42 その10
突然の知り合いの死は探索者はもとより、冒険者でもそう珍しいものではない。どちらの職業も危険と隣り合わせのものであり、油断が死を招くのはよくあることなのだ。今回、マシュウが亡くなったのは偶々だろう。そう、必然では無く偶然なのだ…そう考えでもしなければやっていけない。ザックはことの収拾が収まってから考えることにした。だが「
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- 翌日… -
「…はぁ」
すっかり静かになった屋敷内を歩くザック。ロビーは重傷者患者で埋まっていたがいつまでも寝伏せている訳でもなく、外に作った
「ん、報告書か…」
パトリシアの使用人も必要最低限しか残っていなく、今日中にでも補充しないと屋敷の維持管理に困ることになるだろう。報告書には屋敷の現状報告とこれから必要になると思われる人材の補充など、幾つか書かれていた。内容を読んでいると人影が近付いて来た。
「
余り口がいいとは思えない
「あ、あぁ…。他の使用人は?」
「俺以外はパトリシアさまの実家に戻った」
「そ、そうか…」
…そう、マロンは「俺っ
(時間が掛かるし服飾店でないと教える者が居ないだけで修行に行けばできますとかいってたっけ…)
ま、それはいい。問題は…
「執事のジョンは?」
「一緒に帰ったぞ」
「そ、そうか…」
つまり、今この屋敷には目の前のマロン以外には僕しか居ないということらしい。寝てる間に居なくなるとか…
「困ったな…」
つい、そう零すと、
「主、何を困っている?」
と、マロンが首を傾げながら訊いて来る。その仕草は無意識でのものなんだろうけど、その可愛い仕草に思わず苦笑いで
「あ~、まぁ~…色々ね」
と、答えるしかできなかったのだった。
・
・
尚、本日は最外壁には1箇所につき2名見張りを置いて貰っている。流石に全く見張りを置かなかった場合どうなるかは想像が付くので各チーム・パーティの斥候系職業の者に見張って貰っているという寸法だ。
「俺たちはここで留守番してりゃいいのか?」
「えぇ…すいませんが頼めますか?」
話しているのは探索者チーム、冒険者パーティの中でも信用のおけると聞いていた2チーム、1パーティのリーダーたちだ。ザックがマウンテリバーに出掛けて用事を済ませる間だけ、留守と何かあった時の指揮を依頼したのだ。
「細かいことはこれに書いてますので…では、宜しくお願いします」
ザックは何枚かの紙を束ねた書類を3人のリーダーに渡すと屋敷を出る。3つの紙束は内容は一致しており、ザックが留守の間の仕事内容をこと細かく記されていた。
「わかった…」
「こちらのことは気にせず行ってきて」
「いい人が雇えるといいですね…」
3人3様で返事が返ってきて、ザックは一言。
「いってきます…」
と礼を返して出立するのだった。
- 残された大人たち… -
「行ったか…」
「ついてってやればよかったんですけどね…」
「いや、私たちが口を挟める用件じゃないでしょ?…この屋敷の使用人とか雇う用事なんですし…」
それもそうかと口を閉ざし、リーダーたちは自分たちの仕事をこなすかと傍に控えていた仲間の元に向かって移動し、指示を出し始めるのだった。屋敷に居残るチーム・パーティと最外壁に偵察の交代要員を向かわせる人員を選抜し、道中の護衛を含んだ臨時チーム・パーティを組んで派遣。ザックの留守の間の巡回と万が一の撃退要員となる訳だ。持ち込みの武器は先日の大襲撃時に殆どが破損してしまい、代わりというべきか…元の武器より相当上物の代物を貸与されており、暫くは十分以上だろうと思われる。
「流石に防具は借りられなかったが武器は十分な物を借りられたしな」
防具は体にフィットした物でないと着心地の観点だけでなく、動きを阻害して危険なこともある。流石に既存の物を体に合わせて手直しするにしても時間が掛かり過ぎる。そんな中、ザックは破損が激しい者に限り
「私も不意打ちで破損してしまった防具を修復して貰ったわ…後衛だから注意してれば問題ないと断ったのだけどね…」
「ちっ…女に甘いだけなんじゃないのか?それ…イラつくガキだぜ…」
「何よ嫉妬?…あんたの嫌ってるガキに嫉妬なんて無様ねw」
「あんだとぉ?…喧嘩売ってんのか!?」
「おいおい…仲間内で喧嘩とかみっともないぞ?」
探索者チームのリーダーたちがガンつけ合う中、冒険者パーティのリーダーが仲裁して、そのメンバーたちが苦笑いしながら和気あいあいと各自の仕事を進めていたのだった…強過ぎる個性を持つリーダーよりはメンバーたちの方が仲が良くなるのが早いのは共通する苦労をしているせいだろうか…
- マウンテリバーサイド -
「ふぅ…ここが人材派遣事務所かぁ…」
大きな3階建てくらいの建物の前に立つザック。背後には別途創った普通の見た目の屋根付き箱型馬車にレムがゴーレム馬をブラッシングしている。その必要はないが普通の馬のように見えるように世話をしている訳だが…。尚、シャーリーは馬車の中で留守番をして貰っている。妖精族は珍しく滅多に人里では見られないということで人目の付かない場所に待機して貰っている訳だ。
「…まぁ迷っていてもしょうがないよね」
執事に貰っている紹介状を手に建物の中に入るザック。
からんころん…
ドアベルが鳴り、従業員らしき男が現れる。
「何をお探しで?」
丁寧とも横柄とも判断し難い言葉使いで迎えられる。一応、清潔そうな服装の…ぱっと見には白いYシャツに黒いズボンの男だ。ネクタイなどの装飾品は付けてない。必要最低限の客を迎えるボーイといえばいいだろうか?
「えっと…人材派遣をしていると聞いたので人を雇いたいのですが…あ、これ紹介状です」
懐に入れていた紹介状の封筒を差し出すザック。男は裏を見ているが封筒の表裏には何も書いてないのは確認済みだ。
「…お待ちください」
男はこちらを見据えてから後ろを振り向いて歩き出す。奥へ消えてから暫く待っていると、ドアが開いてレムが現れた。
「どした?」
「えと…馬車を移動して欲しいといわれたのですが…」
聞けば、建物の真ん前に馬車を停めていると邪魔になるといわれて移動してくれとのこと。それもそうかと思ったザックは、
「じゃあ変な所に案内されるんじゃないならいうことを聞いて移動して」
「あ、はい」
『でも、万が一ということもあるから、念話は起動しておいて?』
『わ、わかりました…』
レムはザックの創造したゴーレムだ。彼女とザックの間には念話というシステムで言葉のやり取りができる。特にMP消費は無い為、常時回線を開いておいても問題無いのだが、プライバシーが筒抜けになる為に通常は回線を閉じている。が、今は平時とはいえない状況なので仕方ないだろう。
『あたしの方も開いとくよ?』
『あ、あぁ…シャーリーも何かあったら教えてくれ』
『りょーかいっ!』
流石に2人同時に喋られると混乱するが…まぁ何とかなるだろうと思うしかないザックであった。
・
・
「お待たせしました。え~…パトリシア嬢の紹介ということですかな?」
「あ、はぁ…」
矢張り、パトリシアさんていいとこのお嬢様だったんだなと再認識するザック。
「えっと、屋敷で働く人員を雇いたいんですが…」
「えぇ、紹介状に書かれてますな。え~と…ふむ」
あの優秀な執事のジョンが必要と思われる人員の職種や人数を書き記しておいてくれたらしい。あの優秀な人たちはその辺にいるような人じゃ雇うのは無理だと思うが…仮にランクダウンするとしてどの程度の人が何人要るのかすら想像もつかないので、ここで相談しながら…というのも面倒だったので有難い。
「では、少々お待ちください。見繕って来ますので…おい」
「はっ」
中年の…恐らくはこのボーイ(仮)の上司…人が一瞥すると、僕らを案内するようにと
「では、こちらへどうぞ…」
と先導を始めた。
『レム』
『はい?』
『そちらは大丈夫かな?』
『あ、はい。今、馬房に馬車を入れた所です。此処で待機してればいいですか?』
『そうだね…シャーリーだけで馬車は大丈夫かな?』
『はいはいはーい!モチのロンよ!?』
相変わらずテンションが高いシャーリーだが、いざという時は助かるのは確かだ。
『じゃあレムはこっちに来て欲しいかな。馬車は任せた、シャーリー!』
『任されたよ!』
念話なので周囲の音なんかは拾う訳ではないが、何となく胸を叩く音が聞こえた気がする。まぁ、シャーリーがこういう時によくやってるポーズだ。
『では、そちらに向かいます』
『宜しく頼むね』
そして、ボーイがなかなかついて来ないので戻って来て
「おーい…お客さん。どうした?」
と訊いて来たので、連れの子が来るまで待って欲しいと頼むザックであった…
- 応接室 -
「じゃあ、こちらで寛いでくれ」
余り口の良くないボーイが茶を出して引っ込む。先にレムが一口飲み、
『…問題無さそうです。品質としては中の下みたいですけど』
と解析結果を念話で伝えてきた。彼女はパワータイプの身辺警護を目的として創造した少女型ゴーレムで、こうやって毒見役もやってくれる。尤も、別々の物を出されたら意味は無いので両方のカップの中身を一口づつ口にしてたんだけどね。…そこ、関節キスだと囃さない!…いや、彼女は可愛い見た目の少女な造形で創ったけどさ…。ちなみに髪の毛はショートカットよりやや長い程度で一般的な濃いブラウン。目の色も同系色だ。身長は僕と同じ程度で靴を履かなければやや低いかな?鼻は余り高くない。そばかすなどは無く肌は綺麗に見える。いや、そこまで人に似せるのも面倒だっただけだけど。服装は関節部が見えないように長袖の衣服で下もズボンだ。関節部は流石に人と同じに創るのは面倒だったのでモロに球形関節部が見える為だ。唯一、首は露出してる為に関節部を覆うスキンを被せている。勿論、口なんかもアレなんで顔面にもね。これにより、人型ゴーレムといちいちいう必要が無くなって助かっている。専門家や鑑定持ちが居ればすぐバレるかも知れないけど…専門家は先日どっかに飛ばされたって聞くし、暫くは大丈夫かなぁ?
・
・
「お待たせしました…おい、入れ!」
中年の人が入ってきた後、ぞろぞろと10数人の人が男女関係無く入ってくる。全員貫頭衣を着ていて首輪をして穴の開いた板に両腕を通していてまるで…
「ど、奴隷?」
と、思わず呟くザック。
「人材派遣の店って聞いたんですが…」
と思わず訊くと、
「えぇ…ある意味その通りですな。だが、世間一般的には一般人の人材を派遣する店などは聞いたことは無いですな?」
それにうちは奴隷を売り買いする店だと断言する中年の店主(遅れて自己紹介をしたのだ。名は「ジャックソン」といい、店の名を「ジャックソン奴隷商会」というそうだ…無論、名が同一なので店長という訳だ)
「え…聞いてないですが…(此処って本当に?)」
思わずレムに訊くと、こくりと頷かれるザック。
(マジかぁ~…う~ん…)
俯いて悩むザック。ジョンに文句をいおうにも彼は既に何処ともわからないパトリシアの実家に戻る為に出立してかなりの時間が経過している。連絡の取りようが無い今、できることは限られている…奴隷の労働力を選別し買うか、諦めて探索者ギルドか冒険者ギルドで広告を打つかだ。だが、人口の多い王都やそれに準じる町なら兎も角、マウンテリバーなどの辺境の町では見つかる可能性は低いだろう。寧ろ、優秀な人員ならば既に就職先は見つかっているだろうし、今年成人する者が就職先を見つける春でもないので例え見つかったとしても職にあぶれた無能…とまでいわなくても役に立つかどうか不明な者しか居ない可能性の方が高いだろう。逆に奴隷商会であれば、ある程度本人の能力を把握している上、ジョンの紹介もある為にそれなりに有能な者を揃えてくれているだろう…恐らくは。
「どうしますか?…奴隷がお嫌でしたら此処で引き揚げても構いませんが…」
そこそこ丁寧に訊いて来る店主。ザックはちらっと並んでいる奴隷たちを見て、
「あ~…差別する訳じゃないですが…わかりました。では、端から順に紹介して頂けますか?」
といってから気付かれないように溜息を吐くのだった。別に買ってくれと懇願しそうな目をした奴隷たちに同情しての言葉ではなく余り時間が無い為だ。今から別の当てもある訳でもないし、危険な土地となってしまったノースリバーサイドに奴隷なら一般人に比べて文句はいうだろうが同行しないとはいえないだろうという打算もある。
(別に魔物に特攻しろとかいう訳じゃないしね…屋敷の維持をお願いするだけだし)
という訳で、ジャックソンの奴隷の紹介と奴隷本人の
・
・
「これで全員ですが…どうでしょう?」
1人5分程の時間で全員で32名。最初こそ、応接室の椅子の前に横に
「そうですね…あ、紹介の手紙には何て書いてありましたか?」
店主のジャックソンに訊くと「はい、これです」と手渡される。そこにはこんな感じで屋敷で働いて貰う人員の職種などが書かれていた。
◎執事の経験者を3名(正執事1名と補佐2名)
◎使用人(メイド)経験者を5名(メイド長と補佐を各1名、平メイドを3名)※
◎使用人(庭師)を2名(正庭師と補佐)
◎料理人を3名(長1名、平料理人を2名)
◎雑務役を2名(馬房や庭の掃除や使用人から言い渡された雑務を任せられる体力のある者)
※女性限定
(全員で15名か…でも、これだけ回せるか?)
パトリシアの連れて来た使用人たちは執事のジョンとメイドのマロンを含めて10人に満たなかった。記憶に間違いが無ければ…
(執事1、メイド5、庭師1、雑務役1、料理人2…10人は居たか)
尤も、置き去り…失礼。残されたマロンがどうやら半人前らしいので10人も居なかったように感じられたようだ。つまり、彼・彼女らは優秀なので9人…いや10人でも仕事が回せるが、一般的な力量の者なら1.5倍の人数は居ないと無理…と考えた訳だ。
『レムから見てどうだった?』
『メモをどうぞ…使えるに値する人はこれくらいかと…』
レムから渡されたメモを見ると、
※採用水準…A:文句無し B:普通
C:ギリギリ D:他に居ないなら採用?
---------------
◎執事…正執事候補:C「コナン」
補佐候補 :B「ザルツ」
B「ダナン」
---------------
◎使用人…メイド長:B「メビウス」
(メイド) 〃補佐:B「イブ」
平メイド:B「ニナ」
B「ソラ」
A「ミルム」
---------------
◎使用人…正庭師 :B「サムス」
(庭師) 庭師補佐:C「ブラウン」
---------------
◎料理人…料理長 :A「テツジン」
平料理人:B「ライデン」
B「テムジン」
---------------
◎雑務役…B「リュウ」
B「ケン」
---------------
…と、Dランクの「居ないよりマシ」という人材は居なかったようだ。尚、女性はメイド部隊と珍しい執事補佐のダナンだけで、他は予想通り男性だけとなった。年齢は正執事のコナンが最年長で40代半ば(余り年のことはいいたくないのか正確な年齢は聞けなかった)で、次いで料理長のテツジンで30代ということだ(メモを見ながら気になったので訊いただけで全員には質問はしていない)…まぁ、目もを見ただけで決定した訳じゃないので全員採用するかどうかはこれから考えるのだけど…
『メモに書いた以外では…ランクDかCで、メモの人の方がCでもマシな方ですよ?』
とレムに突っ込まれる。つまり、メモに書かれた人員以外は性格的にも働き者度でもマシな方という訳だ…
『正執事と庭師補佐の2人がランクCなんだけど…大丈夫なの?』
気になるといえば気になるので改めて訊くと、
『正執事さん候補は体力的な問題ですね。他には執事の経験者が居ないので。執事補佐さん候補は経験不足ですが正執事さん候補の指示に従って動けば大丈夫かと…』
レムには人物鑑定の機能を片目に宿らせてるんだけど、此処まで細かく正確に視れるものなんだろうか…と考えていると庭師補佐の方も解説してくれる。
『庭師補佐さん候補も単純に経験不足です。体力的には有り余ってるのでやり過ぎて器物損壊とかやらかしてますが…うちの屋敷の掃除なら問題無いと思いますよ?』
『え…それって大丈夫なのか?』
『防御力強化してるので大丈夫じゃないですか?…逆にうっかり殴って彼の腕や手が破損しないか心配するレベルですから』
『そ、そうか…』
結局、性格や素行などには問題は無さそうだという訳で、全員…男女15名を雇う…否、15名の奴隷を買い取ることとなった。能力的には一般的な者から多少マシな程度だが、職歴も加味してそこそこの値が付くこととなった。尚、肉体労働系の経験者は生活魔法の身体強化魔法を取得してたり、料理系の経験者は同じく生活魔法の水属性魔法を取得していたのでそこそこ値が張ったようだ。本当の一般人はせいぜい生活魔法の
うん、また話しが逸れた…
まぁ、人物鑑定でもそこまで細かくはわからないみたいだけど、取得してるスキルや魔法くらいはわかるそうだ。自己鑑定能力…所謂、自分のステータス表の確認能力は一般人には無くて神殿や冒険者ギルドや探索者ギルドの鑑定球で表示して見ることはできるけど…有料で(しかも結構高い)…あ、ギルド登録時には無料で見ることができるけどね。でないと本人が貧乏で金が無いと鑑定できないことになるし(ギルド登録時には、カードの発行手数料として銀貨10枚だけ徴収されるけど…そして紛失すると再発行手数料として銀貨50枚が…2度と無くすなよ?…というペナルティで高いそうだけど、きっと一番高そうな
(ギルドカードといえば、ランクアップの話しがあるって聞いてから結構日数経ってるけどどうなんだろうなぁ…)
ふと、思いついたので後で聞いてみるかなと頭の隅にメモ書きしておく。
・
・
メモと手紙の両方を見比べて、新しく紙…低品質紙だが…を巾着袋から取り出してペンとインク壺をレムから受け取って書き出していく。取り敢えず名前だけを15人分書き出し、紙をジャックソンに渡すザック。
「取り敢えず、この人たちを連れて来て貰えますか?」
ザックが指名した15人の名前が書かれた紙を読み、
「…わかりました。おい!」
「はっ」
と、紙を渡されたボーイは部屋を出て行く。ちなみに応接室の奴隷は既に此処には居らず、残ったジャックソンとボーイ、ザックとレムの4人しか居ない状況だった。他にも従業員は居るのだろうが他の部屋や廊下などで己の仕事をしているのだろう。店の外にも最低でも1人は従業員は居たのだから…
- 雇う前提の15人が連れて来られるが… -
「流石に全員入れると窮屈ですのでな…おい」
「…はい」
恐らく買い決定だと判断したジャックソンが4人づつ奴隷を入れろと命令したのだろう。貫頭衣に身を包んだ奴隷たちが現れる。奴隷たちは目の前の子供に気に入られようと必死に再度の自己紹介を開始するが…
「えっと…大怪我や病気に掛かってる人って居ますか?」
と質問するザック。
「え?…あ、いや…必要最低限度の食事を与え、週に1度は軽い運動もさせてますので大丈夫だと思いますが…おい」
「え?…あ、いいつけ通りにやらせてます」
「食事もちゃんと与えているよな?」
「あ、はい…」
微妙に信用していいのか不安になるやりとりに、レムを見るザックだが…
『多少不健康に傾いてますが、目の前の人たちは大丈夫です』
不健康というのは4人ともやせ細っている為、少々栄養が足りないという意味だろう。運動もさせているということから運動不足ということもなさそうだ。殆ど食事も与えず、ずっと檻の中で監禁されていれば筋肉は衰え、頬も痩せこけてしまうがそんな様子は見られない。ザックはレムに頷き、一応4人に質問をする。
・
・
「…わかりました。次の4人…ですか?宜しくお願いします」
内心、サクサク行かないと日が暮れるなと思いつつ、15人全員の面接を行うザックとレム。レムがランクCと断じた2人に関しては多少不安を抱いたが、まぁいいだろうということでスルー。最後の4回目は3人だったが、その3人が退室してからレムとぽそぽそと小声で相談してるようにして念話で話す。
『これで全員の様子を見たけど…大丈夫そう?』
『はい。恐らく問題無いかと。唯、栄養状態が余り良くないので1週間くらいは栄養の付く物を食べさせてあげた方がいいかと。体も洗った方が良さそうですし…』
目前に並んだ時は特に臭いとは感じなかったが、薬臭さも僅かに感じたので急いで脱臭剤的な物を振り掛けたのだろう。
※聖属性の
「では、15人全員をお買い上げ…ということで宜しいですかな?」
気が早い
「そう…ですね。詳細は請求書を見て頂くとして…」
テーブルにすっと差し出される請求書。最低でも金貨10枚と少々…少々というのは銀貨で何枚と書かれてたのだが省略する。最高で女性の奴隷で若くて美人なイブ。驚きの金貨57枚と少しだ。これが魔法使いとか元貴族の…なんて箔があれば金貨100枚は下らないが、全員一般人で特殊能力も無いのでなので50枚は超えないらしい。女性はメビウスを除いて全員金貨43~46枚の範疇だった。メビウスは元メイド長というだけあって本人に対しては失礼だがお年を召していたのだが、メイド長なりの後天的スキルを幾つか持っていたので金貨20枚と値付けられていた。男性連中は先の金貨10枚ちょい~金貨20枚となっており、意外にも元執事であるコナンが金貨20枚でメビウスと金貨20枚タッグを組んでいた…いや、別にプロレスでも何でもないけど(ノリかいっ!w)…後天的取得スキルや魔法であっても、身に付いていれば何かしら役に立つといういい例なんだろう…多分。
(何で奴隷落ちしたのか知らないけど…何処かの貴族が落ちぶれたのかなぁ?)
高レベルの人物鑑定とか持っていればわかったかも知れないが、こればかりは本人に無理に訊き出すのも何だろうということで訊かないことにした。レムも、
『全員、前科などの犯罪歴も無い』
と太鼓判を押しているので問題無いだろうし…
(あ、そうだ。一応訊いてみようかな…まぁ無理だったらいいや)
と、ザックは思いついたことをジャックソンに訊いてみる。
「あの…値切りってできますか?」
「え?…ひょっとしてお手持ちの金が足りないのですか?」
「あ、いえ…そういう訳じゃなくて…ちょっとやってみたかっただけです」
ぽかんとした顔で訊かれ、慌てて弁解するザック。
「はぁ…まぁできない訳じゃないですが、紹介状を頂いてますし殆ど底値ですよ?…これ。領主に納める税金を考えるとギリギリ赤字にならないって所で利益が殆ど無いんですよ…」
と、ぶつぶつといいだすジャックソン。だが、一気に15人の奴隷が捌ければその分、毎日の食費や檻の維持費用も浮く為に経費は安く上がる。ギリギリ赤字ではなく、やや利益が出る程度には儲かるのだ。
「そうですか…」
15人の奴隷の買い取り額が…
金貨381枚と銀貨3枚
…となった。
「…あ」
確認すると、ストレージ内のお金を財布の中のお金を合わせても金貨で100枚近く足りなかった…orz
「あ~…あの」
「何ですか?」
冷や汗を垂らしながら、ザックはこういった。
「ちょっと手持ちのお金が足りないので、ギルドに預けてあるお金をおろして来ても構いませんか?」
…とw
━━━━━━━━━━━━━━━
店主 「あぁ、探索者ギルドですか。うちで手形を発行できますよ?」
ザック「手形?」
店主 「一時的にお金の代わりになる約束手形って奴ですね。それを持ってギルドで手続きすれば、書かれたお金をギルドからうちに送られるって寸法ですよ」
ザック「はぁ…そんなものがあるんですね」
店主 「本来の使い方とちと違いますがね…まぁ大丈夫でしょう」
※現実の約束手形とは使い方は違いますが…お金のやり取りに使うのはまぁ同じです(今月支払うお金無いので約束手形で支払ったことにして、翌月かその次の月に書かれたお金を払うって感じだったかな?)
備考:
探索者ギルド預け入れ金
金貨580枚、銀貨801枚、銅貨1617枚(奴隷代を金貨381枚と銀貨3枚、支払った)
ストレージ内のお金
金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)
財布内のお金:
金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)
今回の買い物(支出金):
屋敷で働いて貰う奴隷15名を「ジャックソン奴隷商会」で購入。
※〆て金貨381枚と銀貨3枚となった
ザックの探索者ランク:
ランクC(後日アップの予定はあり)
本日の収穫:
奴隷たちからの色々な思惑を込めた視線(…収穫じゃないよね、それw)
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