46 その14
侵入が確認されてから1週間程が経過し、探索者チームと冒険者パーティが多大な人数を損耗して行く中…魔物もより多くの損耗を強いられていた。未だに憎き人類の版図を崩せないまま、侵入経路は日々塞がれて狭まっていく。そんな中、魔物の上位者たちは痺れを切らして攻勢に出た。だが、圧倒的強者に依って後もう少しという所で命の灯火は掻き消されてしまった。だが、徐々にではあるが憎き人類の…恐らくは強者と思われる小集団は1つ、また1つと潰されていっているとの報告が上がっているのだった…
※前書きで魔物側の情勢をちょっと書いてみただけで本章では書く予定はありません。悪しからずご了承下さいませ
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- マウンテリバーサイド・冒険者ギルド -
「またうちのギルド員が潰された、だと!?」
副ギルド長がバンバンと机をぶっ叩いて怒声を上げる。
「え、えぇ…雇っていた
「ポーターと新人…新人ってあの俺が一人称の?」
「そう…ですね。それが何か?」
「いや…」
(マジか…あの腫物扱いの女がいるってことは…はぁ、俺の運も悪くはないな…首の皮1枚繋がったって感じだが…)
「おい、その新人が1人居たって役に立たないだろ?…さっさと呼び戻して安全な場所に放り込んでおけ!」
「え?…いや、その前に事情聴取とか…」
「ポーターの男も居るのだろう?…そいつに聴けば済むことだろう!」
部下のギルド職員はこれ以上は無理だなと判断し、いう通りに彼…否、彼女を呼び戻す手続きをするのだった。後日、噂レベルで信じられるかどうか不明だが、呼び戻された者は何処ぞの貴族の次女であり、政略結婚が嫌で家を飛び出した…などという話しがあったようだが定かである筈もなく、彼女は冒険者の表舞台から消えるのであった…
- ノースリバーサイド・屋敷の使用人たち -
「はぁ…今日も朝からいい天気だな…」
「でも、屋敷の外では何でも探索者と冒険者たちが魔物と死闘を繰り広げてるとか…怖いですねぇ…」
雑務役のリュウが誰ともなく呟き、偶々近くに居た平メイドのニナがその声に反応してリュウに話し掛ける。
「実際に見た訳ではないが、時々聞こえてくる唸り声やダミ声はそれか…」
「あ~…時々、屋敷の近くまで現れては巡回してる探索者や冒険者たちが討伐してるって聞きますから」
唸り声は魔物の声で、ダミ声は探索者と冒険者たちの上げる雄叫びだろう。女性率は冒険者のパーティの方が僅かに多いが、絶対数が少ない上に大声を上げて下品に戦う女性などは殆ど居ない為、総じて野郎共が気勢を上げる為に大声を上げると…結果、聞こえてくるのは野郎たちのダミ声だけという所だろうw(居ない訳ではないが、実力上位の冒険者や探索者は
「…おっと、仕事をサボらせてしまったな。すまない」
「あ、いえ。私もリュウさんの仕事をサボらせてしまいましたね…申し訳ありません」
暫しの間を空けてぷっと笑い合いながら、
「また後でな」
「ではまた後程」
と、軽く頭を下げて別れる2人だった。31歳の筋肉隆々の独身おっさんと18歳の女性…しかも双方が奴隷の身分では恋が起こるべくもなく…唯、淡々と与えられた仕事をこなす毎日である…
・
・
「む…主の構築した結界の外に魔物か…」
マロンである。恰好だけでいえば
元々パトリシアの身辺警護を任されていたのだが、「口が悪い」という理由で遠ざけられ…その隙に本人が出奔し、使用人が必要になったということで再び傍に戻って来たというのに実家に戻るということで再び離れ離れに…主人に嫌われた理由が「口が悪い」だけでは納得がいかないのだが命令には従う他は無く…今に至るのだった。
「今の主はザック殿だ…命は受けてないが屋敷を任せるというのであれば敵の排除は必須…仕方あるまい」
裾から1本づつの中サイズのダガーがするりと出て両の手に収まり、中庭に移動していたマロンはその名に似付かわしくない俊敏なジャンプをして外壁の天辺に飛び乗り、周囲を確認した。
(…ゴブリンと…オークか?)
ささっと索敵した結果、2種の魔物を確認し…その背後に飛び降りる。その数…ゴブリン種8にオーク種3。鑑定スキルがあれば詳細が判断できたが、マロンには見た目から判断することしかできない。ゴブリンは最下級の唯のゴブリンではなく、混在部隊となっていた…
「疾っ!」
たとん…とほぼ音も無く着地したマロンは体を考えられない速度で振り回す。連動して広げていた腕も振り回すこととなり、手の先にある刃も音速を越えて振り抜かれる。
ぱぁん…
刃先が音の壁を突破した結果…衝撃波を撒き散らし、至近距離に居たゴブリン4体を巻き込んで沈めてしまう。巻き込まれたゴブリンたちは頭部を防具で保護してないアーチャー・メイジ・プリーストだ。せいぜい布のフードでほっかむりをしてるしてる程度の為、衝撃波で頭部が粉砕されている…即死だ。
〈ゴブゥ~!?〉
〈ピギャアッ!!〉
残るタンクとエリート、オークたちが振り向くが既にそこには彼女は存在していない。
〈ゴブッ!?〉
どさっ…とタンク2体の首が落ちて倒れ伏す。既に倒された4体も含めて6体のゴブリン種の首からおびただしい緑色の血が流れ出ている。戦闘を終えてから今日中に処置しないと屋敷の外壁の外ではあるが、その裏庭は翌日には鼻がひん曲がる程の悪臭に包まれてしまうだろう…
「疾っ!」
再びマロンが息を吐くと共に鋭く叫び、目に見えない斬撃を繰り返す。どさどさどさとオークたちが倒れ伏す。先程のゴブリンと同様、首から上が既に存在しないそれはびくんびくんと痙攣を起こしながら首の断面から血流を吹き出していた。ゴブリンとは違い、赤い鮮血を流すオークは食用可能な魔物だ。豚肉と同様の味がするオーク肉は豚より美味しいと評判で、貧しいご家庭では滅多に食卓に上がらない高級肉の地位を築いているという…マロンはあの3体だけは絶対に持ち帰ろうと思ったそうだ。
〈ゴッ…ゴブゥ~!?〉
エリートが目に映らない攻撃の手の者に怖気付き、撤退をしようと振り返るが…
「疾っ!」
「…任務完了」
マロンはオーク3体の血抜きを終え、懐にあった貸与されたアイテムボックスの袋に収納し、その場を去った…実に戦闘時間3分。血抜き作業20分。死体処置時間30分であった…(死体処置に時間が掛かったのは穴を掘って死体遺棄してついでに血抜きした地面の土も穴の中に放り込み、埋め戻していたからである。魔物の装備品に関しては一応回収し、鋳つぶして再利用する予定で持ち帰ったそうな…)
そんな殲滅任務で何度か出動することがあった、らしい。ザックが後日報告書を読んでマロンの正体が唯のメイドではないと勘付き、探索者ギルドの伝手を頼んでパトリシアに問い合わせをした所、
「私の護衛メイドだったけど好きに使ってくれていいから。既に解雇してるし?」
とだけ返事が来たという…
「いや好きにって…」
本人に訊くも同じような台詞が返って来た為、仕方なく仕事を任せる他無かったのだった…いやだって、「帰る場所も無い」っていわれちゃあねぇ…
- そしてザックの本日のお仕事は… -
「おーっし…後は此処を再生すれば今日の分は終わり!」
残るのは深い峡谷に面する絶壁といっていい程の外周だけでそれ程急がなくてもいいだろう。ザックは目前の最外壁に対して
「あれ?」
再生の効果は全くあらわれてない訳ではない。現に地面に近い部分は僅かながら完成した時の色合いを見せているのだ。だが、何か見えない力に抑え込まれるように押し合いへし合いをしてるように見える。
「何これ…」
今までに見たことのない症状に首を傾げるザックだが、
「う~ん…じゃあ、もっかい
通常、
ぶ…ぅんっ!
ずぱっ!…と、完成された当時の姿に身を変じた当時の最外壁が現れる。そして、その外から
〈ぎゃああ~っ!?〉
と、知性のある魔物の断末魔が聞こえて来た…が、すぐに沈黙する。
「今のって…魔法使い系の魔物?」
「…う~ん、多分?」
「シャーリー…」
「うん!お任せ!!」
名前を呼んだだけで何をやって欲しいかすぐに理解した彼女は、その身の軽さを生かした即断実行をして最外壁を飛び越して偵察に行ってくれた。以心伝心とでもいうのだろうか?…そして念話で現場の状況を話してくれたのだった。
・
・
「誰も居なかった、か…」
それだけを念話で伝えると、シャーリーはすぐに戻って来た。弓兵が攻撃してきた為、急いで飛んで逃げて来たのだ。
「あ~…びっくりした。あいつら隠蔽持ちね…多分あっち側のプロよ。プロ」
プロとは、戦時下で動くプロの戦争屋とか傭兵の類だろうか?…少なくとも、魔物側にもそういった類の個体がいるようだ。人類側にもそういった類の人種が居ると聞いた覚えがあるし…人と人が争うなんて馬鹿げてると思うけど。でも…数10年もの間、人類共通の敵である魔物の軍勢が鳴りを潜めているし、欲望を抑えられない人たちは他人の領土を奪う為に動くものだと…
「マスター?…大丈夫?疲れちゃった?」
シャーリーが僕の顔の目の前に浮遊して心配そうに見詰めている。レムも御者台の上からこちらを見ている。同様に心配そうな顔をしている。
「あ、大丈夫、だよ?」
(この子たちの主人は僕しか居ないし、心配を掛けるような顔をしちゃったらダメだよな…はは、何をやってんだか…)
よろよろと馬車へ向かって歩くザック。不意に目の前が暗くなり、そう大きくないが確かな柔らかな膨らみに顔面が包まれる。
「…え?」
「マスター、辛そうな顔をしてた。暫くこうしてるといいよ?」
レムだ。いつの間にか御者台を降りてザックの頭を掴み、その胸へ導いていたのだ。
「えと…ちょっとこの体勢キツイですよ?…レムさんや…」
「なら、馬車へ…」
結局、強引にチャリオットの2人乗りの馬車の客席部分に引っ張られてたザックは、座席に座ったレムの膝枕に頭を乗せられるのだった…物凄くきつい状況でも嫌とはいえないという…
(せめて座席は3人腰掛けられるサイズにすべきだった、かな…?)
2人乗りの座席にレムが座り、ザックが頭を預けて上半身がもう1つの座席に。下半身は手摺を乗り越えてプラプラしてるっていう…これなら地面にシートを敷いて膝枕をして貰った方がなんぼかマシだったという…。結局、雨が降って来たので中止となり、急いで帰還することになってホッとするザック。レムは中断されて頬をぷりぷりと膨らませてご機嫌斜めだが横でシャーリーにからかわれていて専らそちらとの応酬に忙しくなって機嫌は兎も角、怪しい雰囲気は消し飛んだようだ。
「はぁ…一応幌を張れるようにしておいて正解だったな…」
2人乗りのチャリオットは御者も入れて3人乗れるようになっているが、客席部分は小さ目の幌が張れるようになっており、風雨を凌げるようになっている。曳いているのはゴーレム馬なので御者は不要だが対外的に御者不在で動いている所を見られると不審がられる為、レムが御者席で立って操作している。座ってもいいのだがレム曰く、
「もう全部ずぶ濡れで今更座るとパンツがぐじゅぐじゅなので…」
とのこと。要は気持ち悪いから立っているってことだろう。ちなみに彼女はスカート姿ではなく、長ズボンを履いている。普段は膝くらいのスカートか長ズボンを履いているのだが気分で変えているらしい。ちなみに最初に創造した時は…あれ?何を着てたっけ?…ま、いいか。
・
・
屋敷に到着し、僕とシャーリーがチャリオットから降りるとレムも御者席から降りて彼女の腕輪型のアイテムボックスにチャリオットを収納する。結構ずぶ濡れになっているけど、清掃は作業小屋でやるというので任せて屋敷の中へ入る。
「ふぅ…ただいま」
「おかえりなさいませ。主、これを」
マロンが大きい手拭い…というか、まんまバスタオルを持って待機しているので受け取ろうとして…スカっと躱されて頭からぼふっとタオルを掛けられ、優しく水分を拭き取られて行く。いや、それくらい自分でできるんだが…これもメイドの仕事なのだろうかと思いながら成すが儘にされていると…
「ちょおっ!…服!服を脱がさないで!!」
マロンが何故?…という表情で
「でも、脱がさないと全部拭き取れない」
と返してくる。これが貴族クオリティーなのかっ!?…などと思いつつ、
「いや、着替えないのに脱がされたら素っ裸で屋敷の中を歩く羽目に遭うでしょ!!」
といい返す。すると、
「主様、御着替えはこちらに…」
と、イブさん以下数名…いや、メイド全員が好奇心旺盛な視線でこちらを貫いていた。
「ちょおっ!?…痴漢がいるぅ~!!」
と、マロンの拘束するタオル嵌めから逃走しようにも絶妙な力の分散で動くに動けず、結局ずぶ濡れの服を脱がされ、全身を拭かれて御着替えをされるが儘に…流石に呆気に取られていたシャーリーとレムが途中で「はっ!?」と我に返ってナニを拭いたり愛でたりされるのだけは止めたけども…ナニが何なのかは言及してくれないでいてくれると助かる…
・
・
「はぁ…疲れた」
場所は屋敷の食堂だ。まだ食事をする時間じゃないけど、急遽集まった各チーム・各パーティのリーダーかリーダー代理などが報告をするというので、人数も少ないこともあり飲み物や軽食を摘まみつつ報告会ができる…という訳で食堂に集まって貰った。
「では…」
予め決まっていたのか、探索者のチームから順番に報告が進んでいく。時刻を見ていると時系列に順番が並んでいるようで途中から探索者と冒険者の順番がてんでバラバラとなっていく。
「以上です…」
うむ、魔物が襲って来て被害が出ている。何とかしないと探索者・冒険者掛からわず壊滅するぞ?…ということしかわからん。
「えっと…結局、僕にどうしろと?」
成人したばかりの(見た目)子供に責任を押し付けて…という雰囲気じゃないのはわかるけど。
「トレハンチーム…と聞いて何かわかりますか?」
とれはんとれはん…トレジャーハントチームのことかな?
「ひょっとして、トレジャーハントチームって…女性ばかりの宝箱狙いの?」
「そう、それです!」
聞く所に依ると、彼女たちは他のチーム・パーティと違い魔物の撃退数も多く、かなり戦闘力が増したと驚かれてるようで…
(ゴーレムと壁のことは秘匿するように契約したけど
リーダーのシャロンさんは大丈夫そうだけど、他の3人は物凄く軽そうだからなぁ…と頭痛がする思いがするザック。そして…
「…で、そのトレハンチームがどうしたんですか?」
と問うと、
「いや、その…いい難いんですが…」
そこに他のリーダーが言葉を引き継ぐ。
「俺から話そう。まぁ、簡単にいうとだな…」
詰まることをいえば、貸与していた弓矢がマウンテリバーに出向いてドロップ品を処分しに行った所、ボロボロと崩れ去って
「あぁ…あれですか。多分、強力な性能の代わりにノースリバーサイドを出ると消えてしまう仕掛けがしてあったんだと思います。屋敷の倉庫にあった大昔の武具だったんですけどね…そうかぁ…あの石橋を渡ってマウンテリバーサイドに行くと消えちゃうのか…盲点だったなぁ…あはは(苦笑)」
と、かなり棒読みながらも誤魔化した。各リーダーや代理からは「おお!」と声が上がる。…ひょっとして彼らも借りたいってことなんだろうか?…それより、今の大根役者な台詞で誤魔化されるって大丈夫なんだろうか…
「その…ノースリバーアームズは…我々にも貸与は可能だろうか?」
何か変なシリーズ名?が付いて来たけど…まぁ別に貸すのは問題無いかな…というか、武具が貧弱な為に怪我人は増えてるし命を落とす人も少なくないって聞くし…
「えっと…弓矢以外にもって意味でしょうか?」
「そう…だな。できれば近接武器や魔法補助の杖なんかもあると有難いが…防具などもあると更に安心感も出るな」
(いや、そこまで求められてもなぁ…)
うーん…と考えるザック。実は倉庫らしき部屋は地下部分にあるにはあるのだが、中は何かが朽ちた後の残骸しか無く、既に
「じゃああの魔法の弓矢は何処から!?」
ということになる為、此処は1つ優しい嘘でも吐くか…ということにした。別に誰も困らないだろうし、ね。
「じゃあ、何がどれだけ必要なのか書き出してくれますか?…勿論、全てに対応できないと思いますが…」
今の所、あの倉庫はまだ未整理な所もある為に全室僕しかドアを開けて入れなくしてある。今後どう使おうとか、何に使おうとか色々ね。地上部分の部屋はマロンさんたちに使い道が決められちゃったのでせめて地下部分は自由にさせて貰おうと…そんな訳で、地下部分に通じる隠し扉も封印させて貰っている。どうやら前の持ち主というか管理者の某F男爵も知らなかったようで、中の床には経過した年月相応の深い埃の層が…ま、それはいっか。階段も腐ってて危うく踏み抜いて落ちそうになったのは焦ったけどね…(レムが腕を引っ張ってくれて助かったけど。無論、
・
・
30分程が経過して、何枚かの紙が寄せられてきた。殆どは使用してる同系統の高品質か魔導式の武器。次いでタンクさんたち必須の大型の盾。体に装備する防具類は大昔の物でしかも自分の体にジャストフィットする物は無さそうだと遠慮した模様…ま、念入りに
「うーん…」
ペンを取り、余りにも高望みしてる物は容赦なく斜線を引いていく。何だよこれ…100発100中の銃って…数10年前にそんなのあるのか?(数千万年前なら100発90中くらいの狙撃銃ならありましたw…射手の腕前次第ですが。尤も、その時間経過の中では完全に朽ちてしまっていて残る物でもないですが…)確かお貴族さまが10mくらい離れてて100発10中くらいの前込め式の単発銃なら大金貨でオークションで競り落としたって聞いたことがあるけど…このクエスト終わったら売り飛ばす気満々だろ、これ…
他にも色々欲望丸出しな武器の要望が書かれていたが、最後まで読み込んで「はぁ…」と溜息を吐かざるを得なかった…
「あの…」
「はい?」
「これ書いた人って、事が終わったらオークションにでも出して売り逃げしようって気、満々じゃないですか?」
「そ、そんなことは…」
「ノースリバーサイドに永住する貴族にでも売るんですかね?」
「ははは…そんなことは…」
実際、ノースリバーサイドに住んでいるのはこの屋敷に居る者が全てだ。併設してる
白けた表情でジト目をするザック。ペンをポイ捨てしてテーブルに転がり、ぱさっと紙を全員に見えるようにばら撒く。殆どの要求した武器は射線が引かれて無難な武器と盾が残るのみだ。魔法の弓矢はトレハンチームに貸与した物が全てだと書き添えてもある。
◎許可した物(効果はちょっとだけ頑丈とかちょっとだけ強いくらい)
・大盾(タンク役が使うどっしりとし盾。タワーシールドやカイトシールドなど)
・小盾(遊撃役が用いる盾。バックラーや丸盾などがそれに相当する)
・小剣(ショートソードといっても短くない普通の剣。馬上で使うロングソードと大差はない)
・槍(投てき用ではなく突いて使うスピア。初心者向けでもある)
・斧槍(ハルバードともいう。突き用の刃とは別に斬撃用の斧などの刃が付いているポールウエポン)
・薙刀(グレイブともいう。長い棒の先に槍というよりは鉈のように幅広の刃物を取り付けたようなポールウエポン。※漢字読みは薙刀にしてるが妥当な和名が無かった為)
◎却下した物(貸与の予定の無い魔法付与品。後で売り飛ばす気満々と思われる物)
・投げたら手元に戻ってくる
・魔法の弓矢セット(だから誰かさんのせいでロストしたんだって…あれ以上出す予定はないよ?)
・一撃で巨人も切り裂ける大剣(多分消費魔力も装備者を一撃死しますがそれでもいいのかな?)
・無限に魔法を撃てる長杖(ねーわw…できても装備者のMPが切れたら魔法も撃てなくなる死)
・隠蔽の衣(ことが終わったら盗賊に転職するつもりなのかな?)
・身体強化の腕輪(ことが終わったら強盗に転職するつもりなのかな?)
:
etc.
別に上記のまんま書いてるのではなく、あくまでわかり易く書けば…ということだ。見れば許可を出した装備品を書いたチームやパーティと、不許可を出したチームやパーティは綺麗に別れていた。尤も、許可不許可はザックの心の中で区別してるだけで表向きは「これはあります。これは…無いですね」という感じで区別してるのだが。
「魔法の弓矢はトレハンの連中が使ってたじゃないかっ!?」
と文句が出そうだが、それは前もって
「彼女たちに貸与したのが全てで、既に存在しませんよ?」
と先手を打たせて貰っている。一応、ノースリバーサイド内で消耗品の供給を受けていると聞いてた為、まさかクエストが終わる前に持ち出すなんて思ってなかった為、これで彼女たちには武器の貸与は無い。後は稼いだ金で高品質の弓と矢を自腹で買って貰うしかないだろう。泣いて懇願されても無い物は無い…と突き放すしかないのだから…
・
・
後日、貸与許可を出した武具類を錬金術で精錬した後…地下倉庫でだが…ストレージに入れておいた木材を切って組み立てた武器保管棚を作ってそこに武器や盾を収納していく。アイテムボックスにはそれらが全部収納可能な物は未作成な為、仕方なくだが…
「では使用に耐えられる物はここに収納してあります」
「では、お借りします。契約書はこれで…」
武具を貸与するに当たり、契約書を交わすこととなっている。要は情報の漏洩を防ぐ為だ。貸与するしないに限らず、此処ノースリバーサイドに来ている全員に血判済みの契約書を渡され、最後にザック本人の血判をすることにより締結される。
(流石に生き残り全員の血判を押された契約書だけあってでかいな…)
血判は重なって押されると意味が無い故、大きい用紙を使用されていた。ザックが血判を押すと契約の効果が表れ、一気に魔力が浸透して行き…地上から早速悲鳴が上がっていたのだが…
「あ~、えっと?」
「…放置で構いません」
「そう、ですか…」
武器の貸し出しを待っていた20名余りが苦笑いを浮かべてる中、
「じゃあ希望の武具を貸し出します。禁足事項は理解してると思いますが、違反しないようにお願いします…」
と、ザックがいうが早いか、探索者・冒険者たちは我先にと希望の武具を探して走り出す。
「ちょっ…お前ら!武具は逃げたりせんぞ!!…こら、喧嘩すんじゃねぇっ!!!」
と、さながらおもちゃを我先にと手に取ろうとするガタイのいい子供が一杯だった…
(まぁ…中には女性もいるんだけど…あんまし変わらないってのがなぁ…)
苦笑いで眺めていたザックだが、怪我したらどーするんだろーなー…と思いながら眺めていた。
・
・
凡そ1時間後。ようやく落ち着きを取り戻したザックより年上の
(何をしてんだか…)
だがここで即治療してしまうとああいう悪い癖は中々治らないと聞き、ザックは敢えて放置している。が、床に流れて血で汚された地下室はどないせえと…と思ってたのだが、生活魔法の使い手が居たようで、後で覗いた時には取り敢えずは血の臭いも取れ、血の汚れも微妙に残ってはいたが取り敢えずは雑巾がけした程度には綺麗にはなっていた。
(…争ってあちこち破損してるんだけどなぁ…まぁいいか。後で修繕代とか請求すれば…)
元々何処ぞで伐採した木を加工して作った棚だし、壁や床も
・
・
「はぁ…やっぱし暴れん坊たちを屋敷に入れるとなると疲れるなぁ…」
ちなみに武具は所有者が不明な為、領主に所有権があると思われるがまだ報告をしてないので仮の所有権を持つ者としてザックに在ると仮決めされていた(元々ザックが創造したのだから仮もクソもないのだが…)
(全員がマウンテリバーサイドに持ち逃げしてくれれば存在そのものが消えるから、んな面倒な所有権争いは無くなって楽なんだけどなぁ~w)
仮に借りた者全員が素直に返却しても、ノースリバーサイドから持ち出し不可…ということで、管理権くらいは残るのかも知れない。尤も盗まれたとしても、時間経過停止機能付きのアイテムボックスなどに収納した後に此処から脱出した後、アイテムボックスから取り出せば塵と消えるので結果的には無意味な犯行であり、犯罪者が罪を重ねるだけとなる。
(時間停止型は簡易型と違って中身が見えないからなぁ~…肩掛け鞄や巾着袋とかは口を開けば中身が見えてたけどね…)
時間停止型などは口を開いても何やら渦を巻いていて中が見えないのだ。手を突っ込めば脳裏に何が入っているかわかるので取り出すのは別に難しくはない。初めて使う者は手を突っ込むと「中の何者かに引き込まれるんじゃないか?」とか「中の何者かに腕を喰われるんじゃないか?」などと手を突っ込むのが躊躇ったりするらしい…そんな訳はないんだけどね(何処の
「取り敢えず、お借りした武具は持ち出し厳禁にしてあります。仮に此処、ノースリバーサイドを出る時には一旦返却をしてから出るように伝えてありますので」
「あ、うん。その時は宜しくお願いします」
ちなみに、
「こんな便利なアイテムボックスがあるなんて…でも、あの部屋では見なかったんだが?」
「あ~…これは別の部屋にあったんですよ。隅っこに転がってて、かなり汚れてて入り口からは見えなかったんですよ…」
などと誤魔化した。実際、地下倉庫なので手持ちのランタンやライトの魔法程度じゃ入り口から壁の端までは明かりが届かないこともあり、簡単に信じて貰えたしね。魔法の照明器具があった形跡もあるんだけど手を入れてない所などは放置されたままとでもいっておけば成程…と納得もしてくれるし(その為、地下倉庫の部屋は全部掃除したりはしていない。探知で視る限り、害獣なども生存してないようなので放置していても問題無いと判断したからだ)
「…さて、これで当面の攻撃力向上には寄与したってことで…。僕は残りの最外壁の修繕に行脚しないとね…」
ノースリバーサイドの最外壁は残りは凡そ半分より少し少ない程度。
「さて、お昼を食べたら石橋の修復をしてから残りの壁の修繕に向かうかぁ~…」
と呟き、屋敷の食堂へ向かうのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
備考:
探索者ギルド預け入れ金
金貨580枚、銀貨801枚、銅貨1617枚(変化なし)
ストレージ内のお金
金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)
財布内のお金:
金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)
今回の買い物(支出金):
なし
ザックの探索者ランク:
ランクC(後日アップの予定はあり)
本日の収穫:
トレハンチームが貸与した武器(魔法の弓矢)を崩壊させた情報
その現実に崩壊するトレハンチームメンバーのアイデンテティ(…収穫じゃないよね、それw)
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