすると…と思い、入室の許可を求める為にドアをノックする。


こんこん・ここん


「何か?」


緊急を要する時の変則の合図をノックする。


「緊急事態です」


一応、規則なのでいきなり中へ入らず要件を簡潔に述べる。


「…入りなさい」


「はっ!」


がちゃ…


やや考えた時間が空き、許可が出たので静かにドアを開けて入る。1分1秒でも惜しいのだが規則は規則だ。


「何がありましたか?」


「実は…」


ザックの問いに、先程得た情報を述べるリーダー。ドアの外には先程の部下の私兵が待機している。万一間違った情報を伝えた時の為に残ってる訳だが…間違いなく伝え終えたようだ。後は外に伝える内容があればすぐに動けるように待機している。そして…


「それって…まだ未確認、なんですよね?」


「そう、だな」


未確認とは、敵兵と思われるドライールド兵の数…規模と何処に展開しているかなどの情報だ。下手に刺激するとすぐさまサンフィールドに侵入して何かしでかすとも限らず…刺激しない為にも領主の館側からは何も手出ししていない…ということだろう。兵として行動してるなら揃いの鎧姿かも知れないのでまだ町中には入って来てない可能性もあるが。何故か?…それは


・許可も得ずに他領で軍事行動をすることは侵略行動になる可能性が高い

 ※単に移動するだけでも軍事行動と見られる可能性がある


…という訳だ。マウンテリバーでは魔族の侵略があり、


(人間同士で何をやってんだか…)


とザックは思わなくもないが、此処は砂漠の国。水の有無が生死を左右する…ある意味極地だから仕方が無いだろう。


(まぁ…ひょっとすると、だけど。ここで恩を売っておけば…マウンテリバーで何かあった時に…力を貸してくれるかも知れない、よな?)


その場合、下手をすると転移魔方陣を設置する必要が出てくるかも知れないが…流石に要請をしてから辿り着くまで数箇月掛かる…となると、ホイホイと助けを求められないし力を貸してくれないかも知れない。問題は転移魔方陣の悪用だが…


(ま、普段は使えないようにロックしておいて、不純な考えを持ってる人が居たら転移できないようにしとけばいっかな?)


不純とは…当然「マウンテリバー」に対して悪意を持ってたり悪さをしに来ようとしてる人が居たら、だ。逆にそんな人はダンジョン下層にでも転送しちゃえばいいかも知れない。


酷ぇっ!


…と思うかも知れないが、そんな人間がマウンテリバーに「協力」に乗じて転移して来て…町中で悪さを働いた場合、そんなことをいってられないのだ。その人数だけ、無法者を腹の内に招いてしまうのだから…下手をすれば問答無用に侵略戦争を仕掛けられる可能性もある。サンフィールドの者がそんな悪意に染まった者だらけ…と考えるのも早計かも知れないが。軽々けいけいなのも問題だろう。


※そんなこと考えてるとか、ほんとに転生者じゃないのか?(違いますw)←生活魔法の神の加護により、単純に考えが回るのが早いのと状況を考慮して考えるようになってきた為


「あの…いいですか?」


「何かしら?」


ザックは探知魔法を発動して得た情報を先程鑑定結果を書いていた紙…の裏に書き出す。ペンは自分の物をストレージから取り出して使うことにした(置いてなかったので)



「こ、これは…」


「まぁ…サンフィールド領の周辺地図…と、これはドライールド領兵の配置図?」


縮尺は不明だが、頭の中に浮かんだ地図と光点をなぞりながら書いていく。流石に砂漠だらけで町の輪郭しかはっきりと描けなかったが…後は僅かに影を作り出している砂丘を描く。まるで空の上から眺めながら描いてるようなそのに驚きを隠せない面々。


「これは…至急、町中だけでも確認させろ!」


「はっ…はいっ!!」


どたどたと駆け出す私兵部下たち。何故複数人居るかというと、廊下で応接室の中の騒ぎを聞きつけて中に入って来た者が数人いた訳だが(苦笑)…尚、最初に描いていたサンフィールドの町中の地図を持って行かせている。流石に記憶だけでは途中で薄れてしまう可能性があるからだ。


「…まさか、私服姿で紛れ込んでいるとは…」


その地図には光点の●とどんな服装をしているか…簡単にだが説明が添えてあったのだ。それはいつの間にか部屋から消えていたシャーリーの情報からだ。仕事が早い子は後で一杯褒めて貰えるだろう!w


『えへへ~…後で一杯頭撫でてね?マスター♪』


『はいはい…』


既に疲れ切ったザックは、今夜はベッドの中で頭撫で撫での刑かな(ザックにとって)と心の中でぐったりとするのだった…(苦笑)(一部の業界(何処だよw)ではご褒美ですか、そうですか…)


━━━━━━━━━━━━━━━

レム   「私は?」

ザック  「対外的にNGだからダメ!」

レム   「何故DEATHかっ!?」

シャーリー「ふっふっふっ…You Lose!」

ザック  「お前もロ●コン扱いされるから本当ならダメなんだぞ?」

シャーリー「Oh!No!?」

※楽しそうだな、おまいら…(苦笑)


備考:打算的な考えにより、サンフィールドに力を貸そうかなと考えが偏ったザック。決してミランダ婦人の母性の塊に心を売った訳では…ない!www(婆専でも無いよ?w←アニメ絵だと多分若々しく描かれると思われw)

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