生活魔法しか？使えない……ぼっち？探索者 ──何処がぼっちだ！？ゴーレム娘たちといちゃいちゃ諸国漫遊記──

32 その９

ザックが購入して木操作（ウッドクラフト）からの木工製品修理（ウッドリペアー）で新品同様にした荷馬車改め馬車に、ゴーレム馬を創造して馬車持ち探索者チームとなった「息吹（いぶ）く若草」チーム。マナのダンジョンに挑む最終日になるが、とある事情で女性陣はダウンして今回はむさい野郎だけでのダンジョンアタックとなった。そして第１階層を８割程攻略した頃、現在位置が出口付近と予定していた時間ということもあり、サウスネクシティに戻ることになった。ザックたちは探索者ギルドに戻り、マップと情報を書き記したメモを以てマシュウが報告をするのだが、副ギルド長が現れて話しが面倒な方向へと逸らされて行くのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━

－　応接室　－

「お、お待たせしました…」

秘書でも副ギルド長でもなく、裏方の事務職らしいギルド職員の男性が現れる。手に持ったトレイには金貨を入れたであろう革袋と書類が数枚が載せられている。

「「息吹（いぶ）く若草」チームの皆さんで相違無いです…よね？」

「あぁ。んな緊張しなくてもいいと思うが…」

緊張してギクシャクしている若手のギルド職員にマシュウがおどけて返すが余り効果は無いようだ。彼はテーブルにトレイを置くと革袋と書類を取って改めてテーブルに置き、トレイを脇に抱える。

「こ、今回のマナのダンジョンのマッピングに対する報奨金です。お納め下さい…」

正確には地形マッピングと各種情報に対する、だが…。マシュウは書類を拾い上げて読み、確認するとジャッカルにも渡して読む様に促す。ジャッカルも読み終えるとザックにも渡して読む様に促してきた。

「あ、はい…」

目を通すと、そこにはこんな内容が記されていたのだった…

【情報提供報奨金について】

－－－－－－－－－－－－－－－

◎マナのダンジョン第１階層・マッピング及び各種情報提供に対する報奨金

◎第１階層・８割の地図情報…金貨16枚

◎同階層・罠配置、宝箱配置情報…金貨８枚

◎　〃　・魔物分布・ドロップ品情報…金貨８枚

◎マナのダンジョン特有危険手当…金貨10枚

－－－－－－－－－－－－－－－

合計…金貨42枚

－－－－－－－－－－－－－－－

（確かに「金貨うん10枚」だけど…これって命を懸けるに妥当な金額なのかなぁ？）

口には出さないが、ザックはもう１枚の書類を捲って読み始める。

【魔導具について】

－－－－－－－－－－－－－－－

◎マナのダンジョン・特有危険回避の魔導具について

◎調査隊10名分の提供をお願いするものとする

※これから急ぎ募集・選出する為に１週間の猶予を取るものとする

◎調査隊の選出が終了次第、各人の体質調査をして貰い魔道具の作成を依頼をするものとする

※魔道具の設計図を委ねて貰えれば、町の魔導具製造工房に依頼することも可

◎報酬については下記を参照のこと

・体質の調査から魔道具の設計・製造まで全て行った場合…１人当たり金貨10枚

・魔道具の設計図のみ作成し、他を委ねて貰えた場合…１人当たり金貨２枚

　※後者の場合、マウンテリバーに早期に帰還できるので良いと思われる

－－－－－－－－－－－－－－－

（…そんなに腕利きの錬金術師か魔道具製造工房があるのかな？）

どう見ても全部丸投げより作り方だけ聞いて、安く上げたいのが見え見えの依頼票…というよりは提案書かな？…に見えてくるザック。まぁそれならそれでいいかなと思い、どう体質を調べるのか、それを元にどう魔法陣を調整するのか、今回は「魔力タンクの魔石から空気中のマナ（魔素）を浄化する魔法陣を埋めこんだ腕輪…を、特定部分に触れることでオンオフできるようにしたもの」という設計で上質紙に書き込む。無論、「他言無用」の簡易契約（コントラクト）と「調査隊以外に作成させない」の誓約（ギアス）を掛ける。今回の主目的は大量生産させないことが主題なのでそうなった。

（尤も、体質調査とか腕輪の制作コストを考えたらそうそう作れないと思うけど…）

体質体質いってるけど、要はその人の内包している魔力がどんな種類なのかを調べることだ。マシュウやジャッカルは殆ど魔力を内包しておらず、一般人より少し多い程度でどの属性にも偏りが無い。依って、魔法の類は殆ど使えないので特にマナ浄化を行うに当たっては体内のマナを浄化しないように注意すればいい。ジュンは矢に風属性の魔法を纏わして攻撃威力を上げていることがわかっている。つまり、風属性のマナが多めということは、風属性の浄化は弱めにしないと体調を崩し易いということとなる。無論、他の属性なら何でも浄化すりゃいいって訳ではない。バランスが重要となる訳だ。パトリシアの場合はバフがメインとなるが、光と闇の両属性がやや強めとなっている。他にも火と水が若干あり、そのバランスを崩すと…今日のように寝込むこととなるだろう。ここまで細かく調査できる目を持っている者が居れば万全だが、文章として細かく書いても理解が無ければ設計すら不可能だろう。

（後は、素材だよね…）

安物で長持ちしなくてもいいなら安い魔石と純銀でも可能だが数日で使い物にならなくなると思う。主に魔石は魔力タンクと魔法陣を内包する為にそこそこの大きさの物が必須となる。腕輪の素材としてはミスリルが最適だが持続時間と耐久力を考えなければ純銀でも代替は可能だ。

（ゴブリンの魔石とか使ったら１時間ももたずに壊れると思うけどね…）

せめてオーク上位種の魔石は必須だろう。できればオーガ辺りなら半日はもつと思う。耐久性を考えたらオーク上位種の物なら１箇月は壊れないでいてくれるだろうがオーガなら半年はもつと思われる。

（どっちにせよ、濃縮魔石じゃないと壊れる時は壊れちゃうんだよね…）

濃縮魔石ならどれくらいもつか？…実は魔力が残っていれば何10年単位で存続可能だ（物理的に破壊されれば別だが）魔力枯渇しても、空気中のマナを魔力として吸引する魔法陣が施されていれば、経年劣化で壊れることはほぼ無い…ということとなる。

「じゃあ、はいこれ」

内容を書き終えた上質紙を２つ折りにしてギルド職員に渡すザック。

「これは…？」

折り畳んだ上質紙を開いて見ようとした所を手で差し止め、

「あ、中は見ないで上の人に見せた方がいいですよ？…見たいなら止めませんけど」

と警告する。どちらにせよ、見たら見たで掛けた魔法で関する内容は喋れなくなるだけだけど…

「…わかりました」

どうやら彼は見ないことに決めたようで、折り畳んだまま胸ポケットに入れて立ち去った。トレイには重しになるような物は無かったので賢明な判断だといえるだろう。

（うっかり風に飛ばされたら困るもんね…）

ザックはくすりと笑みを浮かべて、

「じゃ、用件も終わりましたし、帰りましょうか？」

と、マシュウとジャッカルに声を掛けて応接室を出るのだった…

－　副ギルド長・執務室　－

こんこん

ドアをノックする音がし、

「入り給え」

と返事があり、若手のギルド職員が入って来る。

「あの、副ギルド長…失礼します」

一礼して入室する若い男性ギルド職員。胸ポケットから渡された２つ折りの上質紙を取り出し、そのまま差し出す。

「例の奴ですが…」

そこまでいうと副ギルド長は上機嫌となり、

「おお、入手できたか！…例の子供はゴネただろう？」

と訊くと、

「いえ、特に何もいわずとも書いて寄越して来ましたが…何が書かれてるので？」

紙を開く前に副ギルド長は

「マナのダンジョンの対抗魔道具の設計図だろうて…」

と、いってから紙を開いて読みだす。

「ふむふむ…成程成程…よし、これを魔道具に詳しい奴に渡して早速依頼を出してくれ！」

といいながら目の前に突き出される。若手のギルド職員はうっかりと内容を軽く見てしまい、魔法陣が薄っすらと浮かび上がり、その呪縛に捉えられた感覚に後悔する。

（そう、か…だから…）

恐らくはギルド内なら大っぴらに話すようにしなければ問題無いだろう。だが、調査隊以外の人員の物を作ろうとすれば関わった者…この書類を見た者全てに誓約（ギアス）が掛かり、耐え難いとまでは行かないだろうが普通に生活するにも苦労することとなるかも知れない。

「どうした？早く行け！」

「あ、はい！…失礼します」

ギルド職員は後悔しながら退室し、「魔道具つったらあいつか…」と、はぁと溜息を吐きながら該当者の居るであろう部屋へと足を運ぶのだった…。そして後日…試作品を作り上げた魔道具製造工房では万歳三唱を上げていたが、材料費をケチった挙句、着用者の体調を崩す、予定されていた稼働時間より早く機能停止、戦闘で間違えて攻撃を受けて破損するなどの色々な不具合が出て、幾つかの魔導具製造工房を変えて試作を繰り返して…結局、魔石取り換え式で長時間稼働に。素材も純銀のみではなく、ミスリルを薄くコーティングした純銀で耐久性を上げた腕輪にすることで何とか使い物になったといった感じになった（それでも３時間も経過すれば魔石の交換が必要になるが…）

「…魔石１つで銀貨６枚と少し。腕輪１つで金貨１枚と少しか…」

「高くつきましたね…」

「体質調査だったか？あれが一番高くついた…」

「調査料だけでも金貨２枚でしたっけ…」

「10人で金貨20枚だからな…」

「しかも、調査結果に合わせて作っても体調を崩す時もありましたし…」

「何度も調べ直して貰ったからな…はぁ」

結果、ザックに支払った魔導具の設計の走り書き１枚…ということで金貨２枚しか支払ってないが、その後に掛かった費用はというと…

【魔導具に掛かった費用と関連報告書】

－－－－－－－－－－－－－－－

◎設計図費用…金貨２枚

◎体質調査費用…計18回（金貨56枚）

◎魔道具試作費用

　・第１次試作費用（10人分）金貨１枚、銀貨20枚、銅貨60枚

　　内訳：魔石（小）×10…銅貨60枚

　　　　　純銀×10…銀貨10枚（インゴット10本）

　　　　　加工費用…魔石（魔法陣封入＋腕輪嵌め込み）…銀貨60枚

　　　　　　　　　　腕輪（インゴットからの加工）…銀貨50枚

　　　　　１人分費用…銀貨12枚、銅貨6枚

　　　　　結果：持続時間１時間前後

　　　　　　　　腕輪破損多数

　　　　　　　　効果はあったものの、体調不良を訴える者も半数に至る

　　　　　備考：体質調査をより綿密にする、上質素材で作る必要がある

　　　：

　　　：

　・第５次試作費用（10人分）金貨23枚、銀貨44枚、銅貨50枚

　　内訳：魔石（中）×30…銀貨４枚、銅貨50枚（交換用として使い捨てになる）

　　　　　純銀×10…銀貨10枚（インゴット10本）

　　　　　ミスリル…金貨20枚（インゴット１つで腕輪10個分）

　　　　　加工費用…魔石（魔法陣封入＋交換用に加工）…金貨１枚、銀貨80枚

　　　　　　　　　　腕輪（インゴットからの加工とミスリルコーティング）

　　　　　　　　　　…金貨１枚、銀貨50枚

　　　　　１人分費用…金貨１枚、銀貨22枚、銅貨15枚（魔石１つの時）

　　　　　結果：持続時間３時間前後（交換用魔石と交換し、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　１人３つ保持で最大９時間を予定）

　　　　　　　　腕輪破損はほぼ無し（破損対策にミスリルコーティングを施した）

　　　　　　　　体質調査を綿密に行い、体調不良は皆無に至る

　　　　　備考：４回もの不良品制作を経て、概ね満足が行く魔道具の製作が

　　　　　　　　可能となった…が、コストが掛かり過ぎる為に量産計画は断念

　　　　　　　　せざるを得ないだろう

◎総製作コスト：金貨118枚、銀貨59枚、銅貨21枚

※純粋な魔道具製作コストであり関わった人員の人件費を含めると凡そ1.5倍となり、必要とする貴族や高ランクの探索者に売りつけようものならかなりの額で売りつければいいのだが…簡易契約（コントラクト）と誓約（ギアス）の効果が作り方を記していた紙に掛けられていた為にそれもできず。現在、解呪を試みているが成功したとの報告は無い…

－－－－－－－－－－－－－－－

南無ぅ～…ってことで、サウスネクシティの探索者ギルドはマナのダンジョン用のマナ吸引腕輪を製作したことにより余剰資産を使い切って財政危機に陥り、調査隊の人員（募集した探索者たち）で狩りや採取採掘を強制させて何とかギリギリの橋渡りをして堪えているそうな…。そしてそんな状況なのでマシュウたちに追加報酬を出せず、操業が好転してギルドの資産が黒字経営になるまで放置プレイだったそうだ（その頃にはザックとは別れている為、ザックの懐に正規の報酬が入る訳も無し…）

━━━━━━━━━━━━━━━

取り敢えずマッピングの報酬を反映。

備考：

探索者ギルド預け入れ金

　金貨950枚、銅貨1617枚（変化なし）

ストレージ内のお金

　金貨184枚、銀貨1020枚、銅貨781枚

財布内のお金：

　金貨２枚、銀貨56枚、銅貨80枚

今回の買い物（支出金）：

　なし

ザックの探索者ランク：

　ランクＣ（変化なし）

本日の収穫：

　情報提供報奨金（マナのダンジョン関連情報）

　…金貨42枚。チームの共有資金として30枚を引き、残り12枚をザックの懐へ

　設計図の報酬…金貨２枚