43 その11

マウンテリバーサイドの人材派遣事務所奴隷商会に行って、屋敷維持の為の人員奴隷雇っ購入した…あれ?

━━━━━━━━━━━━━━━


- 奴隷たちをどうやって移動させようか… -


ジャックソン奴隷商会を出たザックは奴隷たちを引き連れて馬房へと向かうが…


「マスター。この人たち、馬車には全員は乗せられませんが…」


「あ…」


そういえば15人も雇うなんて考えてなかった為にザックは馬車を見てどうしようかと途方に暮れる。どう見ても6人乗りの馬車には詰め込んでも10人がギリギリだろう。御者台や屋根の上にも乗せようと思えば乗せられるが…


(う~ん…御者台はレムが居るから2人かなぁ。屋根の上の荷台だと…)


くるりと振り向いて体の大きい数人を見る。


(あ…イケるかな?)


手擦りを設ければ安全は確保できるだろうし、5~6人は荷台に座って貰えるかも知れない…と判断するザック。


(でも、屋敷に戻る前にすることがあるよね…。みんなの服とか靴とか…)


そう。貫頭衣に裸足で馬房まで移動して来た屋敷の労働力になる予定の奴隷たちは、未だ奴隷の恰好のままなのだ。


「…先に体を綺麗にしちゃおうか?」


未だに黙りこくった不安そうな15人の奴隷たちは、ザックが馬車を前に何を考えてるのかわからず…不安そうに佇んでいるのだった。



「じゃあみんな、1人づつ並んで貰えるかな?」


バラバラに佇んでいた奴隷たちはゆっくりと1列になって並び出す。特に指定してなかったので小声で相談しながらなので遅いっちゃ遅いんだけど。下手に語気を強めて強制しても余計時間が掛かるだろうと、辛抱強く待つザック。


「…じゃ、体を綺麗にする魔法を掛けるから。掛け終わったら馬車の前に移動して待っててね?」


ちらっと馬車の前を見て、こっそりと魔法を掛ける。折角綺麗にしても、また汚れても何なので此処から馬車までの地面に清浄化クリーンを掛けておき、馬車の真ん前には土壁アースウォールを地面と平行に生成して座る場所を作る。維持時間は1時間くらいでいいだろう…ということで、大して魔力は込めないでおく。


「おお…臭いが消えて服も綺麗に…ありがとうございます」


「あ、うん。時間掛けられないから礼はいいよ。はい次」


ぞんざいな扱いだが奴隷に対しても使用人に対しても丁寧な言葉で接すると舐められる…と聞いていたので少々横柄になってしまうが仕方ない。普段は子供らしい言葉使いと丁寧語を心掛けているんだけど、ね。


「ありがとうございます…」


「あ、ありがとう…ございます」


奴隷たちも元々は一般人かもう少し上の身分だったんだろう。ついうっかりと元の言葉使いが漏れてしまうが、いい直したりして指示通りに馬車前に移動する。


(別に座って貰っててもいいんだけどな…)


ちらっと見れば、土壁を横倒しした辺りでみな立って待っている。段差は殆ど無いそれの高さは1cmくらいだろうか…その上に立って馬車とこちらに視線を往復させて不安そうにしているのが見える。


『レム』


『はい?』


清浄化クリーン終わったみんなにいってくれないか?…座っててもいいって』


『…いいですけど。いうこと聞きますかね?』


『さぁ…』


結局、最後の1人の清浄化クリーンが終わるまで、座って待ってる人は誰1人として居なかった…



「次は服と靴だけど…」


屋敷に戻ってからだと2度手間3度手間になる為、ここで体のサイズを訊くか測るかした方がいいだろう。


「訊きたいことがあるんだけど…」


魔法を使って体の洗浄を行ったことで、どうやら「聖属性魔法を扱う貴族」…と勘違いされたか全員ビビっているようで体を縮こまらせている。


「は…はい…その…。何でございますでしょうか?」


むぅ…やり辛い。まぁ舐められていうことを聞かないよりはマシ…と考えて、ザックは淡々と訊きたいことを並べた。



ひとつ、服と靴を与えるのでわかる、或いは覚えてる者は自身のサイズを申告せよ

ひとつ、服や靴のサイズが不明な者は測定するのでその旨を進言せよ

ひとつ、これから目にすることは他言しないようにせよ



自身の体のサイズを知っている者は結局居なかった…いや、靴のサイズくらいは覚えてる人は居たが割とうろ覚えで…。身体測定は馬車の中でレムに頼み、同じく馬車の中に居る僕がサイズを教えて貰ってその場で錬金術で精錬した靴と服を取り出して着て・履いて貰った。服は全員簡素な物で上下が繋がったつなぎだ。フリーサイズでダボついているので、ウエスト部分は紐で搾っている。腕も足も長袖で腕も足も手首や足首から先しか出ておらず、首の部分も殆ど隠れている。男女共に下着も同時に提供されており、男は下だけ。女は上下…尤も、胸の方はサラシのような1枚の布のみだが…が渡されていた。屋敷に到着した後、正確なサイズをマロンに渡した後に任せる仕事毎の正式な制服と就寝時の部屋着を買ってきてもらう予定なので、貫頭衣よりはマシな間に合わせの服で我慢して貰おうという訳だ(ちなみにレムはゴーレムだが下着は下だけ着ているそうだ…って、何そのどーでもいい情報はw)



「えっと、全員着替えたかな?」


まぁいうまでもなく、全員見慣れない「つなぎ」に着替えているのはわかる。貫頭衣は念の為レムに渡して貰っているが、既に僕のストレージの中に収容済みだ。


「え、はい…こんな立派なお召し物を頂けるとは…」


「何と有難いことか…」


何か彼らの中では作業衣?として決まってるかのようにいってくるので即座に否定する。


「あ、それは移動中だけ着る服だから。流石にあれ貫頭衣だと見た目がね…」


何より下着すらない為、野郎は見たくない部分がぶるんぶるん揺れてるし、女性も見られたくない部分が横から見えたり見えなかったりしていて恥ずかしがっていた訳で…。靴に関しても土から生成したその場凌ぎの低品質な物なのでつなぎと同様に数日しかもたないと思う(つなぎも下着も土から生成したので肌触りも余り良くないだろうし…)


「そんな訳で、屋敷に戻ったらもう1回細かい衣服や靴の為の測定をすると思うので。着て貰う服によってはあれより細かいサイズのデータが必要になるしね?」


つなぎと下着、簡単な靴なら簡易な測定データだけでいいけど、もっときっちりした衣服や靴ならもっと細かい測定データが必要だと思う。最悪、町の仕立て屋を読んで全部やって貰えばいいと思う…お金は掛かるけどね。だが…屋敷に戻ってマロンに聞いたら、


「そんな勿体ない!…古着屋に行って大体の大きさの服を買って、手直しをすれば安く上がるよ!?」


と怒られるとは夢にも思ってなかったザックであった(確かに、メイドの経験者の女性奴隷たちに聞いても、同様の意見が出ていたのだった…但し、外部の者と接触の可能性のある正執事候補のコナンだけは新品か古着でも上等なものを与えた方がいいといわれたけど…然もありなん)



「じゃ、レムの左右には馬車を扱う予定のリュウとケンが乗って。まぁ経験済みでもそうでなくてもそこしか空いてないけど」


「うっす」


「了解」


リュウケンがレムの左右にのそりと乗り込んでくる。2人ともガタイが良く、まるで格闘技でもやってたかのように筋肉モリモリだが…自己鍛錬が趣味だという男たちは普段は寡黙でシャイなおっさんだった。ちなみにリュウが31歳独身(年齢=ソロ歴)で、ケンは彼女持ちだったが死に別れた30歳独身だという。見た目はストリートでファイトする超有名な同名の野郎たちそのままだった。2人とも見た目は成人になったかどうかというレムの横で馬車の操作を真剣になって聞いているが…どうやら馬は触れたこともないようだ。しっかりとレムに聞いてマスターして欲しいものだ(ゴーレム馬なので命令すればフルオートで御者ができなくても問題ないが、普通の馬のように振舞うことも可能だ)


「次、女性たちは馬車の中で。屋根の上の荷台には体の大きな男たちで乗って欲しい。あぁコナンは馬車の中でいいよ。流石に年寄りが荷台から落ちたら不味いだろうしね」


聞けば最年長らしいコナンは45歳で痩せ型でひょろっとしている。余り筋肉はついてなさそうなので問答無用で馬車の中だ。次いで、料理長候補のテツジンも36歳とややお歳を召している為、念の為馬車の中へ。本人は上でも問題無いといっているが…


「テツジンの旦那。荷台は野郎5人で満席ですぜ?」


と、平料理人候補のテムジン30歳がいい、うむと頷く同じく平料理人候補のライデン31歳。料理人候補の奴隷たちは、3人とも重い料理道具を振るったり食材を運んだりするせいか、全員ムキムキだ。執事候補たちは痩せ型なのに対し、肉体労働系の他の野郎共は全員筋肉質で汗臭そうなのが多い。雑務役候補のリュウケンは趣味でマッチョボディに仕上げたといっていたが、他は実務で体が鍛え上げられたようだ。尚、荷台の5人とは執事補佐候補のザルツ(31)、正庭師のサムス(30)、庭師補佐のブラウン(29)、平料理人のライデンとテムジンだ。カッコ?…年齢だ。本人の申告ではなく、ジャックソンからの奴隷の個人データだけど…


(本当、プライバシーってもんが無いよね…奴隷って)


流石に童貞かどうかなんて情報は聞いてないけど、メビウスを除く女性の処女かどうかなんて聞いてもないのに知らされたし…ちなみに全員成人(16)済みで…まぁ男女共々僕よりは年上ってことで。一番若いのがニナさんで18歳だからねぇ…あ、平メイド候補の女性です。


「あ~…じゃあ残りの人は馬車の中に。荷台はそこのはしごを登ればいいから…そうそう」


一応、登り易いように少し幅を持たせた足場と左右に手擦りも付けてある。どちらも滑り防止に手擦りにはざらついた感じに。足場にはゴムっぽい質感にしてある(この世界ではゴムと似た物は無い為、「滑り難い質感で!」と念じて生成した訳だが)


「…じゃ、残りは中に。急いで」


コナン(45)とメビウス(42)が先に入り、適当な座席へと着席する。次いでダナン(21)が入り、コナンの横に。僅かな間を置いてメイド候補たちが意を決して足早に馬車へと乗り込んで行く…メイド長補佐のイブ(20)、以下平メイドのニナ(18)、ソラ(19)、ミルム(21)だ。彼女らはメビウス、コナン、ダナンが座って空いた部分に座っている。8人が乗り込むと、流石にぎっちぎちで僕が座る場所が見当たらない。女性たちはみな細身だし、コナンも細い為に何とかなっているようなものだ。この馬車の座席はベンチのように繋がっている為、6人用といっても詰めれば何とか入るのだ。


「あ~…流石に僕の座る場所が無いな…上に行こうか「ちょ!ダメです!!こちらに来て下さい!!」な…って、座る場所、無いじゃん…」


荷台に行こうとすると、ダナンとメイドたちに叫ばれて留められる。いや、馬車の中で空いてるのって中間の床しかないんだけど?…仕方なく、人でぎゅうぎゅうなすし詰めの馬車の中に入る。ドアを閉めて見回すも、どう見ても誰かの太ももの上くらいしか空いてないんだけど…


がたん…


「って、うわぁっ!?」


急に発進する馬車に体勢を崩して…誰かの太ももの上に倒れ込んで…


ふわっ…


っとキャッチされる僕。顔を真っ赤にさせて見上げると…


「ふふ…旦那様、いらっしゃいませ!」


メイド長補佐のイブに体を受け止められていた。頭というか顔がその豊かな胸に…この人、痩せてる癖に胸だけは他の人より大きくて…推定グレイトカップ。いや、他の人も普通にあると思う。貫頭衣の横から見えたり見えなかったりする程度には…


「あ、や、すまん…って、うぉっとっ!?」


またもや馬車が…今度はカーブを曲がったようで横Gが掛かり、Gな胸に横顔が沈み込む…わざとやってないか?レム…


「あ…」


ちょっと艶っぽい声が漏れる。


「えっと…」


「ちゃ、ちゃんと座ってて下さい。危ないですよ?」


と、改めて正面を向けられてがっちりと体をホールドされる。えっと…後頭部が幸せなんですがいいんでしょうか?


(…こう、ぽよぽよのふわふわで…い、いかん。これは罠だ!…人間をダメにする罠なんだ!!)


くすくすと笑われながら、コナンが溜息を吐きながらこちらを見る中、ザックはにへら顔と真面目顔を往復させながら、暫くの間の天国と地獄を漫喫しつつ、ノースリバーサイドへと向かうのだった…馬車が。


「はぁ~…マスター、だらしない顔になってるし…大丈夫かしらねぇ?」


最初から馬車の中で姿を消していたシャーリーがそんな呟きを漏らすが、誰も気付くことはないのだった…(苦笑)



- 石橋の上の戦闘…ザック視点 -


ゴトゴトと車輪が音を立てて石橋を渡っている。取り敢えずは留守の間に防衛線を突破されてないようでホッとするザック。


(渡した装備品は想定通りの性能を発揮してるか…)


若しくは壁から侵入はされてないと思われる。危機的な状況になれば、ばら撒いた極小のゴーレムたちが知らせてくれる手筈となっているからだ。尤も、高圧な魔力を放って脆弱な偵察用のゴーレムが全て破壊されれば伝達は不可能となる為に油断はしない方がいいが(まさに蚊トンボといっていい程の体なので、その辺の子供にぺち!と叩かれるだけで潰される程だ)…尚、フォレストジャイアントに開けられた巨大な穴は土壁で応急処置を行った後に耐久値再生デュラビリティ・リペアーで完全復活させておいたので、再び巨人たちに殴られても当分の間は突破されることはないだろう。


「…ん?」


レムが目の前に佇む何かに気付く。


「あれは…?」


その仕草に何だろうとリュウケンがレムの視線を辿ると…橋の端に立つ人影が見えた。


「…?」


「出迎え、か?」


リュウが訝しむ表情でそれを見据え、ケンが思い浮かんだ疑問を口にする。


「いえ、そんな予定は無い筈ですが…」


レムがゴーレム馬を停止させてケンの意見を否定する。


『マスター』


『何だ?』


『橋に見慣れない人影が…念の為、防護措置を…』


と、念話で交信してる間に影が増えて行く。遠目で見え辛かったのだがシャーリーが即座に偵察に出てくれたお陰でその正体が判明する。


『ゴブリンとコボルドよ。それも、上位種ね…』


上位種と聞けば普通はノーマル種のすぐ上の小鬼狩人ゴブリンハンター魔犬闘士コボルドファイターなどを思い浮かべるが…


小鬼騎士ゴブリンナイト系と…乗騎魔犬ライドコボルドね。不味いわ…何処かの防衛ラインを突破されたのかもっ!?』


機動力に富み、攻撃力も高いこの組み合わせは町に侵入されるととても不味い。何しろ、マウンテリバーサイドではノースリバーサイドで魔物の侵入を許して防衛戦の真っ最中などとは知らされてないのだ。寧ろ、魔物が侵入されて激しい防衛を繰り返していたのは数10年もの過去の出来事で、とっくに北の魔物たちを殲滅してしまったと信じられているくらいだ。流石に「魔王」などの魔の者たちの統治者などはその存在を確認されていた訳ではないので居ないのだろうが…


『マスター!』


『わかった…土操作アースクラフトからの…土壁アースウォール!』


流石に石橋の構造材たる石を用いて壁を生成すると、脆くなって崩れ落ちかねない…ので、ストレージに溜め込んでいた土を用いて生成する。但し、横幅は橋より長く。高さも乗騎魔犬ライドコボルドが飛びこせないように高さは10m程に。ぶつかっても破壊されないように追加してアースウォール・デフアップ土壁硬化を掛けておいた。


〈ぎゃうん!〉


悲鳴と共にドタバタと倒れ込む音。ゴブリンナイトが持っていた剣や槍などを落とす音も響いて来る。そして、後続のゴブリンナイトが武器を叩き付ける音も聞こえてくるが、土壁が硬質化している為か、金属音のような


がつーん!


ぎゃりぃぃっ!!


などとやかましい音が響き渡っている。


「これ、うるさいよね…どうしようか?」


ザックがしかめっ面をしながら馬車の外に出て来た。見ればリュウケンは耳を塞いで耐えている。上を見れば全員同じようで両手が塞がっているようだ。


「仕留めて来ましょうか?」


「うんうん。任せてくれれば全部倒してくるよ?」


レムが何てこともないと進言し、シャーリーも同意を示す。


シャーリーはピクシー系の体で成りは小さいが見た目より体は頑丈でゴブリンナイト程度では倒せないだろうし、風属性魔法で移動力強化してしまえば捕まえることも叶わないだろう(間違えて壁にぶつかったりしない限りは捕まえられない…と思う)


レムは動きこそ人間並みだが体の頑丈さはシャーリーを上回り、土属性魔法で防御力を強化すれば巨人の一撃にも余裕で耐えられると思う。そしてその体に秘められたパワーは(当たりさえすれば)一撃で倒せるだろう(当たりさえすればね…だから、シャーリーでかき回して足を止めてトドメを刺すって戦法が必要なんだけど(苦笑))


「じゃあ任せた。壁に穴は…」


「不要」


「じゃあ行ってくるね!」


レムは土壁の前に立つと、


ばびゅん!


…と効果音が付きそうな勢いでジャンプして土壁を飛び越え、シャーリーは普通に飛んで行った。そして怒号と悲鳴が交錯し始め、数分の時間が経過すると「ごんごん!」と土壁を殴る音とシャーリーが土壁を乗り越えて、


「やっほーマスター!…任務完了!!」


と、持てるだけのドロップ品…魔石の一部を抱えて飛んで来た。


「おっとっと…もう土壁は解除して大丈夫そうか?」


「うん!」


魔石を受け取ってストレージに収納してから土壁を解除するザック。一応、再利用するかも知れない為、崩れ落ちる土はストレージへと回収しておく。魔法で全部生成した場合は時間経過で消滅し、構成材としてその場の土を利用した場合は時間経過で崩れ落ちて土はその場に残る(周囲から土を寄せて構築する為、崩れればその穴に落ちるがきちんと元に戻すには人手を使って埋め戻す必要はある。ちなみにディガホール穴掘りで穴を開ける場合は、その場の土を何処かにどかして掘るのではなくその場に穴を魔法の力で踏み固めるように穴を開ける為、余り柔らかくない地面や岩路などでは穴は空けられない。MPでごり押しすれば掘れるかも知れないが木槌で地面を全力で殴るようなものなので、消費したMPに対して満足できる結果にはならないだろう←その為に固形物分解ディスインテグレイトがあるw)


今回はストレージ内の土を利用して生成した為、石橋の上に大量の土が残る訳で邪魔になる…という理由もある。尚、アースウォール・デフアップ土壁硬化でガチンガチンに硬めた為、土としては若干容積は減ってるようだ。高さ10m、幅7m、厚さ50cmの壁だったが、石橋からはみ出ていた部分は土壁解除と同時に深い渓谷の底に流れる川へと落ちて行き、流石に全ては回収できなかったのもあるが(「あ…」と思ったと同時に「ざーっ!」と落ちて行った為。慌てて収納したが殆ど崩れ落ちてったというオチw)


「じゃ、戻ろうか…あぁ、念の為、石橋を渡り切ったら壁作って置こうかな?」


「…ですね。あ、はいマスター。戦利品です」


「じゃ、先行偵察してくるね?」


「頼むよ」


ザックは馬車に戻り、レムが御者台に戻ると(ジャンプしてリュウケンの間に着地して)…何事も無かったかのように馬車がゴトゴトと動き出す。ザックは受け取った戦利ドロップ品をストレージに収納し、その中身を確認するのだった…



- 石橋の上の戦闘…奴隷視点 -


ゴトゴトと車輪が音を立てて石橋を渡っている。屋根の上の荷台に乗っている5人の野郎たちが石橋の先にある人影を見つけてぼそぼそと話しだす。


「おい…ありゃ出迎えか何かか?」


「…それにしては何かおかしくないか?」


「あぁ…普通、出迎えならさっさと近付いて来るもんだが…」


サムスとブラウンが石橋の先の影に違和感を感じ、ライデンが同意してテムジンも頷いている。


「あ…ありゃゴブリンだ。コボルドの亜種?…に乗ってる。不味いな…ゴブリンライダーかも知れない」


「ゴブリンライダー?…聞いたことがないが…そんなにヤバイのか?」


ザルツが執事補佐の博識さを披露してよくわかってないサムスが訊き返している。


「あぁ…実物を見たことは無いが、乗騎できる魔物に乗ったゴブリンライダーはとても素早く移動して並みの冒険者や兵隊じゃ太刀打ちできないらしい。あんなのが町に入られたら…結果を聞きたいか?」


「いや、よくわかったが…どうすんだ?…あんなの。まさか…」


俺たちが対処しなくちゃいけないのか?…と、血が引いて真っ青になる野郎たち。上から聞こえてくる声をリュウケンの2人も聞いており、「どうすべぇ…」と青褪めていたその時、突如として馬車が停止する。予告無しに停止した為、荷台の上の野郎共はつんのめっていたが落下防止用の柵があるお陰で後ろから寄りかかれて前に座っていた2名サムスとブラウンが痛い思いをしただけで済んでいた。そして…


ずぼぁっ!!


と、石橋を渡らせまいと土壁がいきなり現れる。


「「「なっ!?…」」」


前方の様子を直接目にすることができるリュウケンとその他5名は驚きの余り、その一言を発して固まっていた。ちなみに、馬車の中の女性陣と老人たちはザックの


「危ないから此処から出ないで」


と警告があった為、外の様子を横目で見るに留まり、前方の様子は見れないままだった(但し、音は聞こえてくるが)


〈ぎゃうん!〉


どうやら魔物の悲鳴が響いて来たようだ。いきなり現れた壁の向こうでは、既に此処まで接近している証左だ。奴隷たちは冷や汗を垂らしながら


(これを突破して来たらどうなるのだろう…)


とか、


(魔物を見たが最期…か?)


と、戦々恐々としていた。そして悲鳴と共にドタバタと倒れ込む音。剣や槍などを落とす音も響いて来る。そして、武器を叩き付ける音も聞こえてくる。まるで、金属を殴りつけるような


がつーん!


ぎゃりぃぃっ!!


などとやかましい音が響いてくるのだ…


「これ、うるさいよね…どうしようか?」


声に気付いて下を見下ろせば、主人であるザックが馬車の外に出ていた。リュウケンも荷台の上の野郎共も恐怖もあるが、騒がしい金属音で耳を保護する為に塞いでいたが主人である者の声は耳を塞いでいても聞こえていた。恐らくは隷属の首輪の魔法的な効果なのだろう。頭の中に響いてくる声は、金属を殴りつける騒音の中でもよく聞こえている…


「仕留…来ましょ…」


「う…ん。任せ…てくる…」


レムと紹介された少女と、聞き覚えのない少女の声が聞こえた。聞こえた台詞を鑑みるに、壁の向こうにいる魔物…ゴブリンライダーと思われる強敵を仕留めてくる…そういったように思えるが…



(マジか?)


(あんな少女に戦いを任せるのか?…この主人は…)


(魔物の群れに餌を投げるようなものだろ…有り得ねえ!)



そんな考えが浮かぶが、


「なら、君たちで始末してくる?」


…そういわれれば餌の対象が自分たちになるだけだ。とてもじゃないがゴブリンライダー1体だけでも勝てやしないのだ。奴隷に墜ちる前でも一般人と変わらない、戦闘能力も無い自分らでは…例え戦えるようにと武器防具を揃えて貰っても無理だろう。最弱と呼ばれているゴブリンのノーマル種ならば、数人でボコれば勝てるかも知れないが…そんな考えが脳裏に流れている間にも状況は動いていく。


「じゃあ任せた。壁に穴は…」


「不要」


「じゃ…行って…ね!」


相変わらず主人であるザックの声だけが明瞭に野郎共の頭に響き、レムはいきなり目の前から消えてしまう。石橋の立っていた場所に僅かな土埃を残して…。尚、馬車の中の女性陣と老人たちは状況がわからない為、此処から動くなという命令を聞いているのもあり、身動きが取れないのでだんまり…となっていた。


「…行っちまった」


「ていうか何だ、ありゃ?」


「姿を消すって…極東の国の超人「NINJA」って奴か?」


「何だそりゃ?」


などと話し始める。無論、金属音がうるさくて負けないように大声でだが…そして、壁の向こうから怒号と悲鳴が聞こえて来て、数分が経つと


ごんごん!


と、土壁を殴る音が聞こえてきた。勿論、悲鳴や怒号は静まり返っており、辺りには静けさが戻っているのだが…


「やっほーマスター!…任務完了!!」


と、小さな人影が元気な声と共に壁の上から落ちて来た。それは普通の人間サイズではない。手の平に乗る程に小さく、まるで噂に聞く妖精族のような大きさだった…声質を聞くに、恐らくは女性だろう。彼女は主人ザックの方へ落ちて行き、彼も慌てて受け止めていた。


「おっとっと…もう土壁は解除して大丈夫そうか?」


「うん!」


そんなやり取りの後、「土壁解除」の声であれだけ頑強を誇っていた壁が


どざーっ!


と崩れて行き、一瞬の後に全て消え去ってしまった。あんぐりと目と口を開けて呆けるリュウケンと荷台の野郎共。


「じゃ、戻ろうか…あぁ、念の為、石橋を渡り切ったら壁作って置こうかな?」


「…ですね。あ、はいマスター。戦利品です」


「じゃ、先行偵察してくるね?」


「頼むよ」


そんなやり取りの後、ザックは馬車に戻って姿を消し、レムはジャンプしてリュウケンの座っている間に飛び移り、何事も無かったかのようにゴーレム馬を操作して馬車がゴトゴトと動き出す。


「…俺、新しい仕事場でやって行ける自信、無いわ…」


「あぁ…俺もだ」


サムスとブラウンが自身喪失している。


「あんな魔物が闊歩する屋敷ならな…」


「流石にあれはな…」


リュウケンががっくりと肩を落として呟く。レムは我関せずと黙っているがw


「厨房に侵入しなければ問題は…」


「食材の買い出しの代わりに、食材となる魔物を狩って来いといわれたらどうする?」


「くっ!?…そ、それは…」


と、ライデンとテムジンが勘違いしているが


(そんな予定は無いよね?)


…とレムは思っている。少なくとも、買い出しはメイドたちにやらせる筈だと…。そして、執事補佐のザルツは思い出していた。


「此処は…思い出した!…魔物たちの領域と人間の生活圏を隔てる壁。何10年も前に勃発していた魔物と人類の生活圏の争奪戦を繰り広げていた中心地じゃないかっ!!」


マウンテリバーは大陸の北部から南部に跨る王国だ。マウンテリバーはその北部に位置し、そこより北は未開発の秘境とされておりノースリバーサイドが最北端の人類が存在できる地として知られている。マウンテリバーサイドは深い峡谷を跨いだノースリバーサイドの南側に位置し、北東にあるノースリバーサイドは一般的には許可が得られないと石橋を渡ることすらできない。それもその筈…そこは魔物の侵入を拒む最外壁を有する防衛拠点なのだから…


「何てことだ…我々は…人類絶対防衛ラインに…魔物と人類の鍔迫り合いを行われている最前線に…連れられて来てしまった…」


絶望を感じた執事補佐であるザルツががっくりと前傾姿勢で…orzポーズを披露し、


「お、おい…大丈夫か?」


と、他の野郎たちに肩を揺すられているが立ち直れないようだ。


(…確かに最前線だけど、最外壁をきちんと再生すれば問題ない筈なんだけど…まぁ今いっても慰めにもならないかな?)



- 一戦終えて… -


レムの頭の上に乗ったシャーリーがそんなことを思いながら黙っていると、石橋を渡り切ってレムが馬車を停めた。


『マスター、渡り切ったけど?』


レムがザックに報告すると、即座に同じ性能の土壁が生成される。今度のは更に長時間耐久が可能なようにかなりの魔力を込めたようでさながら金のように光り輝いていた(よく見れば磨かれた黄銅程度の輝きだが日が出ている間はギンギラギンに光り輝いているだろう!w)


『じゃ、後は道中の魔物を倒しながら屋敷に戻ろうか…』


『了解』


『さー、いえっさー!』


ザックの念話に返答したレムとシャーリーは、遭遇戦をこなしながら屋敷へと戻のだった…


━━━━━━━━━━━━━━━

普段、戦いとは無縁の生活をしていた奴隷たちが危険と隣り合わせの世界に!…そして無駄に知識を持っていた為に落ち込む執事補佐のザルツ。きっと、危険が無くなった状況になっても落ち込んだままとなる危険がある、かも?



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨580枚、銀貨801枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(後日アップの予定はあり)

本日の収穫:

 ゴブナイとライコボからのドロップ品(ほぼ魔石のみ。詳細は次話で)

 馬車の外に居た奴隷たちのSAN値(-3って、…収穫じゃないよねそれw)

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