45 その13

マウンテリバーサイドに不足した人員をゲットしに行ったザックは、15人程ゲットしてノースリバーサイドの屋敷へと帰還を果たす。道中、少々?のゴタゴタがあったが…。そして屋敷に到着したザックはマウンテリバーに行き来して物資搬入の為の荷馬車を創造することにした。そう…マスプロダクトバージョンの弐號機を!(って違ぁ~うっ!w)…もとい、荷物を効率的に搬送できるよう、固定されたアイテムボックスを備えた幌付きの荷馬車とそれを曳くゴーレム馬を。決して赤くないし角も無いし速度が3倍でもないが、今後を考えると必要…ということで。

「見せて貰おうか…新型の性能とやらを!」

だ、誰だお前は!(注:本編とは全く関係の無いお遊びなのでスルーして下さいw)

━━━━━━━━━━━━━━━


- ざわ..ざわ..ざわ.. -


「聞いたか?」


「あぁ…マジかよ…ったく」


「また撤退するチームが…」


「あいつらのパーティも脱落…」


医療施設ログハウスに集まった探索者と冒険者たちが聞き及んだ話しを隣同士の者と喋っている。特に怪我を負ってない者でも空いた席やベッドに座って休憩しながら情報収集に雑談にと利用している訳だが…


「随分と減っちまったな…」


「あぁ…」


最初は任意に招集された10の腕利きのチームとパーティが駆けつけて始まったこの緊急クエストだが、儲け話を嗅ぎ付けたピンからキリまでの有象無象が集まり、壁の向こうから現れた実力不明な魔物の群れに淘汰された結果…有象無象組みは討伐するつもりが討伐されてしまい、組んでいた人間全てが殺されたか…行方不明になった者が半数。更に生き残った半数も組んでいた人間が半数か、或いは生き残りが1名…なんてこともざらでは無く。その生き残りが何とか戻って来て情報を伝えた結果、有象無象組みはこれ以上ノースリバーサイドに残ることを拒絶して撤退…とまぁこんな所だろう。


「結局、実力が無いから…ってことか」


「まぁ、俺らも無傷で帰って来れることも少なくないしな…」


この世界には癒し手は少なく、冒険者や探索者には生活魔法のヒールエイド癒しの助力が扱える者が居るだけでも珍しいのだ。仮に居たとしても魔法使いじゃない場合、1日にそう何度も発動ができるなんてことはない。総じて、生活魔法を使えるだけという者は、魔力も少ないのが実情だ(ザックが異質なだけで、生活魔法だけで魔力増強の為に子供の頃からMP枯渇するまで鍛える…という者はほぼ存在しないだろう…下手をすると死んでしまうのだから)


「でもよ…あの現場は見たか?」


「あぁ…ありゃあ普通じゃないな」


「一応、盾持ちと魔法使いと斥候と、人数は最低限だがバランスがいい組み合わせだったがな…」


「足跡からして3人じゃ無理だろ…恐らくだがゴブリンライダーが10数体って所だな」


敢えて…残されていた見るも無残な惨殺され、弄ばれた死体には触れずに話し合う冒険者と探索者たち。聞いた所によれば第1発見の者たちが回収し、持ち帰れるだけの遺体と遺品は持って帰ったそうだが破損が酷く、どれが誰の一部なのか・・・・・・・・・・わからなかった・・・・・・・・・らしい…


「はぁ…辛気臭いのは止め止め…まだまだお仕事は残っているんだ。気合入れて行くぞ!」


「「「…おお」」」


リーダーらしき人物が活を入れるが、メンバーは応えはするもその意気は余り高くないようだった…



- お屋敷の仕事はマロンに丸投げ -


ザックは今日は朝食を摂った後、再び最外壁の再生の作業につくこととなった。昨日1日の内、半日は使用人の手配で一杯一杯だったし、その後はその後で遭遇戦で出会った小鬼騎士ゴブリンナイト乗騎魔犬ライドコボルドが屋敷の周囲に現れたことで侵入してきた魔物たちを一掃する雑事に追われ、結局は最外壁の再生作業は手付かずで終わってしまった為だ(シャーリーからの念話による連絡であちこちに行く羽目になった)尚、機動力の関係上この組み合わせの部隊が先に石橋の辺りまで到着しており、他のより足の遅い部隊はまだ奥の方で探索者や冒険者たちと遭遇戦を繰り広げられていた模様(ザックは屋敷周辺のみ巡回していたので他の魔物たちには遭遇してなかった)


「じゃ、悪いけど僕たちは最外壁の補修があるんで…」


その言葉を残してザックたちは朝一番でお仕事へと出掛け、残されたマロンに奴隷たちの何やかやは丸投げと相成った訳である。マロンは1つ溜息を吐くが…


(仕事だからな…)


と意識を切り替えて、目の前にずらりと並んだ奴隷たちに目を向ける。彼、彼女らは既に割り当てられた仕事着(古着屋に急ぎ出向いて購入し、全てを昨日の内に手直しして着用可能な状態にしたようだ(正式に習ってないだけでお針子の仕事はそこそこできていたらしい。無論、本職に比べれば劣るには劣るが…元メイドの奴隷の手も借りなければ間に合わなかっただろう))そして全員仕事着に着替えさせており、表向きには一人前の使用人といえるだろう(隷属の首輪は対外的に良くない為、全員目立たない場所に隷属紋を刻むように手配されている(奴隷から解放すれば綺麗に消える))


「じゃ、割り当ての仕事は前職と同じようだから…できるよね?」


マロンが凄むと、野郎連中は


「「「イエス、マム!!」」」


と、慌てて駆け出して自分に割り当てられた仕事場へと走って行く。庭師・料理人・雑務役の連中だ。同じ野郎でも執事たちは深々とお辞儀をしてから


「では、溜まっているであろう仕事をこなして来るとしますかな…」


とコナン。執務室へ向かう彼を無言で後を追うザルツとダナン(彼女は女性だけど一応執事候補であり、その能力はザルツとほぼ同等)


「では…」


「お屋敷のあちこちのお掃除と参りますか?」


「「「はい!」」」


メイド長はコナンの後を追い、メイドに割り振る仕事の相談に向かったが、メイド長補佐のイブと平メイドたちは掃除用具を取りに用具室へと向かう。各々が掃除道具を手にすれば、あちこちで掃除をするメイドたちの姿を見ることができるだろう。


「…じゃ、俺もやることをやるかね」


マロンの仕事とは荷馬車に放ったらかしとなっていた様々な物資…食材やそれ以外の物を荷馬車から取り出し、あるべき場所へ移動することだろう。尚、様々な物資を購入する資金は「息吹いぶく若草」チームの共有資金から出ている。残されたザックへのせめてもの手向けとして残してくれたのだった。ジュンたちは一部をパトリシアの実家へ帰還する路銀として持って行ったが、共有資金の殆どはマロンに託した形としたのだ。


「はぁ…一応メイドの仕事はこなせるんだけどな。本来の肩書が泣くぜ…ったく」


果たして、本来の肩書とは?…それはいずれ本人が零す機会を待つしかないだろう。



- 一進一退の魔物との戦い。だが、最外壁の修復作業はマイペースに進む… -


あれから1週間が経過。最外壁の修復作業(という体の再生作業)はザックのMPが枯渇しないよう、半分くらいになったらノースリバーサイドの領域に徘徊している魔物を殲滅しつつ帰還するという工程をこなしている。その為、最外壁の修復は遅々として進んでないように見えるが魔物が侵入可能な部分(深い渓谷がある部分はそもそも魔物が立てる場所が無い)だけを見れば後数日で終わりが見えたといって過言ではないだろう。


(渓谷の部分の壁も、爪なんかを突き立てて移動すれば…侵入可能な穴が空いてれば入って来れなくもないんだけどね…結局全部再生しないと油断できないってことかなぁ…)


流石に数10年も経過して劣化した壁には、硬質な爪を持つ魔物なら突き立てることは可能だろう。先日も、巨人族が渾身の一撃でぶち破った例もある。劣化が進んだ場所では穴が開いてなくても油断ができないといういい例だ。


「じゃ、ここからここまでやるよ?」


「…はい」


「頑張れ、マスター!」


レムが返事し、シャーリーが応援をしてくれる。ザックは目の前の劣化してヒビが入り、今にも崩れそうな数10年の時が刻まれた壁と、隣の再生されできたてのような白い壁を見比べ…「すぅ…」と息を吸い込んで再生のコマンドワードを紡ぐ。


耐久値再生デュラビリティ・リペアー


ぶわっ…と下から上へと刻まれた時を消し去って、建造された当時の色を取り戻す最外壁。ザックはホッと息を吐き、呟くように言葉を零す。


「…完全成功っと。最大耐久値に損耗無し…」


隣の…先程再生した最外壁は、実は失敗して10%の最大耐久値が下がってしまっていた。見る者が見比べればその差は歴然としているが…その最大耐久値が高すぎる故に、素人が見るだけでは区別はつかないだろう。


(先日の巨人が全力で殴っても…多分数万回は殴らないと破壊できないだろうし…その前に拳や腕が壊れちゃうよね?)


最外壁はその耐久値が最大に近いと防御力も高く、耐久値が下がってくれば徐々に防御力も下がる(普通の構造物は大体はそんな感じではあるが)ゴブリンたちが幾ら手持ちの武器で殴っても破られはしないが、攻撃力のある巨人族では一撃粉砕されてしまったのは致し方ないだろう。殴られた壁は、そこまで耐久値が落ちていたのだから…


「さてと…。次に行こうか…」


まだ魔力は半分まで減ってないが、一般販売しているMPポーションの蓋をぽんっと開けて、くいっと飲み干すザック。最下級のMPポーションは一瞬で回復はせず、徐々に回復するので前もって飲むのがセオリーである。



- マウンテリバーサイド・冒険者ギルド -


「何ぃっ!?…勝手に参加したパーティの半数が脱落、だと!?」


冒険者ギルドの副ギルド長が怒鳴る。報告を持って来た部下のギルド員が「ひぃっ!」と声を上げてブルブル震えているがそんなことには眼中に入らずに再び怒鳴る副ギルドマスター。


「それで!?…先行したうちの優秀なパーティどもは!?」


「ひぃぃっ!?…え、えと…彼らは無事に緊急クエストを進めているとのこと…です」


ギルド員の報告には嘘はなく…多少の損耗はしてるものの全員無事という。唯、物資が不足気味なので追加を請求しているとあるだけだ。副ギルド長が報告書を奪って読み進めれば、人的損耗は後から追って行ったハイエナ的なギルドの下位集団だけで、一部の中位パーティは付いて行けずに逃げ戻ったとある。戻ってないパーティは壊滅したかパーティ解散の憂き目に遭っているらしい。


「はっ!…消えた連中はどうせロクな仕事もできない連中だろう!…却ってギルドのお荷物が消えてくれてせいせいしたわ!」


「そんな…」


副ギルド長が「ハハハ!」と大笑いして機嫌が戻ったのはいいが、人が死んでいるというのに何て酷いことを…とは思ったがギルド員はいい返すこともできず、苦虫を噛み締めるしかなかった。過去にも人死にが出たクエストがあった時にも「冒険者は流れ者」とか「家族なんて居ないだろう」と、勝手に遺族手当ても出さずにその金銭は着服して私腹を肥やしているのだ。副ギルド長のそのやり方に気付いた者も居たが、ギルド長に報告をするといった何日か後にはその者は最初から居なかったかのように消えてしまうのだ。これでは不正を報告する者が居なくなるのも当然だろう。


それ以外にも何かと不正をしてるらしいが、尻尾を出すこともなくどんな不正をしているかわからなければ報告のしようもない。証拠が無くとも現行犯で捕まえられれば良いのだがそれも叶わないと来ている為、冒険者ギルドの上層部はドロドロの様相を呈していた。探索者ギルドが貧乏な為に税率が高いように見えるだけなのが可愛いと思える程に感じられる…多分。


「まぁいい。要請された物資は送り届けてやれ。後、物資搬送した者に後どれくらい掛かるか訊くようにいっておけ。流石にこう何日もギルドを空けられると、通常依頼にも支障が出ているからな…いいな?必ず訊いてくるようにいっとけよ!?」


「はっ…はいぃっ!!」


こうして、冒険者ギルドは働ける冒険者が減ったお陰で通常依頼が滞り勝ちになり、緊急クエストの影響が出始めるのだった…対して探索者ギルドとはいうと…



- マウンテリバーサイド・探索者ギルド -


「ふわぁ~…暇だなぁ」


「暇ですねぇ…」


こちらも元から少ない探索者が更に減ったせいで閑古鳥が鳴いている状況だが、優秀な探索者たちは深い階層に潜っていることで数日から10数日に1回地上へ戻って…ということは珍しくない。主に鬼籍に入った中・低ランクの探索者が減ったせいでドロップ品の買い取りに戻る人数が減ったくらいだ。そして依頼は元々それ程出てはおらず、その依頼をこなす高ランクの探索者が緊急クエストに出ずっぱりで依頼を取り下げている為にそれ程は困ってはいないようだ。否、困ることは困るのだが、回収依頼の素材がある内は困らないということだろう。


「ザックくんたち、大丈夫かな?」


サンディである。


「え?…ザックくんが…何っ!?」


リンシャがサンディに噛み付く…ように問い質す。酒場で飲んだくれていた探索者おやじたちが「おぉっ!?」とこちらを見ている。酒の肴にするようだw


「いやね…数日前に緊急クエストが発布されたっしょ?」


「え…うん。それが?」


サンディの回答に要を得ないリンシャが形のいい眉をひそめて返す。


「…ノースリバーサイドってリンシャ知ってる?」


「えと…確か、マウンテリバーの北西にある砦だよね?…橋を渡った先の」


「あー、うん。そうだね」


リンシャの返答は日曜学校で習う教科書通りの回答だった。つまり、それ以上の回答は期待しても出てこないことを指し示す。もう少し突き詰めればこういう答えが返ってくるだろう…


【昔、数10年前の魔物との争いの為に造られた防衛の為の砦で、人類と魔物の最前線だった場所。魔物はそこで殲滅し尽くされ、砦は人類を救ったのだ】


と。だがサンディはもう少し真実に近い事柄を知っている。未だに魔物は砦の外を徘徊しており、いつかまた、人類の生息域へと侵入する機会を待っているのだと…だがサンディは思う。


(地上徘徊型は壁で侵攻を阻むことはできるのはわかるんだけどねぇ…飛行型はどうやって防いでるのやら…)


真実を突く受付嬢サンディ…彼女の疑問は尤もだが、そこは国家の機密なので下手に突くととんでもないことになるので公言は控えるべきだろう!w



- ノースリバーサイド・冒険者パーティの場合 -


「はぁっ…はぁっ…おい、大丈夫かっ!?」


「…問題無い…!?…右から敵襲!!」


「ったく次から次へと…おらぁっ!!」


斥候の報告の直後、草むらから飛び出してくる魔豚オーク小鬼ゴブリンの群れに盾撃シールドバッシュで応じるリーダーの男。ついでにタウントでヘイトを稼いでいるのだから戦闘に慣れているのだろう。


「でやぁっ!!」


タウントの効果で真っ直ぐに突っ込んできた数体のゴブリンをショートソードを振り回してを切り伏せる。その間に背後で攻撃魔法を準備していた女性魔法使いが長杖ロッドを構えて叫ぶ。


火矢魔法ファイヤーアロウ!」


数本の炎でかたどられた矢が浮かび上がり、次の瞬間には目標に向かって飛んで行く。


〈プギャア~ッ!?〉


〈ゴブゥ~!!〉


どさどさと倒れ伏す豚面の魔物と緑色の小男たち。斥候の男がトドメとばかり、手にしたダガーで首筋にドスドスと突き刺して回っていた。リーダーの男は「ふぅ…」と溜息を吐いて構えていた盾を地面に突き刺して(下の方が尖っているカイトシールド型の為、突き刺して突進を受け止めることも可能)から一息吐く。


「この辺はあれで最後か?」


「…多分な。他の区域は別動隊が面倒を見てくれるだろ?」


「…まぁそうだな」


そんな会話を交わしている間、女性魔法使いは探知の魔法を掛け終えたようで…


「周囲100m程は敵対的な生物は居ないと思う」


とだけ報告して「ホッ」と息を吐いていた。そして距離を置いていた運搬者ポーターが現れ、ポーションの類をパーティメンバーに配布した後に残されていたドロップ品を漁り出す。


「さんきゅ」


「…ありがとう」


「あぁ、俺はいい。そんな疲れてないしな」


リーダー、女性魔法使い、斥候の順にポーターの男にポーションや汗を拭うタオルの礼などを返す。斥候の彼だけはポーションは不要と伝えていたが、タオルは受け取っていた。一番走っていたのは彼なので当然といえば当然だろう。


「…そろそろ戻るか?」


「そうですね。時間的にいい頃合いだと思いますし…」


「…ルートは?」


斥候の男が地図を開いてリーダー訊く。冒険者パーティや探索者チームには、ある程度巡回する区画を決めて回っているが、帰路に関しては各々に任されている。無論、巡回区画に来るまでの道順もある程度各々のパーティ・チームの裁量に任されている。


「そうだな…ここからだと今日補修される最外壁に近いようだ。様子を見てから帰還した方がいいかも知れんな…」


「ふむ。もし、魔物が出て戦闘中なら…という訳か」


「あぁ」


「…はぁ、面倒ね」


「反対か?」


「…そっ、そんな訳ないでしょう!?…わ、わかったわよ、行けばいいんでしょ、行けば!!」


「ツンデレ乙」


「だ、誰がツンデレよ!?」


リーダーは斥候と魔法使いのじゃれ合いが終わるのを待ち、「はぁ…」と溜息を吐いて


「…じゃ、行くぞ?」


と一言残してさっさと歩きだすのだった。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!!」


さっさと後を追う斥候に女性魔法使いが慌てて追い掛けだすまでがワンセットだったとか何とか…


「…彼女、本当ツンデレですよね」


ぼそっと呟く運搬者ポーターの台詞が空気に溶けて誰も聞くことはないだろう…斥候の男よりも隠密性に長けたポーターは、その存在感を感じさせずにこの場を去って行くのであった…



- ノースリバーサイド・探索者チームの場合 -


「かぁ~~~!…疲れた」


ダンジョン内部なら適度な距離毎にレストルームと呼ばれている休憩室が存在する。形態は階層によりまちまちであるが、洞窟型ならドアの中に数人が滞在できる小部屋が。フィールド型なら泉を囲う小さな林などがある。だが此処はダンジョンではなく通常フィールドだ。人為的に安全措置を施した小屋などが設置してあれば別だが過去の魔物と人類の争いから数10年も放置された地であり、一般的に魔物は全て討伐されたと信じられていた通り、彼の某F男爵が真面目に管理している筈も無く…荒れ放題の寂れ放題の土地といっても過言ではないだろう。つまり…人の手が入らないままに数10年も放置された土地な為に仮に休憩小屋が在ったとしてもとうに朽ちていて残骸が見つかればいい方だと…


「この辺で休憩しますか?…見た感じ、敵は見えませんがね」


「アホか。警戒するに越したことはないだろうが…誰か交代で歩哨に立ってくれ」


「アイサー」


運搬者ポーターが安全を確保したと見るや、背中の大きなバックパックから色々と取り出して休憩の準備を開始する。最初に丸めていたシートを開いて敷き、四隅の穴に大きな釘のような物を地面に打ち込んで固定する。完全に地面に打ち込むと引き抜けなくなる為、少しだけ浮かした状態で止めるのがコツだ…と聞いた。以前、「それって何?」と聞いたのだが特に名前は決まってないそうで、「地面に打ち込む釘みたいな物なので釘って呼んでます」とは聞いたが…。釘にしては打ち込む面側は引っこ抜けるように取っ手がついている。とはいえ、手で持って引っ張っても無理そうだけどな。ポーターの彼は金槌の先端に引っ掛けて引っこ抜いてたっけ…まぁそんな訳で簡易陣地を構築した訳だ。このシートには簡単な魔物避けの魔法陣が刻まれていて、こうして四隅を地面に固定することにより簡易結界を作り出す。…まぁ最底辺の魔物が近寄り難くなるだけで高位の魔物は気にせず近寄って来るし、その気になれば襲い掛かって来ることもよくあるんだがね…


「おら、準備遅ぇぞ」


「すいません…」


リーダーが文句を垂れるが彼にも準備が色々あるんだから…と思っても口を出せない。このチームじゃ新米だからな、俺は…。できることは彼の手伝いを率先して行うことくらいか。今は敷いたシートの清掃をやっている。濡れ雑巾できゅきゅっとね。乾いた雑巾に持ち替えて空拭きをしてリーダーに「座る準備できました!」と伝えて「おう、ご苦労」と返事を頂いて次の準備…飲み物や軽食の準備に掛かる。


「飲み物はこれを。食べ物は準備するからもう少し待ってと…」


「わかりました。伝えておきます」


「よろしく…」


手渡されたポーターさんと俺以外の人数分のコップと飲み物を入れた中型のポットを持ってリーダーの元へ。今歩哨に立ってる人の分は改めて持って行く必要あるんだけどね…匂いがきつい物だと後で、かな…?


「リーダー、飲み物です。食べ物はもう少し後になるそうです」


「そうか…」


コップを渡してポットの口を開いて注ぐ。暖かい飲み物のようで湯気が立っているが匂いはそれ程でもないようだ。これなら歩哨に立ってる人に持ってっても大丈夫だろうか?


「リーダー…」


そう思って口を開くと、


「あー。大丈夫だろ」


と、皆まで訊くなと返って来る。その辺に思い思いに座っているチームメンバーの元へ赴いてコップと飲み物を配っていき、歩哨の彼にも渡してくる。


「へへっ、さんきゅーな」


「いえ…」


後ろを振り向いてポーターの元へ向かおうとすると尻をペロっと触られる。


「なっ!?」


「おいおい、静かにしろよ…魔物に勘付かれるぜ?」


「~~~!?」


ぷるぷると震えて怒りを抑えるがヘラっとした歩哨役の野郎にムカツキを抑えられない俺は…


(後で覚えてろよ!)


…と怒り全開で歩き出す。別に彼が男色家な訳ではなく、俺が一人称の女ってだけなんだけどな…。ガキの頃は本当に子ども体形だったのでからかわれるだけで済んでたんだが、最近は成人したこともあり体つきが女っぽくなってその…胸は相変わらずだが尻の肉付きがそれらしくなってきたせいか、今のように触られるっていう。場所が場所だけにいつものように殴り飛ばせなくてフラストレーションが溜まりまくりで…はぁ、殺気を飛ばすのもダメなんだっけ…などと思いつつ、簡易陣地シートまで戻って来る。


「食べ物はこれを…調理をすると色々と不味いんで携帯食しかないけど…」


ポーターと俺の物を除く人数分を受け取り、頷いてリーダーの元へ。


「リーダー…」


「おう」


それ以上何もいわずに受け取り、包装紙を破いてもしゃもしゃと食べ始めるリーダー。他のメンバーは「また携帯食かよ…」と文句をいいながら食べてるが。歩哨の男も同様だ。また尻を触られるのも嫌だったので投げつけてやった…取り落として無言で文句をいってたのでいい気味だ。


「ちょっ!…てめっ!…」


大声を出せない為に小声で批難してくるが知ぃ~らないっとスルーしてさっさと戻ってくると、苦笑いしてる他メンバーが…


(う、見られてた…)


別に恥ずかしくないが…若干の気不味さを感じてそっぽを向きながらポーターの元へ戻る。


「…はい、飲み物と食べ物。お疲れ」


「あ、うん…ありがと」


下っ端の俺とポーターの彼はチームの中じゃ立場は一番下っ端なので立って飲み食いするし順番は一番最後だ。


「はぁ…」


と安堵の息を吐いて一口飲み、包装紙を解いてがぶりと噛みつく。以降、交互に飲んじゃ食べてを繰り返してコップの中身も包装紙の中身も消えた頃…


「!…こっちに来て」


「え、な…」


ポーターの彼がいきなり両腕で俺の体を包み込んでしゃがみ込む。既にバックパックを背負っていた彼が厳しい目で周囲を見回している。


(…敵?)


(…だと思います。既に囲まれてます)


だが、歩哨に立っているあの尻撫で常習犯の野郎は未だ気付いた様子は…


(あ…)


一瞬の間にあの野郎は頭を刈られ、首から血流を吹いて…1秒程経過してから幾つかの剣閃が見えたかと思うとバラバラになっていった。


「!?…敵だ!!」


今頃気付いたリーダーが慌てて立ち上がり、遅れて立ち上がった他メンバーも武器を手にして動き出すが…


ぎゃりぃぃいいんっ…


辛うじてリーダーのみが初手を剣で防ぎ、他メンバーは獲物を持った腕を切り落とされ、痛みに呻いてる間に首を落とされていた。


「な…敵は一体…」


動きを停めた魔物を視認すると、見た目はゴブリン系上位種に見える…


(…精鋭小鬼剣士エリートゴブリンフェンサーですね。とてもうちの面子では太刀打ちできないでしょう…)


ポーターの彼が敵の正体を見極めると、


(…申し訳ありませんが撤退します)


と静かに呟いてその場を立ち去ろうとする。


(…え…でも、リーダーたちが…)


(…申し訳ありません。失礼)


トン


と、首の後ろを触られた気がした。それ以降、屋敷の隣に併設されている医療施設ログハウスのベッドで気付くまで意識を失ってたようで…


「えと…此処は…」


「おお、気付かれましたか!」


「あの…俺の所属してたチームは…?」


近くに居た白衣を着た医療スタッフだろう…彼に訊くと、彼はすぐに気不味そうな表情になり、


「申し訳ありません。未だ未帰還としか…」


という返事が返って来たのみだった。そして捜索隊が改めて編成され、俺とポーターの証言から最後に戦闘が行われた辺りを捜索して貰ったのだが…そこには細かい食い散らかされた肉片と、破壊され尽くした装備品が幾らか残されていたのみだったとの報告がされたのだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

どんどん損耗する緊急クエスト参加チームとパーティの人間たち。時間が経過すればする程、強力な魔物が侵入して来るようです!


備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨580枚、銀貨801枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 マロンが奴隷たちの仕事着を手直し(買い物じゃないけど、洋裁店舗での手直しを待っていたら奴隷たちの仕事がいつまで経っても始められない(1週間待ちとかいわれた)ので自分で手直しした模様…つまり、手直し費用はロハで布・糸・針代を少し出費しただけ)

ザックの探索者ランク:

 ランクC(後日アップの予定はあり)

本日の収穫:

 惨殺事件を聞いた人たちのSAN値(-1って、…収穫じゃないよねそれw)

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