44 その12

ジャックソン奴隷商会で雇っ購入した奴隷たちを綺麗にして服と靴を与えてノースリバーサイドとマウンテリバーサイドを渡している石橋まで移動したら魔物の群れに遭遇したので防衛しました(レムとシャーリーが)…その結果、様子を見ていた奴隷たち(主に馬車の外に居た野郎共)のSAN値が若干減り狂気度が上昇しました…

※某ホラーTRPGかYO!w

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- 屋敷に着くまでの間のお仕事 -


ザックはストレージ内部についさっき放り込んだドロップ品と、道中度々停車しては討伐されていく魔物からの(レムから奴隷経由で手渡される)戦利品を見ていた。現在位置はほぼ屋敷の目の前であり、このまま行けば遭遇戦は無いものと思われる。



【本日の戦利品タブ内アイテム一覧】※()内は回収できた素材の数

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小鬼騎士ゴブリンナイト(32体討伐)

 ・牙(25) ・金属鎧(装備不可鉄素材)(20) ・金属剣(ショートソード鉄素材)(15)

 ・金属槍(ショートスピア鉄素材)(15) ・金属片(鉄素材)(120)

 ・魔石(中)(30) ・魔石破片(20)

 合計…銀貨6枚 銅貨60枚(税込み額)

    討伐費用として@銅貨50枚×32…銀貨16枚(税込み額)

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乗騎魔犬ライドコボルド(32体討伐)

 ・牙(23) ・毛皮(15) ・骨(21) ・骨片(骨素材)(90)

 ・魔石(中)(20) ・魔石破片(120)

 合計…銀貨2枚 銅貨41枚(税込み額)

    討伐費用として@銅貨30枚×32…銀貨9枚 銅貨60枚(税込み額)

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◎総合計…銀貨34枚 銅貨61枚(税込み額)、税抜き額で銀貨20枚 銅貨36枚

※総合計額からCランク探索者の徴税率40%を差し引いた額となる

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(…ま、こんなもんか。魔石(中)だけ抜いて納めてもいいしなぁ…)


魔石は魔力タンクとしての使い道もある為、売却してもいいが残しておいて加工に使ってもいい。そんなことを考えているが、ザックの体はイブの太ももの上に座らされて後頭部は豊かな胸の谷間に半ば埋もれていて…所謂様になってない状況だった。周囲の目線を気にしないように勤めながら脳内に表示されているストレージの内容物と売却金の計算を考えている内に、馬車は屋敷に到着していた。



- 帰還→メイドさんに仕事を割り振ってみた -


「全員降りて。馬車を厩舎に戻して貰うから…」


ザックが外に出て全員に命令を下す。奴隷の主人マスターとなっている為に普通に話すだけで伝わるのは便利だ。


「「「は、はい!」」」


慌てて馬車の内外から掛けて来る奴隷たち。


(別に走れとは命令してないんだけどな…)


と思うが、怪我をしないでくれれば迅速なのは結構なことだとして特に言葉にはしない。


「全員集まりまして御座います…」


各人が点呼を取って、コナンが代表して伝えてくる。ザックはこくりと頷いてから次のように話した。


「ようこそ、我が屋敷へ…ええと、名前は何だっけ…聞いてないので知らないんだけどね。取り敢えず詳細な体のサイズを測り直すから、中に入って…あ~、マロン」


「はい!」


いつの間にか中から出て来ていたパトリシアの元使用人メイドであるマロンが居たので声を掛ける。結局彼女はパトリシアの元には戻らず、契約を破棄されてこちらで働けといわれてたようで…どういう思惑があったのかは不明だが、仮にもプロが居れば助かるので厚意に甘えた形で残って貰うに至ったのだ。


「申し訳ないけど、この人たちの仕事着のサイズとか測って貰えるかな?…一応、これ。誰がどの仕事に向いてるか、元の職業とか名前とか書いてるから…」


と、ジャックソンから受け取っていた奴隷たちのステータス(一部)を書き込まれた書類を手渡す。裏は白紙なのでそちらに書いて貰えれば無駄に紙を消費しないと思うけど、その辺は任せようと思う。


「後、計測が終わったら軽く飲み物と食べ物を…あ、丁度いい。レム」


「…はい、マスター」


ゴーレム馬と馬車を仕舞って来たレムがこちらに戻って来ていた。シャーリーは周辺の探索に飛んでったのか姿が見えないが、何かあれば念話で連絡を入れてくれるだろう。


「奴隷たちの身体計測が済んだら休める場所と、軽食を用意してあげて。飲み物もね。長いこと栄養状態が悪かったかも知れないから胃腸に優しい物を頼むよ?」


「…わかりました」


戦闘時と違って平時のレムは割とのんびり屋さんで喋る調子もややとろい子に見られる。反応がワンテンポ遅れるのだ。偶に普通に返事をすることもあるのでわざとやってるのかとも思うのだが、その辺はよくわからない…


(やっぱ創造物でも女って男にはよくわかんない生き物なんだろうなぁ…)


はぁと溜息を吐くザックに、命令を受けた女性2人マロンとレムはそれぞれ命令を遂行する為に屋敷へと入る。マロンは奴隷たちを引き連れて正面玄関へ。レムは厨房へと向かうのか、勝手口へと向かって行った。


「…あぁ。あの人数を入れるには玄関のロビーくらいしかないのか…」


現在は、さながら野戦病院と化したロビーは片付けられていて、少々汚れが目立つが簡単に清掃はされていて関係者以外は居ない筈だ。現在は屋敷の外に併設された大型のログハウスとして建てた医療施設に怪我人とギルドから派遣された医療関係者。そして怪我に喘ぐ探索者ギルドと冒険者ギルドに所属の探索者と冒険者が居るだけだ。


「取り敢えず仕事着は明日何とかして貰うとして…。マウンテリバーと行き来する荷馬車も創っておかないとな…」


思いついた仕事を先に片付けるかと、ザックは厩舎に向かうのだった…順番としては少しおかしいが、気付いたことから片付ける癖がある故に…



- 馬と荷馬車2號機を創造 -


いや別に。6人乗りのあの馬車が初號機って訳でも紫色って訳でもないし、これから創る2號機が赤いとかいう訳でもないんだけど…(デザインは既存の馬車を真似てみて、色も保護用のペンキを塗りまして御座い!…てな感じにしてある。目立つのも何なので、落ち着いた濃いブラウンかな?))


「さて…と。誰も見てないな?」


軽く探知して、近くには誰も居ないのを確認して…厩舎の影で2体目のゴーレム馬と2台目の馬車を…今回は荷物を入れる為の荷馬車を創造する。今日乗った6人乗りの馬車は乗合馬車よりは小さ目だけど頑丈に造ってあり、ちょっとやそっとの攻撃にも耐えられて屋根の上の荷台にも大人5人どころか500kg程の加重が掛かっても問題無いようにできている。後、今回は使ってないけど後部にも荷物を積める荷台があり、こっそりと小容量のアイテムボックスとなっている。今回は使う機会が無かったけどね…


「…っと、こんなもんかな?」


実は最初に荷馬車(幌無し)を改修した奴があったのでそれをストレージから出し、積載荷重を大幅に増やす加工を加えてマウンテリバーサイドとの往復用お使い幌馬車を完成させたのだ。見た目は通常サイズの幌馬車で、アイテムボックス機能を持つ荷箱を積んでおり後部から持ち込んだ荷物をそこに収納するだけでどんどん積めるという塩梅だ。流石にそんな大容量のアイテムボックスがあると知られると色々と不味いのでダミーの荷箱が積んでいて前後からの視線を遮るように配置してある。


馬も当然疲れ知らずのゴーレム馬だ。1号のデータを反映してあるので最初から賢いお馬さんとして働きも期待できるだろう。別に力の1号、技の2号という設定はない。2体とも同等の性能を発揮すると思う。唯、両方同じだと混乱するので別デザインを考える。1体目は体毛が焦げ茶色でダークブラウン…という安直な発想でダブランと名付けていた。名前付けをしていた当初は余り気に入らないという雰囲気を漂わせていたが、慣れたのか諦めたのかは知らないが今は普通にダブラン呼びで反応してくれている(多分後者w)


(あ、そういえばレムにはその辺教えてなかったな…)


取り敢えず、ゴーレムとしての立場はダブランより後で後輩に当たるのだが、2人はゴーレム馬のダブランの名前を伝えておいた…念話でね。



「んじゃ、馬車はこれでいいとして…次は馬だな」


1体目はダークブラウン焦げ茶色だったので2体目はもう少し明るい色がいいか…でも白馬だと何処ぞの王子様に強奪されるってフラグが立ちそうだったので、もう少し大人しめの色合いがいいだろうと考えて…いや、流石に馬に存在しない色はヤバそうなので止めたけどね。


「ま、普通の茶色にするか」


体格はダブランと同じくらいに。荷馬車を曳くから少し筋肉が付いてるように…ゴーレムなので、別に今にも折れそうな脚や痩せ細った体格でも関係無いんだけどね…脚は少し短めにして若干太目に。見た目から力強そうって感じで。


「あ…そういやブラウンって庭師補佐の人が居たな…被るとややこしいしどうしようか…」


少し悩んで、結局馬の毛色を茶色から白っぽい茶色にし、ライトブラウンだからライウンと名付けようということに。


土操作アースクラフトからの…土人形創造ゴーレムクリエイト!」


先に思い浮かべた通りの、多少ずんぐりむっくりしたゴーレム馬が創造される。少々デザインが「太目の馬」に偏り過ぎていた為、再設定リ・デザインで調整することにする…が、その前に3つの魔石をストレージから取り出して心臓部分に突っ込んで設置する。


「よし、これでいいかな…再設定リ・デザイン!」


最初の創造では体格やら馬の大雑把なデザインを元に生成する。そして実際に目の前に現れた素材から細かいデザインを決め、外見の詰めを行ったのだ。流石に脳内で全ての設計を終えて完成できる程に生き物の模造品を創るには経験が不足していた。


(まぁ…妖精族シャーリーとか、人族の異性レムは何故か1発でできちゃったんだけどね…)


細かい差異はあるだろうが、あくまで普段見ることの無い妖精族はパーツが小さい為に普段見慣れている異性を小さくして適当な羽を付ければ完成するし、異性であるレムは何処となくサクヤやリンシャの面影があるかも知れない。胸がぺったんこなのは別にサクヤの胸を参考にした訳ではなく、見た目の年齢相応になっただけのようだ…



取り敢えず、念話でレムに2つ目のゴーレム馬と荷馬車を用意したので使えるようにしておいてくれと伝え、ついでに名前も伝えておいた。ダブランに関しては知ってたと聞いて「あれ?いったっけ?」と訊き返すと、本人(本馬?)から聞いたといわれ…


(ゴーレム同士で意思疎通できるんだ…)


と、改めてびっくりしたのだった。いや、ダブランは口が馬なのでいななけるが人間の言葉は話せない訳だし…レム曰く、


「念話を使っても言葉はわかりませんが、意思は何となく通じます」


ということだ。なら、ダブランって名前はどうやって知ったかというと、蹄で地面に文字を書いて知ったという…何その知能指数高い馬w(いや、ゴーレム馬だった…)…まぁそんな訳で、ライウンの名前は忘れずに話しておいたって話し。別に彼が駆けると雷雲が現れて嵐になる訳じゃないけどね?



厩舎を立ち去る前に、必要最低限の馬車の装備を創っておく。荷馬車と馬を繋ぐ道具とか荷馬車のメンテ用の道具や消耗品などだ。別にマウンテリバーの町で買ってもいいけど、暫くは出費を控える必要があるので考えつく物は創って厩舎に放り込んでおく。


「さて、こんくらいでいっか…そろそろ身体測定も終わってる頃だし丁度いいかな?」


買い出し要員としてマロンと、ゴーレム馬の御者役と荷物持ちにリュウケンの2人。護衛は冒険者を数人雇えればいいけど…奴隷の人たちで戦力になれる人は居ただろうか?…と悩みながら屋敷へと歩くザック。尤も、探索者も冒険者も怪我人は残っているだろうが、手の空いてる者は居ないかも知れない。


「あ、あるじ!」


マロンがザックを見つけて走ってくる。彼女は獣人種と人間の混じり者で、クォータービースト獣人種という種族だ。そういえば獣人種は人間より力や俊敏さに秀でいる者が多く、多くは人より強いと聞くが…彼女はどうなんだろう?


(確かに力も強くて手先も器用って聞くけど…)


う~ん…と悩んでいると、小首を傾げたマロンが不思議そうに訊いて来る。


「主、どうした?」


「あ、いや…(くっ…この仕草可愛過ぎるんだが…)」


ケモミミだけが獣人種とわかるマロンは何気ない仕草がザックの動物好きな部分を刺激して困らせる。主に、ケモミミを触りたくなるという行動を刺激してしまうのだ…通常、耳が大きめの種族は敏感故に触れられることを嫌う。痛みを感じることもあるが…大抵の獣人種は家族や家庭を持った者同士以外には触れさせてくれないのだ…と、何処かの大きな町の酒場で聞いた覚えがあるのだった。


「…?」


そんなことは露知らずのマロンは、不思議そうにザックの顔を見ていたが、


「…あぁそうだ。頼まれていた奴隷たちの身体計測だが無事に終了した」


と報告した。その為にザックを探していたようだ。


「あ…あぁ、ご苦労だった。んで奴隷たちは?」


「レムの用意した部屋で飲食をしている。終わったらどうするのだ?」


そういえば部屋も用意してなかったなと気付くザック。屋敷が広いとはいっても使用人用の部屋は…そういえばパトリシアの使用人たちが使っていた部屋があったなと思い出す。人数的にはどうなのかわからないが、実際に寝起きしていたマロンに訊けばわかるだろうと訊いてみることに。


「あ~…マロンたちは…使用人たちは寝起きしてた部屋とか知ってるよな?」


「うん。俺は狭い部屋を使えっていわれてたけど、他は広い部屋を好き勝手に使ってた」


(あ~…種族差別か)


少しだけ気分が陰鬱になるが、これからは仮にも僕がこの屋敷の主になる訳なんだし、此処は助け合いだよなと命令を下すことにする。


「マロンは他の人と同じ普通の使用人向けの部屋を使っていいよ。勿論、奴隷の人たちもね。どーせ、時期を見て奴隷から解放する予定だし…」


「…いいのか、それで?」


「逆に訊くけど、何処か問題が?」


「…」


少しだけ考え込むマロン。そして意を決したのかマロンが決意を固めた目でザックを真っ直ぐに見詰める。


「わかった」


「うん、宜しく頼む。あぁ部屋割りの時に各人の任せたい仕事も同時に伝えてくれるかな?…仕事の経験上、無理な割り当てではないと思うけど…嫌がったり無理だという人が居るなら教えてくれると有難い。その場合は何処かできそうな仕事を割り当てる必要があるからね…」


「わかった」


一応、身体測定の時に前職のメモを書いてある書類を渡してあったが、奴隷たちにはその前職を引き続きやって貰うということは話してない。いや、仕事をさせたいから買い取った訳だけどね。全部で金貨381枚と銀貨3枚をはたいて…


(多分、この人たちって…)


某F男爵の屋敷で働いてた使用人たちだと思う。まさか、ジャックソン奴隷商会に1つの屋敷で働いていた人数分、纏めて居るとか思わなかったし。僕も人材派遣事務所なら何とか揃うんじゃないかと思ったら奴隷商会だったし…そんなの予想外もいいところだよ…


(流石に使用人全員ではないと思うけどね…まぁ必要最低限は揃った感じかな?)


マロンが簡単にぺこっと一礼して屋敷に戻る姿を確認してから、ギルドの人間が常駐してるだろう医療施設ログハウスへと足を運ぶことにする。あそこには探索者ギルドと冒険者ギルドの人員の寝起きする個室も併設してあるのだ。


「その内に出張所も作ってくれっていわれそうなんだよね…」


そんな面倒なことはしたくないし、屋敷の敷地の傍に不特定多数の探索者や冒険者が近付くのも御免被りたい。というか、宿も無いのにどうしろと…


「まぁ、屋敷の敷地内だけ下賜されただけで、ノースリバーサイド全体は領主の管理する土地なんだっけ…はぁ」


ノースリバーサイドは体を鍛えた人間が走れば外周を1周するだけなら3~4時間程度で回れるくらい。仮に時速20kmで走るなら4時間掛かった場合は外周距離は80km程と計算できるが道が荒れ放題なので実際にはもう少し掛かるだろう。それに巡回してる探索者や冒険者は防具を着込み、武器も携帯し、色々と荷物も持ち運んでいる為にそれ程早くは走れないと思う。寧ろ、慎重に警戒しながら歩いているので区域を分担して歩いていると思われる。


「…ま、それもこれもこの緊急事態が落ち着いてからかな…壁の穴も塞がないといけないし、補修もしないとだし…」


てなことをブツブツいいながら到着する大きいログハウスに併設されたログハウス。入口は2箇所あり、それぞれ繋がっている部屋には別々の人物が常駐している。中は壁で隔たれていてもう片方の部屋に行くには外を経由しなければならない。そんな面倒な作りのログハウスを頼まれて創った本人は「はぁ…」と溜息を吐いてからドアをノックする。


こんこん


「…入り給え」


「失礼します」


これもまたザックの創造したドアを潜り、中に入るとアラサーに片足を踏み込んだ頃の女性が書類を前に椅子に座っていた。丁度書類仕事と格闘していたようで、疲れた顔をしてぱさっと書類を放り出した所だった。


「やぁ…ご苦労様。お目当ての使用人は雇えたかい?」


探索者ギルドの幹部の1人。その名は「ノエル」という。より上の役職から降ってくる難易度の高い仕事をこなしている内に割りを喰っている苦労人だ。多忙過ぎて嫁…いや、旦那探しができないとぼやいていると探索者の誰かに聞いた記憶が…。まぁ、生活が疎かになる程家事全般をやる暇が無いので、「嫁さんが欲しい…!!」と絶叫を聞いた記憶があるようなないような…「ダメだこのギルド。何とかしないと…」とは思わなかったけどね。だって他人事だし?w


「えぇ、まぁ。雇うっていうか奴隷を買って来る羽目に遭いましたが…」


「ふむ…結果的に目標は達成できたのだろう?」


「えぇ、まぁ。まるで前もって用意されていたかのようで、誰かさんの手の平の上で踊らされてたように感じて不気味でしたけどね…」


「ふむ…」と一言呟いて何かの紙にぐりぐりとペンを走らせるノエルさん。そこに外をライトブラウンの馬が曳いて幌荷馬車が走って行くのが見えた。此処は屋敷の厩舎に近い場所に建っているので、目の前の道を通る馬車を見ることができるのだ。


「…今のは?」


「うちの荷馬車ですね。今日屋敷に来た奴隷…いえ、使用人たちの仕事着を買いに行ったんでしょう」


「そうか…」


此処での用事はマウンテリバーから戻ったとの報告と、石橋からこっち…魔物の遭遇戦の報告くらいだ。まだ買い取り受付がある訳ではないので、ドロップ品はマウンテリバーの支部に納めに行くしかないだろうけども。


「じゃ、僕はこれで。あぁ、そうそう…これをどうぞ」


「…む?…あぁ、あれか。有難く頂こう」


体力回復薬スタミナポーションを巾着袋…ではなく、腰のポーションホルダーから取り出すと、1本…いや、2本を取り出してノエルに渡すザック。無論、2本を一気に飲んで下さいという意味ではなく、隣で奮戦している冒険者ギルドの人にも渡して仲良くやって下さいね?…という意味を込めてだが。


「わかっている。お隣に挿し入れろということだろう?」


「安心しました。明日、血だまりの中でノエルさんを発見する羽目にならなくて…」


血だまりとは鼻血でできた物だ。このスタミナポーションは効きが良過ぎて2本一気に飲むと、鼻血を吹いて気絶してしまうと聞いたことがあるのだ。気絶寸前まで疲労していた冒険者が2本一気飲みした所、今度は疲労回復どころか過回復してと…何事も程々がいいということだろう。


「あはは…あの事件はわたしも聞いたからな…じゃ、また」


「はい、お疲れ様です」


ザックはノエルの部屋を辞去し、ノエルはくいっとスタミナポーションを飲んだ後、もう1本のスタミナポーションを持って隣の部屋へ向かうのだった…。だが、実は冒険者ギルドの幹部も1本を既に飲んでおり、深夜疲れた頃に挿し入れされたポーションを飲み干した結果…鼻血の海に沈む彼を、第1発見者の冒険者が見て絶叫するとは予想もしてなかっただろう…(服用は1日に1本と制限されていたのだった…ザック印のスタミナポーションw)



- 最外壁巡回中の人たちサイド -


「あ…ここにも穴空いるぞ?」


「おお、わかった…土壁!」


ずずずず…


ゆっくりと空いている最外壁の穴を土でできた壁が埋まっていく。最外壁の穴は厚い為に高密度の土壁で塞ごうとすると時間が掛かる。つまり、余分にMPが消費される訳だが…


「大丈夫か?…MPポット飲むか?」


「いや、手持ちがまだあるから。支給された奴って高品質のクソ高そうな奴だろ?…いざって時に取って置くといいんじゃないか?」


「あ~そうかもな」


ごくごくと手持ちのMPポーションを飲み干す土属性を操る魔法使いらしい冒険者。尤も、この地の危険を鑑みて布装備ローブではなく革製の防具を身に纏っていた。ノースリバーサイドではそれでも足りないのだが、彼の体力的に金属性の防具は無理だったのだ。


「ふぅ~…回復回復。次行くぞ!」


「おお」


冒険者のメンバーは3人。土魔法使い(推測)に盾を構えたタンクの剣士。斥候役の身軽操な3人とも男だけのパーティだ。斥候は無言で辺りを警戒しつつ空いている穴を見つけては報告に戻ってくる。土魔法使いはその都度穴埋めをしていく。タンクの男は「ここに穴が空いていたぞ」という目印の旗を立てる。旗の隅っこには何処のパーティ・チームが立てたか名前が書かれており、担当区域に何本旗を立てたか。何箇所土壁で穴を埋めたか報告し、後日調査員が確認を取ると所属ギルドから報酬を受け取れるといった感じだ。これは探索者ギルドでも変わらず、巡回警備と同時に応急処置ではあるが魔物の侵入をさせない為に必要なことでもある。報酬の予算は領主から出ており、何かと所属ギルドから搾り取られている税から捻出されている訳だ。


HPポーションに比べて高額なMPポーションも一定数だけだが毎日配布されており、マウンテリバーのギルドではなく、ノースリバーサイドの臨時ギルド事務所(ノエルや冒険者ギルドのログハウスはそう名乗っているらしい)では僅か2本づつだがザックの生成した高品質なMPポーション(複製)を配っているという。



「はぁ…もうすぐ夕方か。帰りも考えるとそろそろ戻らないとな…」


タンクの男がそういうと斥候の男も無言で頷き、土魔法使いも


「そうだな…流石に手持ちのMPポットは使い切ったし、疲労もあるしな…」


「あぁ…復路で魔物に出会わないように祈るしかないな…」


疲れて歩く足もやや頼りなくなっているのは土魔法使いの男だけで、唯歩いていたタンクの男はそれ程の疲労感を感じさせない歩みを見せる。斥候の男は2人より走っているが、今の所は疲労感は感じられないように見える。


「…今日は結構稼げたかな」


「そっか…まぁ後のお楽しみにとっとこうぜ?」


「あぁ…」


そんな会話をしていた2人に、静かに、だが激しく警告が飛ばされる。それは…


「…ちっ。お前たち、囲まれてる!」


「「なに!?」」


3人の冒険者パーティは、数倍に匹敵する魔物たちに囲まれていた。ちゃきん…とダガーを抜く斥候の男の額に汗が流れる。杖を構える土魔法使いだが疲労の色が濃く、この戦いでは攻撃よりは寧ろ防御に専念した方がいいように見える。タンクの男は大盾を構えてショートソードをすらり抜く。


「…来る」


斥候の男が呟いた瞬間、一気に駆け出してまだよく見えない魔物を正面から攻めると見せかけてサイドステップ。そして鋭角に再びサイドステップをしてダガーを構えて体毎突貫する!


がいぃぃん…


ダガーの切っ先は堅い金属の…盾に阻まれ、打突した衝撃で音が響く。それが開戦の狼煙であるかのように、魔物たちは…ゴブリンナイトとライドコボルドの組み合わせ10体は…吠えた。


「くっ…土壁アースウォールよ!」


ずずず…


と高さ1mの土壁がタンクと土魔法使いの周囲を囲む。頑丈さを鑑みて厚さは50cm程ある。1mというのはゴブリンの背丈は1mと少ししかなく、経験上これだけの高さがあればすぐには侵入してこないだろうと考えていたのだが…


「うおおおおっ!」


タウントを交えた絶叫を上げてタンクの男が土壁の上からショートソードを振るう。だが、相手はゴブリンナイトでライドコボルドの背丈の分…高さが増していた。


がいぃぃん…


構えた金属製の盾に阻まれて、ショートソードが流される。隣のゴブリンナイトの金属性の剣が突き込まれるが、急いで構え直して防ぐタンクの男。


ぎゃりぃぃん!!


まともに突きを喰らってたたらを踏む。その隙を狙って第3の刺客…ゴブリンナイトが…ライドコボルドがジャンプをして上から兜割りを敢行して来た…ライドコボルドから飛び降りたのだ!


〈ゴブ~!!〉


ナイトといえど、叫ぶ言葉は所詮ゴブリンらしい。そんな間抜けな絶叫を聞きながら、狭い土壁の中ではどうにも動きが鈍くなる。そして…構えた大盾は辛うじて上に掲げられた為に兜割りを防ぐことができた。


がりぃぃぃんっ!!


「くそっ!!」


大盾を振って落ちて来たゴブリンナイトを土壁の外へと弾き飛ばすタンクの男。大盾とショートソードを構え直してふと気付く。


「おおっ!?」


見れば、いつの間にか背後から侵入していたゴブリンナイトが土魔法の男を惨殺していた。背後から首を一突きし、声が出せなくなった所で数体のゴブリンが彼をめちゃめちゃに突き刺していたのだ…


「ちっ…だから金属鎧を着ろといったのに…」


魔力供給を失った土壁がゆっくりと崩れて行く。タンクの男は死体を弄ぶゴブリンたちの隙を付いて体力回復薬スタミナポーションをあおり、無理やり体力を回復させてから


「うぉぉおおおっ!!!」


と叫びつつショートソードを薙ぎ払う。土魔法使いの遺体の傍に居た3体のゴブリンナイトはあっさりとその首を飛ばされて倒れ伏す。続けて傍に居たライドコボルドにも1体に頭にショートソードを突き刺し、2体には踏みつけて頭部を粉砕する。主であるゴブリンナイトがあっさりと倒された隙を付く形になった訳だ。


「あいつは大丈夫かっ!?…あぁ…」


急いで斥候の男を探すタンクの男だが、結論をいえば彼は力尽きていた。功を焦った余り、唯のゴブリンと侮った結果だろう。実はゴブリンナイトであり、ダガー程度では貫けない金属性の盾を構えたゴブリンに先制の攻撃は防がれ、周囲のゴブリンナイトに串刺しにされた彼は…ゴブリンたちの剣で四肢を切り落とされて、各々の剣や槍に元人間であるパーツが突き刺されて…まるでモズのはやにえのようになっていた。その様子を直視したタンクの男はガクリと膝を着き、大盾とショートソードが手から離れてしまう。


〈ゴブゥ~?〉


ゴブリンナイトはそんな彼をニヤニヤと口角を上げて睨むと、手を上げる。そして…一斉に槍を持ったゴブリンナイトがライドコボルドの走る勢いで突撃して串刺しにし、最期に剣を持ったゴブリンナイトが彼の首を落とし、


〈〈〈ゴブゥ~!!〉〉〉


と、勝鬨を上げるのだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

翌日、死体がおもちゃにされた痕跡や食い千切られ捨ておかれた冒険者の死体が残されていたという…(うわ悲惨)



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨580枚、銀貨801枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 マロンが奴隷たちの仕事着(古着多数と新品1着)を発注(お代は手直しした現品と後日引き換えらしい)

ザックの探索者ランク:

 ランクC(後日アップの予定はあり)

本日の収穫:

 ゴブナイとライコボからのドロップ品(詳細は予定報酬であってまだ納めてない)

 惨殺事件を聞いた人たちのSAN値(-1って、…収穫じゃないよねそれw)

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