36 その19 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その19~

恐らくは走馬灯が目の前に映っていたかも知れないマロンたちの目前でその攻撃を防ぎ切ったザック。そして神託を受け、加護を与えられ、本人だけでなく仲間と認められたマロンとゴーレムたちをも回復治癒される。だが、本能的に敵わないと悟ってしまうマロン。ゴーレムたちにはそのようなモノはないが、彼我の戦力差は悟っているようで進んで戦いに参加しようとはしなかった。

ザックは自分以外の者を下がらせ、タイマンしなくてはと決意する…律儀に話し合いが終わるまで待っていたネームド悪魔「カ・レン」…果たして、ザックに勝てる見込みはあるのだろうか?

━━━━━━━━━━━━━━━


- 突然の戦闘終了…だが、 -


「マスター!?」


絶叫するシャーリー。レムは無言で駆け寄り、ザックを左腕で抱き上げ、血で汚れるのも構わずに両腕の傷口を右手で交互に見る。


「シャーリー、ポーションを!」


有無をいわさずに支給されているポーションを寄越せと静かに叫ぶ。


「うぇ…あああ、はいはいはい!」


支給されているアイテムボックスの中身を見て、慌てて取り出すシャーリー。勢いあまって2~3本が零れ落ちるが、パパ!とその内の2本を指の間でキャッチして口で栓を排除して傷口にぶっかけるレム。


しゅおおおお…


みるみる内に傷口は塞がるが…腕先が生える訳ではない。流石に高品質なポーションといえど、傷は埋めるが再生する訳ではないのだ。


「もう2本頼むわ…」


「お、おう!…っとっとっと…はいこれ!」


零れた内の数本の内、無事な2本を両腕に抱えて目の前に来るシャーリーに「ありがと」と応えて受け取るレム。いつの間にか現れたナルとナル部下たちが気付けば野戦病院みたいにテントを構築していた。レムはもう2本を両腕に掛け流し、何とか皮膚が張ってはいるが塞がった状態になり、ナル部下に促されてお姫様抱っこでテントの中へ…



野戦病…もとい、テントの中はお通夜状態であった。用意された簡易ベッドに寝かされたザックを従者ゴーレムたちがほぼ全員で見守っていた。流石に輸血などの医療技術は存在しない為、造血作用のある食べ物や薬を用意されたはいいが肝心のザック本人が目覚めないのだ。輸血や投薬の為の点滴なども存在しないので経口投与か食べることで体内に入れないと効き目がないということに…


「どうしよう…全然目が覚めないよ…」


「このままだと…」


シャーリーがザックを見ながらおろおろし、レムが死にそうな顔をしながらマスターであるザックの容態を心配する。


「…わかりました。お通しして」


「はっ…」


そんな2人の従者ゴーレムの後ろでナルが部下ゴーレムの報告を聞き、ここへ通せと命令していた。


「…誰か来たの?」


「…?」


シャーリーとレムが不振げな顔をしてナルを見る。そこへ案内されて来たのは…


「「神官長?」」


ハモりながらその役職名を呟く2人に構わず、神官長と呼ばれた壮年の男性は軽く頭を下げて入って来た。


「辺境伯?さま…が大怪我をしたと聞きましたのでな…」


正式な役職というか爵位は与えられてない為、仮の爵位名を口にして神官長がテントに入って来た。その後ろからもぞろぞろと神官やシスターたちが数名だが続いて入って来た…そしてザックの様子を見て、大いに驚く神官長たち。


「なっ…何ということだ…おい!」


「「「はっ!」」」


テントの中はにわかに慌ただしくなり、従者ゴーレムたちはテントの外へと追い出されて手持ち豚さん…ではなく、手持ち無沙汰ぶさたになるのだった…



- 神の加護が足枷に… -


『むぅ…おかしい。何故敗北を…』


ゴ=デルッサ=ポウは悩んでいた。可能な限りの加護を与えたつもりだったのに、あっさり破られてしまった。与えた加護は3つ。身体能力の向上。防護の殻。そして魔力の底上げだ…


(身体能力の向上は…問題は無かったな。まぁ…加護を与えた前後で変化が余り見られなかったが…)


そして次なる加護を考える。防護の殻…要は透明な結界のことだが…


(防護の殻…も、問題は無かったと思うが。あの悪魔の攻撃は全部防いでいたしな…)


光弾を全て防ぎ切っていた。だが…流石悪魔の所業だ。狙いをずらし、定めた先には彼の守護している人間たちの住む町に変えていた…そして。


(ふむ…町を守ろうとして。防護の殻に使われていた神力を…移動力に加えて加速…成程)


だが、彼の悪魔の…見た目は全力に見えるが、少し力を籠めただけの…魔力弾を防ぐので手一杯だった。それもそうだろう…彼はまだ子供だ。魔力は人並みよりは多いようだが。まだまだこれから伸びるのは間違いない。だからこそ、目を掛けているのだが…


(結果として、両腕を失った訳だが…ふむ?…いつぞやかの神官たちが治療を施すのか…後遺症が出ても面白くないな…)


流石に創造神の奥方から目を付けられるのも面白くないと、ゴ=デルッサ=ポウは少しだけ手助けをすることにした。何、失敗する確率を限りなく下げるだけだ。それだけでも後遺症の発生する確率は限りなく下がる。


『む…これ以上は無理か。時間だな…』


彼の神が下界へ留まれる時間が来ていた。それ以上は神力の消耗が激しくなり…神界に戻れなくなる可能性がある為だ(そんな訳で通常は神託という形で意思の伝達だけをする神が殆どとなる。神の位階が低い場合は、それすらも数年から数10年に1回しか神託を下せない…という神も少なくない)特に、山と水を司る神である彼はそれなりの神力を有していたが、ザックに与えた加護の力で消耗していた為に下界に留まる時間が減っていたのも大きいだろう…


『ではな…。何、運がいい彼のことだ。命を落とすことはないだろう…』


彼の神は下界から去り、ザックにはとある加護が授けられる。特に強力な加護ではないが、あればあったで心強いものだろう…その名は


『いや、特に名は無いがな?』


…だそうだ(何だよ…期待させといて!w)



- ザックvs大悪魔…をやらかしてる間のマウンテリバーサイド -


「うわああ…なんだよ、あれ…」


「辺境伯?…子供があんなのと…マジか…」


「信じられねぇ…」


遠巻きに見ていた冒険者たちの言葉だ。マロンたちが襲われている際に既に遠くへと退去していた彼らだが…隙があれば矢でも撃ち込もうと待機していたのだがそんな隙は全く見つけられず、更に視界ギリギリまで退却せざるを得なかった…


そして、マロンたちにトドメとばかり彼の悪魔が攻撃を仕掛けた瞬間。辺境伯…いや、ザックが割り込んで防いでいた。彼ら冒険者たちの目にはいきなり現れ、土壁を瞬時に出して防いだ…と、とても人間わざではないように見えたが然して重要ではないだろう…多分。そのような考えが浮かぶ前に土壁は砕かれ、だが悪魔の指先から発射された光の弾を次々と弾く見えない壁。一体どのような魔法なのか…そちらに興味が引かれた途端、悪魔の腕がこちらに向いたのだ!


「ずげえっ!…辺境伯さまの攻撃が無駄とわかった途端、これかいっ!?」


「やべえ…」


「「「逃げろ!!!」」」


悪魔の手の平にどでかい魔力光が生まれる…なんて確認するより、兎に角逃げ出す冒険者たち。背を向けて走ってるのに目前に生まれる影がその威力を物語っている。太陽の光から生まれた影なんてその光で掻き消えてしまってるのだ。当たれば…当たってしまえば体が残ってるかどうかも怪しい…そんなことが容易に想像できてしまう為に恐怖で埋め尽くされた頭は、体を必死に動かして致死の光から逃げろと命令してくるのだ。



ずどおおんんっっ!!



果たして、致死の光が放たれ…マウンテリバーがその光に蹂躙されるには至らなかったが。



ぐしゃ…



やや小さな、だが、確かな骨を砕く音が響き…



「がああああああっっっ!!」



子供の声とも思えない、苦悶する大声で皆の足はピタっと止まっていた。そして…



どさ…



子供が倒れる音。



「マスター!?」



絶叫するシャーリーの甲高い声が響き…



もう、その後は何が起こってるかはわかっているが記憶に残っていない。殆どの冒険者たちは恐怖に支配され…


ある者はもう残っていない定宿に逃げ帰り(無くなっていることに辿り着いてから気付いて立ち尽くす、或いはがっくりと膝から落ちたり…)


ある者は冒険者ギルドに戻って報告をするが、戦える者は全員同じ場所に来ていて何もできずに逃げ戻ったことに気付いて頭を抱え、


そして全員、体を張って町を守った英雄を置いて逃げ出して来たことに気付き…


永遠に拭え切れない負の感情にどっぷりと漬かりきっていることに気付くのであった。


━━━━━━━━━━━━━━━

ザックの両腕欠損。再生できる程の上級回復魔法を行使するには準備が必須なのだが、肝心の儀式用空間がモンスタースタンピードにより破壊されてるっていう…!!

そして大悪魔「カ・レン」の登場で、とてもではないが(普通の)人間が相手にできない状況に!…果たして、応援が駆け付けるまで耐えられるのだろうかっ!?…うん、普通に無理w(まてっ!)


備考:本人が目覚めればストレージから回復薬を取り出して…腕が無いですやん!(をひっ!)

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