35 その18 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その18~

とうとう魔紋を記録される霊体だろうと推測されていた魔族の尖兵。防御壁のピンポンダッシュもここまでだ!といわんばかりに飛び出すマロンたち。だが、マロンたちは壁を破壊できない小物と侮った手痛いしっぺ返しを食らってしまう!…そしてマロンの放つ強い念話(本人は念話してるつもり無し)を受信したザック。元々魔紋を記録して追撃ができるとなった時点で自分も出るつもりだったザックだが、いつもとは違う反応に重役出勤では不味いと思い、急ぎ壁の外へと向かうことにした。そして息を切らして到着した現場げんじょうで見た光景は…!

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- 土壇場での新規魔法創造!(土魔法だけに) -


(さっ…せっ…るかぁぁぁぁああああっっっ!!!)


無言で加速開始。そしてマロンたちが気付く間もなく壁となるべく巨大な魔力光とマロンの間に立つザック。敵の放った魔力光は既に目と鼻の先である!(時間にして2秒有るか無いかで鼻先に到着するであろう!)


(土壁…は間に合わない。時間加速ぅっ!!)


土壁は足元の地面の土を素材として紡ぎあげる壁魔法だ。時間にして2~3秒で地面から盛り上がった土が壁を形成し、簡易的に硬化して物理攻撃を耐えるたけの防御魔法ともいえる。生活魔法のそれは簡単な土嚢を少々高く盛り上げた感じでとても魔物の攻撃を耐え凌ぐ効果は期待できない。だが、ザックの鍛え抜かれた土属性生活魔法は通常の土属性魔法を凌駕する!…消費魔力が少ないのもあるが更に熟練度が限界突破しているのだ…だが、その熟練度を以てしても間に合わない。土壁が形成される時間だけは限界突破した熟練度を以てしても2~3秒という形成速度は不変だったのだ…


「時間加速」を無詠唱で行使するザック。途端、ザック自身と周囲の時間が加速を開始し、それ以外の時間経過がゆっくりとなる。その時間差は凡そ10倍…ザックが秒を感じる間、ザック以外は10秒と感じる時間差を生む。大事なのはザック自身だけではなく「周囲を含める」ということだ。これならば手の届く範囲でならザックと同じ時間の進み方となる。


土操作アースクラフト!…あ~んど…土壁アースウォール!…あ~んど…アースウォール・デフアップ土壁硬化!!」


3つの土属性魔法(生活魔法の土属性だが)を放ち、通常時間が経過するマロンたちから見れば一瞬で土壁ができたように見えるだろう…だが、有り余るエネルギーを持つ魔力弾では土壁1枚ではその余波でも致死級である…。瞬時にそう感じたザックは追加の防御魔法を放つことにする!


「もういっちょ!…強化土壁ブーストウォール×5!!」


一瞬にして土操作と硬化が掛けられた土壁が更に5枚追加される。左右に1/3程重ねた物と土壁の上に同様に1/3程重ねられた3枚が追加されたのだ!…時間加速されたザックの新魔法を見た者が存在すれば、こう思ったことだろう…


「この土壇場で短縮系新魔法の創造だとっ!?」


…とw(いじょ、前話のラストシーン(若干描写増量w))



〈な…なん、だと!?〉


霊的存在の敵がいきなり目前に…瞬時に現れた強固な壁を見て狼狽えていた。攻撃を放つその瞬間までは存在しなかった筈だ。しかも…


〈我の攻撃を弾く程に強い…土壁だと!?…あり得ぬ!!〉


そう絶叫した瞬間、預言した通りに強大な筈の魔力光は大きい土壁に弾かれ…そのまま真っ直ぐに跳ね返って来た!


〈ふん!〉


魔力光を放った右腕をぐぐっと強く握り込んでそのまま左から右へ振り抜き、ピッチャー返しの如く戻って来た魔力光を弾き返す。


…どおおおおんんんっっっ!!!


何処に落着したかはそちらへと視線を移してない為に不明だ。だが、響いてくる振動からして何処か地面に着弾し、その衝撃で地面が地震の如く震えているのだろう…霊的存在の敵は浮遊しているので感じることはないが…


〈ふっ…面白い!〉


ずわ…と朧気だったその姿が普通に見える状態となる。


〈ようやく…本気を出せる者が現れたということか…〉


ごおお…と、黒いオーラが立ち昇っていく。恐らくは霊気と呼ばれる物だろう。だが、実体化した今は魔力なのかも知れないが…どちらにせよ、攻撃の為の燃料には違いない。


〈我が名はカ・レン。地獄の番犬ともいわれることもあるが…そなたの名は?〉


名を持つ悪魔。所謂「ネームド」と呼ばれる存在で人類の宿敵ともいえよう。過去の英雄・勇者たちに地上から撃退し続けていた名前に刻まれていると、歴史書にも描写がある…「カ・レン」の名はその内の1つではあるが…



(ぐぅ…何とか反射できたか…)


ごくごくとMPポーションを飲む…暇が無いので、携帯していた大容量魔石ラージマギバッテリーから魔力を吸収するザック。1日にそう何本もMPポーションを飲んでいたらトイレが近くなる上に体が怠くなってしまう。戦時中の魔法使いでも1日にそう何本も飲むことは無いのだ。


(何か語りだしたな…知性ある魔物…ということか?)


それでは霊的存在の魔物だけではなく、マロンたちのいってたようなリッチやデュラハンみたいなモノだろうか?…と考えるザック。確かに魔法を扱うには知性が必要だが…単純に本能で攻撃魔法を放つ低能な魔物も居なくはないが。


〈我が名はカ・レン。地獄の番犬ともいわれることもあるが…そなたの名は?〉


(え゛?…「カ・レン」て…)


確か、教会にあった本に書いてたのを読んだことがあったような…所謂「神敵」とか「出会ったら逃げろ」とか「敵対したら死に至る」とかなんとか…


(えーと…何でそんな強敵が…って、マジ?)


大混乱中のザックに囁くように神託が降りて来る…



『マジです。死なないようにね?』



(この声は…確か…どっかで聞いたような…えーと…)


と、記憶を探っていると、


がーんっ!!!


と鼓膜を破壊する程の絶大な音が響き、目前の張ったばかりの強化土壁がガラガラと崩れて行く…ついでに耳からも、たら~…と謎の液体が垂れる感触が…



『ふぅ…仕方ないですね?…サービスしますが、効果時間内に倒して下さいね?』



ぽわ…とザックの体が光り、破損…否、破れていた鼓膜も瞬時に治癒された。ついでに身体強化フィジカルブーストされる。更に、後ろで破壊されていたゴーレムたちも修復され、ザック同様に強化されていた。無論、マロンも全快・強化されていたが…


「くっ…」


と、普段聞かないような口調で唸っていた。どうしたのかと後ろを振り向くザックだが、


「す…まん。つい、ブルっちまった…」


と、よく見れば足がガクガクと震え、その肩も落としていた。マロンは獣人種だ。クォーターではあるが…そして一旦心が負けてしまえば…闘えないと知っていた。今までは何者にも負けないよう、己を鼓舞していた…女である自身を理由に負けないようにと…男っぽい振る舞いはそれを隠す為の仮面…そういうことなのだろうと、ザックは何となく把握した。女心には鈍ちんだが、強くあろうとする彼女の心情は、何となくではあるが理解したのだ。


「は…大丈夫だ。こんなの、狡いよな…大丈夫。マロンは強い…だから…な?」


何が「な?」なのかはわからないが、あるじであるザックの言葉に、一度は負けを認めてしまったマロンだが…


「わ…わかった。じゃ、すまんが…そいつは任せた。主!」


「お…おお、任せておけ!」


目と目で通じ…たかと思ったが、言葉を交わす主従。そしてその会話を邪魔せずに律儀に待っていた存在…「カ・レン」が口を開く。その真の姿は地獄の貴婦人…というよりは令嬢といった面持ちだが…


〈…別れは済んだか?〉


(いや、別に恋人同士って訳じゃないんだけど…)


何となくモヤっとしたザックだが、こくんと頷くザック。ここでゴネても意味は無い。背後には離れて行く気配。マロンたちがここで加勢しても足手纏いでしかないと判断し、退却したのだ。故に、マロンとモンブランは仲間たちにも連絡は入れてある…


『足手纏いになるから、町の防備にだけ備えろ』


…と。それで表に出て来ないなら世話が無いだろう…そう。


「なぁ~にぃ~?…破壊されるからってマスターの矢面に立たないってぇ~?…舐めんな!」とシャーリー。まさに、「攻撃は全て回避すればいい!」とか、「当たらなければどうということはない!」というだけの敏捷妖精型ゴーレムだけはある!w


「…(コクコク)」…とレム。大層ご立腹なようで一言も喋らない。纏っているオーラが冷た過ぎて、まるでコキュートスの階層から冷気が漂っているようでもある…(何階層かは所説あるが永久氷結地獄という意味合いでしかないので深く追求しないように!w)


「皆さん、我々もマスターの支援に向かいます。あぁ、いえ!…平の下っ端さんたちは足手纏いなのでリーダーさんたちで行きますわよ!」…とナル。実力的には妥当な指令ではあるが酷いw


「マスターが敵と戦うってのに」「私たちだけが安地で安穏としてる訳には!」…とダークエルフ型の2人。急ぎ、皇帝に許可を得て出発するが…戦闘終了までに到着できるかは不明である。何しろ、現在地は魔界ど真ん中なのだから!…それがわかっている故に、皇帝たちはこう命令しているが。


「こちらで何かあっても、戻って来るな。他部落・集落の同胞に集まるように命じる」


…と。



びっ!


ぱしゅっ!


目にも止まらぬ光線が発射され、気付かぬ内に展開されていた何らかの障壁に弾かれる光線。そして…


びっ!…びびびっ!


ぱしゅっ!…ぱしゅしゅしゅっ!!!


間髪入れずに次弾。そして3連射される光線がやや遅れて着弾して弾かれる。全ての光線は斜め上に弾かれて上空で威力を失って消えて行く…


(一体…何が………)


恐らくは神託を下した神の加護だろうか?…だが、余り長い時間は続かないといってたような…そう考えていると、彼の「カ・レン」がニヤ…と口角を上げていた。その腕は自分ではなく、ゆっくりと動かし…その先にはマウンテリバーの外壁がある。


「なっ!?」


突き出された手の平に魔力光が灯り、見る見る間に巨大化していく!


「ま、待てっ!」


思わず走り出すザック。だが、時間加速が終了していたザックには間に合う筈もなく…


どんっ!


大砲もかくや…と思う程の音が響き、太陽のように光り輝く魔力光が…思ったよりはゆっくりと進んでいる。どうしてそうなのかは考える余裕を無くしたザック。できるだけ早く足を動かして…真正面に辿り着くと、ザックもその両手を翳して…その両手に魔力を込める。


(さっきの強化土壁じゃ無理だ…)


恐らくは土壁を強化しただけでは軽く砕かれてマウンテリバーに攻撃を許してしまうだろう…そう感じたザックは、自らの魔力で魔力光を逸らすしかないと判断した。そして、全身から魔力を絞り出すかのように…その両腕に魔力を集中させる!


ど………ぐ・ぐぐぐ………ぐわっ!!!


魔力光を受け止め、瞬時に互いの魔力を食い合うかのように拮抗した後、自らの魔力を徐々に動かした後に斜め後方上で逸らすことに成功する!


「ぜは~…ぜは…ぐは…」


全力を込めて魔力を振り絞り、辛うじて攻撃を逸らすことに成功した!…そして油断するその瞬間を狙っていた「カ・レン」…


〈ご苦労〉


ぼぎぃっ…


耳の傍で慰労を意味する言葉を吐く「カ・レン」そして鈍い破砕音。


「ぐっ…あああああっ!?」


伸ばしていた両腕をその胸に抱き、ぐりん!…と回りながら。ザックの両腕を関節から砕いて奪い取った音だった…


〈ふっ…人間にしてはいい魔力だ。人間にしては、な?〉


ぽい!…とザックの両腕(肘から先)い1つキスをしてから投げ捨てる。その後、空中で燃え尽きてザックの両腕は永遠に失われる。


「がああああああっっっ!!」


立ったまま、両腕を奪われた時の状態で叫ぶザック。その腕の切断面からはどぼどぼと血が失われていく…放置しておけば数分と待たずに大量出血のショックで死に至るだろう…


〈…はっ、興が削がれたか〉


「カ・レン」と名乗った悪魔は、そのまま振り返って姿を消す。単に姿を消したのではなく、悪魔式の転移魔法だと後に知ることになるが、ザックはそれどころではなかった…


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レム   「ま、マスター!!…死んじゃいやですっ!!」

シャーリー「や、やばい!…衛生兵~!衛生兵は何処ぉ~!?」

ナル   「…何をアホなことしてるんですか!…早いとこ止血して傷口を塞がないと!!」

ナル部下 「「「は~い!」」」

※肝心な所で「こんらん」のバッドステータスに陥って役に立たない最古参の2人でしたw


備考:失った両腕は教会で再生して貰いましたw(生き残ってて良かった神官長!)

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