31 その8

マナのダンジョンで稼いできたドロップ品を換金してホクホク顔の「息吹いぶく若草」チーム一同。そして翌日…ザックを除く全員が二日酔いで疼く頭を抱えて溜息を吐くザック。嫌味をいってもまともに受け答えできない程に頭が痛いらしい…。仕方なく解毒薬を配布して飲んで貰う…そして30分後。解毒薬の効果が出るまで待っていたのだが女性陣は部屋で寝てしまっているらしくザックに起こし役を押し付けるが飛び起きた2人は体調不良に陥り、結局休むこととなって野郎だらけのむさいダンジョンアタックとなるのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- マナのダンジョンへGO! -


かっぽかっぽかっぽ…


のんびりとした馬の蹄の音を出しながら元が荷馬車とは思えない幌馬車が進む。結局、幌を結界で覆ってるだけでは魔力が霧散したら消えてしまうので、木の繊維を編んで作った布を幌としてサイズ調整して覆うこととなった。これで魔力云々は関係無く幌は幌として運用できるだろう。


(多少ごわごわしてるけど、ダメになったらちゃんとした布を買って作り直せばいいかな…)


そんなことを思いながら昨日も辿ったルート…1本道なのでそれしかないともいえる…をぼ~っと眺めるザック。ちなみにジャッカルは背後を見てあくびをしている。


「そろそろ着くが…これ馬車は何処に停めりゃいいんだろな?」


よくよく考えれば馬車持ちの探索者はそうは居ないし、マナのダンジョンに来るのは徒歩か定期運航している乗合馬車に乗った者くらいだろう。昨日ダンジョンの入り口からやや離れた場所に乗合馬車を一時的に停める広場はあったが、個人やチーム所有の馬車を停めておけるようなスペースは無かったと思う。


「そうですね…ジャッカルさん」


「ん?何だぁ?」


「後ろから他の人とか馬車は見えますか?」


そう訊かれたジャッカルが改めて立ち上がり、しゅたたっと幌の上まで登って後方を確認している。


「…いねーな。前の方にも馬車は居ないと思うぜ?」


「わかりました。ダンジョンの入り口はそこから見えますか?」


「ん~…10分も歩けば辿り着けるんじゃないか?」


そういってからしゅたた!と飛び降りてくるジャッカル。


「じゃあ、マシュウさん」


「どうした?」


「馬車を停めて下さい」


「…わかった」


すぐに馬車を停めた3人はザックの指示に従って馬車を降りる。そして…


「収納」


「「は…えぇっ!?」」


目がおかしくなったのか?と思うような嘘のような現実を突き付けられる2人に、ザックは


「内緒ですよ?」


と、人差し指を口に付ける。いい年こいた男2人はカクカクと頷き、


「後で説明を…といってもあれか。はぁ…」


「いうな。誰でも秘密の1つや2つはあるもんだ。その代わり…な?」


と、くいっとジョッキを傾ける仕草でジャッカルがニカっと笑うが…


「…はぁ。解毒薬、高くつきますけどいいですか?」


とニヤっと笑うザックに引き攣る野郎2人だったw



- 恐らく最後のダンジョンアタック in マナのダンジョン -


「んと…最初の日から今日で6日目だっけ?…明日にはマウンテリバーに帰らないといけないかな」


マウンテリバーのダンジョンの封鎖は1週間と聞いている。正確に1週間留守にしなくても問題はないが、なるべくなら余り日を空けない方がいいだろう。一応前払いしてあるので宿の方は問題無いと思うが、隣町の此処。サウスネクシティに1週間程行ってくると伝えてあるので、余り遅れて戻るのも問題だろうし…


(連絡に時間掛かるからねぇ…通常の乗合馬車で2日。早馬で1日くらいだっけ?)


それだと往復に4日程余分に掛かるので、1週間どころか既に8日目となるのだが往復の日程は計算には入れてないらしい。


「…いいんですか、それで?」


ブスっとしながら訊くも、


「いいんだよ。細かいことは」


と返すジャッカル。マシュウも、


「向こうもそう捕らえている筈だしな」


とお気軽に考えている。ザックとしては気になる所だがしょうがないと諦める。但し、今日は早めに切り上げて、戻ったら換金してすぐ出発するとのことだ。ザックが日程を気にしたからなのか出発を前倒しにしてくれたらしい。


「えっと…乗合馬車って夕方から出てますっけ?」


ザックが訊くと、


「いや?…でも、ゴーレム馬の馬車があるじゃん?」


と、ジャッカルが返す。マシュウもうんうんと頷いている。


「あ…はぁ」


あの馬車は荷馬車ベースの幌馬車で普通の乗合馬車に比べると防御力に乏しい。


(賊に襲われた場合はどうするんだろう?)


とは思うものの、どうもザックの魔法に依存を始めてる節がある…


(う~ん…どうしたもんだか…)


だが無情にもマナのダンジョンに着いてしまう。ザックは頭を振り、意識を切り替える。


(悩んでたら不味いし、切り替えて行くか!)


そうして、マナのダンジョン第1階層を攻略し始めるのだった!


「あ、そうだ。はいこれ」


「おお!…忘れてたな」


ザックは2人にマナ吸引の指輪と魔力タンクの魔石の腕輪のペアを1セットづつ手渡す。説明はしてあるので改めてせずに装着して貰う。全員、装着の後にダンジョンに入ってからコマンドワード「吸引」を唱える。


「じゃあ改めて…行きましょう!」


「「応!」」


果たして、3人で第1階層を全て回り切れるのか…尤も、殆どマップが未完成のマナのダンジョンだ。全部を攻略できずとも、半分でも解明できるのならそれなりに報酬は出るだろう…多分…恐らく…きっと?



結論からいうと…ほぼ・・、マッピングは完成した。遭遇した魔物も流動性があると思うが、大体把握してメモを取っている。だが問題はそこではない…


「何で、第1階層からこんなのが出て来るんだ?」


「さ、さぁ…」


今、目の前に崩れ落ちているのはかなりの大型の…


「わんこ?」


「じゃねーよ!」


ジャッカルとザックのやり取りに脱力してマシュウが応える。


炎狼えんろうって種類のウルフだ。フェンリルよりゃあ格が下がるが、立派なボス格の魔物だよ…」


普段なら火の気が多い活火山などで活動している魔物らしいが、このマナのダンジョンには豊富にマナが…空気中に魔素が漂っている。その魔力の素であるマナが濃いダンジョン内なら活動が普通にできるという訳だ。それが目の前で斃されているという現実じゃ考えられない状況なんだけど…


(まぁ、人間だって空気が無ければ弱体化するからねぇ)


つまり、そういうことだ。強大な魔物程、濃いマナが漂う特定の土地でしか生きられない。炎狼の場合は活火山の傍や、此処…マナのダンジョンの中などがそれに当たる。そして、ザックたちは人間が活動できる程度にマナを吸収する指輪を装備していて…それを利用することで有利な環境を創り出せる。


「まさかこんな強敵が現れるとは思ってなかったが…まぁ倒せて良かった」


死体は徐々に光を帯びて、沢山のドロップ品を残して拡散していった。ジャッカルとマシュウは嬉々として残されたドロップ品をかき集めている。ザックはメモに「炎狼が○×付近に出現」と書き込んでいる。


「回収終わりました?…そろそろ時間ですし、帰りましょうか」


「おお、そうだな」


「マッピングはどんな感じだ?」


ザックがそういうと、マシュウが同意し、ジャッカルが地図を寄越せと手を出して来た。ザックは数枚の紙を差し出しながら、


「まぁ…8割くらい、ですかね?」


と答えた。ジャッカルは地図とメモを見比べながらふんふんと頷き、


「…まぁ上出来だな。不完全だがこれなら報酬を貰えるだろ」


と、ご機嫌になっていた。ザックはほっと息を吐きながら「良かった…」と独りちる。3人は頷くと出口に向かって足取りも軽く歩き出すのだった…



- サウスネクシティ・探索者ギルド -


「マシュウさんたち、お帰りなさい」


受付嬢が笑顔で出迎えた。


「お、おう…」


マシュウが戸惑いながら応えてから、先にザックから預かっていた地図とメモを懐から取り出して、


「マナのダンジョン、第1階層の地図と情報だ。まぁ完全じゃないが8割くらいは書いてあると思う」


そこまでいうと、周囲が急にざわつき始めた。


「な…たったの数日で、だと!?」


「嘘だろ?」


「適当書いてるんじゃねーの?」


…と。確かにザックの創り出した魔道具が無ければ確認作業も難しい。人間が何の準備も無しに入れるのは1時間で往復できる程度の範囲だ。それ以上の時間滞在した場合、濃過ぎる魔素に侵され酷い頭痛に襲われて身体が思うように動かせなくなり、最後には衰弱して倒れて通り掛かった魔物に食い殺されてしまうのだ。ギルドの者でもその結末には関係が無い訳ではない。調査をしようとすれば皆等しく命懸けとなるだろう。


「少々お待ちください…」


受付嬢は難しい顔をしながら一礼をしてから奥へと下がって行った。暫くの後、戻って来た受付嬢がいう。


「マシュウさん、いえ、「息吹いぶく若草」チーム全員に願いします。こちらへ…」


今日は女性陣2名は体調不良でこの場には居ないので男性陣3名のみとなるが、居ない者は仕方ないとマシュウが代表して頷き、マシュウ・ジャッカル・ザックの3人は受付嬢の後について行く。ざわつくギルド内の他探索者をスルーして事態が進んで行くのだった…



- 応接室 -


「では、中でお待ちください。副ギルド長をお連れしてきますので」


受付嬢は一礼して退室する。流石にギルド長は多忙なのか次に偉い人が出てくるらしい…


「えっと、地図とメモを見て貰うだけなのに何で副ギルド長がっ!?」


ザックが狼狽えて小さく叫ぶと、


「まぁ、それだけ長い間、マッピングなんてできてなかったみたいだからな…」


マシュウがサウスネクシティができて以来の快挙だからだろうと結論付けていた。ジャッカルはジャッカルで、


「報奨金がたんまりと出るといいなぁ…」


などと捕らぬ狸の皮算用に励んでいるのか上の空でいる。


「はぁ、成程…」


僕は…この無駄に高まる緊張感から早く脱出できたらいいなぁと思ってた。だって、魔物との戦闘より疲れるし…いや、本当。ぼっちには偉い人との対面なんて死ぬより緊張するんだって!



「じゃあ、報酬はこのくらいで問題ないかな?」


「えぇ…えっと…ザック、大丈夫か?」


副ギルド長って人が来てからこっち、ずっと下を俯いてたら不意に名前を呼ばれて、


「ふぁっ!?…ふぁいっ、何でしょうっ!?」


思わず舌を噛みそうになる程に緊張してた。いや、もう、恥ずかしくて穴があったら入りたい…


「いや、報酬額のことなんだが…お前がメインでマッピングしたんだから意見を訊きたいんだが?」


マシュウが訪ねてくる。ジャッカルを見ると、大丈夫か?…と心配そうに目で訊いて来る。アイコンタクトなんていつの間に高等テクニックを…じゃなくて!


「えと…お2人はこれで大丈夫と?」


金貨うん10枚の数字が並んでいる書類を見せられているんだけど…実際、高いのか安いのかとんと見当が付かない。


「まぁ、俺は十分だと思う。マシュウもな」


「女性陣が居ないから全員の意見ではないのが気になるが…まぁ大丈夫だろう」


ジャッカル、マシュウはそう口にする。銀貨なら兎も角、金貨でこの額ならジュンさんやパトリシアさんも文句はいわないと思う。ので、僕もこくりと首肯して問題無いと意思表示をした。


「僕も問題無いと思います。尤も、初めてダンジョンのマッピングをして、各種情報…魔物の分布とドロップ品、宝箱の位置、罠の種類の位置を調べた範囲で正確に把握できる情報と地形の…自然洞窟型ダンジョンですから通路の形状ですね…をここまで書き記した地図で、これだけの報酬額で正当な報酬額とするのでしたら、ですが。他のダンジョンではどれくらいの額が正当な報酬となるんでしょうか?」


思いつく限りの事柄を口に出してから、


(あ…しまった。いい過ぎたかな?)


と思ったザックだったが、副ギルド長が「ぐぬぬ…」と唸り、背後で控えていた秘書さんぽい女性に振り向いて2,3話したかと思ったら、2人揃って書類を手に退室してしまった。マシュウに渡した書類を「返してくれ」といってから持って行った訳だが…


「…少し待ってくれだってさ」


「はぁ…」


「大方、見積もりが甘かったんだろ」


マシュウが耳打ちされた台詞を一言に纏めて説明し、ザックが曖昧な返事をする中、ジャッカルがガハハと笑いながら結論付けていた。「息吹いぶく若草」チームがサウスネクシティでは新参者であるのに対し打ち立てた実績は高いが、1週間と経過してない新参者に高額の報酬など勿体ないという声も高く大幅に下回った報酬額を提示してきたのだ。第1階層は1日以内で外周を回り切れる程の狭い面積ではあるがダンジョンの特性上、ここまで調査が入ることは不可能でその全容は要として知れることは無かった。それをたったの1日半で全容の8割もマッピング…しかも魔物の分布図・宝箱の位置・ドロップ品の情報・ダンジョンの地形までもが不完全とはいえ、書き込まれている。一概に全て飲み込んで信じることはできないが、それは今後の調査ではっきりする筈だ。する筈なのだが…


(前提として、どうやって1時間以上も活動できたのか?…ってことに気付いて訊いてくるだろうなぁ…。魔道具製造が可能な店に行って作成依頼すれば作って貰えると思うけど…)


問題はその金額と材料だろう。通常、魔石部分は魔物からドロップした魔石か採掘したダンジョン産の魔石を使用するしかない。人造の魔石などはとてつもなく時間が掛かる為にコストもバリ高なのだ。ならば、最初から魔石を保有している強力な魔物を斃して良質な魔石を拾うか、常時魔素が漂っているダンジョンに生成される魔石を採掘した方がコストも掛からないという訳だ(強力な魔物を斃せるかどうかは探索者の腕次第だが)


(まぁ魔石は兎も角、それ以外の素材がなぁ…)


今回使ったのは疑似ミスリルオンリーだ。それ以外は濃縮魔石を使っている。指輪には小型の物を。腕輪には魔力タンクとして大型の濃縮魔石を腕輪に収まるように平べったく、多少湾曲させて嵌めている。腕の皮膚に接触する部分にはまた別の濃縮魔石を加工して皮膚が被れないようにした物を薄くして腕輪の内側に嵌っている。色は付いてないので疑似ミスリルの銀色が透過していて魔石が薄くカバーしているとは気付かない筈だ。指輪も腕輪も各自のサイズを採寸して創ってあるので、太ったり痩せたりしなければ当面は問題ない。何しろリサイズの魔法陣を埋めこむ余裕が全く無かったので仕方ないといえば仕方ない。


(…うーん。これだけの機能を詰め込んだ魔道具って、その辺の錬金術師に創れるかなぁ?)


無理だろうなと思ったが、「空気中のマナ魔素を浄化する」といった単一機能の指輪…いや、腕輪くらいなら作れるかも知れない。その場合、腕輪に魔力タンク…浄化の魔法陣を機能させる為の魔力を貯め込む為の物だが…に蓄えた魔力が無くなるまでの数時間(物に依っては1日くらい?)しか活動時間が取れないと思うが…


(その場合、魔法を使う探索者が魔法を行使できるかなぁ?…体内の魔力も浄化されてすぐガス欠になりそうだけど)


…そう。人間が必要とする魔力も分解浄化する欠陥品ができそうな為、マナのダンジョンには魔道具の開発が遅れに遅れている訳であるが、ザックは何となく想像していた事柄が真実を射抜いていたことに気付かず、また何時間も探索できる偉大な魔道具を彼が生成に成功していたこと自体が世間を騒がせることに、後になって湧き上がることを知らない…



「やぁ、遅くなって申し訳ないな」


結局、1時間程経ってから副ギルド長が秘書さんを連れて現れた。矢張り、書き記された内容が正しいかどうか、調査を経て確認されないとこれ以上の報酬は出ないと結論付いたようだ。


「そう…ですね。ゴネてもしょうがなさそうですし、今回はそれでお願いします。もし、情報の正確性が認めて貰えたら、ギルド経由で口座に振り込んで貰えたら…で構いませんので」


マシュウはリーダーらしく即断即決の模範的回答で応える。副ギルド長は「そうか」と汗を搔きつつ「ではこの書類にサインを…」と、1時間前に渡されていた書類を改めて差し出した。ザックは背後…いや、書類を立てて読むマシュウの持つそれを横で眺めていた。


(…今いったことを追加で書いた方がいいんじゃないかなぁ?)


と思い、つんつんとマシュウの腕を突く。


「ん、何だ?」


「今マシュウさんがいった奴、追加で書いておいた方がよくないですか?」


「えっと…「情報の正確性が認めて貰えたら、ギルド経由で口座に振り込んで貰う」って奴か?」


こくりと頷くザックに、マシュウが副ギルド長に訪ねると、


「わかった。こちらの控えにも追記するので書いてくれるか?」


と了承されたので、ペンを秘書さんから受け取り、さらさらと追記するマシュウ。そして改めて全体を読み直してからジャッカルとザックにも読んで貰い、確認してからサインをする。


「本来ならジュンにやって貰うことなんだけどな…」


苦笑いしながらペンを添えて書類を副ギルド長に手渡すマシュウ。副ギルド長は秘書にそのまま手渡し、秘書は書類の内容をざっと見てから控えの書類をマシュウに渡してきた。その控え書類には書かれてないマシュウのサインと追記文章が浮かび上がっている所から、魔術的な効果があるのだろう。


「では、その控えは最低でも1箇月は保管しておいてくれ給え。こちらの調査が済むには1箇月もあればいいだろう。後は…」


「はい。副ギルド長は多忙な身。後はわたくしが承ります」


承るって何をだろうか?…などと思ってる中、副ギルド長は退室して秘書が残った。そして新たな書類をマシュウに手渡すと、


「マナのダンジョンで活動する為の魔導具を持ち込んでいらっしゃると聞いています。その魔道具を貸していただけるか、購入先の所在を教えて頂ければと…」


と、話した内容と大体そのまんまの依頼票を渡してきたのだった…



「なぁ、この魔道具ってさ…」


「はい。皆さんに合わせて創ってるので同じ指と腕のサイズで魔法的体質が一致してないと、最悪死に至りますけど…」


「だよなぁ…。んで、これを創ったのがザックってバレても問題無いのか?」


「そうですね…何処か偉い人にバレて、色々創るためだけにブラックな労働を強いたりされなければいいんですけど…」


サンフィールドの再来となるかも知れない為に、できればギルドの中だけで抑えて貰えるなら調査隊だけの数人分だけ作るならやぶさかではない。が、これから潜る探索者全員分の魔導具を作れ。とか、無理難題を突き付けるなら考えがある。


「なら、簡易契約コントラクトとか誓約ギアスを使うとか…」


ジャッカルが聞き齧った中途半端な知識で提案を試みるが、


「両方使えますけど、相手が事前に受け入れてくれないと意味ないですよ?」


と、ばっさりと一刀両断されるジャッカル。元より、教会の聖職者の立ち合いの元や大商人の立ち合いの元でない限り、口約束に限りなく近い上に後でゴネられる可能性が大なのだ。あの時の野営地での簡易契約コントラクトは全員が了承してくれたから有効だったものの、誰か1人でもゴネていたら恐らくは効果が半減していたことだろう。


「驚いた。両方って…生活魔法でそんなのあったのか、それとも聖属性魔法が使えるのか?」


「いえ、生活魔法しか使えませんが?」


マシュウが驚愕の表情をして訊いて来るが、ザックはいつも通りのきょとんとした顔で返すしかなかったのだった。



「あの…」


余りにも長い仲間内の話しに秘書がおずおずと口を挟んでくる。


「あ~、すいません。ちょ~っと話しが長くなりましたかね?」


マシュウが申し訳ない!…といった表情全開で腰を低くして謝っていると、


「あの…その魔道具ですが、簡易契約コントラクト誓約ギアスで口外しないと約束してくれるなら提供しますよ?」


とザックが先に返事をしてしまう。


「それでは!?」


と、喜色満面の秘書(女性)がこの依頼を受けてくれると思い、内心(勝った!)と勝ち誇っていると、


「そうですね…」


ストレージから契約時に使用する上質紙をペンとインクと共に取り出すと、さらさらと契約内容を書き出して簡易契約コントラクト誓約ギアスを掛ける。


「こちらを読んで頂けますか?」


渡された契約書を受け取った秘書がその内容を読むと、徐々に顔色が優れないモノへと変わっていく。


「こ、これは…」


「はい。契約書です。内容は理解できますか?」


ニコニコと笑顔のザックに、信じられない!…という顔色の秘書。対照的な2人にマシュウとジャッカルが「どうしたんだろう?」と疑問顔を晒す。


「なぁ…この契約書、見ても構わないか?」


「あぁ、いいですよ。僕らが見ても何の問題も無いので…」


マシュウは見せてくれと手を差し出し、秘書から契約書を受け取ったマシュウが見たその内容はこうなっていた。



【魔道具についての契約書】

---------------

◎マナのダンジョン専用魔道具についての契約書です

◎本魔道具はマナのダンジョン内部にのみ有効となります

◎ザックが魔道具を提供することとなりますが、前提条件として「調査隊の人数分のみ」と制限を課することとします

◎提供した魔導具を解析して複製することに制限を課しませんが、提供した魔導具は調査隊本人の体質を前提に作成する為、万人向けではありません。体質が似ているか同一の人なら問題は少ないですが、全く異なる体質の人が使用した場合、最悪死に至ることをご了承下さい

◎また、ザックが提供者ということは、他言無用とします。口頭、或いは筆記、あらゆる方法での情報の漏洩を禁じます

◎魔道具の素材や加工される技術を調査すればわかることですが、正当な料金で提供できることをお祈り申し上げます

◎尚、使用者専用となる為、その他大勢の人間用にと売却目的で作ることはできないことを事前に申し上げておきます。必ず、体質の調査をしてからの製造となります。関係無い人に装着した場合、封印した魔法陣の発動と同時に死ぬ可能性があることをお忘れなきよう…

---------------



契約書を見たマシュウとジャッカルは、「あぁ、矢張りな…」と納得顔だった。これは注意点として以前ザックがいっていたことがやや詳細に書類として起こした物だ。簡易契約コントラクトは契約内容を遵守する為に掛けられ、誓約ギアスは他言無用の部分に掛けられてるのだろう。そして2つの魔法陣を込める為に低品質紙や中品質紙ではなく、上質紙を使用したのだろうと当たりを付けていた。尚、誓約ギアスは読んだ瞬間に発動するようになっていたのだろう。秘書は口をパクパクしながら叫んでいるようだが全く聞こえては来ない。


「なぁ、これって…」


「えぇ、他人に言葉を伝えないように誓約ギアスを掛けてあります。契約書を読めば、誰が何を作ってるのかわかっちゃいますし」


ザックがニコニコと悪魔のような内容を話しているが、その内容が内容だけに怒れない2人のおっさん。「はぁ仕方ねぇなぁ~」と思いつつ、マシュウは秘書に少々凄みの利いた顔で、やや低い声で伝える。


「…つまり、この内容はうちのチームの機密の1つってことさ。どうだい?…お嬢さん。他言無用って意味、わかるか?」


じりじりと壁に追い込まれた秘書が、終に壁に背を付け、壁ドンではないが静かに握り拳を作って利き腕を壁に押し当てて迫る。ニヒルな笑みを浮かべながら、


「彼には逆らわない方がいいぞ?…命まで奪われることはないが…これから不自由な生活を送る気はないのだろう?」


と、遠回しに脅迫していたw


(余り脅迫しないで欲しいんだけどなぁ…)


とは思ったが、ザックは取り敢えず秘書を見詰めるだけに留めて無言を貫いた。秘書は何度も非難を訴えようとしたが、ほぼ全てが言の葉に成らずに終わる。


「…がっ、…!?、…よ!」


などのようにだ。これ以上は真の誓約ギアスの制約に引っ掛かり、意図せず頭痛に悩まされる毎日を送ることとなるだろうと判断したザックは、こう囁いた。


「…つまり、ここまでの処置をしないと僕は安心して過ごせないということです。わかりますか、お姉さん?」


秘書の考えとしては、「こんな素晴らしい魔道具を提供できれば、貴族様に取り立てて貰えるし栄誉も思うがままなのに、何故!?」というものだろう。だが、ザックとしては探索者として生活するのに不満は無く、寧ろ偉い人に目を付けられてエライ目に遭うのはノーサンキューということだ。探索者のランクを上げて生活できるだけの収入を確保できるならそれに越したことはないが、それ以上は望んではいないと…


「それに、他人の成功を元手に自分の手柄にしたいなんて考え、透けて見えてますよ?」


ギクリ!…と体が硬直した秘書は、それ以上抗うことは無く。ガックリと俯いて渋々契約書を持って下がって行った。


「…なぁ、最後、何て囁いたんだ?」


「それは、秘密です!」


ジャッカルの問いに人差し指を口に立てて回答をスルーするザックに、「いいから教えろよ~」としつこいおっさんから逃げるザック。


「はぁ…帰るの、暫く延期かね、こりゃ…」


と、マシュウは帰途の予定が伸びると連絡をしなくちゃならないかと思案するのであった…


━━━━━━━━━━━━━━━

そりゃ、1時間しか潜れないダンジョンで半日以上潜ってたら疑われますよな…てな話しでしたw



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨950枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨170枚、銀貨1020枚、銅貨781枚

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨56枚、銅貨80枚

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

本日の収穫:

 なし

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