幕間
37 その1 ~ザックの臨死体験 その1~
ザック死す…な訳ではないが、倒れ、意識を失った死に体のザックは寝ているだけの子供と大差は無い。寝ているだけの子供と違うのは…代えのきかない貴重な高度な属性魔法使い、辺境伯相当の爵位を授与された責任者、様々な困難を乗り越えた探索者(一部、冒険者と認識している者も居るが…)などなど…一言ではいい現せないということには違いない。
回復薬を投与され治療を施されて傷は塞がり、取り敢えずは危機を脱したかのように見えるが、未だ意識は戻らずにうなされている所を見ると…まだ危機を脱してないようにも思える。果たして、ザックの意識は、心は…戻ってくるのだろうか?
━━━━━━━━━━━━━━━
- よくある白い空間での出来事… -
〈ザック…〉
「…」
〈ザック…〉
「…んん?」
誰かに呼ばれた気がする。
〈ザック…〉
「…」
目をゆっくりと見開き、だが視界はぼやけてはっきりと見ることはできない。
〈ザック…〉
「…誰?」
〈お宝ザックザク………ぷっ〉
「…をひ」
急な物欲塗れな台詞に、一気に現実に引き戻されたというか…儚そうな幻想的な雰囲気がぶち壊される。
「…つーか、目が見えないのは相変わらずか」
確か、義眼を入れて魔眼に置換されて視界だけは元に戻った筈なのに…
「でも、腕はあるな…関節を砕かれて失ったと思ったんだけど…」
現代医学を知っていれば腕があると勘違いしてるだけ…その時に感じる痛みは「幻肢痛」というんだと知っているかも知れないが、残念ながらここは異世界で現代医学などは存在しない。極めて原始的な医療技術があるのみだ。医療技術が進んでいないのは、魔法で回復できてしまう故のデメリットだが…今はそのような議論は不要だしする者も居ないのでスルーしよう…
「…声が止んだな。一体何だったんだ?」
相変わらず視界はNOT 良好な状況だが、明暗くらいは把握できている。視力を失う直前の明暗だけ判別できる状況な訳だが…目を凝らしてもそれ以上は判別できないことに嘆息するザック。そして不意に…
〈ちょお~っと、動かないでいてね?〉
と、頭・両肩・両腕・腰・両足をガッシリと掴まれて動けなくなってしまう。掴んでいる腕?…は背後から伸ばされているらしく、体の前面からの圧力は1人だけだ。先程から語り掛けている本人の
ぐりぃっ…
いきなり眼球が掴まれる。そして、
すぽぉぉぉんんんっ!!!×2
掴まれた瞬間に痛みは感じたが、すぐに消え失せ…両目が一気に引っこ抜かれる。思わず笑っちゃうようなコミカルな音と共に…
「なっ!?」
声は出せるが体は動かせない。軽く掴まれているだけのように感じられるが、それとは別の力で固定されているように…そして、
ぎゅむぅ~!!×2
と、何も無くなったであろう
「痛でででで!!??」
今度は脳みそを貫くような激痛が走る!…それはもう、脳みそに手を突っ込まれてぐちゃぐちゃにかき回されるような…(※脳そのものには痛覚はありませぬw)
〈ほ…。どうかしら?…見えるようになったと思うのだけれど?〉
不思議な声が再び聞こえてきた。矢張り、目の前からこちらを覗き込んで喋ってるような…感覚的には物凄く近い場所から耳をくすぐるような母性溢れる声色で…
(…優しい母さんみたいな声だな。まぁ…うちの母さんはこんなに可愛い母性溢れる声じゃあなかったけど…)
最後の「お宝ザックザク」はスルーすることにしたらしいw
〈おかしいわね…反応が無い。失敗?…不味いわ………〉
無反応でいたら心配を掛けてしまったようだ。ザックはゆっくりと顔を上げて…
「近っ!?」
目に入ったのは…いや、視界に入ったのはドアップの女性らしき顔の一部だった。正確には目と目が触れ合いそうな距離だったのだが…
〈あら…見えたかしら?〉
天然らしき女性がこちらが慌てふためいてることにも意に介さず訊いてくる。
「あ…はい!見えてます!…見えてますから…」
と、顔が真っ赤になりながらザックは顔を背けよう…とするががっちり固定されてるので横を向けられなかった。さっきは下を向けられたのに、何故!?
〈あ…良かった。間違えたお目目を入れたかと…んんっ…何でもないわ?…なんでも…〉
目の前の女性が、怖いことをいってから何でもないと左右に顔を振る。少しだけ離れてくれたので胸から上の様子がようやくわかる。
銀髪でロングヘアでサラサラで…
明るい透き通るような緑色の目で…
透き通る程に綺麗な肌で…
純白の綺麗な衣服で(全身が見えないのでよくわかんない)…
耳が長くて横にツンと伸びていて…
(え?…耳が長い?…エルフさんかな?)
〈いいえ、ハイエルフですよ…元、だけどね?〉
(あれ…僕、声出してた?)
いきなりの意思疎通に慌てるザック。だが、声には出しておらず、相手を見て思っていただけだが…
〈大丈夫ですよ?…内緒話は聞こえて来ませんから!〉
信用していいのか…だが、相手に向かって思ったことは駄々洩れな気がする。
「えと…助けて頂いて…ありがとう?…ございます」
相変わらず体はガッチリと固定されていたが、首肯だけは許可されたのか首を縦に振ることはできた。体の方は固定されているので首から上だけなので余り礼儀がなってない気がするが…仕方が無いだろう。
〈いえいえ~…可愛いわたくしの使徒さんの危機でしたしね?…それにお目目も毒されてましたからぁ~…ちゃちゃっと交換しておきましたよぉ~?〉
(毒されて?…一応、義眼に交換した後に魔眼になってたから視界には困ってなかったんだけど…何か不具合があったのかな?)
そんな風に考えていると、目の前のハイエルフの女性は真剣な顔つきになり、真正面から鼻先をくっつける程にずずい!と詰め寄って来たw
〈貴方の目は…魂のレベルで毒されていました!…放置していれば肉体に害を及ばすどころか…魂全てが毒されて…最終的には魂レベルで腐り落ち…輪廻の輪から外れ…転生もできずに存在が消え失せてしまうのですよ?〉
まさかの存在消失のレベルでの問題だった!…主原因のサクヤさんがどういう処分を受けるか少しだけ気になったが…
〈あぁ…そんな者も居ましたね…〉
途端、氷を背中に突っ込まれたかのように背筋に悪寒が走る。
〈一応、念の為、生前の行いを鑑みてみたのですが…放置。…ということになりましたので…〉
そこで思考が漏れてくる。何をいってるのか理解し辛い単語が多かったのだが…結果だけを…理解できる範囲でだが…既に死去しているらしい。
〈見ますか?…余り見て楽しいモノではないですが…〉
ザックは、流石にお世話になった人の遺体を見る気分になれず、
「あ、いえ…結構…あ、いや。見たくないです…」
と、きっぱりと断った。「結構です」を肯定と捉えられたことが以前あったので、断る時にははっきりと断るという癖が発揮された瞬間であるw
〈そうですか。まぁ、無残な食い荒らされた死体だったので見ていて面白くはないですものね…〉
(うわぁ…)
聞きたくなかったヒロインその2の無残な最期と状況を聞かされて、ザックは目を伏せる。が、嫌でもその状況を想像してしまい…だが、吐くことは無かった。何故なら…
「!?…ひょっとして」
自身の身体を見ようと視線を左右に、そして下へと泳がすと、そこには…
〈ご名答!…使徒くんは現在霊魂の状態なのですよぉ~?〉
ザックは、現在幽霊と同様の状態だったのだった。正確には幽霊よりもより純粋な霊体である剥き出しの魂の状態なのだが…(どう違うのかはよくわかりませぬw)
・
・
〈え~っと…〉
幽霊…つまり魂だけの存在だといわれ、混乱して泣き出したザックを宥めるのに時間が掛かり、ようやく落ち着いた所で…ハイエルフ改め、生活魔法の神さまである「ドゥグオ=アム=タキゥス」その
「ぐす…えっと…創造神様の奥様?」
びきぃっ!…と額に怒マークが浮かび上がり、無理やり抑え込む女神さま。
〈あら、おほほほほ…えっと、それはないないしてね?…使徒くん?〉
「え、あ、はい…」
触れてはならないモノだったらしい…
〈そんなディープな情報を知ってるってことは…わたくしの本名も?〉
「え…えぇ、まぁ…確か、「ドゥグオ=アム=タキゥス」と…」
ぱたぱたと手扇で意味があるかどうか知らないが扇いでいる女神さまは、「よし!」と意気込み、
〈わたくしのことは、「アム」と呼んでいいわ。勿論、敬称略で!…といいたいけど、下々の者はそうもいかないわよね…〉
気さくな性格なのか、使徒(ってなんだろ?)だからなのか、ザックにはかなりフランクに接してくる女神さま。先程のサクヤに対する態度と比べると雲泥の差があると感じるザック。
「あ…はい。では「アムさま」と…」
うーん…と悩んでいた女神さまは
〈ま、それでいいわ。わたくしを祭る教会とか祭壇とかは1箇所しかないし、
聞けば、人類発祥の地にしか生活魔法の神さまを祭る神殿は別の大陸にしかないらしい。ザックは聞いたこともないその名にピンと来なかったが…エルフでも通常は殆ど見ないというのに、ハイエルフしか住んでない土地ということらしかった。
(それに汚らわしい地って…いや確かに。顔を押し付けられただけで目に入った土で目が腐りかけてたしな…土からして汚染されてるってことか…)
そんな土地で育った食べ物とか食肉動物は何で食べてもお腹を壊さないのか…と思ったが、
(そーいや食べ物を調理する前に聖別とかしてたな…あれは汚染された土地で育った食材の浄化が目的だったんだ…)
浄化とは毒や汚染、呪いなどを浄化して除外する儀式だ。通常は教会などで法外なお布施を払ってする行為だが、このマウンテリバーでは長年に渡って毎日のように行っている儀式なだけに、また、特定の汚染物質や呪いのみを対象にするだけなので、魔導具で対処できるようにコストダウン・コストカットが進んで一般人でも買える程に安価となったんだろう…
(流石に探索者ギルドの直営宿の裏庭では浄化はされてなかったみたいだけど…)
井戸から汲み上げる水は厨房で浄化はするだろうし、水生成魔導具には水浄化の回路も組み込んである。だが、裏庭の土地は手付かずだった…結果、顔面をめり込まされたザックは汚染物質が浸透して失明した訳だ。まさか、サクヤがあんなことをするとは思わなかったし、放置した結果、ああなるとは誰にも予想できなかったという訳だ。
「…で、アムさま」
〈…な、何かしら?〉
突如愛称で呼ばれ、ドギマギした女神さま。ザックが唯の使徒ならそんな態度にはならない筈だが…取り敢えずスルーするザック。
「僕は…生き返れるのでしょうか?」
此処に霊体で居る=死んだ…という図式しか思い浮かばないザック。だからこその質問であったが…
〈あ、あぁ~…大丈夫よ?…使徒くんは死んでないから。そうね…魂だけ引っこ抜いて此処に招待してるだけだから…あぁ、でも余り長い間此処にいると体が弱っちゃうか…〉
質問の回答で多少安堵したザックだったが、後半の台詞で「え゛…」と絶句する。それじゃ早い所下界…でいいのだろうか?…に返して貰わないと取り返しがつかなくなってしまうんじゃ…と物凄く心配した表情になる。
〈えっと…もう少し待っててね?…今、失った腕の修復をしているから!〉
「え…あぁ、そういえば両腕とも折られたんだっけ…」
痛いことは痛かったが、ショックの方が勝っていた為…ザック自身としては余り痛みを感じず、そのまま気絶してしまった訳だ。そして次に目覚めた瞬間、この
「あ…アムさま。申し訳ないのですが…」
〈残してきた子たちが気になる?…可愛いわよね…あんなに従順で可愛いらしい子たちが趣味なのぉ?〉
「か…からかわないでください!」
…と、傍から見てイチャコラしながら
━━━━━━━━━━━━━━━
ナル 「む…旦那様が浮気してる悪寒…」
レム&シャ「ま、まさか…って、此処に寝てるんだけど?」
ナル 「いーえ、絶対に!…何処の誰かは知りませんが…」
ザック (ぞぞぉ~!?)悪寒が走るザック。きょろきょろと見回すが傍に居るのはアムさまだけ…
アムさま 〈女の嫉妬程怖いモノは無いわねぇ…くすくす。頑張ってね、使徒くん?〉
※従者ゴーレム(♀)なのに守護神とイチャコラしただけで嫉妬されるザックに未来はあるのか!?(知りません)
備考:本体は生死の境を彷徨ってるだけなので特に変化無しw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます